第8話 1章03……自己紹介・幕間~異質で異例な入試を突破した生徒たち~


 ……しん、と教室内は静まり返り、そしてやっと本来の他の生徒たちの自己紹介の順番へと戻った。


 幹によるひと騒ぎなどまるで無かったかのように……いや、あえて

もう触れてはいけないアンタッチャブルな事柄

 だと考えながら、つつがなくその後のクラスメイトの自己紹介が進行するように、と思っていたのはすでに幹以外のクラスメイト全員の共通認識となっていたようだ。


 男子生徒は名字が『よ』から始まる幹が最後だったため、残りはどんどんと美少女たちによる個性的な自己紹介が進んでゆく。

 ちなみにこれはけして誇張した表現ではない。



     ◇



『おかこーのデザイン科』の一般受験においては、この『おかこー』の他の科の受験とは異質でもあり特例の入試制度を認められており、ごく一般的な五教科のペーパーテストだけでなく『実技試験』を導入している。


 デザイン科の教師と美術教師たちが受験生と試験場をくまなくチェックして回るこの試験には大きな比重を置かれている。



 一般受験の『実技試験』の内容はここ数年変わっていない『構成デッサン』である。


 簡単に説明すると、受験生には揃って同じモチーフ……『題材たる物』が与えられる。

 流石にモチーフ自体は毎年異なり、例えば幹の年は『白く浅い陶器のお皿に載った赤い林檎』『半分ほど水の入ったガラスコップ』『小さな束にされたラベンダーのドライフラワー』……大まかに言えば以上三点のモチーフだった。

 時間内に『それらを全て使い、有り得なくても構わないから、自分の好きなよう、自由に組み立て(構成し)、鉛筆だけのデッサンで表現してみろ』……というものが『構成デッサン』である。



 この試験での加点は最大(満点)でなんと――二〇〇点。



 一般教科で多少しくじっていても、卓越したセンスとデッサン技術があれば挽回が可能である。

 だが逆に五教科のペーパーテストで満点を取っていても、この実技試験においてあまりにも低評価を教員たちから受ければ……


「実技試験の内容は一般出願受付の前にある程度公開しているし、受験者たちは筆記だけでなく美術教師に放課後教わったり、これの対策のために遠方から週末休みを使ってこの市内にある画塾に通う者だっている。

 それなのに我々専門教員たちによる評価会議でもこのような低評価を付けざるを得ないのならば、たとえここに進学しても水が合わず、この生徒には三年間がつらいだけだろう」


 そう判断されて落とされる。


 おかこーのデザイン科はそんな基準で人材を集めてはいるのだが、そこを突破して来る大多数の女子生徒たちは何故か、


「もしや、面接時に女子だけは顔立ちも評価対象に入っているのか?」


 などと噂されても過言ではないぐらいの美少女が集まっているのだ。




 当然、推薦受験で合格した舞子も例外ではない。


 彼女が中学二年生の秋になって生徒会長選挙に立候補した時は、「神に寵愛されて生まれて来たのだろう」としか言いようのない容姿の美しさ、そして定期テストでは常に学年トップを争う頭脳で見事、圧倒的多数の票を得て就任したのだ。



     ◆



 そして現実、本日の桜花山工業高校の入学式に出席した二、三年年生の間では


『今年のデザイン科の新入生は、十年に一度の超当たり年だ』


 という話題で持ち切りであった。

 もちろん、LINEやTwitterでこの話題はあっという間に学校中に広まることとなる。

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