第14話 聖剣を求めて

 次の日、目を覚ました。上体を起こして辺りを見回すと、その場に立っているアルと胡坐をかいて寝ているイアンが。洞窟の中なので今の正確な時間はわからないが、恐らく腹の減り具合から早朝だと思う。

 隣を見ると、エイミーがすやすやと規則正しい寝息をたてている。

 この際だから、エイミーをじっくりと見る。

 淡い灰色のチェニックに腰のベルトに茶色いブーツ、頭にはゴーグルが。

 桃色の髪は胸の高さまであり、とてもきめ細かで美しい。胸は……平坦。いや、ほんの少しだけ膨らんでいるか。ほんの少しだけ。

 顔は、白く透き通った肌に少女特有のあどけなさを感じる。そして、強く抱きしめたら折れてしまいそうな程の華奢な体。


「可愛いな……」


 つい、言葉が漏れてしまう。それほどエイミーは、魅力的だからだ。

 エイミーの近くに擦り寄る。そして、その頬を突く。


「うぅん……。クリスったら。ダメ……」


 ダ、ダメってなんですかね!? どんな夢を見ているのか、非常に気になるぞ!

 思い切ってもっと突いて見る。ツンツン。


「ダメ……。こんなとこじゃ……や」


 エイミーの艶やかな声色に、頭にズシンと衝撃がきた。おおっと! エイミー選手ここに来てナニを考えているんでしょうか! 流石に俺もこんな事言われたら、冷静じゃいられないぞ。

 もっともっと何か言わないかと突つく。


「ん……ぅん。…………ん」


 パチリと目を開けたエイミーと目が合った。お互いの顔は目の前で、ちょっと前に顔を出せばキスが出来る程だ。


「あ、あっ! ああああああ!」


 エイミーの顔がリンゴのように真っ赤になっていく。


「クリス! 私の寝ている隙に何かしたでしょ! いや、絶対した!」

「し、してないよ。ただ、頬を突いただけだって」


 恥じらいながら言うエイミーの余りの見幕に、ちょっと引いてしまった。


「絶対した。その……胸、触ったりとか。……キスとか。絶対したでしょ! この、バカ! エッチ! 変態! スケベ! 色情魔」


 物凄い罵詈雑言を頂いてしまった。思わず、ありがとうございます! と言いそうになってしまったよ。確かに、その慎ましい胸とか、唇とかは凄く。物凄く! 興味があるけど、流石にそんな事しないさ。だって、精神年齢六十歳の童貞だぞ。甘く見るなよ!



「本当だって! な? アル! 俺は何もしてないよな?」

「ハイ。頬を突いてイマシタ」


「ま、まぁ……。アルがそういうなら本当なんでしょうね。でも、なんで突いてたのよ」

「エイミーの顔が可愛いな。って思っただけだよ!」

「か、かわ……。恥ずかしいセリフ禁止!」


 エイミーはさっと体を起こして、チェニックに付いた藁束を叩く。

 ああ、なんて柔らかそうな太もも。それに、おっ! パンツが見え……見え――。


「――やっぱり、エッチな目で見てるじゃない!」

「おぉぅ。すまん。だけど、今のはエイミーが悪いんじゃないか。俺の目の前でそんな魅力的な太ももとか見せびらかすんだから」

「見せびらかすって!? そ、そんな事してないわよ!」

「いいや、男はケダモノだからな。そんな男を惑わす事をしたエイミーが悪い」


 そうさ。そんな魅力的なモノ。誰だって目がいってしまうじゃないか!


「ほんと。クリスは子供の頃からエッチだったけど。五年経ってもっとエッチになったわね!」

「わははっ! 男だから仕方ないんだよ!」

「なーにが、男だから仕方ないよ! この性欲の塊!」

「クリス殿とエイミー殿は、本当に仲が良いのだな」


 そこで、起き出したイアンから声が掛かった。助かった! これで、なんとかなる。


「仲が良いって! ただ、クリスがエッチなだけです!」

「なんだよ。仲が良いのは本当だろ?」

「ははっ! まぁ、そろそろ腹も減っただろう。朝食にしようじゃないか」

「そ、そうね」

「そうだな。俺も腹減った」


 起き出したイアンと共に朝食を食べる。昨日の残りの干し肉ときのこのスープだ。質素だ。だけど、食べられないよりはマシだな。

 食べ終わった後、俺達はイアンに告げる。


「イアン。俺達、ちょっと帰るよ」

「そうか。私への用は済んだか?」

「ええ、とりあえずだけど。伝えたい事は伝えた。後は、まだ少しだけ魔王の城に行くのは止めてくれると助かるわ」


 エイミーの言葉にイアンは思案顔だ。人族がここまで苦しめられている現状で動くな、と言われたのだ。この世界の人の事を思えば、難しい事だろう。


「……分かった。確かに、私もまだ決心はついていない。暫く、私はここに残ろう」

「ありがとう。イアンさん」

「ああ、とりあえず、急に行動はしないでくれよな」


 俺の言葉にイアンは苦笑しながら言う。


「はははっ、大丈夫さ。私は腰抜けだからね。そんな事しないさ」


 腰抜け、か。話してみた今となっては、そんな事を考えるような気持ちは消えていた。

 イアンは誰が見ても堂々として、とても勇敢な者。勇者にしか見えない。


「イアンは腰抜けじゃないさ。俺が保証する。イアンは正真正銘の勇者だ。誰かの為に、命を投げ出すくらいのな」


 そうさ。確かに、転移魔法と封印魔法という特殊な魔法が使えるが、そうだとしても一人で魔王の城に行くか? 俺でもそんな勇気はない。一人じゃそんな事出来るなんて思えない。

 それを、実行しちまうんだぜ? これが、勇者と言わずして何と言うんだ。


「そうね。私もそう思います。イアンさんは本当の勇者です」

「勇者ね……。自分ではそんな実感なんてないけど、ありがとう。少しだけ、気持ちが軽くなったよ」


 暗い顔でぎこちない笑みをするイアン。

 まだ、折れた心は治ってないんだろうな。俺達でなんとかしないと!


「じゃあ、世話になったなイアン。また、会おう」

「ありがとう。イアンさん。また、会いましょう」

「イアン。マタ会いマショウ」


 俺達は席を立ち上がり、荷物を持って別れの挨拶をした。


「ああ、面白い話を聴けてよかった。私も再開を楽しみにしているよ」


 手を振って、洞窟の入り口に向かって歩いていく。

 


 洞窟の外に出た。まだ、太陽は真上ではない。

 なら、急いでタイムマシンの下に向かおう。そして、五年前に行くんだ。


「エイミー。アル。急いでいくぞ」

「ええ、分かったわ」

「任務、了承」


 アルはエイミーを肩に乗せて、車輪を稼働させて走っている。

 俺もその背を追いかけた。

 

 さぁ、やることは決まった。

 聖剣エクスグラスを持って帰って来て、イアンに渡す。

 そして、一緒にイアンと倒すんだ。魔王を!

 

 

 夕方頃には、タイムマシンの下まで戻る事が出来た。

 どうやら、タイムマシンに何か不測の事態があった事がなかったみたいだ。良かった良かった。

 誰かが持ち去ったり、壊したりしたら大変だからな。いや、こんなデカい物を持って行けるわけがないか。


さて、気を取り直して行こうじゃないか。


「あ、その前に現代に戻って、準備とかしない?」

「それもそうだな。野宿とか辛いしな」


 確かにそうだ。せめて、寝袋かなにかは用意した方が良い。


「じゃあ、決まりね。現代に行きましょう」

「おう!」

「了承」


 エイミーがタイムマシンを起動させる。小さく唸るタイムマシンの起動音はどんどん大きくなっていく。

 そして、時空が歪み、そこに水溜まりのような空間が現れる。

 俺達はお互いの手を繋いで、それに向かって飛び込んだ。

 青い空間が光のように過ぎ去っていく。

 その先に、小さな光が見えてくる。


 

 そして、エイミーの家に着いた。保存食とか、お風呂に入ったりと準備をする。

 色々な便利グッズを、アルの背中のバックパックに積み込んでから再度、タイムマシンの前に。


「じゃあ、今度こそ行こう! 聖歴七百四十五年に!」

「ええ! 聖剣エクスグラスを取りに!」

「任務、承認」


 エイミーがタイムマシンを起動させる。本当に壊れるんじゃないかと思うほどのうるささだ。

その内、ボカンって壊れないよな?

 すると、空間が歪んで、青い空間が広がるのが見えた。

 それに向かって飛び込んだ。

 変わらない青い空間が光のように過ぎ去っていく。

 その先に、真白な光が小さく光っている。


「あそこが出口ね!」

「ああ、あそこが聖歴七百四十五年の世界だ」


 待っててくれイアン。俺達が、イアンの折れた心を治して見せる!


 小さかった光は次第に大きくなって、俺達を包み込んだ。


 そこは、夕方。秋の葉が色鮮やかについている森の中だった。

 七百五十年と変わり映えのしない光景だ。

 そこに少しほっとした。とりあえず、タイムマシンはちゃんと五年前に着いたのだろう。

 いつもいつも壊れそうで怖いからな。今度、エイミーに改良してもらおうかな?

 その方が絶対良い気がする。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る