平和戦隊サイコレンジャー<中編>

『サイコレンジャー主題歌』

 生まれた時には ひとりだったけれど

 今は五人 常に共にある

 平和をもたらす サイコレンジャーは

 五人そろってやっと一人前さ

 肩を並べて同じ速さで走る喜び――

 おんなじ夢を共にし 語り合う熱さを――

 go to ジャスティス・ロード!(One for all)

 風を背に受けて

 go to ピース・ロード!(all for one)

 熱きこの道を――

 走れ 五人の勇者たちよ!

 爆ぜろ 五つの友情よ!

 戦え 平和戦隊サイコレンジャー!



 自転車を横倒しにして、休憩中。

 夏の日差しを呑んで灼熱の熱さとなったアスファルトの上。

 左手には田園風景。

 右手には、むき出しの岩肌と深緑を基調とした木々から成る森。

 虫の鳴く声だけがするそこで、サイコレンジャー・レッドは、やや声を荒げていた。

「いくらなんでも、そんな言い方しなくてもいいんじゃないか」

 レッドの矛先には、冷然と立つブルーが居る構図だった。

「お前は真っ直ぐすぎるのがたまきずだ。

 リーダーなのだから、五人に取って最善の利を取る事も大事だぞ」

 ブルーの声は、燃え盛るレッドのそれに比べれば静かだった。

 だがそこには、自分の理知を裏打ちとした、自信と信念が強くにじんでもいる。

「確かに、ブラックの素性がわからないというお前の指摘自体は正しい。オレだって、能天気に構えているわけじゃないよ。

 だが、ブラックはホワイトが全力で信頼しているヒーローなんだ。

 オレ達は、ブラックを疑うより先に、ホワイトを信頼するべきなんじゃないのか?

 オレ達五人は一心同体。そう、誓い合っただろう?」

「悪いがレッド。それは暴論とすら言える。

 確かに俺達全員は、一人一人を信頼する。

 一人一人は、この戦隊の者全員を信頼する。

 そうして、サイコレンジャーはやって来たさ。

 だが、信頼と盲信は違うぞ。

 何かあってからでは遅いんだ。ブラックをこれ以上近づける事は、リスクの方が遥かに大きい」

「ブルー。お前はいつだって正しいよ。正論だ。

 正直、オレと違って頭が良いし、そこはすげえ尊敬してる。

 でもな、全部が全部理屈じゃないんだよ」

 レッドの語末は、少しずつ勢いを欠いていた。

 ブルーのいう事が正しい事を、心のどこかで理解しながら。

 それでも、ホワイトを信じてやりたい気持ちが競合する。

 もしかしたらブルーは、そんなレッドの内心の葛藤を見抜いた上で、この話を焚きつけたのかもしれない。

 レッドが自分で自分を責めてしまわないよう、あえてブルーが立ちはだかる事は、これまでにも何度かあった。

「結局、レッドはブルーに惚れ込んでんじゃん」

 イエローの中に入っている若い女性が、苦笑交じりに口を挟んだ。

「ツンデレかよ。野郎がやっても、あまり気持ちのいいものじゃねえが」

 ピンクのスーツから、野太い男・・・・の声がした。

 “昔、戦隊もので、男がピンクを演じていた番組があった気がする”と言ったものの、誰も信じてくれなかった。

 その無念を晴らす為、自らが“男のピンク”となったつわものである。

 それはさておき。

 普通の集団ならここで“二人ともやめて!”と言って仲裁が入る所だろう。

 けれど彼ら彼女ら五人は違う。

 どれだけぶつかり合っても、それはお互いと五人全員の為という大原則がある。

 それを何よりも信頼しているから、喧嘩はさせたいだけさせて置く。

 そうして、五人はお互いに切磋琢磨してきた。

「お前ら、茶化すなよ!」

 ばつが悪そうに、レッドが言う。

「ごめんなさい。もとはと言えば、わたしがブラックを連れてきたのが原因だから……」

 ホワイトが、真心からの謝意を漏らした。

 松長汐里まつながしおりとしてのこだわりから、五人の中にサイコブラックと言う異物を持ちこんだのは、事実ではある。

 もしサイコブラックが裏切って、そのせいで五人の誰かが欠けるような事になれば……そのリスクを思えば、身勝手だと糾弾されても文句は言えなかった。

 事実、五人と共闘していた偽サイコブラックの、突然の脱落には不可解な点が多すぎた。

「いや、その……俺は、ブラックとの共闘自体は否定して無い」

 ブルーが、にわかに口ごもった。

「ただ! 油断は禁物、と言う事だ。

 おい、そろそろ出発するぞ」

 拗ねたように踵を返すと、ブルーは自分のロードバイクを起こす。

「ツンデレは、オレよりもこっちじゃないのか」

 レッドもそれにならって、ブルーに続く。

「黙れ。もう好きにしろ」

 完全に取りつく島が無い。

 怒らせすぎたようだと、他の四人はジェスチャーだけで言葉を交わした。

 イエローのメットの下で、確かに、涼やかに微笑んだ音がした。

 結社から支給されるヒーロースーツのデザインは、ある程度、本人の希望を反映してもらえる。

 なので、サイコレンジャーのスーツの靴底には、自転車ペダルのビンディング機構が備わっている。

 しかも、通常のビンディングと違い、やや厚底の靴に埋め込むような形となっており、ペダルの方も特注である。

 だから、普通に徒歩で行動する時も、一切、邪魔にならない。

 足がペダルに固定され、大地から隔離される。

 そうして五色の一団は、飛翔する鳥の群れのように走り出した。

 メトロノームのように規則正しいリズムで、レッドはペダルを漕ぐ。

 それが徐々に加速して行き、あっという間に速度は時速六〇キロを超す。

 全力を出せば、プロでも出せないような領域――平地で時速七〇キロ超えも軽いだろう。

 だがやはり、スーツの中の身体を酷使する行為には変わりない。

 ハンドルに付けたサイクルコンピュータを見る。

 無駄にヒーロースーツと連動しており、心拍計を付ける手間が省けている。

 小さなモニタに表示された心拍数は二〇〇を超している。

 道理で息が上がってきたわけだ。

 少し、ペースを誤ったか。

 レッドは心の中で反省した。

 さっきのブルーとの口論が、まだ尾を引いているのかもしれなかった。

 いくら決裂が無いと信頼しきっているとはいえ、やはり、仲間と自分の信念にズレがある事は気持ちのいい事ではない。

 それが、漕ぎ方にも出てしまったのだろう。

 後続の四人も、のっぺりとしたヒーロースーツの上からではわかりづらいが、疲労の色を滲ませているようだ。

 レッドはいわば、戦隊としてのリーダーでもあり、この自転車チームの中でも“エース”という役割を担っている。

 ロードサイクリングにおけるエースとは、チーム内で最後まで生き残り、ゴールを掴み取る役割だ。

 だから、チーム内で加速力のあるタイプの選手が、ラストスパートをかけるのだ。

 そのエースがペース配分を間違い、他の四人の体力までもを奪ってしまった。

 身体が重い。足が水中を足掻くように重い。

 とりわけロードサイクリングは“胴体の体力”と“脚の体力”をわけて考えねばならない。

 どれだけ肺活量に余裕があっても、脚が疲れ切ってしまえば、エネルギー切れを起こすのは同じ。

 レッドが先走り過ぎた結果がこれだ。

 ――ブルーの言う通りかもな。オレには、リーダーとしての自覚が足りないのかも。

 ネガティブな考えがよぎった、その瞬間だった。

 レッドを追い越して、ブルーが彼の前を走る。

 ただ黙々と。

 その瞬間、レッドの脚がふっと軽くなった。

 空気抵抗の影響を強く受けるこの競技において、誰が最前列を走るかというのも重要だ。

 前を走る選手が空気抵抗を受け止める事で、その後続に及ぶ空気抵抗が減少する。

 ライバルの選手にあえて先頭を譲る事でその恩恵を受ける戦術もあるし、チーム内で隊列をローテーションして、消耗を分散するやり方もある。

 ブルーは、レッドが苦しいとも言わない先から察して、その役割を買って出たのだ。

 ブルーはレッドの補助係アシストでもあった。

 エースであるレッドが最終的に良い記録を出せるよう、ブルーは自分を犠牲にして彼をサポートする。

 もしレッドの自転車がパンクを起こせば、ブルーが自分のタイヤを差し出してリタイアする事さえあるのだ。

 レッドは、暖かな気持ちで胸を満たされると共に、ヘルメットの下で微笑んだ。

 そうだ。

 一人のミスは、残りの四人でカバーする。

 ――ブルーがもし間違えたなら、オレ達がカバーする。

 その関係に、余計なごちゃごちゃした理屈はいらない。

 それは何て幸せな事なのだろう。

 この五人のチームは、ずっと守り抜いて行きたい。

 そして、いつか人生に終わりが来たとき、お互いにお互いを称えあって、天国でも五人でやっていくんだ。

 レッドはこう見えて、非常に敬虔なクリスチャンだった。

 いつか五人で手を取り合い上ってゆく天国の階段を、本気で信じている。




 往復三〇〇キロもの長旅を終え、五人は地元に帰っていた。

 集合場所であるレッドの自宅(木造平屋建て)の前に到着すると、何となく自由解散となる。

 遠征の後の、いつもの流れだった。

 そこでレッドは、イエローを呼び止めた。

「なあ、イエロー」

 イエローもまた、小首をかしげつつ振り返る。

 そのしぐさは、のっぺりとしたスーツを着て居なければ、男心のツボを突くものだったろう。

「ありがとうな。さっき、ブルーとやり合ったとき」

 イエローが涼やかに微笑んだ気配が、メット越しからでもわかる。

「どうしたの? 今更。悪い物でも食べた?

 レッド、食い意地張ってそうだもんねー」

 イエローは、さり気なく二人の間を取り持ってくれた。

 あの軽口があったからこそ、レッドもブルーも、クールダウンが出来た。

 イエローにすれば、それくらいの事は息をするのと同じように当たり前の配慮なのだが。

「オレさ。この戦隊の一員で良かったよ」

「何? 今更。キモいなぁ。

 そういうの、死亡フラグみたいだからやめてよ、もう!」

「大丈夫、その点において神様は平等だよ。

 不吉な予感をしている奴には、不意打ちの不幸をもってこない。

 そして、イカした仲間と四人も巡り会えたレアな幸運に恵まれたオレに、いきなり死ぬなんてレアな不運はやってこない。

 幸運も不運も、元は同じエネルギーなんだからね」

「なにそれー。レッドにしちゃ理屈っぽいね。ブルーに感化された?

 前から怪しいとは思って居たけど、あんた達もしかしてホモだち?」

 レッドは頭を痛める――ようなそぶりをした。

「仮にオレがゲイだとしても、お前からブルーを取り上げるようなことはしないっての」

 レッドが、(彼としては会心の)意地悪い切り返しを見せた。

 だが、イエローは平然としたものだ。

「当然でしょ。あんたらが裸で抱き合ったりしたら、絶対に許さな――いや、少し見たいかも……ああ、ジレンマ!」

「やめてくれ。そんな悪夢、考えたくもない。

 それよりも、お前だ。もう少し、奴に対して強めに攻めたらどうだ」

「へー、レッドがあたしに恋愛談義とは。大人になったものねぇ」

「親友二人がくっつけば、オレとしては嬉しいんだがなぁ」

「それに、ホワイトを取り合うライバルも減るし?」

 今度は、イエローが底意地悪く返す番だ。

 そこに、悪意はないし、レッドも本気では受け取らないが。

「それは、男同士の清らかな真剣勝負だ。ホワイトがどっちに行こうと、遺恨は残らないよ。

 そういう意味では確かに、オレとブルーの関係は、男女の関係よりも鉄板なのかもな」

「あ、そういうのってさ。女としてはちょっと嫉妬しちゃうから気を付けた方がいいよ?」

「どれだけ余裕ないんだよ……。

 だったら、今すぐにでもブルーにアタックかけろ。ホワイトがどうとか、関係ねえだろ。

 要はお前とブルーがどう感じるかだし、お前の気持ちを知ればブルーだってぐらつくかもしれないじゃないか。

 なんせ、あいつは賢い割に根が単純だ」

「レッドに言われたら、ブルーもおしまいだね」

「うっさい」

「でも」

 イエローが、歩き出す。

 それだけで、話は終わりだと、お互いにわかっている。

 五人の間に、本来、言葉などいらないのだ。

「ありがとね。おかげでちょっと、勇気が出たかも」

 腰の後ろで手を組んで、上目遣いでレッドを見上げるイエロー。

 レッドは確かに、そののっぺりメットに、愛らしい女の顔を見た気がした。

「くそっ、ちょっと気持ちがぐらつきそうになっただろうが」

 レッドは自宅に向き直ると、誰にも聞こえないようにそう呟いた。

 まあ、五人の関係などこんなものだ。

 男女の三角関係やら四角関係など、戦隊の不変性自体には何ら影響を及ぼさない。

 誰かと誰かがくっついて、誰かが振られるような事があったとしても、次の日には笑って過ごせるだろう。

 彼らにとっての“五人”とは、恋人や我が子よりも尊い関係なのだ。




 ブルーがレッドの諫言大夫かんげんたいふと言う意味での相棒とするなら、

 ピンク(男)は、レッドの全面的な味方という意味での相棒だった。

 彼はレッド相手のみならず、基本的に他人の言葉を否定しないスタンスだ。

 それでいて、自分の意見はしっかり持っているので、イエスマンと思われる事も無い。

「ピンク。お前の率直な意見を聞きたい」

「昼言ってた、ブラックの事だろ。

 俺は、このまま組んでみれば良いと思うよ。

 ブルーだって、完全に反対はしてなかったろう?」

 何か薬品を調合しながら、ピンクはしかし、ちゃんとレッドの言葉を咀嚼した上で返してきた。

 一見して適当に聞き流しているようなポーズを取る限り、こいつもツンデレか。

 この戦隊のツンデレには、男しかいない。世も末だ。

「ブラックが何を考えていようと、俺達五人の仲をどうこう出来るはずがない。

 それにホワイトが人を見誤るような馬鹿な女でも無い事は、俺達が一番良くわかってるだろ」

 レッドは、安堵の吐息を漏らした。

「そうか……お前のお墨付きがもらえれば、心強い」

「よせよ。俺は余計な責任を取りたくない。あんまり真に受けないでくれ。

 お前が曹操そうそうだとして、ブルーが荀彧じゅんいくなら、俺は郭嘉かくかなんだからな」

「おい、素行不良は別にいいけど、早死にだけはするなよ。

 オレ達は、みんな一緒に天国に行くと誓い合った仲だ」

「善処はするが、俺はそういうガチガチしたのが苦手なんでね」

 そう言いつつも、ピンクは人一倍、自分の責任に敏感である事をレッドは知っている。

 いや、他の三人もそうだろう。

「しかしよ。

 ブルーの言い分にも一理はあるぞ。

 というか、誰かが一〇〇パー正しくて、誰かが一〇〇パー間違ってるなんて事はありえないんだからな。

 この手の話に10:0じゅーぜろなんざありえない。

 いざと言う時はリーダー、お前の判断一つなんだ」

 それに、と前置きをして、ピンクはレッドを見返す。

「ホワイトだって、そこは充分に理解しているはずだ。

 うちの女衆はどいつもこいつも、可愛げがないほどに聡いんだからな」

 ふっ、と、お互いに笑みを交わした気配が確かに感じられた。

「わかっているさ。

 まあ、ある程度の一線は引きつつ、ブラックとは真摯に接してみる事にするよ。

 もしかしたら“五人”が“六人”になれるかもしれないしね」

「何だ。結局、自分で決めれてるじゃないか。

 それでいいんだよ、リーダー。

 どんな結末になろうが、お前がそこまで考えているんなら、どうなろうとホワイトはお前を恨んだりしない」

 だから安心しな、と、兄のような包容力で諭すピンク。

 いや、実際、レッドにとって――ブルーにとっても、ピンクは“兄貴”だった。

 恩着せがましくもない、ただ、自然体で居るだけで自分を高めてくれる、頼りがいのある兄貴分。

 それが、ピンクと言う、ちょっと皮肉屋の男の実態だった。

 本人は、断固否定するだろうが。

 だからこそ、レッドには、胸に秘めておくには苦しすぎる一つの事があった。

「ピンク、すまん」

「何だよ、改まって」

 レッドの突然の態度に、ピンクも、メットの下で目を白黒させているようだ。

「オレ、イエローに、ブルーにアタックする事を勧めちまった……」

 レッドの声は湿り気を帯び、今にも泣きだしそうだった。

 イエローの気持ちを思えば、それは正しい事だったろう。

 だがそれは。

 ピンクにとって、マイナスに作用する助言だったのだ。

「はあ。

 んで? それだけ?

 それだけの事でお前、この世の終わりみたいな声出してんの? バカなのか?」

 だが、レッドの利敵行為の告白に対して、ピンクはあくまでもそっけなく、そう返した。

「仕方ねえだろ。イエローがブルーの事で悩んでて、それシカトするお前なんて、お前じゃねえよ。

 イエローが最終的にブルーのとこに行こうが、お前のとこに行こうが、俺の所に来てくれようが。

 どうなろうと、俺達五人という“群体”に、それで何か悪い事でもあんのか?

 違うだろう。

 今更寝ぼけた事を言うんじゃねえよ。

 もしイエローがブルーの所に行ったときは。

 そん時は、消去法で、お前の大事なホワイトを頂くだけだ。

 それこそ、俺を恨むんじゃねえぞ」

 その言葉に、レッドは胸を焼かれるような想いで貫かれた。

「なあ。そういうとこ、お前はどこか危ういんだよ。

 イエローを焚きつけた事だって、お前の胸に秘めて置けばよかった話だ。

 真面目すぎんだよ、お前。

 いの一番に潰れるタイプだ。

 俺、イエローに振られるより、お前に潰れられたらどうすればいいか、マジでわかんねーぞ」

 レッドの中身は、目頭が熱くなった。

 実際、一滴だけ涙がこぼれた。

 今はただ、それを隠してくれたヒーロースーツに感謝するだけだ。




 そろそろ、日付が変わろうとしている。

 レッドは、ホワイトのアパートにお邪魔していた。

 仮にも、こんな時間に未婚の女の部屋に上がるなど……という気遣いは、五人の間には不要だ。

 特に理由も無いのに、同じ屋根の下で男女が寝るなど、この戦隊では日常茶飯時。

 ノートパソコンに向かうホワイトに対し、

「経過は順調か」

 レッドは、事務的に問うた。

 あの悪の巣窟たる“こはく”の牙城を崩す為の、原稿の事だ。

「偽ブラックと連携が取れれば、より完璧だったんですけどね……。

 何でこんな悪いタイミングで潰れちゃうかなぁ……彼」

 ホワイトは、心底疲れ切った声で応じた。

 実際彼女は、疲労困憊の極みにあった。

 本人が希望したとはいえ、レッドとしては今回、彼女に働かせ過ぎたという気持ちがぬぐえなかった。

「なあ、オレ達は五人で一人だという事を忘れるなよ?」

「もっちろん」

 と、ホワイトは胸を張って言うが。

 五人で一人だという事は、一人の責任が、常に五人に及ぶということ。

 だからこそ、この頑張り屋女子は、無理を重ねるのだろうとレッドは思う。

「わかってねえよ、お前。

 自分がどれだけフラフラになってるか、見えてない」

 単純な労働時間から考えれば、この一ヶ月あまり、ホワイトが“こはく”潰しに費やした時間は度を超していた。

 一部、彼女にしか出来ない仕事はあるにしても、もっと分かち合う事は出来るだろうに。

「じゃあ、レッドが慰めてくれますか?」

 互いに戦隊スーツのまま、ホワイトはレッドの首に腕を回した。

「お前がそれで良いんなら、オレに異論はないけどさ。

 後から余計に疲れたとか言うの、なしだぞ」

「もっちろん」

 それだけを言うと、シャムネコのパンを部屋の外に締め出す。

 そして、ベッドへと連れ立つ。

 まあ、平和戦隊サイコレンジャーの間では珍しくも無い事だ。

 五人の絆は、その程度の些事で揺るぐほど軽いものではない。

 五人は、この五人を真実愛している。

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