第62話 人外の楽園②




「―――これはどういう事なんだ?依頼なのか?」


「えぇ、適任だと思って。貴方の帝国での活躍は私も聞き及んでいてね、かの黒滅の四騎士と謡われた者の蘇り、そのリーダーのネクロウルカンの対応をアンバラル軍やレジスタンスが多大な被害を被った中、君が一人で倒したんでしょう?」


 レオは心当たりのない事を言われて頭を軽く抱えた。


「......いや、そんな記憶はない......。でも俺がやったてのは否定出来る気もしない......」


 レオは自分の力の特異性とかつて幽閉施設で起きた精神的暴走、その経験が妙にレオ自信を辛うじて納得させる。


「記憶......がないのかな?でもあれは疑いようもない。間違いなく君だよ、でなきゃ君を上層部があんな『楽園』に入れておくはずがない」


「『楽園』......、ってさっきの場所か」


「君がさっき楽し気に会話していたあの子たち、何者だと思う?」


「その口ぶりから察するに普通でないことは確かか、多分俺みたいに特異的な人達なんだろ。見てる感じ明らかに普通ではなかったしな......」


「その通り、彼女たちは通常の枠には収まらないカテゴリーエラーの人外終局たち、通称『エンプレセス』。特に親し気に話していたあの二人はとんでもない化け物だよ、『第七人外終局指定、ライヴァラリー・ブラックエマ―シェン』。かつて百年ほど前に卿国の筆頭騎士、剣聖としてその名を轟かせてていた。『第八人外終局指定、セツギン・ヒメジイネル・ヨリヒメ』彼女に至っては自ら楽園に収容されにきたしね、何れもこの世の理から完全に逸脱している。エクイラ皇帝陛下や君たちレジスタンスの基地を壊滅させた人物と同類の存在だ」


「エンプレセス......?あのエクイラさんもそうなのか......、それに基地が壊滅ってどういう......?初耳だが」


「おや?知らなかったんだ。君がアンビュランス要塞にカチコミにいってる間にレジスタンス基地はたった一人の人物に壊滅させられている。上層部はどうやらその人物をエンプレセスと認識していたようだけど詳しい話は私のところにまでは降りてこないんだ」


 マギはそう言うと手元の端末ディスプレイにレジスタンス地下要塞跡地の画像を表示させてレオに見せる。


「そんな!?こんな事って......!あそこにはアイザックが居たはずだ......。アイザックがやられたってのか?でも先の話を聞く限りでは死んではないみたいだが......」


 レオは懐疑的な目つきでマギを見る。


「話によればその人物による殺害は発生しなかったようでね。全てみねうちで済ませているようなんだ、つまりそれだけ歴然とした実力差がそこにあったってことになる」


「全く冗談じゃないぜ、そんな化け物がのうのうとやってきてたことに誰も気づかなかったってのか?」


「詳しい事はまだ私も分からなくてね、なにせ上層部のあのあわってぷりときたら完全に想定外だったと言わざるをえないだろうし。あの様子じゃあ黒滅の四騎士の復活なんてまるで視野になかったように思えたよ、実際その事に関しては殆ど動いてないだろうしね。まぁそれはともかくとして......」


 マギはレオの目線に急に合わせると、レオは少し驚くようにして仰け反る。


「どうするレオ君?君は彼女たちのように不安定で未知的かつコントロールの難しい存在ではあるが貴重な戦力であることは違いないんだ。どうだろうか?ここは一つ我々に従属しない?もしそれを承諾するというなら今後一生をあの楽園で過ごさなくて済むし、以前とまでは行かずともある程度の自由は認めてあげれるけど?」


 レオはマギにそう提示されると、沈黙を保ったまま選択肢を巡らせる。


「ちなみに今収容されている子たちの大半は従属しない選択肢をとったか、意志の疎通が出来なかった者たちだよ。一旦保留にして考えに耽るのも手かもね?」


 そう言われると、レオの中である二つ程の疑問が浮かび上がる。


「率直な疑問だが、なぜ従属しない者をあーやって生かしているんだ?こんな大掛かりな施設まで作って生かす理由はなんだ?」


 そう聞かれたマギは驚いたような顔をする。


「ほう?君は私達が彼女たちをいつでも殺せる力を保有していると思ってるんだ?」


「え、違うのかよ」


「うーん、でも君にも分かり切ってる事じゃない?その問いは簡単。単純に殺せないから、それは大抵が不死身だからというのもあるけど、それはオマケの理由でしかない。不死身なだけだったら他にも色々やりようはあるからね、ハッキリ言うと今の状態って奇跡的なんだ。今の平穏は彼女たちの気まぐれでしかない、彼女たちはその気になればここから出ていけるだろうし。まぁ実際は動向をデュナミス評議会が監視しているから難しいとは思うけど」


 マギはそう言うと建物を見上げて更に上空にある施設、デュナミス評議会本庁を見る。


「なるほどな、それともう一つ肝心な事だが。そもそもなぜ俺にやらせる必要があるんだ?優秀な戦力だったら他にも山程いるんだろ?」


「この任務は君たちのような優秀な部隊でないと務まらないんだ、並大抵のそこらのイニシエーター部隊じゃ手に余る」


「ん......??」


 レオのその反応に対してマギは首を傾ける、しばらくすると思い出したかのように手を叩く。


「あぁそうそう、ちなみにレイシア隊は既に承諾しているよ、後は君の一存で事が進むか決まる。後レフティア?といったかな。彼女には国境警備隊殺害の嫌疑がかけられていてね、本来なら彼女は即刻幽閉されるところだけど、君たちの帝国争乱時の戦果も考慮されて君が承諾すればその件は不問とすることになってるよ」


「えーなんですかそれ......何やってんですかレフティアさん......」


 レオは溜息を軽くつくと頭を抱える。


「はぁ......。レイシア隊が絡んでるなら話は早いです......、承諾しますよその話......」


「話が早くて助かるねー。それじゃあ悪いけどあと数日間だけあの収容施設に居てくれない?そこから出すのに法務上の手続きが少しかかるんだ」


「そう、なんですか。分かりました」


「んー?なんだが満更でもなさそうな様子だね?」


「いやいやそんな事ないですって......!」


 レオはそう言うと兵士二人に連れられて『楽園』へと戻っていく、そしてその後ろ姿をマギは柔らかい笑みを浮かべながら見送っていた。

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