第9話 生徒会にお世話になろう
「・・・・・・・・というわけでようこそ生徒会へ!」
「いやいやいやいや!何が、というわけなんですか!校内放送で呼び出しといてようこそもおかしいですよ。」
目の前にいるのはわが校の生徒会長である。昨日まで話したこともなかったがほとんどの生徒がもっているイメージは、品行方正で正しきを正しきといえる人であるはずだ。決して私用で校内放送を使うことなんてなく、無理やり人を呼び出して生徒会に勧誘するような人ではない。
「まあ来てもらえてよかったよ。さすがだね三上君、書記君が言うだけあるよ。昨日あんな目にあってたのに来てくれたなんて。」
わかっているのであれば呼ばないでほしい。
「でも昨日言ったことは本当だから、生徒会入ってくれないかな。」
「だから入れませんって、俺忙しいので」
今日だって休み時間を利用して新入生に色んな部を紹介したりしてたのに。今だって貴重ともいえる昼休みをつぶして来ている。
「まあまあとりあえず、せっかく来てくれたんだから少し体験してみない、三上君は人の役に立つことが好きみたいだからきっと向いてると思うんだけど」
確かに人の役に立ちたいと思って行動していることが多いが、生徒会に入ってしまえば今やっていることよりも生徒会業務を優先しなければいけなくなってしまう。
「もしかしたら少し勘違いしていることがあるかもしれないな、生徒会に入ったら他のことができないのかな?とか」
「・・・え?」
顔にでも出てしまったのだろうか、ほとんど考えを読まれてしまった。
「そんなことじゃないかなと思ってね。だからこその体験活動なんだよ。実際にやってみてくれればわかると思うんだよね。」
すでに俺の考えも、この昼休みの時間の使い方も考えられていたのだろう。段取りよく事が進んでいってしまう。
「生徒会というのは確かに普段の業務もあるよ。でも君がみんなの望みをかなえたいと思うのと同じように私たちもそう思ってるんだよ。」
そう言うとそばに置いてあった段ボール箱をさかさまにひっくり返した。
――ササササッ
軽く数えて20通ほどだろうか、目安箱から投書が流れ出てくる。
「君も知っていると思うが生徒会では目安箱を設置して生徒からの要望を確認しているんだよ。もちろん全部が全部叶えられるものじゃないけど、でもみんなの役に立ちたいと思える君に手伝ってほしいんだけどな。」
俺は適当に三通ほど適当にとって読んでみた。
①好きな人ができましたがどう仲良くなったらいいかわかりません。これからどうしたらいいでしょうか。助けてください。
恋愛相談か、生徒会にもこういう依頼はあるんだな。俺も去年クラスの奴らで二組カップル成立させたからもしかしたら力になれるかもしれないな。
②男子の体育館の使い方が雑で部活に集中できません。注意しても直らないので生徒会からも注意してもらえませんか
部活の問題か、どうやらバスケットボール部みたいだ。こういうのは確かに生徒会から直接言ってもらった方がきくだろう。
③気になる男子生徒いて勧誘しているんですけど興味をもってもらえません。拘束してもダメだったので次は監禁した方がいいでしょうか?
うん、昨日の記憶がよみがえる。ていうか絶対あの人だろう、え、なに俺次は監禁されるの?やば、本当に警戒しておこう。
「まあわかりました。確かに生徒会にいた方が多くの生徒の手伝いができるんでしょうね。まあ何個か俺が手伝えそうなものもありましたし。」
「そうでしょう、それに君にやってほしい庶務の仕事は基本的にはその目安箱の解決だからすぐにでもやってほしかったりするんだけど。」
紅葉川先輩はおそらく庶務の席であろう机を簡単に片づけながら、俺を座らせるように促してくる。でも、
「ごめんなさい、俺はやっぱり生徒会には入れないですね。」
「えっ・・・・・。」
片付けていた手が完全に静止してしまった。いや違う、身体ごと止まっている。顔の表情も固まったまま微動だにしない。
「すみません、なんかわざわざ俺のために席用意しようとしてたところで悪いんですけど、俺は生徒会には入らないです。」
「・・・・・・・・・理由を聞いてもいいかな。」
「俺は聖人じゃないんで、生徒全体からの願いなんて全部聞けないんですよ。もちろんみんなが幸せになれたらいいなんて思ったりもしますけど、俺は俺の手の届くところだけでも手一杯なんですよ。」
「は、はぁ」
「あと俺は俺の自己満足のためにやってるようなものなので、顔も知らない誰かのために頑張るってことはちょっと想像できないんですよね。わざわざ俺に頼みに来てくれて、最後にありがとうって言われるために一緒に頑張りたいなって。」
誰かにこんな真面目な話をしたことがないので少し照れくさくなってしまう。
「・・・・・・・・・なるほどね。」
難しい顔をしたまま、それでも何かを納得したようにうなずいた後で、普段みんなが見慣れている紅葉川先輩の顔に戻っていく。
「そっか、まあ確かに生徒会は裏方が多いからね、面と向かってありがとうなんてなかなか言ってもらえないかもね。私はやりたくてやってるけど、確かに義務感だけでやってる子もいるかもしれないし。」
キーンコーンカーンコーン
そのあと二人とも黙ったまま時間が過ぎていき、5限目の予鈴が鳴る。
「今日はなんだかんだ招いてもらってありがとうございました。昨日はなんかうやむやなまま逃げちゃったのでよくわからなかったですけど、こういう機会があってよかったです。では、」
まあきりもよく、チャイムもなったことだしこのまま教室に戻ろうとしたところでふいに袖が掴まれる。もちろんこの生徒会室には俺と紅葉川先輩しかいないわけで掴んでいるのは誰かは分かっているのだけれど…。
「ふふっ」
さっきまでとは少し違った雰囲気をまとっている。あとこんな感じの顔はどこかで見たことがあるような・・・
「面と向かってありがとうって言われたいってことで生徒会断ったってことでいいんだよね?」
声もさっきまでよりも少し暗い感じになっている。あ、思い出した、この顔は木乃美がいいこと思いついた時の顔だ。あいつのいいことは俺にとっていいことだった記憶がないから、この顔見たら逃げ出そうと思う時の顔だ。
「それなら私がありがとうって言ってあげるから、私からの依頼として生徒会に入ってね。」
今日一番の笑みを向けて俺にとっては最悪な一言を放つ。
ここで俺がとれる選択肢は一つしかない。
サササッ
「ごめんなさい、今なんて言ったか聞こえませんでした。」
俺は掴まれていたブレザーを犠牲に捧げ、生徒会室をあとにした。
「え、あ、ちょっと、待ちなさい!」
「失礼しました。」
結局俺の意見は分かってくれたらしく、先輩は放課後すぐにブレザーを返しに来てくれた。最後に、
「まあ私からならいつでもありがとうって言ってあげれるから、手伝ってほしくなったらまた来るね。」
なんて言葉を残していった。
なんだかんだで自己満足でやってる俺よりもみんなのために頑張れる先輩の方が お世話好きかもしれない
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というわけで9話読んでくれた人はありがとうございます。
ラブコメ詐欺をなんかいまだに継続しちゃってる気がしてならないんですけど、ほんとにそろそろ始めたいと思ってるんですけどね~。m(__)m
ちなみに余談ですが、紅葉川先輩はヒロインではない予定なので、この話で先輩好きになってくれた人はごめんなさい。
世界一のお世話好き 田西 煮干 @niboshi-tanishi
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