第10話 部隊との会合

「―――あ、あのぉ......」


 レオは恐る恐る、その五人の輪に声をかける。するとその全員が示し合わせたかのようにギロリとこちらを同時に見る。


「―――んぁ?どうしたんだい兄ちゃん、なんか用か?」


 珍しい顔立ちをした男が最初に反応する。その男は改造に改造を重ねたと思われる正規品からは程遠いごっててごての改造狙撃ライフルを背負っていた。そしてその人物の両方の脚部にはシースナイフを二本装備している。

 風貌を見る限りでは明らかにスナイパー職の兵士だが、接近用のナイフを二本も装備している辺り、恐らくはマークスマン型の前衛職と考える。


「超接近型のマークスマン、と言ったところか?珍しいなあんた」


 レオはその男に対して、粋なコミュニケーションを図るべく突如そう言った。

 そう言われたその男は、君が悪そうに微妙な薄い反応をレオに返す。


「―――へぇー、すごいすごい。マドの戦闘スタイルを見抜くなんて、よくわかったね」


 その男の背後でなんとも甘い声でそう賞賛したその人物。

 白銀の髪を靡かせ、長さはセミロングといったところ。宝石のように美しい真紅の瞳に、前髪には奇妙な髪飾りをした例の『いかれビッチ』とも呼ばれるその対象と思わしき女性。雰囲気そのものはレイシア少佐と酷似しているが明確な関係性は不明、姉妹か何かだろうかとレオは思う。


「あっ、あぁ!まぁ以前にそんなスタイルのやつを見た気がしてな。すぐに死んでた気がするが......」


 レオは若干無理をして強気な態度を取って見せる。


「あっはっは!そいつは間抜けだなぁ!」


「―――ところで、君は何者なのです?」


 マドと呼ばれていた男が大笑いをしていると、すぐ隣にいたもう一人のその女性。気品ある二十代半ばと思わしきその人物がそう口を開いた。

 腰には何丁ものハンドガンや滅多にお目にかかれない軍用規格のハンドキャノン等、そんなに必要なのかというぐらい身につけている。


「すまない紹介が遅れた。レイシア隊に最近入る事になった元傭兵のレオ・フレイムスだ。少佐の方から聞いてると思うが......」


 レオはそう言うと、一同はレオをジロジロ見る、そして一瞬間を置くと「おぉ~」と言って声を合わせた。


「なるほど、君が例の少佐が言ってた傭兵さんですか......」


「あらぁ!あなたが私たちの新しいお仲間だったの!?」


 先ほどの甘い声の持ち主がグイグイとこれでもかというくらいレオに迫る。彼女の生暖かい体温による身体的接触と、真紅の瞳に見つめられ少し動揺を見せるが、彼女を優しく突き放してレオは態勢を整える。


「そ、そうだ(ちかい、ちかい......)」


「―――っつーことは、少佐やゼンベルも一緒なのか?」


 その場に居た大型の重火器を背負った大男が初めて口を開いた。見た目どうりの重火器使いといったところで、それ相応の筋肉が彼の体を強固に包んでいた。


「あぁ、ゼンベルはさっき負傷兵の輸送を手伝いに行ったところだ。少佐は臨時司令部とやらに向かわれたよ」


「なるほど、状況は分かった。少佐達との合流をしたいのは俺たちも山々だが、まずはここを守らないといけない。詳しい話やらはここを凌いだ後......といきたいが。簡単な自己紹介ぐらいは済ませておこうか。俺はルグベルク・ドナーだ、よろしくな。さっきのマークスマン野郎はマド・ササキだ」


 ルグベルクにそう紹介されたマドは「うっす」と軽くレオに会釈する。すると先ほどの真紅の瞳の女性が「はいはーい!」と急に前に出る。


「私はレフティア。こう見えても立派な戦士よ?多分薄々気づいてると思うけど、私もレイシアと同じイニシエーターなの。あとそれと、彼女はホノル・リディね。口下手だから私から紹介しておくわ!彼女とはレイシア隊創設からの仲よ」


 ホノル・リディは「よ、余計なことを......」と言いながら、いきなり話題に出され戸惑っているのかワタワタする。


「よ、よろしく......」


「どうも......」


 レオはそうホノルと軽い挨拶を交わす。彼女とレオ、お互いに年齢は近いように見えるが、彼女からは特殊な軍人らしからぬよそよそしさをレオは感じとる。その様は何だか小動物のようでもあった。


「―――さて、僕が最後に回されちゃいましたかね」


 メンバーの中で最後まで沈黙していた爽やかな青年の雰囲気を纏うその男はそう話した。見た目の装備では他の特殊な武装を身に着ける他メンバーとは違い、共和国軍の普遍的な装備一式を採用しているようだ。


「僕はフィン・ホンドーと言います。以後お見知りおきを」


「どうも、フィン。見た様子じゃ他のメンバーとは違って、奇抜じゃないんだな」


「えぇ、まぁ。これらが結局一番肌に合うんでね」


 フィン・ホンドー。彼は爽やかな笑顔でレオとの挨拶を済ます。

 一通りメンバー全員との挨拶を済ませると、ルグベルクが現在の知り得る戦況について話し始める。


「―――よーし新入りもきたところだし、軽く状況をおさらいするぞぉ。俺たちが駐留していた北部のヌレイ前線基地は、たった約十五時間前に突如として陥落した。帝国はそれまで兆候の無かった膨大な戦力でいきなり進軍しはじめ、当然なんの対策もとれてなかった我々を含むアンバラル同盟軍は撤退戦を強いられた。っつーわけでこのステーションまで退却、そして今に至る。俺達は数多くの負傷兵や遺体をここまで運ぶのを援護してきたが、どういうわけか間髪を入れずにこのセクターにまで攻撃を仕掛けてきやがった。帝国軍は本気でアンバラル領を奪いに来てるようだ、この帝国軍の膨大な戦力相手に、正直このセクター単体で守り抜くのは、本国からの援軍や救援物資が延々と到着しない限りほぼ不可能だろう。現状セクター1の駐屯軍は壊滅的状況。他のセクターからの援軍もおそらく間に合ってない。臨時司令部からはまだ通達はないが、何れまた後方のセクターまで退却し、動ける俺達は友軍撤退支援の為の遅滞戦闘に努める事になるだろう事は容易に推測できる。っつーわけでだ、できるだけ我々で下に居る民間人やら負傷兵連中が避難しきるまで時間を稼ぐ。この階層以降には帝国軍連中を一歩も踏み入れさせちゃあいけねぇ!!!」


 ルグベルクの気合いを入れた状況説明に、一同は「―――了解」という冷静的な熱量の釣り合わない返事をする。やがて戦闘準備を整えたレオはレイシア隊と共に、戦闘地区になっているセクター上層区間に向かう事となる。

 先ほど乗ってきたエレベーターは上層への通路が封鎖されているため、別の運搬用エレベーターを使う。

 少し広めの空間があるその運搬用エレベーターに、レイシア隊は多数の共和国兵と共に乗る。


 そしてやがて上昇していくエレベーターの中で、一際目立つ白銀の存在。レフティアが意図せずして視界に写りこむ。

 その余りにも戦場にそぐわない容姿と恰好は、これから共に戦う事を想像することすら罪悪感を覚えるほどのものだった。

 レイシア少佐の時もそうだったが、戦場へ赴くには余りにも彼女たちは若すぎるだろうと、そうレオは違和感を感じていた。

 だが、だとしても。

 それでも彼女たちは自分なんかよりよっぽど強くて、それでいて多くの生命を殺してきたはずだ。罪悪感を覚えるなどと、彼女達に対して失礼というものだろうか。

 一体どういう経緯で彼女たちはここにいるのか、レオにはまだ知る余地もないが。


 そんな事に気を取られている前に、レオは目先の戦いに集中する事とした。








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