第28話 決戦
――門が突破された。
雪崩のように魔王軍の兵士が雄たけびを上げて乗り込んで来る。
「魔法部隊! 随時、詠唱放て!」
その言葉と共に、門前に控えていた魔法部隊が魔法を詠唱。
そして、放つ。
炎や氷、風に雷や土と多くの魔法が魔王軍に襲い掛かる。
悲鳴が門前で起こり、数多くの魔法が魔王軍を仕留めていく。
魔王軍の屍の山が門前にできた。
その屍の山を乗り越えて、やってくる魔王軍に横合いから槍や剣が。
前方から魔法が襲い掛かった。
多くの魔王軍が討ち取られていく。
「……なんとか持ちこたえそうなのか?」
「どうなのかしら。一応、まだ大丈夫みたいだけど」
エイミーの声にも不安の色が見える。
それはそうだろう。要の門が突破されたのだ。攻城戦で門が突破されたという事は、戦争も佳境に入ったという事。
防衛側が圧倒的に不利になったという事だ。
ここが踏ん張りどころ。どうする? カタパルトを無視して、門前の戦いに参加するか? だが、そうしたら、壁上の兵士がカタパルトの餌食になってしまう。
どうする。どれが一番最善だ。
刻一刻と時間が過ぎていく。次第に屍の山は数多く積まれていった。まるで、地獄のような光景だ。
だが、魔王軍は恐るべきことをした。
自軍の兵士の死体を遮蔽物として利用しながら、門を少しずつ進んできたのだ。
非人道的だが、確かに有効だ。死体を壁としてゆっくりと、門前に陣地を構築する魔王軍の兵士達。
「なによ……あれ」
エイミーの顔は真っ青だ。あんな地獄見たいな光景を、死体を利用している光景を見たのだ。俺だって、恐ろしくて怖い。
「これが、戦争か……」
改めて思った。戦争とは地獄だ。その地獄が目の前に出来ている。
門前に死体の壁ができた。
魔王軍の軍勢は横合いの兵士達と斬り合いをし始める。
前方にいる魔法部隊は死体の山が邪魔で攻撃が出来ないのだ。
横合いの兵士を守る為に、魔法を撃とうとしても乱戦になっている。味方に誤射してしまう可能性が高いのだ。
壁上の戦いも激化している。攻城塔を中心に勢力を高めた魔王軍は何度か押し返されていたりと、一進一退だった。
しかし、門が突破されて味方が雪崩れ込んで来る有り様に、歓声と雄たけびを上げて士気を上げる。
どこも戦争は激化している。門の横合いで戦っている兵士達は奮戦しているが、左側面に陣取っている魔王軍が、壁上から下りてきた魔王軍との挟み撃ちになっている。
「このままだと、門前の左翼が押し潰されるかもしれない!」
「でも! それじゃあどうするの?」
俺達は中央にいる。カタパルトの的になっている状態。
今から左側に参加したとしても、あの分厚い魔王軍を突破できるか? いや、難しいだろう。それに、俺達がいなくなったらどうする! カタパルトの餌食だぞ。かと言って、このまま歯を食いしばって見続けなきゃいけないのか……!
「俺だって、行きたい。でも! ここは離れられない!」
見続けるしかない。決定的なチャンスが何かが来るはずだ。
それが来るまで待つんだ!
「クリス! 本当にこのままなの!?」
「ああ! 耐えるんだ! それしかできない!」
「そんな……」
そして、遂に門前の左側面の味方軍が食い破られた。
壁上から、門前から雪崩れ込んでくる。
総指揮官のジェイクさんはどうなった? 討ち取られたのか? 分からない。もう、誰の声も届かない。
混戦となっていて誰の声だか判別が出来ない。
突破された左側面に向けて、魔法部隊が魔法を放っている。
どんどんと討ち取られていく魔王軍兵士。
そして、積み上げられていく屍の山。
「魔法部隊! 剣を取れ!」
後方の魔法部隊が剣を取った。遂に魔法部隊も接近戦になったのだ。
押されていく味方。このままでは砦が落ちるかもしれない!
「エイミー! アル! このまま門に行くぞ!」
「え? どうやって?」
「こうやるんだよ!」
アルとエイミーの手を取って中央から真下の門に向かって落ちる。
「きゃああああああああ!」
「
真下に土の盾を六枚重ねて真下に落ちる。
血飛沫と肉片が飛び散りながら着地。
「エイミー! アル! 平気か!?」
「脚部に損傷軽微」
「もう! いきなり危ないじゃない!」
エイミーが怒っている。それだけ元気なら大丈夫だな!
「大丈夫そうならやるぞ!」
剣を抜いて、門に迫る魔王軍を片っ端から斬り倒していく。
アルが左側面から迫る敵を押さえて、エイミーが魔銃で撃っていた。
「側面は任せた! 俺は前方を押さえる!」
門は人が五人横に並べられるくらいの大きさだ。
このくらいの大きさなら俺一人でもなんとかなる!
「
サッカーボール大の岩石が六つ門に迫る魔王軍を後方の兵士ごと潰していく。
その様子に、魔王軍の侵攻が一旦止まった。
そして、魔王軍が割れて、中から亀のような鈍重な鎧を着た三十代の男が現れる。
「我は魔王軍の総指揮官を任されている。四魔将が一、タータルハード! 名を名乗れ!」
ここで四魔将が現れたか。これこそ決定的なチャンスだ。
討ち取れば、こちらの士気は上がる。
やるぞ。やるんだ!
「俺はクリス。クリス=オールディス。お前を討ち取る者だ」
剣を向けてそう名乗る。
「ガハハハッ! そう騒ぐな。器が知れるぞ」
「そんな事知った事か! いくぞ!」
「来い! 我が堅牢な鎧を超えて見せろ!」
駆け寄って、右袈裟に斬る。
タータルハードは槍でそれを防いだ。
返しの突き。右に体を反らして避ける。
槍相手に中距離戦は不利。攻めろ!
足を踏み込んで前進、逆袈裟に斬り付ける。
だが、鎧によって防がれる。
なんだ? 鎧が発光した。魔法がかけられているのか?
なら、関節を狙う!
「ハッ!」
右腕の関節を狙って、斬り付ける。
それも鎧の発光で守られた。
「なんだよその鎧は!」
「斬撃に対して魔法が発動するようになっている特別性の魔道具だ。お前に勝ち目はない」
なんだそのチートは! だが、斬撃が効かないならこっちにも手がある。
「
剣に土を纏わり付かせて、こん棒にする。
「これならどうだ!」
胴に一撃。金属の高い音が鳴り響く。
「グッ! やるではないか!」
タータルハードは槍を捨てて、右腕で殴りつけてくる。
それを躱す。左手で剣を抜くタータルハード。
構わず、頭部に一撃を食らわせてやった。
「ぐあっ!」
金属の音が響きながら頭を揺らすタータルハード。
こっちが優勢だ。いくぞ!
側頭部に二撃目を食らわせる。
タータルハードが反撃の突きを繰り出す。
それを俺は――。
――あえて受けた。
肩に熱い痛みが走る。
「くあっ!」
だが、相手の手を掴んだ。
「逃がさないぜ!」
「くっ!」
「
雷の上級魔法。紫電の槍がタータルハードを貫く。電撃がバチバチとタータルハードから鳴っていた。だが、俺の体も多少の電撃に巻き添えを食らっている。
「ぐ、ぐおおおおお!」
「おかわりはまだ沢山あるぜ!
六つの上級魔法を受けたタータルハードは、膝を付く。
「
「まだまだ!
遂に、タータルハードは倒れた。
だが、俺の左手は感電して指が黒く焦げていた。
しかし、倒した。四魔将が一を倒したのだ。声を絞り出して叫んだ。
「四魔将が一、タータルハード! クリス=オールディスが討ち取ったりいいいいいいいい!」
その声に誰もが静まり返る。
そして、勝鬨が轟いた。
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