第56話 黒滅の四騎士『アーマネス・ネクロウルカン』

 レジスタンスによる撃滅作戦の要塞総攻撃から逃れた枢爵とネクローシス達は、枢爵に関わるもの達しか知らない地下シェルターへとその身を寄せていた。

 指揮系統を緊急移行させ、そこを臨時司令部とした枢爵達は敵の攻撃拠点の捜索を試みようとしていた。


「えぇい......、どこからじゃ!どこから撃ってきておるのだ!」


 枢爵ガイウォンは通信オペレーターに怒声で問う。


「――はっ......、それが付近のレーダーは全て無効化されていて詳細な状況は不明です。外部との通信チャネルも不安定で連絡が着きません、しかし観測によるおおよその攻撃地点は判明。第二区画中央市街地東南方面ポイント752-232地点と推定、勢力不明。共和国からの声明も確認されず」


「第二区じゃと......?あそこに何がある......?」


「分からんがこれだけの火力兵器を用意できる組織はそういない、共和国軍の線が薄いとすれば恐らくはどっかの枢機士団によるクーデターと見るべきだろうな。兵器は前線送りの横流しだろうて」


 枢爵ハレクはガイウォンにそう返す。


「ここを起点に安全保障業務提携を発動する、センチュリオン・ミリタリアに緊急用の直通回線で救援要請じゃ急げ。他動ける者に片っ端からあたれい」


 枢爵ゼーブはオペレーター達にそう指示すると、オペレーター達は即座に作業を開始する。


「我らの定例会議を見計らって一気にここを落とすとはな、エイジスシステムを無効化させる用意周到ぶりに加え、第二のエイジスシステムの事まで知っているとなると奴らの狙いは本格的な国盗りのようじゃな、ハレクの言う通りこれは枢機士団によるクーデターで間違いないのう」


 枢爵ラゴフォンはハレクの言葉に賛同するようにそう言った。


「となると、奴らは我らを殺害する事が真の目的だろう。我らの生存が気づかれるのは時間の問題じゃ、何か他に手を打ってくる前に我らは儀式を早急に執り行なわなければなるまい。依り代が足りぬが、この際致し方あるまい。我らは地下祭壇へ向かうぞ」


 ガイウォンはそう言うと、他の枢爵とネクローシス達を連れて地下シェルターである臨時司令部を去り、さらなる地下にある儀式祭壇へと向かった。



 ―――レジスタンス、地下要塞にて。

 枢爵の遺体を発見できない事態に、メイ・ファンス少将は頭を悩ませていた。


「そんな、計画に穴はないはず......。ですよねアイザック大佐......」


 メイ・ファンス少将はうろたえながら視線をアイザック大佐に向ける。

 アイザック大佐はそれを受けると一息置いて応える。


「えぇ、我々は枢爵のスケジュールを完璧に把握していた。間違いなくこの日あそこに枢爵達は居たはずですよ、遺体が見当たらないとなると木端微塵になるまで体が吹き飛んだのか、それともまだ見つけられていないのかどちらかの線しかない」


「あの枢爵が木端微塵に体を吹き飛ばされたと考えるのは難しいでしょう!通常は空間障壁が働いてある程度の原型は留められているはずでしょうからねぇ......!」


 ドクター・メルセデスはアイザック大佐の考察における前者を否定する。


「―――メイ司令......、戦闘部が作戦司令室の指示を待っています......」


 作戦司令室のオペレーターがメイ・ファンス少将にそう言うが、メイ・ファンス少将は頭を抱えながらしばらく沈黙する。


「......そのまま枢爵の捜索を続行、引き続き残党掃討作戦を継続してください。追って指示を出します」


「―――了解、そのように伝えます」


 オペレーター達とメイ・ファンス少将がやり取りを終えた瞬間、傍にいた副司令官であるエクイラは何やらを感じとったかのように表情をはっとさせる。


「......た、大変です!ここに危機が迫ってます!!!」


「なんですって!?」


 エクイラの言葉にメイ・ファンス少将が反応すると同時に、要塞内に警報が響き渡る。


「―――識別、北西方向よりミリタリア社の航空戦闘団が攻撃編隊で接近中、帝国空軍の爆撃機も確認!要塞領空内に数秒以内に侵入します!」


「航空戦闘団!?このタイミングで......?」


 レジスタンスの予想をはるかに上回った展開に、作戦司令室にいた幹部達は言葉を失っていた。しかし、そんな中でもメイ・ファンス少将は冷静に立ち振る舞い、判断を下す。


「コードRED警報発令、短距離防空システム作動、戦闘機全機発進」


「―――了解、コードRED警報発令中。AE高射砲全門解放、戦闘機全機発進、航空機を須らく撃墜せよ」


 ミリタリア社の航空戦闘団が領空内に侵入してから、わずか数秒で攻防戦が開始される。

 帝国空軍の爆撃機による衝撃波が、作戦司令室にまで響き渡る。


「状況を報告してください」


 メイ・ファンス少将はオペレーター達に状況を問う。


「―――第三エリア帯水層、及び付近の上層通路破損。運搬通路壊滅」


「―――同エリアの地対空ランチャーが破壊されました」


「妙だな、あそこには何もない」


 オペレーター達の報告を聞いたアイザック大佐は敵の標的がおかしい事に気づく。


「―――第三エリア、更に数十機の爆撃編隊が接近中」


「えぇ、敵は見えてるものしか狙ってきていない。つまりこちらの正確な情報は向こうには知られていない......。まともにやりあってはこちらが持ちません、全ての高射砲を格納してください。戦闘機には戦域から離脱するように伝えて、ここで爆撃編隊をやり過ごします。こっちは十層の特殊装甲に守られた要塞です、間違ってもここが墜とされる事はない」


 メイ・ファンス少将がそう言うと、全ての高射砲は格納された。

 こうして地下要塞には爆撃の衝撃波に怯える長い夜が訪れようとしていた。




 ―――撃滅作戦施行後、アンビュランス要塞にて。

 残党掃討作戦を続行するよう命じられた戦闘部は、引き続き枢爵の遺体の捜索と残党掃討を続けていた。


「お、おい......。あれ、レジスタンスの拠点が攻撃されてるんじゃないか......!?」


「あぁ......、だが中央エリアのある所からは少し外れてるな」


 爆撃で燃え盛る第二区エリア見ていたレイシス達はそう言った。


「なぁ、隊長さん......拠点は無事なのか?けっこうヤバそうだが」


 レオ・フレイムスは第二戦闘部の隊長であるヘレゲレンにそう聞いた。


「地下要塞は十層にも及ぶ特殊装甲に覆われている、大概の攻撃に対しては無類の防御力を誇る。あぁ見えて堅牢な要塞だ、しかしそうは言ってもあれだけの爆撃に晒されれば、さすがに長くは持たんだろう。命運は我々に掛かっている、枢爵を探すぞレオ」


 ヘレゲレンがそう言った直後、ヘレゲレンの元に通信が入る。


「―――隊長、見取り図には存在しない地下空間へ通づる入り口を探知機で発見しました。しかし、入り口は頑丈な作りでこちらの装備では突破出来ません」


「なんだと!?分かったすぐそちらに向かう」


 ヘレゲレンはすぐさま入り口を見つけたレイシス達の方へと、周りの数人のレイシスを連れ走り出す。そしてレオもそれに続いた。


 報告にあった入り口に辿り着くと、そこには全戦闘部のレイシスや一般歩兵達が終結していた。

 到着したヘレゲレンに向かって、一人のレイシスが既に終結していた戦闘部集団の前へと踏み出る。

 その人物は第一戦闘部の隊長であるロベリアであった。


「ヘレゲレン、私達はもうこの崩落した要塞内をどこもかしこも探し尽くした。だが、どこにも枢爵の一人のその一欠けらすら見つけられなかった。後はここだけなんだ......ヘレゲレン......」


 ロベリア隊長はヘレゲレン隊長に、緊迫した様子でそう言う。


「それが本当なら、枢爵達は一人残らずこの下で生き残っている可能性が高い......。とすると、枢爵共に真っ向勝負ってわけか......」


「覚悟なら決まっている、ここでやらねば全てが水泡に帰す」


 ヘレゲレンの言葉にそう返したのは、第三戦闘部の隊長であるリョージスだ。


「あぁ、もちろんだ。やるぞ......殲滅戦だ」


 ヘレゲレンがそう言うと、それを聞いたロベリア隊長は無言で頷き、右手を手前に差し出すとそのまま入り口の方へと向ける。

 すると、そのままロベリアが入り口を蹴りつけると、まるで丸く切り取られたかのように頑丈な入り口に、円状に穴が出来た。


 穴が開けられた先には、薄暗く灯りが灯され地下へと階段が延々と続いていた。

 ヘレゲレンは穴が開けられたと同時に、真っ先に飛び込む。他のレイシスや一般歩兵達もそれに続いた、そしてレオもまた共に飛び込んだ。


 しばらく下り続けると、やがて再び扉が現れた。地上の入り口の時と同様に、ロベリアがその扉を破壊し突入する。

 突入した先には作戦司令室のような空間が広がっており、そこには作業中の第一枢機士団の腕章をつけたオペレーター達が居た。

 その突入に気づいたオペレーター達は、ハンドガンを取り出し突入してきた戦闘部に応戦するもあっという間に制圧されてしまう。


 戦闘部の隊長たちは辺りを見渡すも枢爵の姿を見つけられなかった。


「ここにも居ないのか......?」


「いえ隊長、更に地下に続く通路があるようです」


 そう言った戦闘部の一般歩兵は、この部屋に置かれていた見取り図な様なものをヘレゲレンに見せる。


「これは......、アンビュランス要塞の地下にこんな大空間が?これを知るのは枢爵達だけってわけか。間違いなくここに枢爵達はいるはずだ、ここに行くぞ。何人かはここに残り、この部屋で行われた情報を収集して本部に連絡しろ。恐らく先ほど見えた爆撃機もここから要請されたものだろうからな」


 ヘレゲレンはそう言うと、何人かの一般歩兵を残し、更なる地下に存在する謎の大空間へとレオと戦闘部は向かう。



 ―――アンビュランス要塞、地下儀式祭壇にて。

 儀式祭壇の置かれたその大空間はまるで何かの聖堂のように、複雑な文様が刻まれた重厚な柱が祭壇に向けて平行に立ち並ぶ。

 その祭壇には、多くの布に覆われた四つの巨大な棺のような物が置かれ、それを崇めるかのように枢騎士達は整然といくつかの列を成す。

 そして枢爵の一人、ガイウォンは黒滅の預言書と呼ばれるその本を中央の棺に向けてかざし、何やら不可解な言葉を連ねる。

 それと同時に、ネクローシスの一人であるレノーカスはその棺に近づき自ら装備していた大剣をその棺の前で両手で掲げた。


 しかしその瞬間、「全員動くな!妙な動きをすれば撃つ」といった声がこの地下空間に響き渡る。

 それを聞いた枢爵やネクローシス達はその場から振り返ると、儀式祭壇と列を成していた枢騎士達を包囲するように一階と二階から、戦闘部のレイシスと一般歩兵達が周りを取り囲み銃口やソレイスを枢爵達に一斉に向けた。


「ふはははは!!!貴様たちか、帝国に刃向かう愚か者たちは?お前達のやり口には実に恐れ入ったぞい、ふーむ。だが貴様らは枢機士団ではないようだが、一体誰の手引きなのかね?」


 枢爵ハレクは戦闘部にそう問う。


「無駄話をする気はない!そのまま大人しく手を頭の後ろに回して後ろを向け!」


「馬鹿が」


 ヘレゲレンの言葉に、枢爵ゼーブはそう返す。

 するとレオはヘレゲレンの前へと出る。


「よぉ、枢爵さん方。俺が誰か分かるのか?」


「おい待てレオ」


 レオのその発言にヘレゲレンはレオを止めようとするも、レオの表情を見てレオに触れる寸前でそれをやめた。


 レオを見た枢爵達は少し動揺した様子でお互いに顔を見合わせる。


「レイシス......の子か。まさか反乱分子に捕えられていたとはのぉ、だがもう遅いぞレイシスの子よ。儀式はもう始まっておる、貴様の処遇は後に我らが主、ネクロウルカン様がお決めになる」


 枢爵ラゴフォンはそう言った。


「そのレイシスの子っていうのは何なんだ!?なぜ俺はお前たちに攫われた!?答えろ!」


「お前は依り代だったのだレイシスの子よ。我らが偉大なる始祖、黒滅の四騎士『アーマネス・ネクロウルカン』様のな。だが全てはもう遅い、不完全な状態での復活は避けられぬ。やれい!!!レノーカス!!!」


 枢爵ガイウォンがそう言うと、棺の前に立っていたレノーカスはその両手に持っていた大剣を棺に突き刺した。

 それを見たヘレゲレンは射撃の号令を出すも、棺から放たれた衝撃波によって戦闘部のレイシスや一般歩兵達は勢いよく後方へ吹き飛ばされ陣形が崩れた。


 大剣を突き刺したレノーカスは、禍々しい光を放ちながら棺から伸びる黒帯状のものに巻きつかれていき、やがて完全にレノーカスをその帯が取り込むとレノーカスの形状を変質させていく。

 その光景を見たレオは、依り代とはどういうことなのかを直感的に理解した。


 その禍々しい光が徐々に落ち着き、レノーカスの形状の変質が終わると、やがて帯の塊の中からまるでそれを喰い破るかのように荒々しく破壊され、そしてその人影が遂に姿を現した。

 その中から姿を現したそれは、以前のレノーカスの姿とは似ても似つかない全く別の人物像だった。

 美しい光沢を放ちながら腰まで緩やかに伸びたこがね色の毛髪と紅い瞳を覗かせ、そしてそのあまりに端麗な顔立ちは見る者を揺るがせた。

 そしてそれに似つかわしくない鎧と大剣を身に着けたそれは、正しく黒滅の四騎士『アーマネス・ネクロウルカン』の顕現であった。



「はぁ......、我らが始祖、ネクロウルカン様。この時をどれほど待ち望んだ事でしょう......」


 枢爵ガイウォンがそう言うと、他の枢爵やネクローシス、周りの枢騎士達はただただネクロウルカンに対して静かに膝まつく、ネクロウルカンの言葉をただ待っている。

 そしてその光景にレオや戦闘部は、立ち尽くすばかりだった。


「余は......、はぁダルイ......、体が、重い......。ここは、どこだ......」


「ここは地下の儀式......ぐぁっ‼」


 枢爵ガイウォンの言葉を遮り、ネクロウルカンはガイウォンの心臓を右手で貫く。そのままガイウォンの体を持ち上げると、ガイウォンの体はみるみるうちにしおれていく。


「足りぬ......、足りぬ......」


 ネクロウルカンはそう言いながら、ガイウォンの体をどこかにと投げ捨てる。


「なっ!?一体なにを!?」


 枢爵ハレクはそう言うと、ソレイスを顕現させその矛先をネクロウルカンに向ける。


「預言書と違うではないか!我らは共に世界を制すもののはずだ!」


 ネクロウルカンはハレクの言葉に聞く耳を持つ様子もなく、ネクロウルカンはハレクを見ると次は左手でハレクの心臓を貫いた。

 それを見た枢爵ゼーブと、ラゴフォンは即座にソレイスを顕現。ネクロウルカンに同時に斬りかかる。

 ネクロウルカンはハレクの体から左手を引き抜き、それぞれの手で二人の枢爵の一撃を受け止める。


「なっ!?馬鹿な」


「ぬうぅ......、まだ力は不完全なはず......」


 枢爵ゼーブとラゴフォンは、その一撃を容易く手で受け止められた現実に声を唸らせる。

 すると、ゼーブとラゴフォンはネクロウルカンから跳躍して距離を取ると、それぞれのソレイスを突然自らの胸に突き刺した。


「「レナトゥス!」」


 二人の枢爵は同時にそう言うと、その突き刺した部位から黒い帯状のものが溢れ始め枢爵達の体を包み始める。


「あいつら急に何を!?」


 レオがそう言う。


「あれは......、レナトゥス・コードの禁術。まさか本当に会得していたとはな......」


 ヘレゲレンは目を見開きながらそう言った。


「レナトゥス・コード......、あの光景は以前見たことがある。アルフォールとかいう奴のとそっくりだ......。だが、これは......まるで質量が違う......」


 二人の枢爵の体を包み込んだ黒い帯は、やがて衣服のような形態をとり始め、裾の部位はまるでスカートのように伸びる。

 黒い帯に巻かれたその姿は、まるで包帯を巻いた病人のようだ。二人の枢爵の背の左側からは禍々しい光が弧を描いてまるで片翼の翼のように放出されていた。

 その放出された禍々しい光に触れた周りの物体は、見る見るうちにその姿を粒子状に変質させていく。


 レナトゥスをやり遂げた枢爵の姿を見ても尚、ネクロウルカンはそれに動揺する様子はなかった。

 しかし、備え付けられた大剣を手にしてその刀身を右肩に掛ける。

 ゼーブは目に終えぬ速度で間合いを瞬時に詰め、ネクロウルカンの首を狙いに行くもネクロウルカンによって逆に首を大剣で跳ね飛ばされる。

 頭部を失ったゼーブの体を左手で掴むと、そのまま何かを吸収されるかのようにかつてゼーブの体であったそれはあからさまに萎れていく。

 ラゴフォンは左背から放たれていた禍々しい光を自らの体の前に出し、それを両手で溜めこむかのように構える。


「枢光!」


 高質量の禍々しい光の集合体がネクロウルカンに向けて放たれる、しかしそれを避ける様子もなく真っ向からそれに激しい衝撃波と土煙を撒き散らしながら直撃する。


「えぇぃ......、さすがにやれたじゃろて......」


 しかし土煙が晴れると、そこには傷一つ負った様子のないネクロウルカンがそこに立っていた。


「ば、馬鹿な......」


 ラゴフォンがそう言った直後、ネクロウルカンから放たれた枢光によって上半身が消し飛び、ラゴフォンの下半身はそのまま地に落ちた。


「あの枢爵を......あんなにいともたやすく葬るなんて......」


 第一戦闘部隊長のロベリアは、声を震わせながらそう言う。


「余の良き腕慣らしとなった、感謝するぞ我らが同胞レイシスよ」


 ネクロウルカンは先ほど見せていたたどたどしい口調からは一見変わって流暢に話すようになっていた。


「この時代の枢爵はどこにおるか」


 ネクロウルカンは枢騎士達にそう聞く。するとネクローシスであるテイラー・クアンテラがネクロウルカンの前に出る。


「ネクロウルカン様、この時代の枢爵は先ほど貴方様が戯れられた四人のレイシスで御座います」


「なんだと?この脆弱なもの達が枢爵を務めていたのか。まぁ良い、預言書通りに事を運ばせておったようだな、だが余がこの時代に身を保持させ続けるには余りに多くの人間が生き過ぎ、そしてネガヘラクロリアムが枯渇している。余を不完全な状態で呼び覚ましよって、本当に我が子らは面倒のかかるやつばかりだ」


 ネクロウルカンは歩き始める、列を成した枢騎士達はそれを祝福するように膝を着き頭を垂れ、ネクロウルカンの行く道を示すかのように列を成す。

 残ったネクローシス達はそのままネクロウルカンに付き従う。


「奴をこっから先にいかせるなぁぁぁ!撃てぇぇぇ!!!」


 ヘレゲレンは祭壇内に響き渡る声量でそう言うと、一斉にネクロウルカンに向けて発砲される。

 しかしその攻撃はネクロウルカンに届くことなく、全てネクロウルカンの作り出す空間障壁によって弾かれる。

 そしてネクロウルカンは歩きながら右手を出し、そのまま何かを握りつぶすかのような動作をすると、レオを含む戦闘部全員がもがき苦しみながら地にひれ伏す。

 そしてレイシスを除く他の一般兵はそのまま地に触れしたまま動くことはなかった。


「グぅ......、心臓を潰された......」


 ヘレゲレンはそう言うと、ソレイスを再び構える。


「余の糧となるのだ、余に敵意を持つ愚かな子供たちよ」


 ネクロウルカンはそう言うと、今度は左を出し何かを切りつけるような動作をする。

 すると、レオやレイシス達の心臓部に突然槍のような物で貫かれる。それに貫かれたレイシス達は、まるで魂が抜け落ちたかのように体が崩れ落ちる。そして地にひれ伏したレイシス達は二度と、そこから立ち上がることはなかった。ネクロウルカンはレイシス達の屍を通り過ぎていく。


 しかし、誰も立ち上がらぬその中でただ一人立ち上がれるものが居た。


「いってぇな......、これ......。あんたの力一体どうなってんだよ」


 ネクロウルカンは歩みを止め、レオの方を振り返る。


「貴様、どうなっている。余の勝敗を制す槍を受けてなぜ生きている」


「さぁな......そんなのは俺にも分からねぇよ。分かってんのはお前をここで何としてでも倒すってことだけだ......!」


「ふむ、いや待て。貴様、レイシスの子か。なぜここに居る」


「だから知らねえ......ってなんだこれは!?」


 レオの体が鎖のような物で足から巻きつけられ、レオの身動きが封じられた。


「貴様、興味深いな。死がトリガーになっているのか、こいつを連れていけ」


 ネクロウルカンはそう命じると、ネクローシス達がレオを取り押さえる。


 そして、ネクロウルカンとネクローシス達はレジスタンスによって浄化された地上へと歩み始めた。


































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