第21話 戦争前
次の日、今日は雨だった。まるで、これから起こる戦争の様子に、暗雲が立ち込んでいるかのようだ。
だが、雨の中を兵士達は走り回り、壁上に丸太や岩等を用意していたり等で大忙しだ。
俺達も、流石になにもしないのは気分が悪いので、負傷兵の治療を行っている。
これでも、聖級まで回復魔法が使えるからな。
それに、今は一人でも戦える者が欲しい。その一心で治療を行う。
「ハイヒール!」
中級回復呪文。その呪文と共に、緑の光が目の前の兵士の骨折した足を癒す。
「痛くない……。ありがとうございます! 英雄殿」
兵士は骨折した足を何度か動かしてから礼を言った。
「なに、良いってことよ。今は戦争に備えないといけないからな」
「それでも、ありがとうございます!」
そんなに畏まられても、こっちが困る。照れくさいね。まぁ、悪い気はしないけど。
「じゃあ、次の人を癒すからまたな」
「はい! 英雄殿」
次の人は、右手の欠損と左足の骨折だ。
流石の俺でも、欠損は治せない。元の腕があれば、聖級魔法でくっつける事は出来る。
だけど、元の腕が無いなら仕方ない。一応、患部の血を止めたり、骨折は治せるのでそれで我慢してもらおう。
「ハイヒール!」
そうして、どんどん人を治療していく。何故だかかなりの長蛇の列になってしまっているのだ。
テキパキとやらないと、一日じゃ全員見れるか分からない。
因みに、エイミーは魔銃のシリンダーを回しながら。
「
と、下級の回復魔法を詠唱し、連続で発砲している。
なるだけ、怪我の程度が低い者を任せているのだが……。
やはり、絵面が悪い。銃で相手の患部に連続で発砲しているのだ。治療を受けている相手も凄い怖そうに怯えている。
まぁ、俺でも怖かったしな。
「い、痛くない! ありがとうございます!」
「良いのよ。さぁ、次の人どうぞ」
エイミーの所は、あまり人気が無い。女の子だから、最初は人気があったのだが、回復方法があれだからな。
今では、俺のとこの方が人が多くて困る。
「ハイヒール!」
そう、詠唱して負傷兵の治療を何度も行った。
夜になる頃には、全員見終わった。だけど、魔力もほとんど使い切った。流石にへとへとだ。
エイミーも肩を落として、疲れている。今はアルに担がれていた。
そして、治療のお礼という事なのか。今まで、砦の中で野宿をしていたのだが、砦の一室を貸してくれた。これも、あの総指揮官のジェイクさんが気を利かせてくれたのかもしれない。
それだけ、期待されているという事だが、今はそれがありがたかった。
そう、決戦は明日なのだ。明日、魔王軍の軍勢がここに来るのだ。
思わず手が震えた。もしかしたら、明日死ぬかもしれない。そう思ってしまったからだ。
でも、生き延びなければいけない。なんとしてもだ。
借りた部屋の扉を開ける。狭い部屋だ。五畳あるかどうかくらいの部屋に机とベッドが一つ。
ん? ベッドが一つ?
「なぁ、ベッドが一つしかないんだけど」
俺がそう、尋ねるとエイミーも呆気に取られながら答えた。
「そうみたいね」
さて、どうするか。いや、ここは王道にいこうじゃないか。
「一緒に寝るか」
「そうね。一緒に寝ましょうか」
疲れ果てて、エイミーも思考が回っていないんだろう。俺の言葉に何の疑問も浮かばずに答えるのだった。
してやったり! 合意は取れた!
アルがエイミーをベッドにそっと降ろす。そして、俺もエイミ―の隣に寝転んだ。
「はぁ……疲れた。……って! えぇ!?」
「おう、気づいたか」
エイミーが寝返りを打って、俺と目が合った所で気づいたようだ。
「な、なななななな! なんでクリスがここにいるのよ!」
「ベッドが一つしかないんだから仕方ないだろ」
「そこは普通、レディに譲るのが男でしょ!」
ごもっともです。ですが、ここはチャンスだ。畳み掛けろ!
「なぁ、エイミー。俺、明日の戦争で死ぬかもしれない」
「う、うん……」
いきなり俯いて、真剣に話す様にエイミーも混乱しながらも聴いてくれる。
「エイミーと、ずっと離れ離れになっちまうかもしれないんだぞ」
「そ、そうね……」
そこで、ガバッと肩を抱いて抱き寄せる。
「きゃっ!」
小さな悲鳴を上げながら俺の胸の中に納まるエイミー。
その耳元に囁いた。
「なあ、良いだろ?」
「……ぁぅっ、ダメ。ダメなんだから」
小さく否定するエイミー。だけど、その否定も弱弱しい。
「なら、キスならどうだ?」
「……………………ぃぃ」
その言葉を聴いた瞬間。エイミーの唇を塞いだ。
「んっ……ぅんー!」
唇と唇が合う音が部屋に響く。
馬乗りになって、エイミ―の両手を片手で掴んだ。そして、空いた片手で、エイミ―のなまめかしい太ももや薄い胸を撫でる。
その度に、びくびくとエイミーが震える。
「んん! んはっ……ダメ。ダメな…んぅ!」
「エイミー。可愛いよ。エイミー好きだ」
エイミーを貪る。チェニックの下腹部の中に手をゆっくりと手を伸ばす。
「やっ……やっ! ダメ。キスだけなの……」
「もう止まれないよ。エイミーが魅力的すぎるのがいけないんだ」
「で、でも……。結婚するまで、ダメ……」
そして、遂に魅惑のパンツに手を掛けようと手を伸ばしていくところで。
「これ以上はダメ!!」
その声と共に、俺が宙に浮いた。な、何事だ!?
振り返ると、アルが立っていた。
「エイミー駄目、クリス駄目」
「あ、アル。今のは、止めちゃダメだろ」
エイミーを見る。
「はぁ……はぁ……ん、ぅん……はぁ」
瞳を潤ませて、こちらを見ているエイミー。その姿は蠱惑的で、襲ってと言っているようなもんだ。
なんで、こんなところで邪魔しちゃうのかな。アルは……。
「とりあえず、アル。下ろしてくれ」
「ハイ」
アルが手を放してベッドの上に下ろしてくれた。
「このケダモノ! キスだけって言ったじゃない!」
「男があそこまでやったら止まれないに決まってるだろ」
「限度ってものがあるのよ! 性欲魔!」
エイミーは横でぷりぷりと怒っている。上気した顔を更に真っ赤にさせて、睨んでくる。
「わ、分かった。悪かったよ」
「分かれば良いわ」
そして、エイミーは上目遣いにこっちを見てくる。なんだろうか。
「ん! 腕枕して」
その反応にくすりと笑みが零れた。
「はいはい、お姫様」
腕を伸ばすと、そこにエイミーが頭を乗せてくる。その重さが何故か嬉しい。
「じゃあ、寝るわよ」
「ああ、分かった」
目を瞑る。すると、服を引っ張られる。何だと思って、目を開けると真っ赤にさせたエイミーが何かを欲しそうに見ていた。
「なんだ?」
「その……。おやすみのキス」
はは、なんだそんなことか。
「おやすみ。エイミー」
「おやすみなさい。クリス」
そして、軽いキスをする。エイミーは少し嬉しそうに目を瞑った。
わがままお姫様は大変だな。
でも、絶対に守ってみせるから。安心しろよエイミー。そして、今度こそは……。
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