第8話 長い旅の始まり
今、俺は馬車に乗っている。行先は俺の故郷だ。
俺は今、五年間の修行を終えて故郷に戻ってきた。
村長から餞別に貰ったバスタードソードを抜く。俺専用に作って貰った特別な剣だ。
それを村長は何の見返りも期待せずに「楽しかったぞ」と、言って渡してくれた。
カーラさんとの魔法の鍛錬も相性の良い中級魔法なら六つ。上級魔法なら二つ瞬時展開出来るまでになった。
剣魔の里での修行は俺の心、技、体を限界まで鍛えた。
村長、カーラさんにセシル。皆ありがとう。俺をここまで成長させてくれて。
今なら胸を張って言える強くなった、と。
俺の故郷がすぐ手前まで近づいて来た。
「おじさん。ありがとう。ここからは走って行くから!」
「そうかい? じゃあな、坊主」
行商人のおじさんに別れを告げて馬車を降りた。
そして、駆け足で村を走る。
エイミーの家を過ぎる。まだ、会う時じゃない。まずは、父さんと母さんに伝えないと。
風が吹く。黄金の稲穂の海。その横を走りながら自宅へとひたすら走った。
遂に懐かしの自宅へ着いた。勢い良く扉を開ける。
「ただいま!」
「も、もしかしてクリス!?」
母さんは俺の声に驚いて、小走りに玄関まで来る。
母さんと抱擁を交わす。
「大きく、逞しくなったわね。クリス!」
母さんは涙を流しながら俺を強く抱きしめる。
そして、父さんもゆっくりと現れて頭を撫でてくれた。
「でかくなったな。もう、俺より多少小さいくらいだな」
嬉しそうに父さんは笑ってくれる。
俺の背はもう、アルより少し小さい程度まで大きくなった。
父さんはアルよりも少し大きいくらいだ。
「クリスが帰って来たから今日は豪華にしましょうね」
「ありがとう母さん。父さん」
三人で笑い合った。温かい。俺にとっては余りにも温かい家だ。
ただいま。本当に……。
その日、夕食を食べ終えてから両親に告げる。
「俺、ちょっと遠出してくる」
その言葉に父さんと母さんは、何故か解っていた、と。悲しそうに頷いた。
思いがけない反応に逆に、俺の方が驚いてしまう。
「知っていたわ。ヨハンも私も、ね」
「ああ、クリスは十五歳の時に何かあるんだってな」
「そうだったんだ……俺。父さんと母さんにこんなに大切にして貰ってたのに、勝手にいなくなるなんてさ。……本当に親不孝者だ」
「そんなことはないわ。クリスは私達に沢山の思い出をくれたわ」
母さんの言葉に父さんも頷いた。
目頭が熱くなる。こんなにも優しい両親に、別れを告げなくてはいけないのだから。
「ありがとう。俺、いつ帰って来れるか分からないけど……。約束する。きっと帰って来るから! だから、その時には親孝行するよ」
「そうか。十五歳はもう成人扱いだ。自分の事は自分で決めろ。そして、絶対に諦めるなよ」
「うん! 俺はやるよ。絶対にやってみせるから!」
ああ、絶対に世界を救ってみせるから。だから、待っててくれ。父さん、母さん。
次の日、両親に別れの挨拶をしてからエイミーの家に向かった。
扉の前に立つと胸が高鳴る。
エイミーはどんな少女に変わっているだろうか?
どう想っていてくれていたのか。
そう思うと、扉を開けるのを躊躇してしまう。
その時、爆発音がした。
咄嗟に扉を開けて中に入ってしまった。
「エイミー! 無事か!?」
中に入ると汚かった家は、より汚くなっている。
そして、家の中に黒煙が立ち上っていた。その黒煙の下にエイミーはいた。
「クリス!? クリスなのね!」
エイミーは黒く煤まみれの顔で飛び込んで来る。
それを受け止めた。エイミーが胸に顔を埋めて擦りつけてくる。
煤が服に付くが、そんなもの気にならない。再開の嬉しさが胸に沁み渡る。
あれからエイミーも成長したみたいだが、頭一つ分は小さい。
ただ、桃色の髪はより伸ばしていて、胸くらいまでの長さになっていた。
「エイミー! 会いたかったよ」
「私も会いたかったわ!」
煤まみれの顔でにっこりと涙を流して笑う。俺も笑顔を返す。
「クリス」
「ああ、アル! って、なんかごつくなったな」
「私が色々改造したのよ」
「エイミーに改造して貰いマシタ」
アルも腕も足も全て、甲冑に分厚い装甲が付いて太くなっている。
「で、さっきの爆発はなんなんだ?」
一旦、エイミーが体を清めてから話を再開する。未だに黒煙は燻ぶっていた。
「あれはちょっと趣味で作ってたものが爆発しただけよ」
爆発しただけって……。それでも危ないだろう。
「じゃあ、タイムマシンは大丈夫なんだな」
「バッチリよ! 見て見なさい」
エイミーが胸を張って答える。おお……。
サッカーボール大のタイムマシンは、今ではエイミーより少し小さい程度の大きさの球体だ。
大分大きくなったな。あのサッカーボール大の鉄の塊がこんなに大きくなって……。
「タイムマシンはかなり大きくなっちゃったけど、タイマーがあって零から千まで針を動かせるようになっているわ」
「これが聖歴を動かせるタイマーか。流石に一日単位では変えれないか」
今はその針は九百五で止まっている。でも、この機能を付けるだけでこんなに大きくなるのだろうか。
「流石にそこまでの精度は難しいわね。でも、移動できる人数が四人にまで増えたのよ! ……その為に大きくなっちゃったんだけどね」
チロリと舌を出してウィンクをしてくる。そんな姿も愛らしく見える。
おお、人数が増えたのか。それなら、大きくなったのも納得だ。
それに、戦力も増やす事が出来る。これは、大きな事だ。
「じゃあ、もう直ぐにでも行けるんだな!」
「そうね。いつでも行けるわ!」
「そうか。なら、まずは何年に飛ぶかだな」
年代を考える。まずは勇者が気になる所だが……。
「そうね。歴史書では、七百四十年から七百五十年の間、魔王軍との戦争をしている。私は、まず七百五十年の勇者に会うべきだと思うわ」
「それはどうしてだ?」
「七百五十年の勇者を見て。問題があるなら、それより過去に行けば良いのよ」
確かにそうだ。勇者の状態の確認は重要だ。
それに勇者は魔王軍との精鋭と戦う事で疲弊してしまった。
その結果によって、魔王を封印するという行動を取ったのだ。
つまり、俺達で魔王軍の武将か知将を討ち取れば、それだけ勇者は楽になる。
それに、なにか問題があるなら、それよりも過去に行けば良いしな。
「分かった! 七百五十年に飛ぼう!」
「ええ!」
「ワカリマシタ」
エイミーがタイマーを七百五十年にセットし、タイムマシンのボタンを押す。
前回聴いた時よりも、激しい機械の起動音が響き渡っている。
「おい! 大丈夫なのか!?」
「男なのに意気地無しね! 来るわよ!」
エイミーの声と共に空間が歪み、水溜まりのような裂け目が出来る。
段々と大きくなるその裂け目は、タイムマシン自身を飲み込みつつ次第に小さくなっていった。
「じゃあ、みんなで行きましょう!」
「ハイ」
「ああ! 世界を救う為に!」
三人で手を繋いでその中に飛び込む。
エイミーと、アルと繋いだ手を離さないようにしっかり握って、青い空間を進んでいく。
遂に、遂に始まるんだ。俺達の戦いが!
世界を! 星を救う戦いが! 始まるんだ!
未来のじいさん達……。父さん、母さん。それに、世界の皆!
俺が救ってみせる!
青い空間の先に光が見えた。
それは次第に大きくなり、俺達を光が包み込んでいった。
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