第20話 総指揮官ジェイク
次の日から、慌ただしかった城は更に戦争の準備に向けて大忙しだ。
城の至る所で、兵士達が走り回っている。
外壁を補強したり、負傷兵の治療。戦闘が出来る人数の確認などを行っている。
「戦争が始まるのね……」
「ああ、そうだな」
「少し、怖いわ」
「そうだな。俺も一回はやったけど、慣れないな」
戦争が始まる。一度経験したとはいえ、流石に震えは止まらない。
一度目は奇襲だったから、その場の勢いでなんとか頑張ったが、今度は事前の情報がある。
それも相手は本気だ。今回はどうなるか分からない。
でも、せめてエイミーとアルだけでも守ってみせる。それが味方を犠牲にするような汚い手段だとしても。
俺の大事な仲間でエイミーは俺の大事な人。絶対に守ってみせる。それが、俺のやらなくちゃいけない事だ。
「今回は大丈夫かしら?」
エイミーは恐る恐るといった風に聴いてくる。
だけど、分からない。としか、言いようがない。前回が上手くいったからと言って、今回が大丈夫だとは限らないのだ。
「分からないな。でも、前回よりは厳しい戦いになるのは間違いない」
「……そうよね。私、ちょっと怖いわ」
エイミーの肩を抱き寄せた。エイミーも俺の腕に抱きついてくる。震えが伝わってくる。そりゃ、怖いよな。俺だって、こんなに不安で怖いんだ。女の子のエイミーは俺よりも更に不安を感じているんだろう。
「大丈夫さ。俺がエイミーを守る」
「……ありがとう。クリス」
「エイミーとクリス。ワタシが守りマス」
アルの言葉にエイミーがくすっと笑った。
「そうね。クリスにアルがいるもんね」
「そうだな。アルは堅いからな」
「ハイ、お任せクダサイ」
エイミーの震えが少し納まった。アルの一言が効いたのだろう。良かった。気を良くしてくれて。アルもなかなか良い事を言うようになったな。感心したよ。
と、そこに豪華な鎧を着た騎士がこちらに向かって来る。
明らかに俺達に用があるように歩いてくるのだ。嫌な予感しかしない。
「ね、ねぇ。クリス? あれって」
「また、厄介事だろうな……」
「そうよね……」
エイミーは溜め息を一つ吐いた。流石に、俺は溜め息を吐かなかったが、内心は心底、不安で一杯だった。
これからなにがあるっていうんだ?
豪華な鎧を着た騎士は、俺達の目の前で止まる。
「先の戦いの英雄殿一行方、総指揮官殿がお呼びです。是非、私に付いて来てください」
「はっ! 承知しました」
エイミーとアルも肯定をする。すると、騎士は反転して砦の中に向かっていった。
総指揮官が俺達に用があるとは……。まさかの大物に気が動転してしまったが、それだけ戦力として期待されているということだろう。
このまま、なにも情報がないままに戦争が始まっていたら、嫌だったから、良いと言えば良いか。
まぁ、半々くらいだけどね。
騎士の先導で、俺達は後ろを付いて行く。
砦内部に入ると、メイドが忙しそうに走り回っている。
兵士達もせわしなく動いている。
誰もが、前見た時とは違い、緊張と不安そうな顔をしていた。
以前とは、正反対の光景だ。だけど、誰もが不安なのだ。これが戦争が始まる前の準備なのだから。
騎士は二階に上がって、謁見の間とは反対の所にある部屋の扉を叩く。
「先の戦いの英雄殿をお連れしました!」
中から、いぶし銀な声の人の声が返ってくる。
「うむ! ご苦労! 入ってくれ」
豪華な鎧を着た騎士は扉を開けて、俺達に入る様に促す。
「では、英雄殿。どうぞお入りください」
「分かりました。失礼します」
エイミーとアルも同様に答えて入室する。
中は大部屋に長机があり、そこの上座に白髪と立派な髭の五十代の男性がいる。
そこから左右に五名ずつの三十代の男性が座ってこちらを見ていた。
「良く、来てくれた。感謝するぞ。クリス=オールディス殿」
「私の名前をご存知でしたか」
上座の男性は髭を撫でながら、笑った。
「それはそうだ。先の戦いの英雄だからな。吾輩はジェイク=ヴェッセル。今回の戦争の総指揮官だ。宜しく頼むぞ」
俺達に期待しているようだが、この人は前回の戦争でも指揮を執っていたはず。
ならば、志願兵を突撃させて捨て駒にして、兵士達で砦の防衛をしていたのも、彼が行っていたのだ。
つまり、それだけ非情な男という事。流石に、俺達を捨て駒にはしないとは思うが、それでも注意はしておくべきだ。どんな作戦を命じてくるか分かったもんじゃない。
「まずは、現在の状況を教えよう」
「はい、お願いします」
それは願ってもない事だ。どうか、良い情報でありますように……。と、言っても他の面々を見る限り、苦虫を嚙み潰したような顔をしている。良い情報ではないだろう。
「魔王軍の軍勢は約四千程度。それに対して、我が軍の戦闘出来るものは三千という所。そこで、我が軍は籠城戦に入る事に決めた」
「千人は差があると、言う事ですか」
千人か。それはかなり大きい差だ。だが、城攻めは敵側が三倍の兵力がないと厳しい。とか言う話をどっかで聴いた事がある。
そう聴くと、そこまで厳しいとは思えないけど……。
「うむ。だが、相手はこの砦を落とす為に、万全な準備をしてきた模様」
「と、言いますと?」
ごくりと唾を飲んでしまった。
「攻城塔が六つにカタパルトが三つ、それと、破城槌が一つあるとの事だ。相手は本気でこの城を破壊。ないしは占領するつもりだ」
攻城塔というのが、なにかは分からない。
だけど、カタパルトとは分かる。岩石を飛ばして、壁を壊すものだ。この世界には魔法があるから、魔力が続く限り際限なく飛んでくるだろう。考えるだけで恐ろしい。
破城槌も多分、門を破壊する為の物だろう事は予測が付く。
「そこで、クリス殿にやって欲しい事がある。攻城塔、破城槌とカタパルトの破壊だ。出来るか?」
「分かりません。ですが、私の使える魔法でも大体五十メートルが限界です」
それを聴いて、指揮官らしき騎士の皆が唸る。
「攻城塔と破城槌はなんとかなりそうだが、カタパルトは射程外だな」
「と、なりますと、カタパルトを黙らせるしかありません」
「しかし、どうやってそれを実行するか……」
「いっその事、打って出るという手もあるかと」
「だが、敵の数はこちらより上、その中をカタパルト目指して行くのか?」
部屋内には多くの声が響いた。あちこちで、作戦を話し合っている。
「静まれ!!」
ジェイクさんの一言に、誰もが口を閉じた。
「あくまでも、こちらは籠城戦に持ち込む。カタパルトは厄介だが、打って出るには兵力が足りん。ならば、耐えるしかあるまい」
その一言に誰もが俯いた。戦力差がある現状、防衛するしかないのだろう。
ただ、カタパルトは止められない。そうだとするならば、外壁の寿命がどれだけ持つのかどうか……。
俺が考えても仕方ない。良い案が浮かぶわけじゃないんだ。任せるしかあるまい。
「クリス殿達よ。ありがとう。もう、下がってくれて良いぞ」
「はっ! かしこまりました。では、失礼致しました」
「クリス殿!」
退出しようという所で、もう一度声を掛けられた。
「此度の戦いも戦果を期待しているぞ」
それは充分な戦果を果たせ、という事なのだろうか。いや、そうなんだろうな……。はぁ、仕方ないか。
「承知致しました。尽力致します!」
「うむ。宜しく頼む」
「はい!」
そうして、俺達は部屋を出て行った。
そこで、エイミーに服を引っ張られる。
「ねね、一体どんな状況なの?」
「んー、俺も詳しくは分からないけど、状況は厳しいんだろうな。それと、俺達にかなり期待されているという事だ」
「そうかー……。まぁ、元から大戦果を求めていたわけだし、気にしても仕方ないのかな?」
「それはそうなんだけどな。前回とは、打って変わってかなり大変な戦いになると思った方が良い」
「分かったわ。まぁ、その……ちゃんと守ってよね」
エイミーは頬を上気しながら言った。
「任せろ。絶対に守るさ」
「ワタシにお任せクダサイ」
「あははっ、そうね。アル」
「頼りにしてるぞ。アル」
そうさ。とりあえず、どんな事があろうと守る。
それだけは絶対にやってみせる。
ここで死ぬわけにはいかないんだ。俺達には世界を救う役目があるんだからな。
それに、イアンも俺達を待っている。
その為にも早く、この戦争に決着をつけないといけない。
頑張ろう。死ぬ気でやるんだ。
大将を討ち取れたならば、聖剣エクスグラスの情報を、手に入れられるかもしれないのだから。
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