第29話 終戦
大将のタータルハードを討ち取られた魔王軍は総崩れとなった。
士気の高揚した味方は魔王軍を押し返し始める。
俺の周りにいた魔王軍の兵士はタータルハードが討ち取られて、我先にと引き下がっていってしまった。
完全に敵がいない状態になった俺は考える。
ここで攻城塔を破壊して壁上の魔王軍を追い詰めるか!
「
岩石による砲撃が攻城塔に当たる。木材の折れる音がするが、全壊まではいかない。
再度、詠唱を行う。
「
十二発の岩石を食らった攻城塔は半壊し、塔の上半分が折れて大地に倒れた。
それと同時に、魔王軍兵士も悲鳴を上げながら大地に打ち付けられて倒れる。
良し、これで魔王軍兵士の残党はかなり士気が下がっただろう。
俺もエイミーとアルの援護に行こうか。
おっと、この焦げた手と肩の傷も治さないとな。
「
俺の体を包み込んで発光し、じわじわと体が元通りになる。
魔力は相当使った。もう、聖級魔法は撃てない。上級魔法が何発か撃てるくらいしか魔力が残っていないな。
さて、援護に行こう。
「エイミー! アル! 無事!?」
エイミーは無事そうだ。アルは全体的に血が付いているが問題はなさそうに見える。
「クリス! 大将を討ち取ったのね!」
「ああ、なんとかな」
そう言いながら、アルの前に出て、魔王軍兵士を斬り倒す。
「これで、情報が聴けるかもな!」
「そうね! やったわ!」
壁上の魔王軍兵士は、攻城塔を壊されて逃げ道を塞がられたので、死に物狂いで反撃をしていた。
それに、後方からカタパルトの投擲が来て、味方の兵士にも被害が出ている。
そこに声が掛かった。
「魔王軍兵士よ! 大将は討ち取った。投降しろ! さすれば命までは取らん! 武器を捨てて投稿するのだ!」
総指揮官のジェイクさんの声だ。良かった。生きていたのか。流石、総指揮官だな武力もあるという事か。
ジェイクさんの一声に、金属がカランと鳴った。それは次第に大きくなり、魔王軍の至る所から聴こえてきた。
魔王軍兵士の残党は投降する事を決めたようだ。
攻城塔を破壊した事とジェイクさんの言葉が決定打になったのかな。
これで戦争は終わる。良かった。援軍は結局来なかったけど、なんとかなったのだ。素直に喜ぶべきだ。
魔王軍兵士の残党を全員捕縛すると、夕日が差していた。
「まだ、夕方なのか」
「そうね。長い一日だったわ」
本当にそうだ。カタパルトの的になり続けて、こちらが魔王軍に押されている有様を見るのは、かなり精神的に堪えた。
かなり疲れた。もう、今はただそれだけだ。
部屋に戻ろうとしていた時に、後ろから声が掛けられた。
「クリス殿。待たれぃ」
振り返るとジェイクさんと豪華な鎧を着た騎士がいる。
誰もが血に濡れている。彼らも奮戦したのだろうことが伺えた。
「総指揮官殿! なんでしょうか」
俺の問いに、「うむ」と一言言ってから口を開く。
「吾輩はカタパルトの的になれと言った。何故、持ち場を離れた?」
それは攻めるような声色だった。確かに、持ち場を離れた事は許されざる行為だ。それによって、味方の被害も出ている。だが。
「勝機だと思ったからです。タータルハードを倒せば魔王軍は士気を大幅に下げます。そして、こちらは士気を上げて奮戦するでしょう」
「うむ。確かにそのようになった。だが、それも討ち取ることが出来たからだ。出来なかったら、我が軍は滅んでいただろう」
そうかもしれない。いや、そうだろう。壁上を一角取られていて、後方からカタパルトの投擲が飛んでくる。壁上の味方は一掃されていたかも。
そして、全軍が門を通り蹂躙した事だろう。
一か八かの賭けだった。でも、そのおかげで戦争は終結したのだ。
「……罰は何なりと受けます」
その言葉にジェイクさんは「ふむ」と唸る。
「確かに、持ち場を離れた事は命令違反だ。だが、タータルハードを倒し、魔王軍を追い詰めた事は確かだ。罰しようとは思うが、大戦果でもある。批判よりも評価されることの方が多い。此度は良くぞやってくれた」
罰を受けると思っていたので、ポカンとしてしまった。
俺、褒められているんだよな?
「国王陛下からも報酬を頂けるだろう。と、言っても流石に今日はもう無理だろうがな。明日になると思われる」
「そうですか」
明日か。待ち遠しいが、報酬は確実に貰えるみたいだし、期待はできるな。
「よくぞ、四魔将が一、タータルハードを討ち取った。感謝するぞ。クリス殿」
「あ、ありがとうございます!」
ジェイクさん達は先に砦内部に歩いていく。
俺は、頭を下げて感謝するのだった。
食堂でエイミーと食事をしている時、多くの兵士からの視線を感じた。
「なにかしら?」
エイミーはちょっと、びっくりしている。
「いや、俺が言うのもなんだが、尊敬されているんだろう」
エイミーはポンと手を叩いた。
「そっか。大将を討ち取ったんだし。当然ね」
「まぁ、そう言う事だ」
周りから見られるのは、とても恥ずかしい。だが、それだけ戦争に貢献できたという事でもある。まぁ、倒せなかったらどうなっていたのか……。考えるだけでも恐ろしい。
「あの、英雄殿! 握手をお願いします!」
一人の兵士が進み出て、俺の所にやって来た。
なんだか、有名人になったみたいだ。いや、本当にそうなんだろうけど。
「はいよ。お疲れ様」
「ありがとうございます!」
握手をして労いの言葉を掛けると、喜んで去って行った。
すると、多くの兵士が「俺も俺も」と握手をしに、俺の所にやってくる。
食堂はパニック状態になっていた。
その全てに握手をしていたら、かなりの時間になっていた。
部屋に戻って、ベッドの上に寝転んだ。
「ぶはぁー……疲れたー」
「あははっ、有名人は大変ね」
エイミーも横に寝転んで来る。
「好きで有名人になったわけじゃないんだけどな」
「でも、戦果を上げて報酬を貰う為に頑張ったわけじゃない?」
確かにそうなんだけどな。うん、そうだけど。
「うーん。まぁ、釈然としないけど、戦争は終わったのだから良しとしよう」
「そうね。もう、疲れてへとへとよ」
「俺も同じだ。もう今日は何も出来ない」
ベッドにうつ伏せになって伸びをする。
もう動く気はないぞ。
「クリス。そうへばってないで、いつものやって!」
エイミーが上気した顔で言ってくる。いつものって何ですか。
ああ、腕枕の事かね。良いですよお姫様。
「はいよ」
仰向けになって腕を伸ばす。
「よいしょ」
そこにエイミーが頭を乗せた。
「お疲れ様。クリス」
「ああ、エイミーもお疲れ様」
潤んだ瞳でこちらを見てくるエイミー。
そして、瞳を閉じて顔を近づけて来る。
「んっ」
軽いフレンチキスをした。
エイミーはそれにご機嫌な様子。
「今日はもう寝ようか」
「ええ、そうね」
俺達はそのまま疲れて眠ってしまった。
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