第7話 美術部?をお世話しよう


 いろいろあってようやく美術室のドアを開ける。

「失礼しま、っえ!?」

 みんなが思う美術部がどんなものかは知らないが、一般的には静かに絵を描いていたり、陶芸作品なんかを作っていたりするものなはずだろう。断じて教室に入った瞬間に視界を奪われ、無理やり座らされ、拘束されるような部活ではないはずだと思う。


「なんですかっ、・・・ふが」

 ついには口までふさがれてしまった。タオルのようなものを口元から一周させられる。ここまで教室に入ってからわずか5秒ほどの出来事である。よける暇もなければ、しゃべらせてもくれないとは、なんて恐ろしい部活なのだろうか、美術部。


「ふいはへん、はんえほんなほほふるんでふか?(すみません、なんでこんなことするんですか?)」

「ふふふっ、かわいい声で鳴いても何言ってるかわからないわよ。」

 背中がぞくっとするような声がはなたれる。一瞬の出来事だったのでどんな人がこんなことをしたのか見えなかったが、女の人の声である。聞いたこともない声だったので、知り合いではないようだ。


「はい、じゃあ手を出してね。乱暴にすると危ないから、ゆっくり」

 恐怖に負けて、言われるがままに手を出すと何かを握らされた。これは・・・どうやらペンのようだ。触った感じではどこにでもありそうなノック式のボールペンだろうか。ビリビリペンでドッキリ!とかで終わってくれればよかったのだが。


ガタガタガタッ

「!?」

 音だけしか聞こえないため目の前で何が起きているかわからないため、物音ひとつでビビってしまう。

「はい、じゃあ次に目の前に机用意したから、ここにあなたの名前を書いてくれるかな。」

「はひ?」

「全然大丈夫、汚くても読めればオッケーだから、ふふふ」

 なにか怪しい契約でもさせられているのだろうか。さすがにいきなり名前を書くだけでいいからなんて胡散臭すぎてためらわれる。


「はんふぁいふぇふほ(犯罪ですよ)」

「う~ん、ごめんねちょっと何言ってるのかわからなかったから口だけは自由にさせてあげるね、でも大声出したりしたら締めあげちゃうから気を付けてね♪」

 怖すぎる。なんだ締めあげちゃうって、俺どうなっちゃうの。

「はーっ、あのなんでこんなことするんですか?」

 口だけは自由に解放されたので何とか逃げる隙を作るためにも話しかけていく。

「ずっと前からあなたのこと気になってたからかな。」

 先ほどから少し甘えたような声でしゃべっているためずっと背中の寒気がひかない。まるで子供として見下ろされているような気分になる。しかも目隠ししながら「あなたのこと気になってたの」なんて発言は怖すぎる。それはもっと別の場所、別のシチュエーションでやってもらいたいものだ。


「いや、そういうことじゃなくてですね、」

「もう、名前書くのが嫌なら拇印でもいいよ、はい朱肉」

「へ?」

 不意打ちで片腕がもっていかれて人差し指に朱肉がついたのだろう、何かベターっとしたものが手についてしまった。

「はい、あとは押すだけ~」

 もう一度同じ方へ引っ張られたが今度は寸前のところで耐えることができた。とはいっても向こうも放してくれていないため手が中途半端なところで止まってしまっている状態なのだけれど。

「ほら、もうそのまま下ろすだけなんだから、んー、これ押すまで帰れないから」

「いや、困りますって、どこの誰かも知らないですけど、普通に犯罪ですからね、美術室で何やってるんですか、放してくださいよ。」

 視界が開けたら借金を背負っていたなんてことにはなりたくはないんので必死に抵抗する。


「うん?美術室の使用許可なんて出してないはずだぞ。」

 廊下の方から聞いたことのある声がした。俺もしゃべったことはない人だが全校生徒がみな知っている人物だろう。

「誰かいるのか?いるなら速やかに下校するように、最終下校時刻10分前だぞ。」

「助けっ、ふがふが」

 声を出した瞬間にタオルを思いっきり口に入れられてしまったが、その緊迫感は伝わってくれたらしく、

バンッ!!

「どうした!なにごとだ!」

 慌ててドアを開けて入ってきてくれた。さすが生徒の見本となる人である。きっとこうしてこれまでも生徒を救ってきたのだろう、だから早く助けて。

「・・・・・・・・」

 美術室はかつての静寂を取り戻す。俺は視界が奪われているのでわからないが、ドアを開けたら拘束された男子生徒と謎の女生徒なんてカオスな場面、想像もできないだろう。


「え?ほんとに何やってるのあなたたち?」

 ようやく口を開けたのだろう。だがいまだに状況が呑み込めずに立ち尽くしていることはその口ぶりからして間違いないが。

「ふぁふふぇてふははい!(助けてください)」

 最後の願いをこめて叫ぶ、どうかこの思い伝わってくれ。


「なにって見ればわかるでしょ、・・・勧誘活動よ。」

 え?これって勧誘活動だったの?ただただずっと脅迫されてたんですけど。

「いやいくらあなたでもここまでしちゃだめじゃない、犯罪すれすれよ。」

 え?これは犯罪にはならないんですか?めっちゃ怖かったですけど。

「わかった、最終下校時刻には帰るから、あと少しだけ、おとすから」

 え?この状況見られてまだ続けるんですか?ってあぶねぇ、また不意打ちを食らうところだった。

チッ


「はい、ダメでした、もう終わりよ弥生。あなたがこんなに熱心になるのは珍しいけれどダメなものはダメ。」

「ちぇー、さっさと押してくれれば済む話だったのに、ねえ美鈴私が名前書いてもばれないかな。」

「それ私に直接言った時点でダメに決まってるでしょ!」

 ようやく目も解放されて久しぶりに光を感じた気分になっていたが、目の前では謎の会話が続けられていた。

 一人は全校生徒が知っているであろう生徒会長の紅葉川美鈴先輩だ。きりっと整った顔立ちにきっぱりとした物言いでこの学校に畏れるものは何もないといったような凛々しさが男子だけでなく女子のあこがれにもなっている。先生からの信頼も厚く、THE生徒会長という存在である。今目を解放してくれたのもこの人である。

 もう一人は顔も名前も知らない存在だった。紅葉川先輩と仲良くしゃべっているので先輩なのだろうが、俺のことを気になっているという謎発言をしている先輩なので信用ならない。黒髪ショートに黒縁メガネは知性も感じさせるが、さっきまでのことを踏まえるとただのどSにしか思えない。


「たまにやる気を見せたかと思えば、こんなことをしているなんて。でホントに何をしてたの?」

「だから勧誘だって。その子が新しい部員だから入部届を書いてもらってただけだよ。」


 目は解放されたが、まだ椅子からの拘束は解かれていない。それもこれもなぜか今度は生徒会長が俺の顔をまじまじと見ているからである。正直こんな美人に近距離で迫られるだけで恥ずかしいというのに、何かを考えたままなかなか動いてくれない。

「どこかで見たことがある顔だな。えーっと・・・」

 どうやら俺のことをどこかで知ったようだが何も今考えこまなくてもいいと思いますよ、だから早く椅子から解放してください。


「その子は三上好太君、5月10日生まれの2―BでO型。あとハンド部の助っ人をしてたって子よ。」

「あぁ!君が三上君か、道理で見たことがある顔だと思った。後輩があいている庶務におすすめの人がいるって推薦されてた子じゃないか。」

 早く解放ってえ?いやそろそろ状況がおかしいことに気が付いて。椅子に縛られている人を見捨てるような生徒会長ではないでしょ。

「三上君、よかったら生徒会に入らないかい。君の実績は生徒会の後輩の子からしっかり聞いているから君さえよければすぐにでも手伝ってほしいのだけれど。」

「・・・・・・・・・」

「・・・・・・・・・」


「いやいやいやいや、まずこの状況をどうにかしましょうよ。早くほどいてくださいよ。」

「そうだよ、おかしいでしょ、私が勧誘してたんだから生徒会なんて入るわけないでしょ。あとから横取りしないでよね。」

 急な生徒会への勧誘に対して、方向は違うが二人から反対意見が飛ぶ。

「てかそもそもあなた誰ですか?なんで俺の情報知ってるんですか?」

「私はボランティア部部長児玉弥生ね、これからは同じ部活仲間としてよろしくね、で君の情報は前から気になってたって言ったでしょ普通に調べただけだよ。」

「一応私も、生徒会長を務めている紅葉川美鈴だ、これから生徒会役員としてよろしくね。」

 なぜだろう、俺は勝手に二つもの集まりに参加させられているのだろうか。

「待って美鈴、三上君はボランティア部で忙しいから生徒会なんて無理だよ。」

 目が笑っていない、おそらく俺を拘束している間もあんな顔をしていたのだろう。女子って怖い。

「弥生こそ、私のおかげでボランティア部が存続しているのだからこれくらいは譲ってもらわないと困るぞ。」

 

 よし、あともう少し。


「それは生徒会の横暴だよ、本人の意思を無視して入れるなんてどうかしてるよ。」

   ・・・ん?

「それはお互い様だろう、弥生の持ってる入部届には名前も印もないが」


 さて静かに・・・


「だったら生徒会にも入れないじゃないの!」


「いやそもそもどちらにも俺は入るつもりはないので!」

 せっかく椅子の拘束が少し緩んでいたのを見て自分で脱出し、静かに帰ろうと思っていたのだが、突っ込みどころ満載の会話に我慢できなくなり、言ってしまった。二人とも驚いた表情でこちらを見ているし。それでももう入り口までこれたのであとはダッシュで逃げるだけだ。


「上級生の話を聞かずに逃げるとは、少し教えることがありそうだな。」

「やっぱりもう一回縛りなおすしかないか。」

 二人とも物騒なことを言いながらじりじりと詰め寄ってくるが、逃げ道はすでに確保していたので、

「失礼しました!」

 とだけ言ってダッシュで出ていった。振り返ることはなく、そのまま校舎を出て、家に向かうことにした。荷物?命には代えられない。残念だけど見捨てるしかないようだ。


 後でわかったことだがこの高校に現在美術部はないらしい。それをしっかり把握しておけばあんなことにはならなかったのになんて後悔した。



      ちょっとお世話したくない相手というのができました。


____________________________________


どうも、読んでくれた人はありがとうございます!

本当に読んでくれるだけでありがたいです。

今回はコメディ要素強めなやつなので地の文も少し変えてみました。変な感じになってしまっていたらすみません。

なるはやで作るので、次の話もよかったらお願いします。


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