第26話 激戦
魔王軍は早朝から、攻勢をしかける。
攻城塔に破城槌も動いて来た。カタパルトは未だに俺を狙って飛んでくるのだ。戦闘に参加は出来ない。
「
土の盾を展開して、カタパルトからの石礫を防ぐ。
その間にも魔王軍の軍勢もゆっくりと近づいて来ている。
「弓兵隊! 弓矢つがえ!」
ギリギリと弦の引く音が聴こえた。
誰もが、今か今かと号令を待っている。
そして、魔王軍が弓の射程圏内に入った。
「弓兵隊! 放てぃ!」
矢の雨が敵に降り注いだ。それは、恐ろしい程の数が魔王軍に降り注ぐ。
だが、魔王軍も盾をかざして、それを防ぎながら進んでくる。
この一斉射で何十人の魔王軍が倒れただろうか。分からないが、それでも、死体を踏みしめて果敢に攻めてくるのだ。
「弓兵隊! 放て放てぃ!」
続々と矢が降り注ぐ。その中で、俺達はカタパルトの一撃を防ぎ続けていた。
遂に、二つが攻城塔が近くまでやって来た。
攻城塔の上の兵士は弓で外壁の兵士に攻撃している。
それに応える様にこちらも攻城塔に攻撃をしている。
「攻城塔に油を投げろ!」
指揮官の声に兵士が油を攻城塔に投げつける。
黒い液体が二台の攻城塔に付着した。
「火矢を放て!」
火矢が放たれて攻城塔が燃え広がる。
二台の攻城塔の中にいる兵士は、逃げ惑うように攻城塔から落ちたり、燃えながら死んでいった。
「もう一つの攻城塔にも油を投げろ!」
「油がありません!」
兵士の一言に場が騒然とした。
「なに!? 本当か!」
「はい! 確かです!」
その間に、最後の攻城塔から橋が掛けられる。攻城塔の上の弓兵が援護しつつ、多くの魔王軍が外壁に辿り着いた。
そこは、もう斬り合いの接近戦になっていた。
辺りは雄たけびと悲鳴が混じりあって混戦となっている。
そして、至る所に雲梯が掛けられた。
雲梯を登って来る兵士に石や丸太を投げる兵士の姿が見れる。
攻城塔付近の兵士は攻城塔から、続々と現れる兵士の対応に追われて雲梯まで、手が回っていない。
攻城塔の一角が魔王軍に占拠された!
そう、理解した時に大きな音が鳴り響いた。
下を見ると、破城槌が門を叩いていた。
「ね、ねぇクリス! なんとかしないと!」
「ダメだ。俺達がカタパルトの的になっているから、周りの兵士に被害が及んでない。これを放棄したら相手の思う壺だ」
「でも、このままじゃ……」
歯をギリっと噛みしめる。確かにこのままじゃ、突破されるかもしれない。
攻城塔の一角は相手に取られた。これから、外壁は乱戦だ。
その間に破城槌を壊す人はいるのか? もしかしたらいないかもしれない。
門が破られたらどうする? それこそ、砦の一大事だ。
魔王軍が雪崩れ込んで来る。
この砦が落ちるかもしれないのだ。
「耐えるしかない。信じるしかないんだ!」
「そんな……」
幸いにも、魔王軍の弓兵も俺を狙っている。多少は兵力を削いでいるのだ。
後は、味方に任せるしかない。
また、破城槌がの音が鳴り響く。どこまで、保つ事が出来る? 後、何発は耐えられるんだ。不安が募る。
外壁の上も四分の一が占拠されている。大勢の魔王軍が外壁に群がって来た。
それを追い返す為に、乱戦となっている。
「追い返せ! 破城槌に丸太や石を落とせ!」
指揮官の声に応じる者もいるが、破城槌は止まらないし、外壁の上にはどんどん魔王軍が乗り込んでくる。
すると、そこで大きな声が鳴り響いた。
「どおりゃあああああああ! 総指揮官ジェイク=ヴェッセルが来たぞ! 皆の者! 魔王軍を追い返すのだ!」
総指揮官直々の登場だ! 味方は雄たけびを上げて、ジェイクさんを守る為に士気を上げて外壁の魔王軍を追い返し始めた。
「まさか。総指揮官殿が現れるとはな」
だが、これで士気は上がる。この調子なら追い返せるかもしれない。
「なんとかなりそうなの?」
エイミーの尋ねる声に、答える。
「ああ! 分からないが、希望は見えてきた。ほら見ろ! 味方が魔王軍を追い返し始めているだろう?」
「そうね。でも、総指揮官が直々に現れるなんて大丈夫かしら」
それはごもっともだ。誰か、作戦を指揮する副官がいるのかわからない。
その中で、全指揮を担っている総指揮官が全線に出てきたのだ。
それだけ切羽詰まっている。
言わば、それだけ今が山場。この戦争の決定的な場面という事だ。
「分からないが、今は俺達も頑張るしかない」
カタパルトはまだ、俺を狙い続けている。
そして、その間に破城槌の音も何度も鳴り響いていた。
援軍が待ち遠しい。だが、援軍は期待出来ない。今は四日。後、一日も残っている。
真昼になった。
外壁の上の一角は完全に占拠された。三分の一が乗っ取られている。
外壁周辺の雲梯から続々と魔王軍が登って来て、場を占拠した。
総指揮官のジェイクさんと味方も奮戦しているが、それも虚しい。
じわりじわりと、人数に圧倒されていた。
「破城槌を動かす兵を弓矢で狙え!」
その声で、弓が破城槌を動かす兵を狙う。
一掃したが、また魔王軍が破城槌に取りついて、門を破壊しようとする。
それが何度も続いた。
一掃しては、魔王軍がまた取りつき、破城槌を動かす。
一進一退だ。
だが、確実に一発ずつ門に破城槌が打ち付けられている。
「門は、門は大丈夫なの!?」
エイミーの問いに答えられない。
「このままじゃ、一進一退だけど、一撃は段々打ち付けられている! 門が突破されるかもしれない!」
「それじゃあ……」
エイミーの顔が青くなった。
「なんとかしないと!」
その声も虚しい。何とか出来る段階ではないのだ。
「もう、俺達が出来ることは無い! このままカタパルトの的になるしかないんだ! 後は、味方を信じろ!」
そう、俺達が出来る事は無い。このまま見ているしかできない。
魔王軍の後方が動き始めた。
「魔王軍の後方部隊が動き始めた!」
「それってどういうこと!?
「魔王軍の主力が好機と見て攻め入って来たという事だ!」
その声にエイミーは震える。そして、大地も震えているようだ。
魔王軍の主力がゆっくりと近づいて来ている。
恐らく、千人程度の人数。それが、近づいてくる。
まるで死神の鎌が首に添えられているかのようだ。
「これだったら、無理やりにもエイミーを襲えばよかったな」
「何言ってるのよ! 今はそれどころじゃないでしょ!」
「だが、あれを止められるのか!?」
砦で門前に控えている兵士は約五百人。
もし、門が突破されたら……人数差で突破される。
門が破壊されたら、それこそ砦は落ちたと同然だ。
「兵よ! 今こそ踏ん張るのだ! 魔王軍を追い返すのだ!」
総指揮官のジェイクさんが叫んだ。
それに呼応して、雄たけびを上げて兵士達が果敢にも魔王軍の兵士に襲い掛かった。
その勢いで少し追い返すが、まだ魔王軍の兵士は現れる。
その時、何かの木材が折れる音が響いた。
「門が……」
兵士の声に下を見る。門に破城槌が突き刺さっていた。
遂に、門が限界を超えたのだ。
そして、二撃目でその穴が大きくなる。
三撃目、四撃目と門が打ち付けられて、穴は決定的に大きくなる。
五撃目が門に打ち付けられた。
無情にも門が破壊されて吹き飛んだ。
――門が突破されたのだ。
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