古城の幽霊《シルキー》

古城の幽霊《シルキー》

 雲一つ無い夜空から月明かりが優しく降りる石造りの荒んだ白亜の城。かつて戦乱の時代にこの地を護る領主が住んでいたその城は、今は所々が崩れて穴が開き、戦いの傷を後世に伝えている。統治する領主も、守護する兵士もいないその城は暗闇の祝福を受けて。訪れた旅人に戦争の虚しさをまざまざ見せる。時折吹き抜ける夜風が哀しみの詩を奏で伝える吟遊詩人のように、次の日へと想いを託す。

 でも。

 耳をそっと傾けてみれば。風の哀歌の中に兵士達の喜びの声が、謙虚で誇り高い領主の統治の声が。手に取るように甦る。

 その城のバルコニーから、か細い煙が立ち昇る。白い煙は闇の舞台に踊り、退場するように消えて。妖精の舞姫よろしく刹那の愉しさを見せてくれた。

 バルコニーの中央に、小さな焚き火。そしてその前に小さな影が座っていた。光を溶かしたかのような白い髪に。深く、そして、この夜空以上に透き通った闇色の眸の、まだ八歳ぐらいの少年だ。

 少年の名前はルーティス・アブサラスト。旅の白魔導士だ。

 旅塵にまみれた白いマントを来て、月明かりを頼みに読書に勤しんでいた。

「あふ……」

 小さくあくび。ちょっと眠たいらしい。ルーティスは焚き火にくべていた旅用の簡易やかんからタンポポの根っこをから炒りした飲み物を木のカップに淹れる。濃褐色の液体が器の中に注がれて、淡い芳香が空気に消える。

「暇だなぁ……。そろそろなのに……。もうこの魔法書も読み上げちゃうよ」

 辺りを見回して、ルーティスは呟いた。

 もっともの話、この城に対象が居る事は間違いないのだ。焦る必要は無いか、と。ルーティスはそう心に言い聞かせると。読書を再開する。

 ――この古城には幽霊が出ると、補給の為に立ち寄った元城下町で聞いたルーティスは。さっそく浄化してあげようとこの城を訪ねた訳だ。

 ……しかし。

「当の『ゴースト』が、出てこないんだよな……」

 そんなこんなで待ちぼうけ、だ。ため息とあくびを交互に繰り返し、ルーティスは本を読み耽る。この魔法書も長いこと読んではいるが、別にこれといった収穫はない。

 だけど――。

「まぁ、読んでいたらさらに理解できるようになるよね。決して無駄じゃないし」

 うん、と頷いて。再び読み返してみようとしたちょうどその時だった。

 バルコニーの入口から、視線を感じたのだ。瞳を鋭くして見やる彼。

 その視線が捉える先に、一人の影が佇んでいた。絹に銀糸を織り込んだチュニックを身にまとい、つやつやの黒髪の十八歳ぐらいの少女だ。現在彼女は扉の影から窺うように、ルーティスを見ていた。

 そして視線が合ったら、衣擦れの音と共に慌てて顔を引っ込めて。また窺う。

「あ、シルキーだ」

 確かゴーストの一つだと、ルーティスは思い出す。

 ――シルキー、亡くなった少女の残留思念と魔力が融合して生まれるゴーストだ。絹の服を身につけて、建物に入る者達を驚かして。時には殺す事もある……。建物に執着するゴーストの一種だ。

 もしかして、いや、もしかしなくても。古城に潜むゴーストとはシルキーの事だろう。

 しかし……何かおかしいね? ルーティスは怪訝な面持ちで、眉を上げ下げする。その様子を見ていたシルキーは。そぉっとルーティスに近寄って、まじまじと顔を見つめる。

「こんばんは、シルキーのお姉さん」

 優しく微笑むルーティス。

 シルキーは全身に雷撃が走ったかのように飛び上がり。また戸口の影に逃げて、そっと顔を覗かせる。

 いったい何なんだろうか? ルーティスは眉根を寄せる。

「どうしたの?」

 ルーティスは立ち上がって、シルキーを追いかけて見上げた。

 するとシルキーは赤面した顔を両手で覆って。しゃがみこんでしまった。

「わけがわからないよ」

 その様子を見ていたルーティスは、嘆息したのだった。


 ◇◇◇


「なるほど、お姉さんは領主の娘さんだったんだね」

 ルーティスはシルキー尋ねた。

 そして当のシルキーは激しく首を振って肯定する。とても嬉しそうだが、どうしてなのかルーティスには判らなかった。

 まぁいいや。ルーティスは自分に言い聞かせると、

「……それで? 貴女はこの城に何か未練でもあるんですか?」

 もう一度、尋ねた。

『ゴースト』とは残留思念に魔力が融合して生まれる存在だ、霊魂等ではない。一応言えば魔法で強制的に消去しても良いのだが……。

(この手の自我のあるタイプは厄介なんだよね……)

 消去しようとすれば制御無しの魔力をぶつけてくるし、他の人間を道連れにしようとする。事実怨念に魔力が融合したゴーストなど凶悪極まりない。道行く者達を片っ端から引きずり込むし、もっと酷ければ自分から相手の精神を衰弱させて殺すのだし。

 シルキーもそれに近い処があるが……。

(このシルキーは少し違うね? 普通に人を殺すタイプのシルキーじゃない)

 ルーティスは確信をもっていた。判断するに、彼女は生まれてきた背景が違うからだ。多分きっと……何らかの未練を解消したかったからに違いない。

 ルーティスは静かに集中すると。

「異なる世界、異なる者。互いの意志を互いの内に。開け扉よ」

 得意魔法の一つである、『魔力と対話する魔法』を創り上げた。

『……実は、壊して欲しい物があるの』

 さすが魔力の塊、一瞬で感応した。

「壊して欲しい物ですか?」

 ルーティスの質問に、こくんと赤面しながらシルキーが頷く。領主の娘さんの割には幼く見える動作ではある。でも、よくよく考えてみれば隠していた部分が出てきているのかもしれない。残留思念ってだいたいそんなものだから。

『……この城の地下に、隠し財宝があるらしいのです。それを壊して欲しいのです》』

「……壊して欲しい物、が?」

 ルーティスは眉根を寄せる。

『はい、この地下にあります』

 シルキーはふわりと浮かぶ。

 ルーティスもそれを追って、進む。


「まずは地下道に向かう階段のある部屋に行くんだね」

 盗賊対策に複雑化した通路をルーティスはシルキーに道案内してもらい。先を目指す。

『はい、そうなのです』

 シルキーは宙で脚を組んでふわふわ浮かんでいたかと思えば、ゆっくりと円を描いて飛んだりと中々じっとしていない。かと思えばルーティスの顔を覗き込んでは赤面する始末……。

「わけがわからないよ」

 ルーティスは嘆息しきりだ。

 厚く積もった石埃をブーツの先端で散らしながら、ルーティスは先に向かう。篝火を乗せていた燭台が落ちていて、巨大な石の塊が道を半分塞いでいる。

 ルーティスはそれらを避けて進む。

「……ところで地下道に向かう階段というのは寝室にあるのかな? それとも玉座の間とか」

『どうして判ったの?』

 何気ないルーティスの呟きに、シルキーは振り返る。

「だいたい隠し階段を付ける部屋なんてそんなものさ」

『その階段は玉座の間から降りて、さらに下にあるの。脱出用地下道の下に……ね?』

「うん、良く解ったよ」

 右に折れて、先に進む二人。

「ところで何が眠っているんだい?」

 ルーティスは尋ねる。

『……判らないです。入ろうとしたら弾かれたから』

(魔力体のシルキーが進入出来ない? ……なら、強固な魔法結界が施されているんだね)

 ルーティスは当たりを付けると、

「領主様はご存知だったのですか?」

 と、水を向けてみた。

『知ってはいたみたいなのです。事実、私の兄上は力ある魔術師でしたが……破壊する事が出来ませんでしたから……』

 魔術師が破壊出来ない? ルーティスは眉根を寄せた。その人はとても高位の魔術師だったのだろう。城に張り巡らしていたであろう結界の跡を見て、ルーティスは感じとる。

「とにかく急ごうか」

『はい』

 ルーティスが玉座の間へと辿り着いたその時。

 室内に、魔力の流れを感じた。

「……あの玉座の下に階段があるね。そして――」

 ルーティスは迷いなく、傍の燭台の一つに魔力を集めた。部屋を流れる魔力は、あの一点に集中していたのを知ったからだ。魔力と対話する魔法を持って、さらに探る。

 やがて魔力が溜まって仕掛けが動く。

 玉座が横に動いて、階段が現れる。

「……かなり暗いね? 下が見えないや」

 ルーティスは顔をしかめて、

「光よ集え、灯火となれ。暗闇を照らす輝きを我が手に」

 呪文を唱え。光の玉を滞空させる。淡く冷たい輝きは闇をささやかに退けて。先へと進む。

 階段を下りながら、ルーティスはねっとりと絡みつく毒沼のような空気が満ちていた事を感じた。

 魔力が淀むように、渦巻いていて。人を不安にさせるようになっている。なるほど、人払いの魔法が張り巡らしてあるんだね? 辺りを調べながら。ルーティスはマントの襟を絞めて、先に進む。罠や、迎撃の魔法もあるだろうから。ここから先はもっと気を付けないといけない。

「異なる世界、異なる者。互いの意志を互いの内に。開け扉よ」

 ルーティスはまた、魔力と対話する魔法を使い辺りの魔力と会話した。

 眸を閉じて、魔力の意思を体感する。魔力達はルーティスを仲間と認めて色々な事を語る。この場所に張り巡らしてある罠の魔法や、純粋な賊避けのトラップ……。さらには封印されているものの事も――。

「……なるほど、精霊が一体封印されているんだね」

『そうなのですか?』

 シルキーが尋ねてきた。

 ルーティスはうんと頷くと、

「かなり高位の精霊だよ。多分初代領主が封印したものらしいね。当時戦争に勝利するために召喚したけど還し方を知らなかったから。それでやむなく封印を施したらしいね」

 歩きながら、罠を解除して先に行く。

『……どんな精霊か、判る?』

 シルキーが不安げに顔を見上げてきた。ルーティスは腕を組む。付近に満ちた氷とは違う冷たい空気と引きずり込むような、それから透き通った泉のような気配から。

「……闇属性の、精霊だね」

 ルーティスは壁の穴から飛んでくる矢を叩き落としながら推理した。

 闇属性――。それも……かなり強い精霊だねと、ルーティスは精悍な顔立ちで先を進む。覚悟は必要だ。闇属性は全ての属性を半減させる効果があるのだから。

 やがて三重の強固な封鎖魔法で閉ざした扉が現れた……。


 ◇◇◇


「……凄い封鎖魔法だね?」

 自分の身長の何倍もあるような象牙の枠にはまった扉を見上げて。ルーティスは感嘆の息を洩らす。あまりにも綺麗に組み上げている魔法が美しかったのだ。壊すのは躊躇われる程だが、ルーティスは気持ちを決めて。

 静かに魔法を構成し始めた。

 構成するのは消去の魔法。三重の魔法を一瞬で消し去る為に長大な魔法構成を仕組む。

「暗き岬から望む海、彼方より来る風よ。銀月の輝きが降りし荒涼の森、奏でよ闇の詩。巡り昇る時の螺旋へ」

 魔法が完成した瞬間、三重の封鎖魔法が消失して。扉を包む圧力が感じられなくなった。

 ルーティスは頷くと、扉に手をかけてゆっくりと開く。

 奥は広く、天井も高い。玉座の間に匹敵する規模だ。

《ここ……なんだか寒い》

 シルキーが両腕を抱いて震えた。闇の魔力が濃いからだろう。

「闇属の精霊の力が満ち溢れているからね」

 ルーティスはさらに気持ちを固めてゆく。

 ふと、ルーティスは壁に文字が刻まれているのをみた。

「ギアス語……?」

 これは魔力を持つ言語の一つで結界や築城、もしくは精霊契約などの魔法を使う時に用いられるものだ。魔力を持ったこの言語を使う者は『真実』しか喋れなくなるという特徴がある。

「闇の魔力を封印する為の呪文か……」

 封印してこの魔力なのか……。凄いなと、ルーティスは唸る。

『あっ見て見て! あっちに石板が!』

 ルーティスが見やれば。部屋の中央に天井まで届きそうな石板があった。ルーティスは顔を引き締めて石板に近づいた。

 魔法の光が、闇を消して。石板のギアス文字を浮かび上がらせる。そこにはギアス文字で『我は闇の祝福を受けて冥界の渡し守をしている者なり』と書かれて、船のオールが描かれていた。

「冥界の渡し守……」

 ルーティスは首を傾げながら長考する。

「まさか……!」

 ルーティスはたじろいだ。正体に感づいたからだ。

 刹那、魔力が凝縮し始めて石板が輝いた。

「まずい……自分から召喚する気なのか?!」

 どうしてだ? ルーティスは辺りを見回す。侵入者迎撃のギアス文字が書かれていたのか?

 大いにあり得そうだ。ルーティスの視線が向かった先の文字が照らし出された。

(間違いない、莫大な魔力を感知したら自動的に召喚されるようになっていたんだ!)

 莫大な魔力――すなわちシルキーと自分の事だろう。シルキーは肉体の制御が無いから魔力が人間を遥かに超えているし、僕は魔法使いとして最高位だ。十分に魔力がある。

 やがて辺りの空間が軋み、闇の魔力が渦を巻いて精霊が出現し始めた。

 拳を構えたルーティスの前に、両手が白骨化した藍色の髪の青年が出現した。


 ぼろ切れのようなマントを身に付けた藍色の髪の青年は。静かにルーティスの方を睨んでいる。

『な、何ですか? あの精霊……?』

「カロン……だね」

 ルーティスはさらに構えを強くする。

『カロン……?』

「……冥界の渡し守をしている伝説を持った精霊さ。闇属性の高位精霊の一角で――」

 危険を察知したルーティスはシルキーを掴んで一瞬で跳躍する。その直後に闇をまとった暴風が駆け抜ける。

「あの風に触れたらダメだ。一瞬で魂を消滅されるよ!」

 ルーティスは叫ぶ。

『どうするの!』

「物理的に排除するよ!」

 下がってて! とルーティスは叫ぶと。カロンに向かって突撃する。

 カロンは生き物みたいにうねる闇を凝縮して船のオールを構える。

 カロンの戦術の一つだ、ルーティスは覚悟する。カロンは闇のエネルギーを自在に変えて武器にする事が出来る。

 オールを白骨の両手で構えるカロン。

 ルーティスはそれを見て。左手に魔力を集めて鞘から引き抜くようにそれを構えた。

 長剣だった。翼ある太陽の鍔を持つ長剣で凍てついた月光の輝きを刀身から放っている。

 ルーティスは剣を中段に構えて、斬りかかる。相手のオールの方が間合いが広いのでルーティスはかわす事を優先して。オールの間合いの外側から飛びかかる瞬間を待ち構える。

 オールを降り下ろして、カロンは攻撃する。その威力は魔法で強化された床を叩き壊した。さらに振り回して壁を破壊する。

「うわぁ! 詩に訊いていた以上の破壊力だよ!」

 ルーティスは叫ぶ。

 カロンは闇の魔力を凝縮させてルーティスに放ってきたので、ルーティスは剣を振りかぶり、幹竹割りを見舞う。

 闇の暴風を斬り裂いて、ルーティスの剣は本体どころか後ろのシルキーも護り抜く。

 カロンはオールを構えて斜めから振り降りしてルーティスの胴体を叩き潰そうとした。

 ルーティスはオールの間合いに入り込むと、先端を斬り落とす。

 いったんカロンがひるんだ瞬間を見逃さずに。ルーティスは間合いを詰めた。

 しかし。カロンは闇の魔力を右手に集めてルーティスに叩きつけた。

 ほぼゼロ距離で闇の波動を受けて。ルーティスは壁に叩きつけられた。

『君?! 大丈夫なのっ!?』

 シルキーが慌てて駆け寄って、絶句した。闇の魔力をまともに受けて干からびていたのだから。

 かつ、かつと靴音が響く。シルキーがびくりと振り返ると、そこにはカロンが歩み寄って来ていた。後数歩で間合いに入る。シルキーはそれを悟ってしまう。

 どうすればいいのか、そう思った時だった。

「痛いよ、死ぬかと思ったじゃないか」

 純白の輝きがルーティスの身体を包み、生気を優しく取り戻させた。ルーティスはむくりと起き上がると、かぶりを振った。

『えと……どうして?』

「白魔導士は命を操る魔法使いだからね。自身の蘇生なんか容易いさ」

 ルーティスは笑った。

「さて、とカロン? 君には帰ってもらうよ。何せ君が存在する事を不安に感じて眠れない人がいるし――君も、そろそろ精霊の住む世界に帰った方がいいだろうからね」

 ルーティスは再度剣を呼び出して、構えた。

 そして、刹那に間合いを詰めると一太刀で仕留めて。終わらせた。

 石板が砕け散って、消えた。

『あの精霊は?』

 尋ねてくるシルキーに、

「送り還したんだよ」

 ルーティスは消える精霊を見送りながら、答えたのだった。


 精霊を解放した事で、シルキーもこの世界に未練がなくなったから。ゆっくり眠りたいと申してきた。

「霧の中にある翡翠の城、悠久の夢を今に伝えし地よ。誉れ高き大空の風に抱かれ在りし日の栄華をその胸に」

 元々ルーティスもそのつもりだから、丁寧に浄化の呪文を唱えていた。

『……これでやっと終わりましたね?』

「そうですね、隠し財宝は無くなりましたからね」

 ルーティスがにっこりと微笑んであげると、

『……出来ればもう少しだけ、君と居たかったなぁ……』

 俯きながら、シルキーが呟いた。

「……?」

『何でもないです』

「? ふーん、わけがわからないよ。

 まぁいいか。おやすみなさい、シルキー」

 ルーティスは浄化の魔法を完成させて、シルキーを見送った。

 闇に溶けるように消えていったシルキー。後には緩やかに、夜風が吹き抜けていった。


 ◇◇◇


「……と、言う訳で。古城に棲んでいたゴーストはシルキーで、浄化は無事に完了致しました」

 次の日に街に帰ったルーティスは、町長や街の人達にそう答えたのだ。

「おぉ! 凄いな君! 本当にありがとう!」

 若い町長が代表して握手をして、是非にこの街に残って欲しいと言ってきたが――。

「いえ、僕には旅があります」

 と、ルーティスは旅立つ事を告げた。

 別れ際に餞別の金貨を手のひらいっぱいに袋に入れてもらい、見送ってもらった。

「またいつか、立ち寄るかも知れません」

「そうか、待っているぞ」

「……最後に、一つだけ尋ねてよいですか?」

「? なんだ?」

 町長は怪訝な面持ちで。ルーティスに尋ねた。

「確か古城に出没するゴーストは『』をおどろおどろしい黒い髪を振り乱して充血した瞳に顔が半分潰れた』ゴースト……でしたよね?」

「? あぁ……確かに街の住民からはそう聞いているよ」

「……あの古城にはシルキーしかゴーストが居なかったですけど……話と違ってつやつやの黒い髪の美人さんで、戸口から窺うような控えめなゴーストでした。

 ……何ででしょうね?」

 町長はそれを聞いて、ルーティスの顔をまじまじと見た。

 中性的で、天使のような。同世代はもちろん、歳上のお姉さんや一部そんな趣味の男性にすら受けそうな顔立ちのその少年を。

「……うん。多分、ただの『面食い』だろうね」

 そして。ぽん、とルーティスの肩に両手を置いたのだ。

「……わけがわからないよ」

 それに気づかないルーティス君は、盛大に嘆息したのだった。

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