第8話 妹をお世話しよう2


 今日は一日でいつもの倍くらい疲れた。新しく一学期が始まったばかりというのもあるが、今まで同級生だけだった頼まれごとが学校全体に広がってしまったためだろう。いろんな部活やら生徒会やら少々キャパオーバーである。


「ただいま~」

 ようやく家で一息つける・・・

「あ、お兄お帰り~、ご飯まだ?」

「あれ、今日母さんが夕飯作ってくれるんじゃなかったっけ?」

「なんか急患が来たから、早めに出勤しなくちゃいけなくなったって言って30分前くらいに出ていったよ。」

 帰ってきてから休む時間などはなく、おなかをすかせた妹のために夕飯を作らなければならなくなった。


仕方ないから料理するか、といつもなら思うのだが、実はあのまま帰ってきてしまったため無用心にも財布もおいてきてしまったため買い物が出来なかった。それゆえもちろん材料がなく、手の込んだものなんて作れるはずもない

というわけでうちではめったに使うことのないインスタント袋麺を取り出す。


「悪い、今日買い物が出来なかったからラーメンになるけどいいか?」

「えー。」

「今から買い物行ってもいいけど遅くなっちゃうけど」

「もー、しょうがないな、明日はハンバーグね!」

何がしょうがないのかいまいちピンとこないが、これ以上木乃美の理不尽に付き合うのも少しだけ面倒なので、ラーメンを作り始めてしまう。


 インスタントとはいえそのまま出すわけではない。朝食用に少し残っていたベーコンを軽く焼いてから乗せ、味噌ラーメンだったのでもやしをとりあえずいっぱい乗せておく。安いのに何気に栄養価も高いので買い物をする身としてはいつでも大体冷蔵庫に入っている。最後に半熟卵でも乗せておけば、まあ木乃美も満足してくれるだろう。


「はい、味噌ラーメンな。」

「ようやく来た~、もう倒れそうだったよ。」

 そんな軽い冗談を言いながら、すでに箸とレンゲだけはしっかりと準備されており、俺が席に着いた瞬間には、

「「いただきまーす」」

 と二人で夕食を食べ始めた。


「お兄の料理はやっぱおいしいねー」

 いつも言ってくれるのだけれど、簡単なものでも少し手を加えているので褒められると作ってよかったと思える。むしろ木乃美のこの言葉を聞くために作ったといっても過言ではない。


「ところでお兄、」

 ラーメンをすすりながら、おもむろに木乃美が口を開く。

「なんで今日手ぶらで自転車置いて帰ってきたの?」

 そりゃぁ気になるよね、普段チャリで行ってるやつが雨でもないのに歩いて帰る必要がない。まあ勢いに任せて学校出たら、気づいた時には最終下校時刻すぎてるし、そこから戻って鉢合わせしたらなんて考えたら戻る気になれなかっただけなのだが。

「まあ学校でいろいろあったんだよ。」

「いろいろってなに?お兄は無駄に頑張りすぎるから変なことに巻き込まれてそうだけど。」

 そんな風に思ってくれているなら少し位は兄をいたわるべきではないか、と思っても口に出してはいけない。すでに日課の消費をしているだけなので今日はそこまで大変に感じているわけではないから。

「大丈夫だから気にするなよ。」

「もう、お兄は私のお世話だけしてればいいんだからね。」

「はいはい」

 本気にしていたら疲れてしまうため大体いつもこういう冗談は受け流している。




「木乃美~、風呂沸いたから先入っといて」

 夕飯を食べ終わってからしばらくして自室に戻っていた木乃美に声をかける。

 ドアが開き、中から木乃美が出てくる。

「了解~、お兄は入らなくていいの?」

「今日はお前の部屋掃除させられる約束だっただろ、しなくていいなら俺が先入るけど。」

 この前の情報提供だけで掃除が代償になっていた。まあそこまで汚いわけではない、なぜなら俺がほぼ毎朝起こす際にこの部屋に入っているから気が付いたものはすぐに掃除してしまうためである。

「ダメダメ!じゃあ掃除よろしく、お風呂入っちゃうねー。」

 約束を思い出して足早に階段を駆け下りていく。

 俺の家はリビングやらキッチンやらは1階に、俺の部屋と木乃美の部屋は2階にある。そのためご飯を食べ終わったらそのまま1階にいてテレビでも見ててくれればいいのだが、木乃美は自分の部屋にいつも帰ってしまう。何をしているのかは知らないがそのせいでいつもこうやって2階まで呼びに来なければいけないのだ。


「あ、お兄ー、机の中だけは絶対にいじらないでね!いじったら嫌いになるから!」

 これもいつものことで机の中は絶対不可侵条約が結ばれている。俺は木乃美に嫌われたら生きていける気がしないので触ったことはないが、まあ何か大事なものが入っているのだろう。



 脱ぎ散らかされた服をたたみ直し、目に見えたゴミだけとって掃除機をかけたところであることに気づいた。ベットの上に木乃美のものと思われるバスタオルがあったのである。毛布と一緒になってしまっているので気づかなかったのだろう。風呂に入ってから15分ほど経ってしまっているが、木乃美はいつも30分くらい入っている。今のうちにそっと置きに行くか。


「木乃美~、バスタオル忘れてるぞ」

 一応出ている可能性も考え洗面所のドアを開ける前に声をかけたが返事がないのでまだ風呂場の中にいるようだ。


ガラガラガラ・・・


 スライド式のドアを開けるとそこには、生まれたままの格好で顔をバスタオルでうずめている人の姿があった。


「は?」「へぁ⁉」


 ドアが開いた音でこちらに気づいたのか今まで聞いたこともないような奇声を発していたのはもちろん、残念ながら木乃美だった。


「ダメェェーーー」

ドン!ガラガラ、ピシャン!

 俺が押し出された後にドアが思い切り閉められた。


「木乃美、それ俺のバスタオルだよな・・・。」 

 妹の裸を見たことよりも気になったことを聞く。

「いや、エーっと、そう、バスタオル忘れちゃったから仕方なくお兄の使っちゃったんだよ、それよりお兄私の裸見たでしょ!そっちの方が罪重いよ!」

 まさかの逆ギレである。俺声かけたんだけど…。顔全体にバスタオルをくるんでいたから聞こえなかったのだろうか、いやどんな拭き方だよ、とかつっこみたいところだらけなのだけれど、

ガラ。

少しだけドアが開き、手だけが伸びてくる。

「ほら、私のバスタオル持ってきてくれたんでしょ!ほら掃除に戻って、早く!」

 もうこうなってしまっては拗ねてしまうのでどうしようもない。



 俺は何も見なかったことにして、この後木乃美の機嫌を取ることに尽力した。その結果なんとか普通にしゃべってくれた。俺が風呂から出た時にあったのは少し湿ったバスタオルだったのが地味におぉ、ってなったりしてもそんなことを口にしてはいけない。



            あれ?俺の妹ってけっこうやばいやつだった⁉



____________________________________


ということで第8話でした、読んでくれた人ありがとうございます。

少し残念な妹にしたかっただけなのにいつの間にかかなり残念な奴になってしまいました。こんな予定じゃなかったんだけどな。


少し期間がいつもより空きましたが、新しい話考えてました。あと少ししたら出そうと思ってるのでもしよかったらよろしくです。


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