第4話

第四話

 今日の1限の授業では珍しく、遼平に会わなかった。教室が大講堂で広いものだから欠席をしていたというよりは俺が見つけられなかったというだけのことなんだろう。この後は次の4限まで時間がある。ギターサークルの部室にでも行って、ギター鳴らしながらいる人と駄弁っていよう。

 大講堂のある建物からギターサークルの部室までは大学一の大通り、銀杏並木通りを歩く。秋には路面が一面落ち葉で鮮やかな黄色に染まるが、今はまだ梅雨が明けたばかりの7月中旬。葉っぱは木の枝にしっかりとついていて、太陽の光を僅かに透かし、青々しく輝いている。生命の力強さ、生き生きとした姿を見られる季節になってきた。

 その道中、向かい側から顔なじみのあいつが歩いてきた。いつも何か辺りを見回すような仕草をしながら肩を左右交互に一段落とすように歩くのが長谷川の歩き方だ。たしかに変な人と思われてもおかしくない歩き方である。

「よう、関谷君。調子はどうだい。」

「まぁ悪くはないよ。でも、今日は怖い夢を見てしまったね。」

「昨日ゴジラに追い回される夢を見て、それ以上の怖い夢なんてあるのかい。」

「ああ怖いさ。俺の彼女が友達に取られる夢を見たからね。ゴジラなんて非現実的なものよりリアルでよっぽど怖いよ。」

「それは怖いな。僕は彼女持ったことないけど、リアルな夢は一番身の危険を感じる。それは分かるね。」

「この夢は何を暗示しているか、長谷川は分かるか?」

「僕は夢の専門家ではないから分からないよ。昨日の話は、僕も過去に偶然追い回される夢を見たことがあって調べたことがあっただけだから。でも彼女が取られるって単純にそういう可能性を感じて怖がっているんじゃないのかい?または彼女への愛が深いか、どちらかだね。」

「それならぜひ後者であることを願うよ。」

「昨日話した夢をものすごく研究している先輩は紹介しなくていいかい?」

「ゴジラと彼女が1週間ずっと出てきたら考えるね。今は良いや。」

「そうかい、まぁ君が面白い夢の話をしてくれるから僕もちょっと調べてみるよ。」

「助かるよ、ありがとう。」

そう言って立ち話は終わった。今日も夢の内容を鮮明に覚えていた。2日連続でこんなことが起きるなんてことはめったにないと思う。そうは言うものの、昔夢を覚えていたかどうか自体が記憶に無いないから何とも言えない。長谷川に話した通り、1週間続くようなら考えよう。そんなことを思っているといつの間にか、ギターサークルの部室に着いた。中には先輩の男性が2人、同級生の男子が1人いた。彼らとギターを弾きながら語りあっているといつの間にか怖い夢を見ていたことなんて忘れてしまっていた。

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王様は夢の中 夕暮 景司 @cagetwilight

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