第75話 エイヴンズサーヴァント


 ―――突然の遭遇にレオは慌てて取り繕うように口を開く。


「あ、あのぅマギさん......!これはちがくてですねぇ......!」


 レオが情けなく隠せもしない飲み現場を必死に手をふって言い訳を考えようとするが、それを悉くジェディ大尉が打ち砕く。


「あっ、ちっすマギすぁん!いまから一軒前で仲良くなったキラーテさんに押しの店紹介してもらうとこでぇすYO!マギさんもどぅーですか???」


 ジェディ大尉がそう言うと、隣にいたロップ中尉は何とも言えないような表情でジェディ大尉をじっと見る。

 ゼンベルはマギの登場に特に気を止める事無く、店に入る事だけに集中して浮かれた顔をその場で堂々と表す。


「あら?そうなんですかジェディ大尉。それはさぞ楽しそうですね、でもその予定は今すぐ取り消す事を推奨しますよ。ねぇ?【エイヴンズサーヴァント】の、キラーテさん?」


 マギは満面の笑みでそう言うと、レオ達は状況を理解できずに動揺する。


「えっと......、えいヴん......?ど、どういうことですかマギさん......?」


 レオがそう言うと、キラーテが遂に口を開く。


「ふーん......、俺としたことが。やっちまったみてぇだな、これ。釣りか......?」


 キラーテは冷ややかな目線をレオに送ってそう言うと、レオは足を一歩引いて現在のまずいであろう状況をなんとなく瞬時に察する。


(どうするか、とりあえず全員やるしかねぇかな)


 キラーテは内心でそう悟ると再び右手をゆっくりと振り上げる。


「待ってくださいキラーテさん、こちらとしても手荒な真似は望むところではありません。ただ、貴方の主の居場所を教えて頂ければいいのです。どうですか?貴方も望んでエイヴンズサーヴァントなどになったわけではないのでしょう?彼女に義理はないでしょう」


 マギがそういうと、キラーテは振り上げていた右手をゆっくりと下ろす。


「いうわけないでしょ、美人さん?」


 ―――一間置いてそう言うと、キラーテは尋常ではない速度で再び腕を振り上げ瞬時にソレイスの短刀を顕現させる。

 その瞬間を一目瞬時に観測したジェディ大尉とロップ中尉は、先ほどまで浮かれたような様子からがらりと顔つきと雰囲気を変えて、それぞれ条件反射的にソレイスを展開するとレオに瞬間的に駆け寄る。


 キラーテはレオを標的に短刀を振り下ろそうとしている。

 それは通常であれば人間の運動神経では到底反応することの出来ない速さの領域だが、ヘラクロリアムの恩恵を得たレオはその振り下ろされようとしている鋭利な短刀の一刀をしっかりと認識する事が出来る。


 認識し、反応するレオはキラーテの短刀と長い腕のしななやかなで長い間合いからから瞬時に数歩で離れ、ジュディ大尉とロップ中尉と入れ替わるように立ち位置を変更する。


「コイツ......!動けるのか......!?」


 キラーテはレオの身体能力に驚愕していると、それに浸る隙もなくジュディ大尉とロップ中尉のそれぞれの洗練されたソレイスの一撃が胴体に目掛けて刺し込まれてくる。


 しかしキラーテはジェディ大尉のソレイスを左足でソレイスの側面を突くように容易く薙ぎ払い、ジュディ大尉をソレイスごと近くの建物まで吹き飛ばすと、次に短刀でロップ中尉の一撃を受ける。

 吹き飛ばされたジェディ大尉は即座に意識を失い手元からソレイスが消失する。


(動き早すぎ......どうなってるのこの人......こんなの並大抵の覚醒者どころじゃない......)


 ロップ中尉は内心でそう言うと、なんとか数撃を凌ぎそのまま一旦レオの位置まで距離を取ろうとするが、その瞬間にキラーテに右手を掴まれキラーテの方に引っ張られる。


「えぇっー!?」


 ロップ中尉は驚く様子でそう声をあげると、キラーテとロップ中尉の顔がかなり近づく。


「悪いんだけど、すこし眠ってて欲しいんだお姉さん」


 キラーテはロップ中尉にそう囁くと、短刀の頭側で勢いよくロップ中尉の腹部を打撃する。

 その衝撃のショックでロップ中尉はジュディ大尉動揺に気絶させられてしまう。


 気絶させられたロップ中尉の体をキラーテは丁寧に地面に寝かせると、顔をあげてレオを睨み、マギのほうを向く。

 そして刹那の一連の出来事で起きた打撃音と店の喧騒が幻影でも見ていたかのように消え失せると、ようやくゼンベルは後ろを振り返る。


「えっ、てっ、なっ!?なんだぁ!?何が起きたぁ!?」


 ゼンベルは慌てて銃を出そうとするが、腰に手を当てて丸腰であることに気づく。


「うあっ、やっばぇな。おいレオ!俺達丸腰だぜ......」


 ゼンベルはレオの方をみてそう言う。


「わりぃなゼンベル、丸腰なのはお前だけだぜ」


 レオはそういうとベリゴリオのソレイスを右手に顕現させる。

 それを見たゼンベルは開いた口が塞がらないと言った様子でレオを見る。その反応に気づいたレオは「あ、あとで話す......」と短く言う。


 しかし、キラーテはソレイスを展開させたレオに気を取られる様子もなく一直線にマギの方へと突進をする。


(あのレオとかいう標的は測量するに身体能力は並みの覚醒者以上の力量はあるようだが、肝心のヘラクロリアムがあまりに乏しい。奴一人と周りの雑魚なら簡単に処理できるとは思うが、問題はこの女だ。なぜ俺がエイヴンズサーヴァントであることを知っている、現れたタイミングといいこいつを放っておくのは余りに危険だ)


 キラーテは突進させた勢いに任せて、そのまま短刀をマギの体にねじ込む様に腕を大きく振って切り込もうとする。


「―――あなたでは、お話になりませんよ」


 マギは短くそう言うと、斬りかかってきたきキラーテを容易く地面に組み伏せる。

 地面に勢いよく叩きつけられたキラーテは目を見開いた様子でマギをあおりで横目で見る。


「あっ......、ありえない......。俺がこんなに簡単に押さえつけられるなんて......。ははっ、あんた一体なにもんだよ......」


 キラーテにそう問われたマギは細やかな笑顔を作る。


「唯のしがない一般司法書士ですよ」


 その問いにキラーテは呆れた様子で声を漏らす。


「んなわけねぇ......」


 キラーテをマギが押さえつける様子を傍でみていたレオは口を開く。


「マ、マギさん......!えぇと、なにか手伝い要ります......?」


 レオはそう言ってマギに近づこうとする。


「君はそこを動かないで」


 マギはレオの方を見て一言冷静にそう言うと、その一瞬の隙を見たキラーテがマギの組み伏せを解いてマギを突き放す。

 すると、キラーテのソレイスがやがて閃光を帯び始めるとそれが空間に放射され、その短剣から生み出したその幻影は閃光弾のような効果を生み出す。

 その瞬間にキラーテはその場から勢いよく飛び上がり、ここから立ち去ろうとする。


 ふとキラーテが元居た場所を空中から見ると、閃光の中でも平気でこちらを見つめるマギの姿がそこにあり、軽く恐怖感をキラーテは抱く。


「なっ......!?あの女はやべぇ......!!!」


 そう言ってそのままキラーテは人離れした脚力でそのまま飛び去ろうとするが、マギがそれをただ黙って逃しはしなかった。

 マギは左目に巻かれていた眼帯を上にずらすと、そこからは崇光な朱色の輝きが宝石のように放ち始め、その瞳には形容し難い紋様が刻まれている。

 その瞳に捕えられたキラーテは、背中に軽い火傷のようなものが出来上がる。


「っ......!あっつぅ......」


 しかしキラーテは特段にそれに気を止める事無く、速やかにこの繁華街の地を去って行った。

 そしてマギは眼帯を元の位置に戻し、ジュディ大尉やロップ中尉の元へ近寄る。


「えーと、うん。特に外見に目立った損傷はなさそうだね。大尉は頸動脈洞、中尉は内臓へのダメージで迷走神経の過緊張を引きこされたみたい。まぁ君達は丈夫だしすぐに意識を取り戻すとは思うけど......。あっ。悪いけど二人を基地まで運んでくれますか?」


 マギはレオとゼンベルに目線を向けてそう言う。


「はっ、はい。分かりました......」


 レオは顕現させていたソレイスの展開を解く。


「なんか、すげーもんいっぱい見た気がするなぁ」


 ゼンベルはいつもの調子でそう言うと、ジェディ大尉のそばによって「やれやれ、もうパーティは終わりかぁ」と言いながら彼を背負う。

 そして必然的にレオはロップ中尉を背負う事となる。


「わりぃゼンベル、なんかまた厄介事に付きまとわれてるみたいだ俺」


 ロップ中尉を背負ったレオは、そうゼンベルに言う。


「あぁん?どうともおもってねぇよ今更な、レオのそのソレイスの事だってそんなに驚いちゃねぇが、詳しい話は一回戻ってからだなぁ」


 ゼンベルはレオにそう返すと「あぁ」とレオは返す。

 レオとゼンベルは二人を背負ったまま、マギに

 ついていきながら余り人気のない道を通っていくと、やがて大通りの方へと出る。


「そこの道路の道端まで運んでもらえればいいから、後は連絡して基地の人が迎えに来るので。えぇと、君たちはどうしますか?」


 レオとゼンベルはマギにそう問われ、一瞬脳裏に飲み直しの単語が過ったが、マギの真意を捉えられないその言葉の声音に怯えたレオとゼンベルは声を揃って言った。


「「帰らせていただきます......」」













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