第16話 昼
何回上ったのかももう分からなくなり、息も絶え絶え、体もボロボロ、意識も朦朧。そんな時、やっと昼飯になった。
みんなは三々五々それぞれの場所に散らばって、それぞれに昼休憩に入っていく。
「・・・」
しかし、僕には昼飯がない・・。しかも、厳しい肉体労働で、お腹は空き過ぎる程空いていた。おまけに朝飯だって食ってない。
「はあぁ~」
僕はその場に、落ちるようにへなへなとへたり込んだ。こんな状態で午後からの仕事なんて・・、考えるだけで気力が減退していった。
その時だった。
「ほら、あんちゃんの分ももらってきてやったぞ」
やっさんがあの人懐っこい笑顔で、にこやかに僕の前に立っていた。
「えっ?」
見るとやっさんの手には弁当が二つ握られていた。
「こ、これ・・」
僕は訳が分からなかった。
「なんや、知らんかったんか」
「えっ?」
「この仕事は昼飯付きや」
「えっ、そうなんですか!」
確かにやっさんの向こう側を見ると、いつの間にか、弁当を積んだバンが止まり、そこに人垣ができている。そこから何とも言えないいい匂いが漂っている。うどんや、トン汁なんかもあるらしい。
「やったぁ、助かった」
本当に助かった。
「一緒に食べようや」
「はい」
僕はやっさんと一緒に、道の脇の木陰に座った。
仕事の事に夢中で気づかなかったが、ここは車もほとんど通らない山奥。空気はおいしいし、鳥のさえずりも聞こえて、とても気持ちの良い場所だった。
僕は、そんな心地良い空気感の中、小鳥のさえずりを聞きながら、貪るように弁当をかっこんだ。
「うまいか。青年」
「はい。滅茶苦茶うまいです」
実際、滅茶苦茶うまかった。大盛りの白米に、豚の生姜焼きと、たっぷりの青菜の炒め物がのった弁当だった。僕はそれを夢中で食べた。
「お茶もあるで」
やっさんは缶のお茶を差し出した。
「あっ、ありがとうございます」
僕はそれを受け取ると、素早くプルトップを開け、勢いよく乾いた喉に流し込んだ。
「ぷはぁ~」
僕は喉も乾き過ぎるほど乾いていた。水分が、汗を掻きに掻き、掻きつくした乾いた全身に浸み渡っていく。
弁当にお茶。この普段何の変哲もない存在がこれほどにうまく、そして体と心に浸みっていくなんて、僕にとって生まれて初めての経験だった。
「生き返ったか。青年」
そんな僕をやっさんは面白そうに見た。
「はい」
本当に生き返る思いだった。大げさだが、この時、僕は、生きている実感を強烈に感じた。
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