第50話 力の自覚⑨

 レオ・フレイムスの覚醒者としての芽が出始めた頃、アンビュランス要塞撃滅作戦施行日まで殆ど時間は残されていなかった。

 メイ・ファンス少将を始めとするレジスタンスの高官等は、着々と各々の立場を利用し計画の準備を着実に整えていく、ある者は前線に送られるはずだった兵器の横流しを、ある者はアンビュランス要塞の警備配置、当日の枢爵クラスのスケジュールを把握する者。

 計画は意志ある者たちによってより確実性の高いものへとなっていった。


 特設作戦司令室にて、メイ・ファンス少将は計画の進捗状況を確認する。


「メイン中佐、ダグネス枢騎士団長の第十一枢騎士団の戦闘部への編成は現在どうなっていますか?」


 メイ・ファンス少将は手元の通信機で状況の確認を取る。


「いやぁ彼らのダグネス団長に対する忠誠心はすごいもんですよ、国に逆らうって時に離脱希望者がたったの四割程!よく鍛えられてますねぇ、枢騎士団そのものは後方待機中なので枢騎士掃討作戦第二段階、特化スーツ装備付きで配備できそうです。我らが率いる三個戦闘団が要塞南西方面から進行、順次掃討の後、第十一枢騎士団がブリュッケン第二駐屯地から第一段階の飽和攻撃完了後に要塞跡地を同時に挟撃予定、現在は駐屯地との独自ルートを連携を密に構築しています」


「了解、そのまま続行してください。次、システム班に繋げて下さい」


 メイ・ファンス少将の指示を聞いた付近のオペレーターが、通信機のチャンネルをシステム班に繋げる。


「第二のエイジスシステム機構の対応はどうなっていますか?」


「はい、こちらの算出ではどうにも外部からの操作では第二エイジスシステムまでは無効に出来ません、第一エイジスシステムとは違ってこちらは有効範囲がアンビュランス要塞主要部を対象にかなり限定的に作用してます。やはりセキュリティルーム及びサーバーの直接占拠が急務かと」


「なるほど、検討します。作業を続行してください」


「分かりました」


 システム班の言葉を最後に通信は終了する。するとメイ・ファンス少将はため息をつきながら司令官専用座席に腰を下ろす。


「アイザック、貴方の情報がなければ作戦は完全に破綻していたとこですね。感謝します」


 司令官専用座席の後ろに立っていたアイザックは軽く相槌を打つ。


「比較的中枢に居た俺やクライネですら不確かな情報としか認識出来ませんでしたが、まさか本当に二段構えの構造になっていたとは、保身に関しては枢爵の連中も用意周到な事だ。わざわざ目星つけて枢騎士団長に接触し引き入れた甲斐があったってものですよ」


「えぇ、本当に。それで今の前線の状況はどうなっているのですか?」


「愚かな帝国軍は追加の枢騎士団を以てしても未だ第三セクターを攻め落とせずにぐだぐだと戦力を消耗しながら攻めあぐねていますよ、共和国軍が未だ大規模攻勢に転じてない事が温情にすら感じる程に」


「それはもちろん多国籍企業絡みでしょうけどね、帝国は各地に世界中の大企業の支社やファクトリーがあるもの。上手い事利用しているわよねぇ~、にしても風呂敷を広げ過ぎたのねぇ......、あれだけの広大な戦線を三つの枢騎士団だけで維持できるはずもないのにそんな事すら今の枢爵達には理解できてないのね。機械軍と卿国に睨みを利かせる為の地方部隊に動員が掛けられるのも時間の問題......、はぁ枢爵共は一体何を企んでいるというのかしら、まさか本気で共和国を討つ気でいるんじゃないでしょうね」


 メイ・ファンス少将は無自覚に崩れた口調になっていた。


「あぁ、未だ我々の諜報網を以てしても枢爵の目的は把握できていない。レオの事も分からず終いだ、結局奪還時以降は捜索部隊の気配も殆どない。ネクローシスもだ、エターブ絡みの組織も今は沈黙している。ここまで水面下で動いているというのも妙だ......、何か背後にもっと強大な組織でもあるかのような......」


「まぁ目的が何であれ我々には彼を利用せずにこの作戦を遂行出来るほどの戦力の余裕はない、使えるものは何でも利用しなければ。まずはこの国を私たちの手で取り戻す。全てそれからなのよアイザック、もう私たちには時間がないわ」


 ――――――――――――――――――――――――――――――――――


 幽閉施設にて。

 あれから傷を癒し意識を取り戻したレオは、レオに興味津々なドクターメルセデスの執着から何とか逃れながら再び幽閉施設へと訪れ、レイシスの少女ダグネスと再び剣を交わしていた。


「大分腕を上げたね君、もうベルゴリオでは相手出来ないほどだ。覚醒者としての体は随分馴染んできたのか?」


 ダグネスがそう聞く。


「あぁ、今まで足りなかった何かがすっぽりと埋まった気分だ。見える世界も以前とはまるで違う、体も知覚も何もかも」


「ふーん、精神面の方も大分安定しているようだ。これはかのドクターメルセデスのおかげかな?」


 メルセデスのその名を聞いて瞬間、レオの体は一瞬微動する。


「あっ、あぁまぁな......。メルセデスが作ったヘラクロリアム中和剤のおかげで大分安定はしている......、だけど明らか必要以上に体を調べてこようとするのは本当に勘弁してもらいたいところだね......」


 レオは研究室での出来事を思い出しながら、メルセデスへ恐怖心を抱く。


「まぁあの手の優秀な科学者にはそういう変態が多いものだよ」


(私もそうだったなぁー、今よりもっと幼い頃はよく見ず知らずの科学者に囲まれていた。でも私がソレイスを顕現させることが出来ないと知るとすぐ様どっかに去って行ったけど)


 ダグネスは、ふと自信の過去を振り返えながらそう答える。


「そういえば、私のこの人工ソレイス、イレミヨンは彼の研究グループが発明し先人から受け継いできたものだったはず。私のようなレイシスの出来損ないにとっては有難い存在だ」


 ダグネスは手元のイレミヨンを静かに眺めながらそう言う。


「そうなのか、すごいんだなあの人。その、差し支えなければ教えてほしいんだが、人工ソレイスってのは......?」


「うん?その名の通りだよ、私が使うこれは人工的に作られたソレイス。私は生まれつきレイシスとしての才覚に恵まれていながら、ソレイスを顕現させる事のできない出来損ないなのさ」


 ダグネスはイレミヨンをレオに向けて大きく振って見せる。


「ソレイスを、顕現出来ない......?そんな事あるのか。体はヘラクロリアムに適応してても、ソレイスを顕現出来るかは別問題......、俺の境遇と少し似てるんだな」


「似てる......?何がだ?」


「お前は体は適応しててもソレイスを顕現出来なかった。そして俺はソレイスを顕現できても体は適応出来てなかった、ほら反対だけど似てるだろ俺達?」


 レオは軽い笑顔でそう言ってみせると、ダグネスは思わず笑いだしそうになるも微笑して堪える。


「ぷっ、ふふふふ。なんだそれは皮肉かー?だとしても結局君は体も武器も手に入れられて、私は未だ出来損ないのままだ。私たちは、似てないよ。それに君の場合そもそも順序がおかしい、ヘラクロリアムの加護あってのソレイスだ。君が覚醒者にとっての特異点であることは違いないさ」


 そう言うとダグネスは2本のイレミヨンを構える。


「だけど、君はソレイスの扱いがまだまだだ。ベルゴリオくらいのレイシスを雑に倒せたとしても私と同じ地位を有する者にその刃は届かない。もっと剣技を高めなければならないね、奇しくも君は私と同じ二刀流、体に教えられることは沢山ある」


「あぁもちろんだ、もう一度ご教授頼むぜ。ダグネスさん、いや。師匠......かな?」


 レオもダグネスと同じように二本の剣を構える、そしてまた再び二人はソレイスを交わし合うと、その日の幽閉施設でのマンツーマンの訓練は無事に終わった。






  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る