第55話 アンビュランス要塞撃滅作戦・第二段階『総攻撃』及び第三段階『残党掃討作戦』
第二区に存在する対アンビュランス地下要塞、作戦指令室にて。
「―――エンジニアチーム工作完了、固定レーダー停止コード確認、固定レーダー及びエイジスシステム停止予定時刻まで残り300秒ジャスト」
「―――全施設員第一種戦闘態勢に移行、三個戦闘部既定位置にて配置完了、第十一枢騎士団は駐屯基地で待機中、作戦指令室からの指示を待っています」
「―――要塞全設備、砲撃システム、オールグリーン全て異常なし。付近の民間人の避難完了、いつでも行けます」
次々と告げられる要塞システム、実行部隊に関する報告をレジスタンス総司令官であるメイ・ファンス少将は黙々とそれを受ける。
作戦指令室にはメイ・ファンス少将の他にアイザック大佐、エクイラ副総司令官、メイン・オルテ中佐、ドクター・メルセデスの姿がそこにあった。
「ついに、始まるのですね......」
エクイラはそう言う。
「えぇ!ここから沢山の命が失われますぞぉ!!!」
メルセデスは興奮気味にそう言った。
「残酷だが、これも因果応報だ。なぁ、枢爵よ。お前達が奪ってきた命の数に比べたら、これくらい当然の報いだろうよ」
アイザック大佐はそう言う。
「戦闘部諸君、幸運を祈る」
メイン・オルテ中佐はそう言った。
「我々レジスタンスがこれまでに積み上げてきたのは今この時、この瞬間の為。この作戦によって全ての同士はこの時をもって報われる。では革命を、始めます。対要塞攻撃システム機動、全AE火砲、長距離ミサイル展開、標的。『アンビュランス要塞』」
メイ・ファンス少将はそう言いながらアンビュランス要塞が大画面に映し出されたモニタ―に向かって指をさす。
「エイジスシステム無効化時刻をもって『アンビュランス要塞撃滅作戦』第二段階を施行します」
「―――エイジスシステム期日無効化時刻、テストレーザー発射」
作戦指令室のオペレーターがそういうと数秒の間が空く。
「―――テストレーザー有効、エイジスシステム無効化確認!」
「全砲門解放、砲撃開始!!!」
その頃、アンビュランス要塞では定例枢騎士評議会会議に出席するために各枢騎士団の団長が集められ、枢爵もまた会議室へと向かっていた。
他の枢爵と共に会議室へ向かう道中、第一枢機士団長である枢爵ガイウォンは自らに迫る危機を瞬時に悟った、そしてそれは他の枢爵も同様に感じ取っていた。
「な、なんじゃぁこれは......これはいかん」
「ここに危機が迫っておる、どこからか仕掛けてくるぞ」
ガイウォンの言葉に第二枢騎士団長、枢爵ハレクはそう言う。
「膨大な光が見える......」
第四枢騎士団長、枢爵ラゴフォンはそう言った。
「マズイのう、ここはもうダメだ!直ぐに指揮系統を地下シェルターに緊急移行させるのだ!早く!儀式を早める、ネクローシスも向かわせるのだ」
第三枢騎士団長、枢爵ゼーブは側近の部下にそう伝えると、枢爵達は瞬時に悟った生命の危機から逃れるべく他の枢機士団に危機を知らせる事もなく地下シェルターへと避難した。
地下要塞からのAE火砲、長距離ミサイルによる飽和攻撃第一波が始まった。アンビュランス要塞付近に常駐していたエアー級空中戦艦が突如大きな飛来音と爆発音と共に墜落していく。
その様子を見た刹那、アンビュランス要塞に居る全ての帝国軍人達はこの地に迫る危機の予兆を知り一斉に雨降る夜空を見上げるも、幾千に輝く星々とは違う輝きに帝国軍人達はその光景に目を見開く。
その正体を知るも、絶望に浸る暇もなく、アンビュランス要塞は直ちに火の海と化す。
第一波の時点で何百発と打ち込まれたアンビュランス要塞は、辛うじてその見る影を保っていた。辺り一面に首都住まいの軍人達にとっては見たこともないような遺体の数、そして響き渡る悲鳴の数々がアンビュランス要塞を死の地へと成り立たせていた。
その中でも人一倍の生命力を誇る枢騎士団長達でさえ、大半の枢騎士は死に絶えていた。大半の死因は決まって出血死である、如何なる屈強な戦士でも不意に喰らった火砲による攻撃を防ぐ手立て等存在しない。
第一波が終わると、生き残った帝国軍人達は負傷兵の移送と臨時司令部の設置を急いだ。
しかし瞬く間に第二の光の雨が、その間に降り注ごうとしていた。
戦闘部の既定位置から第一波の砲撃の様子を見ていたレオや戦闘部の枢騎士達は、その余りの光景に言葉を失っていた。
「これが......、俺達のやっていることなのか......」
「想像以上だな......、これならあの枢爵もさすがに死んでるだろうよ」
レオの背後で戦闘部のレイシス達はそう囁いていた。
「―――第一波完了、続いて第二派装填」
「間髪いれずに、再生と逃げる隙を与えないでください」
メイ・ファンス少将は、まじまじと正面に映し出された燃え盛るアンビュランス要塞を見ながらそう指示を伝える。
「これで枢爵、やりきれるといいんだけどねぇ......」
アイザック大佐は腕を組みながら、メイ・ファンス少将と同じように正面のモニターを見つめる。
「いやぁー!いくら枢爵といえどAE火砲をもろに喰らっちゃあ生きてはいないでしょう!それこそ生き残れるのはレオ・フレイムス、彼くらいの特異点でないとねぇ!」
ドクター・メルセデスは調子の良い口調でそう言う。
「何事もなくこのまま終われれば良いのですが......」
エクイラがそう言うと、アイザック達はエクイラに冷たい目線を送る。
地下要塞からの飽和攻撃による一通りの波状攻撃を終えると、アンビュランス要塞はかつての立派な建造物群の見る影も無くなっていた。
その様子を見たメイ・ファンス少将はアンビュランス要塞撃滅作戦・最終段階である第三段階に移行しようとしていた。
「第三段階、最終フェーズへ移行。残党掃討作戦を開始、戦闘部は第十一枢騎士団と挟撃に当たり残党及び枢爵達の遺体を捜索してください」
「―――了解、最終フェーズへ移行。戦闘部、及び第十一枢騎士団へ通達、残党掃討作戦開始。可能な限り枢爵の遺体を捜索せよ」
「―――こちら戦闘部、了解。作戦行動を開始する」
「―――第十一枢騎士団、こちらも了解した。挟撃にあたる」
第十一枢騎士団長、ダグネス・ザラ直々に通信の連絡を終えると、戦闘部とアンビュランス要塞後方に位置する駐屯基地からの挟撃による残党掃討作戦が開始された。
レジスタンス三個戦闘部は南東方向より侵攻し、ダグネス率いる第十一枢騎士団は北西方面からアンビュランス要塞残党を挟撃する。
「ぐうぅ......、誰か......。誰か居らんか......、クソ......」
周りの部下は全滅し、その中で唯一人生き残っていたのは第七枢機士団長のリディックだった。
リディック団長は地面を這いながら、周囲に人影を探す。すると、見覚えのあるローブをした集団をその瞳にぼやけながらも捕えた。
「おぉ......!助けが来たか......!おーいこっちだ!手を貸してくれ出血が酷いのだ......、傷が塞ぎきらん......!」
振絞った声でその集団に呼びかける、するとその集団はリディックにすぐさま駆け寄ってくる。
その集団の一人がこちらまで十分に近ずくと、リディックは手を差し伸べる。
しかし、差し伸べた手は突然その者の紅いブレードによって切り落とされた。
「な、なぜ......?」
リディックは目をしっかりと見開くと、そこに立っていたのは第十一枢機士団長、ダグネス・ザラ。今、自分の腕を切り落とした張本人だ。
「ど、どうしてだあああああああああああああ!!!!!!!!!!」
「すまないリディック殿、確かに貴殿は議会の中でも穏健派だったな。しかし、ヌレイ戦線を崩壊させヒットマンの英雄小隊を死なせた張本人でもあるか。貴殿の事は別に嫌いではなかったが、何れにせよ覇権主義的思想持つ貴殿等にはこれから先の時代を生きるにはそぐわない、これから良き時代を繋ぐためにも貴殿等にはここで滅んで頂く」
そう言うとダグネスはイレミヨンをリディック団長の首へと当てる。
「ははっ、そうかい......。我々は淘汰されるべき存在......ってか」
リディック団長は、周りの遺体に止めを刺して確認し周るダグネスの部下たちを見ながら、そう言った。
「余程この国を恨んだ連中が糸を引いているようだな......、一歩間違えればダグネス。お前も滅ぼされる側だったのではないかね......?」
リディック団長は息を切らしながらダグネスに問う。
「私達はそもそも最初から滅ぼされる側だった、だからそれを変える為に貴殿等を滅ぼすことを選んだ。ただ、それだけのこと」
リディック団長はダグネスのその言葉に笑って返すと、ダグネスはそのままリディック団長の首を刎ねた。
その後も掃討作戦はしばらく続き、戦闘部も生き残った瀕死の枢機士団長と対峙していた。
「なぜ貴方達......、祖国を裏切るの......どうしてなの......」
対峙する戦闘部に向かってそう言うのは第十二枢機士団長、レフィーエ団長だった。そしてその隣には第九枢機士団長、イデラの姿もあった。二人とも瀕死の様子で戦闘部と剣を交えようとしていた。
「俺達は別に裏切ってなどいない、先に裏切ったのはそちらなのだ。レフィーエ団長」
そう言うのは第二戦闘部の隊長、ヘレゲレンだ。
「過去の栄光を求める事が、お前達にとっては滑稽だったとも言いたいのか?」
第九枢機士団長、イデラ団長はそう言う。
「そうだ、過去の遺物に囚われた枢爵に貴方等もそれぞれの立場に違いがあろうとしても姿勢は一貫している。帝国主義の思想はここで途絶えさせなければならない、負担を強いられている同士を解放するのだ」
ヘレゲレンがそう言うと、数十人のレイシスが顕現させたソレイスで一斉にレフィーエ団長に切りかかる、しかしレフィーエ団長に対して比較的軽症で余力のあるイデラ団長は
「へぇ!?あんた何者よ!?」
そう言ってレフィーエ団長はレオをソレイスで押し離す。
「いつのまに私の間合いに......、こんなレイシス見た事ないのだけど?」
「レフィーエ団長に同様、もしかして彼が例の......?」
レフィーエ団長とイデラ団長はレオを警戒しながらその正体を探ろうとする。
「なんだっていいさそんな事、俺は枢機士団長とかいうのを倒しに来ただけだからな。小難しい話はなしだ」
レオはそう言うと、二本の剣状ソレイスを展開させる。そして、そのままイデラ団長の方へと突っ走る。
「お前が何者なのかは知らんが、あまり我々を舐めるなよ」
イデラ団長はそう言うと、向かってくるレオに対して枢光を放つ。しかし、レオはそれを容易く避けるとそのままイデラの腕を切り落とす。
間合いに入り込まれたイデラはレオを蹴り飛ばしなんとか距離を放そうとするが、レオが投擲したソレイスによってイデラは体ごと壁に突き刺さされ身動きを封じられる。
その後レフィーエ団長は、逆にレオに対して仕掛ける。あえて、間合いに入り剣術の質で勝負しようとするがレオはレフィーエに対して距離を瞬時に取ってしまう。
するとレオは、空いた手の方からアイザックのソレイスを顕現させると、そのまま高出力でレフィーエに向かって銃を放つ。
ただでさえ瀕死の身であったレフィーエは、これをよける瞬発力もなくそのまま心臓を撃ち抜かれた。
レフィーエはそのまま、地面に倒れ込み絶命した。
「いやはや、見事。多芸だな貴様......。枢光も避けられるとはな......」
壁に突き刺されたまま身動きの取れなくなっていたイデラは、レオに向けてそう言った。
「いや、あんた達は確かに強かった。あんた達が瀕死の状態じゃなかったら、きっと俺達はあんた達を倒せなかったんだ。そのためのこの作戦なんだな.....」
レオは先ほど行われた第一段階の飽和攻撃の光景を思い出しながら、そう言った。
「ふっ、過程がどうあれ結果的に我らが敗北したのであれば、それまでの事だ。申し開きのしようもあるまい、大人しく朽ちるとしよう......」
イデラ団長はそう言うと、静かに息を引きとった。
戦闘部と第十一枢騎士団の挟撃掃討作戦により、アンビュランス要塞の大半の帝国兵は駆逐された。
残すのは、枢爵に関わる者たちとなったが、依然としてその者たちの発見報告はもたらされなかった。
「―――作戦指令室へ通達......、枢爵の遺体が、どこにも見当たりません!!!」
「な、なんですって......」
その通達を受けたメイ・ファンス少将は思わず言葉を見失う。そして地下要塞の作戦指令室には、不穏な雰囲気が漂い始めていた。
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