第6話 転校生をお世話しよう!
美術室の前で考え込んだようになっている金髪碧眼の美少女は教室にいるときと違ってオールパーフェクトな雰囲気がなくなっていた。
あ、もしかしたら美術部に興味があるのかもしれない、それで入ってみようか悩んでいるのだろう。もしそうなら俺がここで少し背中を押してあげるだけでどちらにも得になるのでは、俺も新入生を探す手間も省けて一石三鳥だ。
「美雲さん、もしかしてびじゅ」
「うひゃっ!!」
声をかただけでまるで幽霊を見るような反応をされてしまった。迷惑だっただろうか?美雲さんは俺のそんな表情を見て慌てながら、
「あ、その、ゴメンなさい、えーっと同じクラスの…」
まだ転校してきて一日目なのだクラスの人とはいえ名前を覚えられていなくても当然だろう。まあ俺は今年同級生がどこのクラスに行ったとかその辺は一日で覚えちゃったけれど。
「あぁ俺は三上ね、ゆっくりでいいから覚えてくれると嬉しいな。それよりもこんなところでどうしたの?もしかしてびじゅ」
「そーデス、ここはどこですか?」
美術部という単語はどうやら最後まで言わせてもらえないらしい。
それよりも記憶喪失にでもなってしまったかのような質問が来たけれど、ここが美術室であることも分かっていないことを踏まえるとどうやら美術室に入部しに来たわけではないようだ。
「大丈夫、頭でも打った?ここは学校だよ。」
「バカにしないでください、そういうことじゃないデスヨ。」
心配したつもりなのに怒られてしまった。まあ多少ふざけてはいたけれど。
「そ、その、ワタシ教室に戻りタイのですけど、……迷ってしまいまして」
なるほど。どれも仕方がないことだろう。そんな複雑な形をしている校舎というわけでも何でもないが、まだどこに何の教室があるかは把握できていなくても当然だ。実際目指すべき教室は2階で階数も間違えてしまっているが、それもまあ、仕方ないことだ・・・たぶん。
「それならここが三階の美術室前になるから、今俺が上ってきたそこの階段を下りて右に曲がってから3つ目の教室だよ。」
さすがに目の前に着けば今日1日居た場所だから気づくだろうけど、だいぶわかりやすく説明できただろう。まあそもそもそんなに離れた場所ではないのだから校舎ぐるぐるしてればいつかつく気もするが。
「ありがとうございマス、友人を待たせているのでこれで失礼しマス。」
おそらく友達と一緒に帰る約束でもしていたのだろう、美雲さんはお礼だけ言うと、すたすたと歩きだしていった。役に立てたのならよかった、やっぱりパーフェクトヒューマン相手でも助けになることもあるんだな、なんて考えてようやくもともとの予定である美術室に入ろうとしたとき、事件は起きた・・・。
「・・・ええぇぇぇぇぇぇ!!」
いや別にサスペンスが始まったわけではない。美術室のドアを開けたらそこには血だらけの死体がなんてことミステリー漫画でよく起きるようなことでは全くないのだけれど、謎のレベルは同レベルかもしれない。
そこには、俺が説明したはずのすぐそこの階段をきれいにスルーして直進していく美雲さんの姿だった。
美術部をどう手助けするのかを考えていたはずなのに、そんなことはすべて吹き飛んでしまった。
「ちょ、ちょっと美雲さーん!どこ行くの?」
あまりの驚きに声が大きくなってしまったが周りに人影もないため今は気にしない。美雲さんは、どうかしたんですか?みたいな表情をしながらこちらを振り返ってくれたが、階段を通り過ぎていることには気づいていないようだった。俺はすぐさま美雲さんの方へ駆け寄った。
「美雲さん、そっちじゃない。階段は今通り過ぎたとこ。」
「はい・・・・、え?」
美雲さんは今歩いてきた方向にある階段を見つけたような視線を送ると、顔がものすごいスピードで赤く染まっていく。あ、両手で顔を隠しちゃった、でもそんな仕草もやっぱりやる人がやればかわいい仕草である。近所のおばさんがふざけてやることがあったけど悲しくなったもんな、みんな。
「もしかして美雲さんってドジだったりするの?」
恥ずかしがってしまっている美雲さんに対して場を少しでも和ませようと軽い感じで話しかけてみた。ほら、ちょっとしたドジっていうのは女子にとってはアピールポイントだったりする人もいるし、
「いや、そんなことはないんデスけど・・・」
「じゃあ、方向音痴だったり?」
「ひゃうぅぅ」
しりすぼみに声が小さくなっていく。どうやらこれが当たりらしい。果たして目の前の階段を通り過ぎるということが方向音痴で済まされるかどうかはわからないが、これ以上突っ込むと美雲さんが逃げ出してしまいそうなので、もうあまり突っ込まないようにしよう。
「実はワタシ、死ぬほど方向音痴で…」
これ以上一人で校舎を歩かせるのは危険だと感じた俺は案内することにした。また迷われても大変だし。
「まあ多少の苦手分野なんて誰にでもあるから大丈夫だよ。」
「ホントは日本には両親と一緒に戻ってくるハズだったんデスけど、用事ができてしまったので、学校が始まるからってワタシだけで戻ってきたんです。そしたら日本に着いてから自分の家に行くまで迷ってしまって」
方向音痴の人は大変だろう、昔住んでいたとはいえ、ほとんど新しい場所を一人で見つけなければいけないなんてなったら、
「家に着くまで1週間カカってしまいました。それで始業式の日にも間に合わなくなっちゃいまシテ。」
なんで始業式の日に先生たちが慌てていたのか理解できた。そりゃもともと始業式の日から登校しますって言ってた人が何の連絡もつかないまま来てないなんて大事故だろう。何かあったのではないかって会議レベルのことだ。
「1週間もよく過ごせたね。」
「ハイ、向こうでもよくホテルとか泊まらせてもらってマシタし、お金だけは余分に渡されていたので。」
ものすごいお金持ちなのだろうか。1週間ホテルなんていくらかかるか分かったもんじゃない。
「おととい自分の家につきまして、昨日は昨日で学校までの道で迷ってマシて、ついたときは夕陽がきれいデシタ。」
信じられないほどの方向音痴だった。どうやら最初の日だからとかではなく、生まれつきのものらしい。
「でもそれなら友達と一緒に来てもらえばよかったんじゃない、その人たちも心配してるでしょ。」
「教室に筆箱を忘れてしまっただけなのデ、一人でも行けるカナ、ナンて」
そうこうしているうちに教室にたどり着いた。美雲さんは自分の机から筆箱を見つけるとすぐに俺がいるドアのところまで戻ってきた。
「ごめんなさい、お待たせデス。あとこのワタシが方向音痴だってこと皆さんには内緒にしておいて欲しいんデスケド」
「え、でも先に言っといちゃった方がみんなが案内してくれると思うけど。」
今の美雲さんにお願いされて断れる人なんてほとんどいないと思う。みどりみたいなやつだけだろう。
「その~、アメリカでいじられていたのがイヤで、こっちではバレていじられたくないんデス。」
本人がそういうのであれば俺としてはそれを手助けするだけのことだ。望んでいないことを無理にやろうとするほどおせっかいではない。
「わかったよ、じゃあもう迷わないように気を付けてね。」
そう言って振り返り、ようやく美術室へ向かえると思った矢先、後ろから袖が引っ張られた。
「あの、その、」
「うん、大丈夫だよ、俺口は堅い方だから、絶対に誰にも言わないから」
「イエ、そうではなくてデスね、あの~、校門まで送ってもらえマセンカ?」
一度通っただけでは道はそうそう覚えられないらしい。さっきクラスメイト達と一回通った道をたどればいいのだけれど、恐るべし極度の方向音痴。
「そうだね、また迷っちゃったら大変だもんね。」
美雲さんもコクコクとうなずいている。本人も高確率で迷うことを自覚しているらしい。今までの生活も大変だったのだろうが、できるならもっと人を頼った方がいいと思う。
「もしほかの人に話せないなら俺を頼りにしてよ。」
「エッ、」
下心もないままに、心からの自分の言葉がこぼれてしまった。
「あ、いや、俺にはもうばれっちゃってることだから話しやすいかなと思って。困ったときにはいつでも頼ってくれていいから。」
同級生からはすでに便利屋さんとして認識されてしまっているっぽいのでこんなことを言ってもみんな軽く「ありがと」というだけだが、今日が初登校の彼女には不審に受け止められてしまうのではと途中で気づき、早口になってしまった。
はじめは驚いたまま固まってしまっていた美雲さんだったが、俺が慌てている様子を見て、やわらかい表情に戻り、
「フフッ、三上さんって朝先生が言ってたようにへんな人なんデスね。」
どうやら彼女の中での俺への評価がへんな人になってしまったようだが、表情を見るに嫌われたわけではなさそうなので少しほっとした。
「じゃあもしまたワタシが迷ってしまったら、そのときはヨロシクデス。」
そんな会話をしてようやく校舎を出た。そこには待ちくたびれたような顔をするクラスメイトの姿があった。
「では、ありがとうございマシタ、また明日デス。」
「うん、じゃあね」
これにて彼女を送り届けるミッションはようやく終わりを告げた。
「遅かったねー、なんかあったの?」
「イエ、忘れ物探すのに手間取ってシマッテ、スミマセンデシタ。」
少し会話が聞こえたが、特に不審にも思われていないみたいなのできっと大丈夫だろう。方向音痴もよくなれた場所ならなくなるはずなので、早く学校に慣れてしまえば、友達にばれることはないだろう。
さて、ほとんど頭の隅で消えかかってしまっていたが、そろそろ美術室へ向かわなければ、まあ何時に行きますとかは連絡してないのであまり気にしていないが。
パーフェクトヒューマンも困りごとはあるらしい。
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今回はいつもよりも長くなってしまいました。
まあでもようやくラブコメっぽさがでてきたので良しとしてください。
残念ながら文字数まで考慮して書けないので、先に謝っておきます、
ごめんなさいm(__)m。
呼んでくれた皆さん、ありがとうございます。
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