第70話 第5前哨基地

 マギと付き人の兵士数人、及びレイシア隊はセクター32ステーションへと満を持して到着する。

 ここセクター32の上層階からは付近に構想建造物が少ない事から遠くの景色を眺める事ができ、そこからは海岸に接したレジスト海や軍港を眺める事が出来る。

この向こう側のレジスト海中央部には越境医軍と呼ばれる勢力が支配する人工島の基地が存在しており、大勢力圏として共和国、帝国、卿国何れにも所属してない独自の技術体系を確立した卿国からの独立勢力だ。

 このレジスト海を越えた更に向こう側には卿国領のアーリー大陸があり、アーリー大陸の一部には医軍のポリスが複数存在する。

そしてここからはアステロイド支配領域はここからその姿を拝める事が出来る。

 といっても前哨基地よりその先はほとんどジャングル化している為これといったランドマークがあるわけでもなく、ただつまらない緑色の景色とバスキア戦線の大陸隅々まで続く迎撃城塞の眺めを楽しむことができるばかりだ。

 セクター32の下町はセントラル程にはないにしても、独自の経済体制が整えられているだけの事はあり程よく発展しているのが窺える。

 人盛りもあり、ここで暮らしていこうと思えばそんなに不自由な思いはしないで済むだろう。


 装甲列車はステーションに到着し、ここが列車の最終目的地である為に降車を促すアナウンスが車内にもたらされる。


「んー!やっとついたわね......、お尻が痛いわ」


 レフティアはそう言いながら足を伸ばすように席から立つ。


「はぁ、やっとか」


 レオは待ちくたびれた様子で背伸びをする。


「それじゃあ皆さん、降りますよ」


 マギはそう言うと付き添いの兵士たちと共に先に降車する。

 それに続くようにレフティアも降りていき、最後にレオが列車から降車した。


 レオが降車したその瞬間、レオは何者かに背中をぶつけられ前に仰け反る。


「うぉ!なっ、なんだ~?」


 レオはすぐさま振り返るとそこには、毛髪が薄く杖を携え見慣れない服装をした一人の年配男性のご老人が居た。

 しかしその風貌からはどことなく威厳をも感じ取ることが出来た。


「おおっと、こりゃすまないねぇ」


「あっ、いやぁ別に平気だが......ってじいさん。目が悪いのか......?」


 レオはその年配男性の瞳を覗き込む。

 その年配男性の目は外からだと殆ど白目部分しか見えず瞳を見る事が出来なかった、いわゆる白目をむいたような状態に近い。


「いやいや、心配ご無用。少し足を滑らせてしまったねぇ、悪いねぇ~」


「いやこっちこそ気が付かず悪かった、怪我はない......よな?」


「あぁ、本当に大丈夫さぁ。お気になさらず」


「そうか、ならいいんだが......」


 そのご老人と些細な出来事から少々の会話を交えると、先に行っていたレフティアからレオを呼ぶ声が聞こえてくる。


「ちょっと~!レオ君~はやく~!!!」


「あっ、はーい!今行きますからー!それじゃあじいさん体に気をつけてな」


 レオは老人にそう言うと、呼ばれた方向へと走って向かっていく。

 そしてその姿を何かの考えにふけながら老人は、ただ無言でその背を見つめていた。




 ステーション前の駐車場にはレイシア隊を乗せる為のトラック系の軍事車両が用意されていた。


「っておーい、もしかしてコイツの運転おれかよぉここまできてか?車両は手配されてんのにドライバーの調達はしなかったのかぁ?」


 ゼンベルは嘆くようにそう言う。


「まぁまぁ、前哨基地まではそんなに遠くはない。レイシア隊運転手の責務を果たしてくれたまえよ」


 レイシア少佐がゼンベルをそうなだめる。


「すみませんね、運転。お願いしてもいいですか?」


「おっ、おう......まぁ嫌いなわけじゃないからな......」


 マギがゼンベルにそう言うと、ゼンベルは多少照れくさそうに運転席へと向かう。

 その様子を見ていたレフティアはその場で舌打ちをし、傍にいたレオはそれに恐怖心を抱く。


 ゼンベルの運転でレイシア隊を乗せた車両は第五前哨基地へと向かう。

 途中渋滞に巻き込まれるも、陸の端まで続いていた迎撃城塞を超え、やがて数時間すると前哨基地のゲート前に車両は停車する。

 するとゲートに駐留している共和国軍兵士が車両に近づいてくる。


「―――こんばんわ、お名前をどうぞ」


「ゼンベル少尉だ。『アステロイド領域辺境調査』の任でここに来た」


「―――今確認致します、CPへ連絡。作戦計画『アステロイド領域辺境調査』の照合要請。―――作戦コード-053の承認を確認、確認が取れましたこのままどうぞお通りください少尉。車両はそこを曲がったところの停止線があるところに停めてください、後で担当の者が車両を回収致します」


 ゲートの兵士にそう言われると、ゲートが開かれ車両はそのまま基地内に進入し所定の停止線にゼンベルは車両を止めた。

 レオ達は車両から降りると、照らされた日差しに思わず手で日光を遮る。


「うーわっむし暑!!!」


「頭がくらくらするような暑さですね......」


 レフティアがそう言うとミル中尉はそれに同調する。


「ステーションで降りた時より更に暑く感じるなここ......、風景も相まって」


 レオはタンクトップ姿の兵士たちを眺めながらそう言う。


「いやはやこんなに暑いとこの軍服はさすがに少々キツイな......、レフティアは大丈夫そうだが」


 レイシア少佐はそう言うと上着の軍服を脱いで片手でコートを持つ。


「まぁまずは皆さんいきなり顔合わせをするのもあれですから、今から宿舎でラフな格好に着替えてきてもらって構いませんよ。ここでは見ての通り、皆さん自由な格好をしてらっしゃいますから」


 マギはそう提案する。


「それではお言葉に甘えさせていただくとしよう、数十分後に宿舎前で集合だ」


 レイシア少佐がそう言うと各々が宿舎へと向かっていくが、マギや付き添いの兵士は宿舎の方には向かわなかった。


「あれ、マギさん達はどうするんすか」


 レオはマギにそう聞く。


「私達?私は先にここの師団長ダンボリス准将と打ち合わせを始めておきますよ、私としてどちらかというとあなた方に依頼をさせてもらってる立場だから、下準備はちゃんと済ませておかないとね」


「そう、っすか。それじゃお先に」


「えぇ」


 レオはこの場を後にし宿舎の方へと向かう。




 宿舎で着替えを終えたレイシア隊は宿舎前へと集合する、各自の格好はかなりのラフな格好に代わっていた。

 あらかじめ簡単に用意されていた服に着替えたゼンベルやレオは通常の軍服のズボンに簡単なシャツ一枚。

 女性陣はレフティアは相変わらずとしてミル中尉やレイシア少佐はタンクトップ姿に変わっており、レイシア少佐はそこから更にノースリーブパーカーを着込んでいる。


「おっ?おっ?これはこれは」


 レフティアがレイシア少佐やミル中尉の体を舐めまわすように視線を巡らせる。


「これはぁ......んー、攻めたね」


「えぇ!?だってここの女性隊員さん皆おんなじような格好してたし行けると思ったんですよ!?あーもうそう言われると恥ずかしくなってきましたよ!!!」


「ふふー、それにレイシアもそういうの躊躇なくやるタイプだとは思わなかったよぉ~?このこの」


 レフティアはレイシアに腕で軽くつつく。


「うぉーい、やめろ。あまりからかうなレフティア。別にそんなんではない」


「えぇ~?」


 レフティア達のその絡みにレオとゼンベルは目を背ける。


「なーゼンベル、正直思ってたんだがこの部隊。俺達のような男性陣にとっては色々とキツいものがあるよな?いやいい意味で」


「んあ?何を今更。俺には少佐たちとはそういうノリじゃ合わせられんからなぁ、女所帯っていうのも考え物だぜ」


「いやぁーそうじゃなくてだな。ぶっちゃけあれだろ、結構刺激的だろあの人たち。なんかそういうトラブルなかったのかよ今まで」


「あ?色恋沙汰ってか?いやぁ別になかったと思うがなー」


「ゼンベル自身はどうなんだ?」


「おらぁーあんまそういうんじゃねぇな。仕事には余り私情を持ち込みたくねぇタイプだめんどうだしな、そういう目でみたこたぁねぇ」


「ほう、そういうもんか」


 そう言ってレオは基地内を何となく見渡していると、目を一瞬疑うような光景を視界に映す。


「ん?えっ?おいゼンベル、あれ」


「あ?なんだ、っておい。リゾート開発はまだされてなかったはずだがなぁ」


 レオが指し示したその先には、グランドでパラソルを開きビーチベッドで水着を着ながら日光浴をしている一人の銀髪の女性が居た。


「仮にもここは前哨基地......だよなぁ?呑気なもんだぜ前線の連中わぁ」


「いやぁさすがにラフ過ぎんだろ......」


 レオ達の視線に気づいたのか、その女性は掛けていたサングラスを指で落としてレオ達の方を見る。

 するとビーチベッドから起き上がり、レオ達の方へと近づいてくる。


「おいなんか近づいてきてんぞ、どうすんだよゼンベル!」


「いやぁどうもこうも何もやましいこたぁしてねぇしな......」


 その女性に背を向けてレオとゼンベルは軽い言い合いをする。


「ねぇ、あんた達が例のレイシア隊って奴なわけぇ?」


 そのぶっきらぼうな話し方をする女性の方を振り向くと、そのサングラスを外した女性は思っていたよりは小柄で女性というよりは少女に近い印象を受ける。そしてギラギラと輝く銀髪に所々赤いメッシュが取り入れられている。

 その少女の掛声にレイシア隊一同はその少女の方に視線を集める。


「あぁ、まぁそうだが。あんたの方は?どうやら日光浴を堪能されていたご様子だが......」


「わたし?わたしはロップ・ステイツ、中尉でこれでも一応イニシエーターだよ~。日光浴っていうか日焼け?みたいな。まぁあたし達にはあまり意味ないんだけど。あぁそうか、そろそろ時間か。ジェディに言われてたんよね、あんた達を作戦会議室に案内しろってさ。そんじゃあ行こうか。ついてきて~」


 ロップ中尉は腕のキラキラな時計を見ながらそう言う。


「あ、あぁ......。分かった」


 レオはレイシア少佐の方へと目線を向けると、レイシア少佐は何とも言えない表情でそのまま無言でレオに視線を返す。

 そしてそのままレイシア隊はロップ中尉の後を追う。


「あの子、多分セクター32配属の子よね」


 レフティアはレイシア少佐の方に向かってそう言う。


「多分そうだな、何故彼女がここに駆り出されているのかは分からんが」


 レイシア少佐がそう言うと、ミル中尉がレイシア少佐の傍に寄ってくる。


「ロップ中尉って見た目的にはけっこう少佐と年齢が近そうな感じがするんですけど、どうなんです?」


「うーむ、どうだろうな。私達は例え外見年齢が似通っていたとしても同じ時間を歩んでいたとは限らない、私たちの肉体的な成長や老化速度は保有するヘラクロリアムに依存し、またその性質においても変わってくる。今のところ何とも言えんな」


「なるほど、そうでしたか......」



 レイシア隊はロップ中尉に案内されるがまま付いていっていると、やがてテントが大量に置かれた巨大なキャンプ場にやってきていた。そしてその中でも一際大きいテントの前に着く。


「ここ、こんなか作戦会議室になってるよぉ~。そんじゃあはいろっか、多分みんま揃ってる」


 ロップ中尉が先にテントに入り、レイシア隊もそれに続いて入ると中はいくつものハイテク機器で埋め尽くされ、更に通信職種の軍人で賑わっている。

 奥には作戦ボードと手前中央には長方形のテーブルが置かれ、テントの外見とは裏腹にまさしく一線級の作戦会議室と呼べる場所だった。

 その作戦ボードの手前にはマギの姿があり、他の上級幹部らしき人物と会話をしている様子が見て取れる。


 マギはレイシア隊の存在に気づくと、手招きでテーブルの方に来るよう促して来る。

 レイシア隊が席に着くのを確認するとマギはダンボリス准将の方を見る。


「さて、レイシア隊諸君もお待ちかねの事ですし、さっそく作戦概要に入っていくとしましょう。ではダンボリス准将、ブリーフィングを開始してください」


「承知致しました。各旅団長は直ちに集合せよ、そこのオペレーター、このボードを動かしてくれ」


 ダンボリス准将は手でボードを叩くとボードが起動し、気づけば周りには指揮官クラスと思わしき人物たちやオペレーター達が集まってきていた。


「それでは作戦概要に入る前に、事の経緯を改め説明する」


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