第25話 開戦二日目
余りの言葉に呆気に取られてしまった。
だが、その表情にジェイクさんは笑う。いやいやいや、笑いどころじゃないでしょう。
「カタパルトというものは、正確に当てる事など出来ない。だが、魔王軍は先の一当てでクリス殿を脅威とみるだろう。あれがいると兵士に大損害が出るぞ、と」
確かに、俺に自由に動かれたら、魔法で一方的に攻撃は出来る。
「それを止めるにはどうするか? 吾輩ならカタパルトと弓兵で魔法を撃てない状況を作ろうとするだろうな」
「それで、相手の策に乗れと?」
にやりと不敵な笑みで髭を撫でるジェイクさん。
「そうだ。外壁の中央で、自身がいる事を魔王軍にアピールしてやるのだ。さすれば、相手は本気で狙いに来るだろう」
「そして、その的になれと」
「うむ。そうすれば、外壁への被害も兵士への被害も減る。……出来るか?」
それは、出来るかじゃなくて、やれと言っているだけじゃないのか? イエスとハイしか答えられるわけがないだろう。
「分かりました。存分にやってやりましょう」
「おお! 流石はクリス殿。それでは、早速やってもらうぞ」
「はい! 承知しました!」
「では、下がってくれ」
「失礼しました」
頭を下げて、部屋を退室した。
「はぁ……、マジかよ」
あのカタパルトと弓兵の的になれと? 防げるのか?
カタパルトの一発は中級の土魔法だから、サッカーボールくらいの大きさだけど、それが物凄いスピードと質量で襲って来るんだ。
それを、防げるか? アルでも無理だ。土の防御魔法を五、六枚重ねればいけるかもしれないけど、カタパルトは三台ある。
不安しかない。でも、言われたからにはやるしかない。
それが、一兵卒の悲しい所だ。
エイミー達の所に戻った。エイミーから、昼食を受け取りそれを食べる。
「それで、どんな話だったの?」
「聴きたいか?」
俺の一言にウっとするエイミー。なにか嫌な予感がしたんだろう。
「い、一応……聴いておくわ」
「的になれだってさ」
「は? 何の的?」
小さな声で答える。
「……カタパルト」
「は? カタパルトの的!?」
「そう、その的」
「そんなの出来るわけないじゃない! 死ねっていうの!?」
エイミーは激高している。だけど、今更断れるわけがない。
「総指揮官殿の直々の命令だ。腹を括るしかないんだ」
「はぁ……。聴かなきゃ良かった」
後悔をするエイミー。でも、俺と一緒にいるなら同じ事になるぞ。
「大丈夫さ。恐らく、多分……」
「不安しかないんだけど……」
俺も不安だ。本当にな。
それから、夕方になって、また魔王軍が攻勢をかけてきた。
俺は壁上の中心で叫ぶ。
「おーーーーーーーい! 俺はここだぞーーーーーーーーー! 狙ってこーーーーーーい!」
すると、俺に向かって飛んでくるカタパルトの玉。壁が揺れる音が響く。
まだ直撃は無いが、恐ろしくて堪らない。
と、壁に当たる弾が変わった。それは石礫だ。小石がカタパルトから発射されてきたんだ。
「
土の盾が二枚ずつに前方に三列で並ぶ。
そこに石礫が何度も当たる。
「きゃっ!」
エイミーが悲鳴を漏らす。
「クソ! 壁を壊すんじゃなくて、完全に俺を狙って来やがった!」
このままじゃ、俺は攻撃に参加出来ない。守る事しか出来ないぞ。
しかも、魔王軍の弓兵もこっちに詰め寄って来る。
「アル! 下の矢は任せた!」
「任務、承認」
下から放たれる矢程度では、機械のアルの大楯を貫けないだろう。
だけど、カタパルトの石礫はアルでもへこむか壊れるかもしれない。
俺が、守るしかないのだ。
「クソッ! これで勝てなかったら恨むぞ!」
俺の叫び声は戦場の中で消えていった。
夜になった。流石に、魔王軍は一時撤退した。
休戦という事だ。
カタパルトと矢の雨に晒されて、心も体力もすり減った。
「疲れた……」
「怖かったわ」
エイミーは震えていた。そりゃ、あんなに何度も狙われていたら怖くもなる。
「アルも良くやってくれたな。ありがとう」
「お任せクダサイ」
部屋に戻って、軽い食事を取って、ベッドの上に横になる。
エイミーも俺の隣に横になった。
そして、その日は直ぐに二人とも眠りについてしまった。
次の日、戦争が始まって三日目だ。
遂に、援軍が来るまで半分を過ぎたという所だ。
五日まで後、二日。短いようで長い。
今日も今日とて、カタパルトと矢の的になっている俺達。
「クソ! そろそろ、盾がマズイ。張り直さないと!」
何度も石礫を受け止めた土盾ももう、限界が近い。
土盾を張りなおしてをもう、六回はやっている。
ただ、横にいる兵士達は被害が無いようで、相手の攻勢を凌いでいる。
戦況はやや優位と言った所か。ただ、その差もそこまでない。
魔王軍もこちらもカタパルトの脅威が減っただけで、戦況はただの攻城戦になっただけだ。
「頼むぞ。凌いでくれよ!」
願いながら、石礫を防ぐ。もう、こちらは守るしか出来ないんだ。
後は、こちらの自力次第。頑張ってくれ!
だが、この日も何とか持ち堪える事が出来た。
夜になって撤退していく魔王軍。
そして、勝鬨を上げる俺達。
「今日もなんとかなったな」
「そうね」
遂に、三日目をやり過ごす事が出来た。
後二日だ。二日で、援軍が来る。
エイミー達に言えないが、頑張ろう。
と、その時、砦内部から豪華な鎧を着た騎士と国王と王妃が現れた。
そして、二人は兵士一人一人に声を掛けている。
声を掛けられた兵士は嬉しそうにしていた。
「国王と王妃も良くやるな。兵士の士気が上がるぞ」
「みんな嬉しそう」
そりゃそうだ。手の届かないような人物が一兵士を労おうというのだ。
嬉しくない訳が無い。
その声掛けは三時間程掛かった。
そして、最後に俺達の所に。
「クリス殿達よ。良くやってくれている。明日も頼むぞ」
「はっ! お任せください」
国王に返事をする。
「お願いしますね」
「はい! ありがとうございます!」
エイミーも王妃の言葉に答えた。
国王と王妃が去った後に、俺達は部屋に入って直ぐに寝た。
そして、遂に四日目。
山場となる一日となる日がきた。
今日を乗り越えられるかどうか。
それが、重要な事だ。だけど、魔王軍もこれ以上、長続きしたらマズイと思っているはず。
今日の攻勢は、今までとは違って本気で攻めてくるだろう。
「今日が踏ん張りどころだぞ」
俺はみんなに声を掛ける。
そして、本当に魔王軍の本気の大攻勢が始まる。
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