第24話 総指揮官の命令

 数多くの矢の雨が魔王軍に降り注いだ。

 魔王軍の兵士は真上に盾をかざして矢の雨を防いでいる。

 だが、それでも多少の兵に矢が刺さり、悲鳴があちこちで聴こえてきた。


 と、その時に轟音と共に地面が揺れた。


「きゃっ!」

「一体なんだ!?」


 轟音のした場所を見ると、大きな岩石が転がっていた。

 そうか。さっきのは地震じゃなくて、カタパルトの投石で外壁が揺れたのか。

 これが、カタパルトの威力。こんなんじゃ外壁は持つのか? 

 援軍が来るまで四日だぞ。

 暗雲が立ち込める。希望だと思っていたが、絶望の方が多く感じられた。


 それからもカタパルトの投石は一定間隔で行われた。

 外壁に当たる事もあれば、届かない事もあるし、外壁を超えてくる時もある。

 その時その時で、砦から絶叫が響き渡る。

 それでも、矢の雨は続けられた。


 そして、攻城塔が三つ近づいて来た。

 じわりじわりと近づいて来る。

 そこで、盾をかざしている魔王軍の後方から大きな梯子をもった者達が、走ってきた。

 

「雲梯と、攻城塔が来るぞ!」


 外壁の指揮官が警告する。あの大きな梯子は雲梯というのか。

 それが、外壁にドンッと取り付けられた。

 盾を持った兵士がそれを登ってくる。それは、わらわらと雲梯に群がる蟻の大軍のようだ。

 攻城塔からも弓矢が放たれ、こちらに射掛けられる。

 外壁の上の人族軍はその攻城塔の魔王軍の弓兵の対応に追われて、雲梯を登る兵士に対応出来ていない。


「マズいぞ! このままじゃ! 攻城塔か雲梯をなんとかしないと!」

「でも、どうするつもり!?」

「魔法で攻城塔をぶち壊す! アル! 三十秒守ってくれ!」

「了承。背面装甲解除」


 アルが背面装甲を解除して俺を庇う。

 その間に俺は魔力を流し込んで、詠唱を行った。

 魔法を感知した攻城塔から矢が放たれるが、全てアルが防いだ。


 よし! じゃあ、行くぞ!


巨岩砲ヒュージロック! 三展開セットスペル発射シュート!」


 土の上級魔法を詠唱し、二メートルはある巨大な岩石が三つ発射。

 それは攻城塔をバラバラにし、中の兵士ごと粉砕する。


 こちらの軍から歓声が上がった。

 だが、俺達以外にも二つも攻城塔が外壁に取りつこうとしているのだ。

 かといって、今から行っても間に合わないし、魔法も届かない。

 

「クソ、あちらは任せるしかないか。アル! 雲梯を登ってくる相手に丸太を落としてやれ!」

「了承」


 アルが大きな丸太を雲梯に落とした。悲鳴と共に、魔王軍の兵士が落ちていく。

 誰も登らなくなったところで、雲梯を魔法で破壊した。

 これで、俺達の一角は一先ず安心だな。


「攻城塔に油を投げろ!」


 指揮官の命令で壺が攻城塔に投げつけられる。黒い液体が攻城塔に付いた。


「火矢用意! 放て!」


 火矢が放たれて、攻城塔に射かけられる。油によって大きな火炎となって攻城塔が燃える。

 魔王軍の兵士は逃げる事も出来ずに炎に飲まれて死んだ。


 だが、最後の一つの攻城塔は橋がかけられて、魔王軍が外壁に渡って来ていた。


「あっちが危ない! 行くぞ皆!」

「待ってよ!」

「了承」


 走りながら、その攻城塔に向かう。


「兵士さんここは任せたぞ!」

「はい! 承知しました英雄殿!」


 その言葉を背に攻城塔に駆け寄る。

 そこでは、外壁の上で斬り合いの近接戦になっていた。

 続々と、攻城塔にから魔王軍が登ってくる。


「アル! 大きいのぶちかますからまた頼んだぜ! 六十秒だ!」

「了承」


 膨大な魔力で魔法を詠唱する。それを危険と思った魔王軍がこちらに詰め寄る。


付与エンチャント石塊ストーン!」


 エイミーが魔銃のシリンダーを回転させながら、魔法を充填して発砲。

 アルが盾で魔王軍兵士を防ぎ、エイミーが一人ずつ倒していく。


「準備出来たぜ! 皆、危ないから巻き込まれるなよ!」


「大空を満たす光よ、一条に集いて――」


 体から魔力がごっそりと抜け落ちていく。

 膨大な魔力が攻城塔の頭上に展開された。


「――神の裁きとなれ! 天罰のパニッシュメント雷鳴サンダー!」


 雷の聖級魔法。

 広範囲殲滅魔法で雷鳴を轟かせる。

 魔方陣から雷鳴が降り注ぎ、攻城塔に直撃。

 中にいる魔王軍の兵士を焦がしながら、攻城塔が燃える。

 その余波によって、攻城塔に群がっていた魔王軍の兵士も巻き添えを食らった。

 

 俺の魔法で魔王軍は一時撤退。

 外壁の上で取り残された魔王軍の兵士は士気を下げて、続々と討ち取られていった。


 敵軍が矢の届かない位置まで撤退。

 戦争は一時硬直状態になる。

 撤退する魔王軍を見て、俺達の軍は勝鬨を上げていた。


「なんとかなったみたいね。

「ああ、そうだな。とりあえず、第一波は防げたという感じかな」


 エイミーはほっとしている。

 だが、これで終わるわけではない。

 たかが、一度の戦いを退けただけだ。これから、もっと激戦となるだろう。

 それもそのはず、未だにカタパルトは投石を繰り返して、外壁を破壊しようとしている。

 外壁の揺れる音が一定間隔で起こった。


「少し休もうか」

「ええ、そうね」

「了承」


 俺達は外壁から下りて、休むことにした。

 今は真昼だ。まだ、一日が終わったわけじゃない。


 と、その時に豪華な鎧を着た騎士が現れた。

 またか……。と、思ったが口には出さない。


「クリス殿! 総指揮官殿がお呼びです!」

「はっ! 承知致しました!」

「私たちは?」

「クリス殿だけをお呼びなのです!」


 俺だけを? それは、援軍が来ることを知ってしまったからか。

 仕方ないな。そういう話も出てくるという事を覚悟しないと。


「すまないな。アル! エイミーの事を任したぞ」

「お任せクダサイ」

「えー……まぁ、待ってるわ」


 エイミーは不服そうだが、我慢してもらうしかない。


「では、私に付いて来てください」

「はい!」


 騎士の後を付いていく。砦内部に入り。階段を上って、大部屋に着く。


「クリス殿をお連れしました!」

「よし! 中に入れ!」


 中からジェイクさんの声がした。


「失礼します!」


 中に入ると、ジェイクさんを入れて五名の人がこちらを見ていた。


「急に呼んで悪かったな」


 本当に、悪いぞ。不安になるから呼ばないで欲しい。切実にそう思う。


「いえ、なにか御用でしょうか?」

「うむ。なに、話を聴いたぞ。攻城塔を二つ破壊したそうじゃないか。大したものだ」

「ありがとうございます。皆が守ってくれたからこそ出来た戦果です」


 ジェイクさんは嬉しそうに笑った。


「そうかそうか! クリス殿は殊勝なことだ」

「本当の事ですので。で、何か問題が?」


 俺の一言に皆がジェイクさんの顔を伺う。


「なに、クリス殿にやって欲しい事があるのだ」


 そう、不敵に笑うジェイクさん。怖いんですけど。


「その、やって欲しい事とは……?」

「簡単な事だ。的だ《・》」

「ま、ですか?」


 的とは一体どういう事だ? もしかして……。


カタパルトの的・・・・・・・になってくれということだ」


 は? あのカタパルトの的になれと? 俺に死ねというのか。

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