第9話 初陣

「どこだここは……」


 光の先に出ると、赤や黄色の葉が付いた森の中に出た。

 秋らしく色鮮やかな紅葉が視界に入ってくる。


「一応、場所は私の家なんだけど。この時代にはここに村が無かったみたいね」


 なるほど。場所は同じなのか。だとするならどこに向かえば良いのか。

 出来るなら人の多い場所だな。街か最悪、村でも良い。


「じゃあ、まずは森を抜けよう。それで、人のいる場所を目指すか」

「賛成!」

「ワカリマシタ」


 俺達は森を抜ける為に前進した。

 当然、タイムマシンは置き去りだ。あんな重い物持って行けないからね。


「それにしても、エイミーは戦えるのか?」

「何言ってるのよ? 私だって伊達に時間を消費してたわけじゃないわ。これを見なさい!」


 そう言って、武器を見せつけてくる。

 それは、鉄の筒にシリンダーとグリップの付いた……。


「銃かそれ!?」

「ジュウ? 何それ。これは、私の発明品で魔銃マガンよ!」


 ……凄い。この世界で銃を発明したのか! 


「これはね。この回転式弾倉に魔石を入れてあるの。これ一つ一つに魔法をエンチャントするのよ。そうすると、その魔法が充填されてこの鉄筒から発射されるってものよ」


 エイミーは、「付与エンチャント! 氷塊アイス」と唱えて、シリンダーを回す。

 全ての魔石が青色に輝き始めた。そして、引き金を引いた。

 すると、拳大の氷塊が高速で射出され、木に衝突して突き刺さった。


「どう? 他にも回復魔法をエンチャントして撃てば、遠距離から回復が出来るのよ! ……ま、当たればだけど」


 驚いた。よもや、こんな発明をしていたとは……。

 正直な話、エイミーは戦力として見ていなかったんだけど。これなら充分な戦力だ。


「凄いな! 流石、天才発明家だ」

「えへへー! もっと褒めて良いのよ」

「凄い凄い。それと、次にアルはどんな装備なんだ?」

「まず、腕が飛ぶわ! 後、投網が肩から発射するわ! 最後に堅い!」


 それはロケットパ〇チか。それと、投網ね。これは使い方次第で使えそうだ。

 後、最後の堅いってなんだ。


「背面装甲解除」


 アルの声と共に背中の装甲がズシンと地面に突き刺さった。

 それをアルは右手に持つ。


「なるほど。背面装甲が大楯になるのか」

「そういう事。それに、アルの攻撃は私が指示して攻撃するのよ。アル自身でも出来るけどね」


 メカだからこそだな。人間なら、あんな鉄の装甲を持てないけど、機械ならそれも持てる。

 足が分厚いのも、その盾を持った状態を安定させる為なんだろう。

 動きは鈍重そうだが、足に車輪が付いているから前進する分には、そこまで遅くないのかな。

 良い盾になりそうだ。それに、攻撃の指示はエイミーも出来るのがポイントだ。

 自身はタンクをしつつ攻撃はエイミーが支持する、と。


 アルがタンク。俺がアタッカー。エイミーがアタッカー兼サポートって感じか。

 一応、俺も回復魔法の聖級は使えるから、エイミーが負傷してもなんとかなる。

 案外、安定したパーティーなのかもしれない。


「分かった。みんなの装備も見れたし、先に進もう」

「うん!」

「ワカリマシタ」


 森を前進すると、三十分程で森の中に、木々の生えていない草原地帯に出た。

 そこから、大きな砦が見える。


「あれは、砦だな」

「ええ、ここから近そうよ。行って見ましょう!」


 エイミーの掛け声で砦を目指して先に進む。


 そして、一時間程で砦に着いた。

 砦に着き、門に向かう。見るからに疲れて、目の下に隈が出来ている兵士が尋ねてきた。

 槍を杖代わりにしているように見える。大丈夫か? この兵士。


「お前達も志願兵か?」

「ああ、そうだ」


 とりあえず、無難に答えておく。

 恐らく、砦は戦争の準備中で一人でも戦える者が欲しいのだろう。


「その堅そうな男とお前は良いとしても、女まで戦場に出る事になるとはな……」


 兵士は「死に急ぐなよ」と言って、門を開けた。どうやら、アルは人として認識してくれるみたいだ。

 懸念していた事だったので、一安心だな。

 中はまさに最前線の様相で、多くの兵達は包帯を巻いている者。

 手当を受けている者で溢れかえっていた。


「お前達は志願兵か? なら、砦の大広間で王様から演説があるから聴きに行きな。ここから真っ直ぐだ」


 砦の門前を駆け回っている兵士がそう声を掛けて、急ぎながら消えていった。

 なので、大広間へ向かって前に進んでいく。


 直ぐに、多くの志願兵士が集まる場所に着いた。その数は千人かそれ以上だ。

 こんなにも志願兵がいたのか! いや、徴兵した者もいるのかもしれない。

 待っていると、砦の頂上に王冠を被った。煌びやかに着飾った五十代の男が現れる。


「兵よ! 良く集まってくれた。今、ここが魔王軍との最前線になっている。だが、臆する事はない! この砦は先の戦いでも堕ちた事が無い。今、ここが我ら人類の存続を掛けた一戦である事をしかと胸に刻め! 剣を魂を捧げよ!」


 千人以上による大歓声が巻き起こる。頭が痛くなるような歓声だ。


 だが、そこに鐘の音が何度も響き渡った。誰もが砦の鐘を見ている。


「敵襲ーーーーーーーーー! 敵襲ーーーーーーーーーー!」


 鐘の音は止まることが無く大声と共に広場にまで伝搬する。


「皆の者! 出陣せよ!」


 王の言葉で多くの志願兵が振り返り、門の先へ進んで行った。

 余りの出来事の連続に、俺達は足が止まってしまった。

 その間に志願兵達は前線に向かう。


「俺達も行くぞ!」

「ええ!」

「ワカリマシタ」


 俺達も遅れを取り戻すべく、門の先に向かった。




 外では、もう乱戦になっていた。前線では斬り合いが始まっているのだ。

 状況は見るに拮抗。魔王軍千人と志願兵千人が戦っている。

 しかし、魔王軍はまだ、後方に同じくらいの数の人数が控えている。

 どうやら、二千人程度の数で砦に戦いを挑んできたようだ。

 敵はそれだけこの戦に自信があるのだろう。それだけの精鋭ってことか。


 後ろを見る。門は閉じられていた。

 しかし、門の中の兵士達は、砦の壁上で弓兵部隊が展開されている。

 はっ! 志願兵は捨て駒で自分達は籠城戦って事か。良いご身分だな。

 だが、もう門は閉じられた。逃げ道はない。

 ただ、先に進むのみ。


 俺達は最前線目指して敵を倒しつつ向かう。

 剣戟の音や魔物の咀嚼する音、悲鳴や怒号が辺りで聴こえる。

 もう、敵味方も判断が出来ない程、乱戦になっていた。

 この現状を止めるには敵の親玉を討ち取り、魔王軍を崩す。

 それがこの戦いを止める鍵だ! 


「だりゃあ!」


 魔族の兵士を叩き伏して、先に進む。エイミーもアルに担がれて付いてきている。


 多くの兵士達を掻き分け。遂に、最前線に到着した。

 そこで、後ろから味方の兵士に肩を掴まれた。


「ようこそ、最前線地獄へ」

「ハッ! ここが最前線地獄? 俺には似合わないね!」


 そうさ。俺達は立ち止まれない。ここが地獄だとしても、こんな所でくたばってたまるかよ!

 まだ、旅は始まったばかりなんだからな!


 すると、目の前の魔王軍が後退を始めた。そして、戦場の中心に道が出来る。

 その道を大将であろう。おどろおどろしいローブを着た魔法使いが、骨でできたの馬に乗って駆けて来た。


「人間共よ! ここに四魔将が一。死霊使いトードスゴットが参る! 勇気ある者よ出合え!」


 ここで、四魔将の一人が現れたか! 四魔将って事だから精鋭に違いない。

 討ち取れば敵は総崩れになる可能性が高い。戦いを止められる!

 それに、討ち取れば勇者への手助けにもなる。


「行くぞ! みんな」

「ええ!」

「ハイ」


 俺達は戦場の中の道を走って、死霊使いトードスゴットと相対した。

 それを遠巻きに味方と魔王軍が見ている。


「ほう、三人だけか。……舐められたものだな。良いだろう。我が死霊術を見よ!」


 地面に幾何学模様が浮かび上がり、剣と盾を持ったスケルトンが大地から湧いてくる。


 幾十も沸いてくるスケルトン。その数は恐らく五十体。

 なるほど。こいつ一人で五十体。つまり、小隊規模の戦力を持っているのか。

 戦力はこいつ一人で何体も出せるってことだ。

 それなら、砦に二千人程度で挑んできたのも納得だ。

 こいつを倒せば魔王軍は大幅に戦力を失うだろう。ここで逃す手はない!


石礫ストーンショット! 六展開セットスペル発射シュート!」


 下級魔法の同時発射された六つの石の弾丸は、スケルトンを五体壊す。


「ハッ! セイ!」


 バスタードソードでの二撃で二体の骨を叩き折った。


「アル! チェーンパンチよ!」

「ハイ」


 アルの左手が射出されてスケルトンを三体破壊する。

 射出された腕は高速で鎖を巻き取りつつ腕部に戻る。


付与エンチャント! 石塊ストーン


 エイミーがシリンダーを回転させながら魔石に付与。魔石が土色に発光し、発砲。

 拳大の石塊がスケルトン一体に当たり、倒す。


「もういっちょ! チェーンパンチ!」


 アルの引き戻された腕が再度射出されて四体のスケルトンを粉砕。


石礫ストーンショット! 六展開セットスペル発射シュート!」


 そうして、スケルトンは確実に着実にその数を減らしていく。


 遂に、五十体のスケルトンは全て地面に散らばり、ただの骨となった。


「さぁ、もうスケルトンはいないぜ」

「フッ! この程度と思わないで貰おう。死霊術の真髄はここからだ!」


 再度、地面に幾何学模様が浮かぶと、地面に散らばった骨が宙に浮いて集まり出した。

 それは最初に両足を、胴体を、両腕を、そして頭部を作る。

 ――骨の大巨人。首が上がらない程の大きさだ。余りの大きさに呆然とする。


 その間に骨の大巨人は手を伸ばしてトードスゴットを乗せる。

 そしてトードスゴットが右肩に乗った。


 クソ! 物理的に届かなくなった。

 こうなったら、一発デカいのをお見舞いしてやる!


「アル! タンク任せた!」

「ワカリマシタ。背面装甲解除」


 アルが背面装甲を外して右手に持つ。

 タンクはアルに任せて魔法の詠唱に集中する。全力一歩手前まで、魔力を流し込む。

 体から物凄い脱力感が襲って来た。そして、全身から魔力による発光が光り輝く。


「いけ、巨人よ!」


 骨の大巨人の拳がアルに衝突。骨の砕ける音と煙が巻き起こる。

 煙が消えた。目の前のアルはその拳を大楯で完全に受け止めている。

 良くやったアル! じゃあ、俺の最大級の魔法をお見舞いしてやるぜ!


「時来たれり、相対す者に衝撃を砕け降り注げ! 岩石豪雨ロックレイン!」


 土の聖級魔法を詠唱。膨大な魔力で強化された魔法。

 大空に幾百モノ幾何学模様が展開。

 そして、その全てから岩石の豪雨が骨の大巨人とトードスゴットに、その後ろにいる魔王軍後方部隊にも降り注ぐ。


「馬鹿な! 聖級魔法だと!? それにこの魔力量!」


 トードスゴットは頭上に展開された膨大な魔力と術式に恐れ、その怯えている。


「アル! ショルダーネット発射!」

「ハイ」


 アルの肩から投網が発射されて、トードスゴットに巻き付いた。


「ぐあ! 何だこれは! ハッ! 止めろ。止めろおおおおおおおおおおおおおおおおおお」


 投網に引っかかったトードスゴットは、頭上を見て叫ぶ。

 だが、もう遅い。

 大地に轟音を轟かせながら、骨の巨人諸共トードスゴットを岩石が圧し潰した。

 そして、魔王軍後方部隊からも絶叫と叫び声が轟いた。血飛沫が前方で撒き散らされる。



 岩石の雨が降り止むと、戦場の誰もが沈黙した。口を出す事が出来なかった。

 その魔法が起こした戦場の凄惨さに。


「四魔将が一、死霊使いトードスゴット討ち取ったりぃ!」


 俺は雄たけびを上げながら叫ぶ。

 すると、後ろから歓声がどんどんと湧いてくる。

 やった。やったぞ! 俺達が倒したんだ!


 勝鬨が戦場に轟いた。

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