第15話 聖剣の試練

 確認の為に、俺は呟く。


「着いたみたいだな」

「そうみたいね。流石に五年前くらいじゃあ、変わり映えしないわね」

 

 エイミーがそう返事をした。そうだろうな。五年前だ。これが、もっと過去の世界なら変わっていたかもしれないけどね。

 

「とりあえず、今日は少し進んで、あの砦が見えた平原に出よう。そこで休憩だ」

「分かったわ」

「了承」


 タイムマシンを置いて、森の中を前進。前来た時と一緒なら、前進していれば平原に出られるはず。

 そして、そこから砦が見えるはずだ。あの砦が五年前にはなかった。なんてことはないだろう。流石に、残っているはずだ。

 平原に出た。前方に砦を確認。良し、これで迷う事は無いな。後は、砦を北に進むだけだ。


「あっちに砦が見えた。これで迷うことは無くなったな」

「そうね。これで一安心ってとこかしら。砦がまだ出来てないとかなってたら、大変だっただろうしね」


 その通りだ。本当に砦が見えて良かった。ちょっと、懸念していたからね。砦が無くて、こんな森の中で迷子とか嫌だからな。


「じゃ、今日はここで寝よう」

「そうね。アル! 警戒よろしく」

「任務、了承」


 アルが夜も見張りをしてくれるのだ。機械だから眠る必要は無いしね。これほど、優れた見張りはいまい。これを作った未来のエイミーは凄いな。改めてそう思うよ。しかも、これ一体じゃなくて何十体もだからな。

 その日は、直ぐに寝た。そして、次の日。

 俺達は砦目指して、前進している。エイミーは早々にアルの肩に乗っかっている。俺も走りながら、砦に向かう。

 砦の先にある。北の洞窟までは結構距離があるからね。急いでいるのだ。

 砦に着いた。一応、砦を見てみる。門兵はいるが、死んだ魚のような目はしていない。

 まだ、五年前ではここは戦場になっていないのだろう。

 そこに、馬に乗った騎士がやって来た。


「前線の指揮官から報告がある! 直ぐに門を開けてくれ!」 

「只今、開けます!」


 なんだか騒がしくなってきた。慌てている門兵が合図を送ると、門がゆっくりと開いていった。

 そこに馬に乗ったまま、騎士が中に入っていく。

 どうやら、良い知らせではないようだな。まぁ、前線からの報告だし、あの慌てよう。

 なにか問題があったかとしか思えない。

 恐らく、前線の砦か城が落ちた。とか、そんな話だろう。

 流石に、そこまで踏み込もうとは思わないし、距離的にも日数的にも厳しい。イアンを待たせているんだ。早く、聖剣エクスグラスを取りに行かなくては。


「行こうか」

「うん。洞窟に行きましょう」


 砦を後にして、北の洞窟を目指した。

砦の横を通って行ったのだが、誰も俺達を不審には思わないようだ。それだけ、さっきの情報で慌てているんだろう。どんな情報かは知らないけどさ。


「アル! ブロック頼む!」

「了承、背面装甲解除」


 ズシンと背面装甲が地面にめり込む。それを、アルが右手に持った。

 そして、アルが俺の目の前に立ち、魔狼の牙から守ろうとする。


付与エンチャント氷塊アイス!」


 アルの肩の上に乗ったエイミーが、シリンダーを回転させながら魔石に魔法をエンチャントし、発砲。

 その一撃で、魔狼の一匹がやられる。

 残りは三匹。


石礫ストーンショット! 六展開セットスペル発射シュート!」


 石の弾丸が魔狼の群れに殺到する。

 石礫は魔狼の二体の体に多くの穴を開けて倒す。

 残り一匹。

 

 最後の魔狼が、飛び掛かってくる。

 それを、アルが大楯ではじき返した。


「ハッ!」


 体勢の崩れた魔狼に剣で止めを刺す。


「ふぅ……。何とかなったな」


 ここまで、魔物に襲われる事、数回。ゴブリンとか、オークとか定番の魔物の群れだ。それに遭遇してしまい、結構な足止めを食らってしまった。

 五年後の聖歴七百五十年では、魔物に襲われなかった。

 今思えば、あれはイアンが定期的に森の魔物を討伐していたからなんだな。それが、今はイアンが居ないのだ。 だから、こんなにも魔物が多いんだろう。

 だけど、順調に走りながら急いだので、夕方頃には洞窟に着いた。

 ここまで、走って来たので体力が結構無くなってきたいる。でも、早くイアンの下に行かないと、何をしでかすか分からないからな。

 

 「明かりライト


 明かりを点けて、洞窟の中をゆっくりと進む。

 中は暗い。明かりが無いと先が見えない程だ。静かだ。

 時折、天井から垂れる水音に、エイミーが可愛らしい声を上げる。それをからかって、怒られた。

 可愛いから良いじゃないかというと、もっと怒られた。本当の事なのにな。

 一時間程歩いた所で、大空洞に出た。

 ここは、イアンが住処にしていた場所だ。ということは、直ぐ近くに聖剣エクスグラスがあるはずだ。

 大空洞の中を歩く。すると、そこだけ光り輝いている物体があった。それは、台座に刺さったままで、美しく真白く神々しい光が包んでいる。


 「あれが、聖剣エクスグラスか。誰も触ってないのに光っているよ」

 「これが本来の聖剣エクスグラスの姿なんでしょうね。五年後の根本まで折れた聖剣エクスグラスは、本当の力を発揮してなかったって事ね」


 聖剣エクスグラス。これを手に入れて、イアンの決意を揺るがす事が出来れば、どうにかなる。

 俺達は聖剣エクスグラスに近づいた。

 

『聖剣を求めし者よ。試練を受け入れろ』


 ふと、どこかから声が響いた。

 そして、光が発光し、行く手に真白く輝く大きな狼が現れた。


「一体、なんだ!?」


 いきなり三メートルはあるであろう、白い毛並みに神々しく光る狼が現れた。


「恐らく、これが聖剣エクスグラスを手に入れる為の試練。こいつを倒せば手に入れる事が出来るはずよ!」

「そういう事か。なら、話は早い! 早速やってやるか!」

「任務、了承。背面装甲解除」


 俺は剣を抜き、アルは背面装甲を右手に持つ。エイミーも「付与エンチャント石塊ストーン!」と、言って、魔銃の魔石に魔法を充填する。


『我はグラス。さあ、試練を開始するぞ!』


 狼の声で戦闘は開始された。


岩石砲ロックキャノン六展開セットスペル発射シュート!」


 土の中級魔法を、六つ展開し、岩石の塊がグラスに殺到する。

 だが、それを意図も容易く回避する。


 クソ! 早すぎて狙いが定まらないし、当たらない。 こうなったら接近戦だ!


 魔法での攻撃を諦めて、接近戦に移る。

 エイミーが発砲。するりと躱される。

 グラスに向かって進む。

 それを鋭利な爪で切り刻もうとしてくる。

 

 そこに、アルが体当たりして、グラスを吹き飛ばした。


「アル! ナイスだ!」


 体勢を崩した今がチャンスだ! 行くぞ。


 踏み込んで、上段による右袈裟での斬り。それが、体勢を崩したグラスに振り下ろされる。

 グラスは後ろに撥ね飛んだ。浅く、胴体に剣が刺さった。

 そこから血が染みて真白い毛並みに赤が色付く。


『なかなかやるな。だが、まだだ!』


 猛然と詰め寄ってくる。エイミーは何度も発砲するが、グラスはそれを左右に避けながら、じわりじわりと詰めてくる。

 そして、アルの頭に齧りついた。

 勝利を確信したグラスはそのまま、アルの頭部を噛み砕こうとする。


『なに!?』 


 しかし、それが出来ない。アルの頭部が潰れても機械だから問題は無い。


「ハッ!」


 俺はその隙に、上段斬りで右後ろ脚を斬り飛ばした。


『グァッ!』


 その一撃に怯んでグラスが後ろに飛ぶ。足が一本斬り飛ばされても、未だ目は死んでいない。


『我の牙が効かないとは、その大男。何者だ!』


 俺とアルは怯んだグラスに向かって詰め寄る。そして、斬り掛かった。


「ワタシはアル」

「ハッ! それは機械だからだよ!」


 剣を躱して、両手の爪の連撃が襲い掛かってくるも、それをアルが全て防いだ。

 そして、突きを放つ。

 その一撃は完全に胴体に剣先から半分までズブリと突き刺さった。


『グッ!』


 剣を抜くと、血が大量に流れ出る。

 致命的な一撃を入れた。そう確信した。だが、グラスは未だ、こちらを睨んでいる。

 ターゲットを俺に変更して、襲い掛かってくる。

 アルがブロックしようとするが、それもするりと躱される。

 エイミーの発砲が響き、石塊がグラスに突き刺さった。

 それでも、怯まずに前進してくる。

 グラスはこれが最後の一撃だと思っているのだ。それが、自分の命が消えるとしても。


「良し! 掛かって来い! 俺が倒してやる!」


 正眼に構えて、グラスを待つ。

 グラスが目の前に来て、飛び掛かってくる。


 スローモーションのようにグラスの口が広がって、俺の頭部を噛み砕こうと迫ってくる。


「お、おおおおおおおおおお!」


 その中で、グラスの特攻を紙一重で躱す。肩の一部に痛みが走った。

 そして、胴体に剣での一撃。


『……み、見事』


 飛び込んだ姿勢のまま、地面に頭から突っ込んだグラス。


『貴様達が、聖剣エクスグラスの持ち主か試してみよ』


 そう言って、グラスの体はガラスが砕けるかのようにひび割れて、そして消えていった。



「やった! やったわね! 流石、クリス!」


 エイミーの一声にやっと、一息吐けた。


「……ふぅ。死ぬかと思った」

「そうね。最後は本当に怖かったわ。ま、アルは頭を齧られたけどね」

「任務、続行可能」


 アルの頭部の兜は少しへこんでいたが、問題ないようだ。それにしても、誰一人怪我せずに済んだから良かった。もし、エイミーが狙われていたらと思うと……。怖くて、想像できない。


「あ! クリス肩に怪我してるじゃない!」

「ああ、さっき、肩を少し噛まれたんだ。回復魔法をかけるから問題無いさ」


 そう言うのだが、エイミーは「私が治す!」と、言って言う事を聴かない。まぁ、エイミーに任せるか。


付与エンチャントヒール!」


 下級回復魔法のヒールを魔銃に充填。そして、魔銃を構えてこちらに向けてくる。


「お、おい! それでやるつもりかよ!」

「ええ、これでも回復魔法が撃てるからね。じっけ……、いえ、なんでもないわ」

「おい! 実験とか言おうとしなかったか!?」

「そ、そんな事ないわよ?」


 エイミーは明後日の方向を見て、口笛を鳴らそうとしているが下手くそで鳴っていない。


「本当に大丈夫なんだろうな」

「大丈夫よ。……九割くらい」

「おい! 今、九割って言わなかったか!? 残りの一割で失敗するかもしれないのかよ!」

「大丈夫だって。少し脅かしただけよ。……ほら」


 思い切って、俺の肩にエイミーが発砲。緑の光が肩に当たって、怪我が少し治癒された。


「ほらね! ……良かった初めてだから失敗しないで」

「絶対、今不穏な事言っただろ! 俺で試そうとするなよ!」

「男なのに意気地なしなんだから。大丈夫だったから良いじゃない!」

「確かにさっきは良かったぞ? だけど、初めてを俺で試すな!」

「あーはいはい。わかりました。今度からそうするから。……ハイ! じゃあ、聖剣エクスグラスを取りに行きましょう」


 エイミーの一声で、聖剣エクスグラスの事を思い出す。そうだったな。聖剣エクスグラスを取らないと。

 俺達は聖剣エクスグラスの刺さっている台座の下に行った。


「じゃあ、抜くぞ」

「ええ! 良いわよ」


 そうして、聖剣エクスグラスを抜こうと手を伸ばして、柄を持つ。


「ちょっと待って!!」


 エイミーが大声を出して、俺に待ったをかける。一体どうしたんだ? 


「クリス。体が……」

「え?」


 俺の柄を持つ手が――――透けていた・・・・・

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