第27話 敵将タータルハード

 我ら魔王軍は行進している。あの人族の砦を目指して。

 人数は四千百人。相手は三千人程度はいると、草からの報告があった。

 人数差は千人程度。だが、砦を落とすとなれば六千人は欲しい所であった。


「忌々しい……トードスゴットめ」


 手柄欲しさに二千人で奇襲をかけて討ち取られた情け者だ。

 あいつは、魔力がある限りスケルトンを生み出し続ける事が出来る。

 我の戦力と合わせれば、六千人だ。

 それこそ砦を落とすのにも簡単だったはずだろうに。


「だが、これも魔王様の為」


 そう、トードスゴットの件は頭が痛いが、魔王様直々に我に砦を落とすように命じたのだ。これは、とても名誉な事。

 見事、砦を落として見せましょう。



 そして、布陣する。遂に目の前に砦が見えた。

 敵軍は壁上で待機しているようだ。

 万全の構えという事。


「さて、ここでどうするか」


 相手は籠城戦に持ち込む気だ。打って出ることはない。

 そして、戦力差もある。

 つまりは、援軍が来る見込みがある。という事。それか、ただのやけくそか。

 前者として考えるのが無難だ。


「草を呼べ」


 兵の一人に声を掛ける。すると、一人の黒ずくめの男が現れた。これが草だ。


「お呼びでしょうかタータルハード様」

「うむ。あの砦の先には城があったはずだな」

「はい。人族の城下町ですね」

「砦から、その城まで何日かかる?」


 草は少し考えてから答える。


「恐らく、少人数なら三日か四日かと」

「そうか。下がってよいぞ」

「ハッ!」


 草の事が本当なら、三日か四日。

 軍を率いて来るとなると準備も掛かるだろう。

 だとすると、四日の夜か五日というところだろうか。

 良い線だと思われる。奴らはその援軍を待っているだろう。

 と、するならばどうする? 一応、軍はもう配置についていて、カタパルトを組み立てている。

 それも今日の夕方には終わりそうだ。

 今日中に一当てしてみて、どのくらいの抵抗をしてみせるか見てみるのも悪くない。

 だが、それで戦力を消耗するのは愚策。

 ならば、この一日を消費して、明日の早朝から攻勢をかけるのが得策。

 相手は今か今かとこちらの攻撃を待っているのだ。相手の疲労を狙う。

 そして、こちらの軍はしっかりと休息を取ってから攻めれば良い。


「皆の者! 今日はしっかりと休め! 明日の早朝に攻めるぞ!」


 我の言葉を聴いた者は、布陣している兵士達に伝令として走って行った。

 さて、貴重な一日を無駄にした。だが、これは勝機でもある。

 疲弊したところに攻め入る。そうなれば、相手を押し切れるだろう。砦攻めといってもだ。



 次の日、早朝に攻勢をかける。


「行くぞ兵士よ! 彼の砦を落とすのだ!」


 歓声が上がる。そして、第一陣を投入。

 攻勢は攻城塔を三台だ。

 カタパルトは随時、土魔法の使える魔法使いによって弾を飛ばしている。

 壁上に当たり、壁を壊していく。

 

「良いぞ。兵よ」


 そして、第一陣が攻城塔と共に攻め入った。

 攻城塔の上の弓兵と打ち合いをしている隙に、雲梯をどこかしこにかけて壁上を登っていく。

 この調子なら、援軍が来る前に落とせるかもしれないな。


 と、その時、魔方陣が展開して攻城塔がバラバラに破壊された。


「なんだ今のは!」


 巨大な魔力で攻城塔を粉砕した輩。一体何者だ。あのような魔術師がいるとは。


「草よ! 今の者が何者か分かるか!」


 我がそう言うと、直ぐに草が来た。


「恐らく、先の戦でトードスゴット様を討ち取った者かと」


 トードスゴットを討ち取った者か。確か、奴も魔法でやられたはずだ。

 それならば、攻城塔を破壊したのも納得だ。


「直ぐに、兵を下がらせるように伝えろ!」

「ハッ! 畏まりました」


 だが、その間にも油で攻城塔に火をかけられて燃やされた。

 それに、撤退の命令が届いておらず、前線の兵士が魔術師に魔法で大幅に討ち取られてしまった。

 撤退をした時には、兵は三百は失った。

 差が縮まってしまった。


「クソ! なかなかやりおるな」


 敵の士気は上がり、こちらの士気は下がった。それに兵も失った。

 これはマズイ状態だ。

 なんとかして、奴を止めないといけないだろう。


「我に、武力があれば良いのだがな」


 我はそこまで強くはない。部隊を率い、戦う事を魔王様に認められて四魔将が一に認められたのだ。

 策を練るのが我の求められている事。全力で砦を落としすのだ。

 一先ず、あの魔術師を止めなければならない。さもなければ、前線の兵士はすべてやられてしまうだろう。

 とすると、どうするべきか。


「カタパルトで壁上を狙うか」


 魔術師も視認出来ない所で魔法を使う事もできまい。

 ならば、カタパルトで壁を狙うのを止めて、壁上の敵を狙うのだ。

 さすれば、敵は魔法を使えまい。

 よし、この作戦で行くか。


「カタパルト隊は壁上の敵を狙うのに、石塊を使え。弾幕で壁上の敵を倒すのだ」


 再度、攻勢を開始する。時刻は夕刻。


 と、そこに声が響いた。


「おーーーーーーーい! 俺はここだぞーーーーーーーーー! 狙ってこーーーーーーい!」


 あれは、先の魔術師か。


「カタパルト隊はあれを狙え!」


 三台のカタパルトで魔術師を狙う。

 あれが故意だという事は分かっている。

 敵の総大将はそれを承知で我にカタパルトで狙ってこい。と、言ってきているのだ。


「面白い。乗ってやるぞ」


 見えない敵の総大将。このままだと、遅くとも壁が破壊されると悟ったのだろう。

 だから、魔術師を囮にしたのだ。

 だが、こちらも兵士を失いたくはない。これは乗るしかない。

 敵に戦場の先手を取られているのが辛い。

 だからと言って、あの魔術師を止めない訳にはいかないのだ。


 狙いを魔術師に変えてからは、ただの攻城戦になった。

 だが、時間は刻一刻と迫ってきている。

 

 夜になった。兵を休ませるためにも一旦引かせる。

 もう、三日の夜になってしまった。

 援軍が来るとしたら明日の夜か明後日。

 じわじわとタイムリミットが迫ってきていた。


「やるしかないな」


 次の日に大攻勢をかける。それで、落とすのだ。

 



 四日目。遂にこの時が来た。

 こちらは最初から大攻勢をかける。攻城塔も三つに破城槌も出す。

 そして、魔術師は未だに壁上の中心でカタパルトに晒されている。

 この間に攻城塔が三台壁上に橋を架けた。

 

「よし、良いぞ!」


 破城槌も門に取りつき、門を破壊しようとしている。

 攻城塔が二台やられた。

 だが、最後の一台が壁上の一角を取り、戦線を広げている。

 この調子だ。じわじわと戦線を広げていけ。

 カタパルトで魔術師は手を出せない。

 

 そして、決定的な一打。門に破城槌が突き刺さったのだ。


「全軍! 門が今壊れようとしている。我に続け!」


 壁上の一角もある程度、占拠した。

 門もあと少しで突破できるだろう。

 どうだ? 敵の総指揮官よ。最初に意表を突かれたが、自力で打ち返した。

 どんな気持ちだ? 圧倒的に不利な状況は。


 今から、落としにいくぞ。

 三回目の破城槌で門が壊れた。

 我らも遅れてはいけない。


「全軍! 突撃!」


 この戦、もらったぞ。人間共よ。

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