第3話 幼馴染をお世話しよう
ギリギリで焦っている妹を送り出しようやく自分も出る準備をする。ほとんどは昨日のうちに終わらせているが最終チェックやら弁当を詰め込むやら、食後のコーヒーやらいろいろとゆっくりする。
中学も高校も距離はあまり変わらないのだが、中学では自転車通学が許可されていないので必然的に木乃美が先に出ることになる。まあギリギリの妹なのでいつもは俺と同じ時間くらいに出てたりもするのだが。
コーヒーを飲んだカップをササっと洗い、戸締りを確認して家を出る。これでようやく朝の日課が終了。看護師をしている母親が昨日の夜勤から帰ってきて今はぐっすり眠っていたので、しっかり戸締りを忘れない。いつ起きるかわからないから念のためである。
よくあるラノベでは単身赴任の父親に母親がついていくなんてものがよくあるけれど、現実ではそんなことはほとんどないだろう、子供を置き去りにする両親なんて普通に考えれば最低な人たちであると思う。
それでもうちの両親も共働きをしているため家族全員がそろうという場面はめったにない。妹と二人の夕飯というものはすでに日常風景である。
まあうちの状況なんてさして問題ではない。それよりも問題なのは登校である。学校まで通常であれば15分ほどでつく距離であるが、俺の自転車にはある問題がある。それはそれはうちの家庭状況なんて気にならなくなるほどのものだ。
家の裏に置いている自転車を取りに行くとそこにはサドルを枕にして器用に寝ている1人の少女の姿がある。制服に着替えられてはいて、さらにはバックもかごに入れられている。すでにこれ以上ないほどに準備された状態を作り、眠って待っている。本人曰く、
「この状態にしてれば起こしてくれるし、絶対に遅刻しない。」
だそうだ。人のことをタクシー代わりに使うのはやめていただきたい。
「起きろみどり、なあ、俺はお前の専属ドライバーでも何でもないと何回も・・・」
軽く肩をゆすってやると木乃美とは違いすぐに目を覚ましてはくれるが、俺の言うことには全く耳を貸さずにサドルをポンポンたたいてこちらに早く座れと催促してくる。
「はやく、ちこくする。」
まだ完全には起きていない状態のため少し発音が拙くなっている。まあもともとこんなしゃべり方ではあるのだが。
紹介が遅れたがこの少女は岡野みどり、俺の朝の余裕を毎日のように奪っていく幼馴染である。俺自身は時間通りに動いているのだけれどいかんせんみどりは思った通りに動くことがない。予想だにしない行動をよく起こすのである。
そもそもみどりの家はうちから徒歩2分ほどのマンションだが、そのマンションは俺の通学途中になる。どういうことかというとみどりはわざわざ反対方向に、それも俺が家を出るよりも早くに向かっているということになる。そのまま学校に向かってくれれば徒歩でも十分に間に合ってしまうのでは、なんて突っ込みをみどりにしたとしても今更こいつがそれを直すことなんてしないだろう。
以前に一度だけ親切心でお前の家途中なんだから迎えに行ってやろうか、なんて血迷ったような優しい言葉をかけたこともあるのだが、
「それは迷惑だから大丈夫、やっぱり起こしてもらうところから始めないと。」
後半早口だし小声だしであまり聞き取れなかったが、なぜか断られたことは伝わったのであまり深くは突っ込まなかった。最近はこいつに突っ込んでも無駄ということが刷り込まれてしまっているからかもしれない。
「じゃあ学校まで。」
「だから俺はタクシーじゃないから」
毎日のように交わされるやり取りを終え、ようやく出発する。
結局のところこれも日々の日課に加えられてしまっているようだ。
出発してから2分ほどたつとみどりの顔やら最近では木乃美にも負けてしまっているのではない・・・とにかく胸が背中に当たっている感触がする。これが恋人同士でも会ったなら、リア充爆発しろなんて思われてしまうのだろうけれど、
「すーすー」
残念ながらみどりは皓の学校に行く時間さえ眠るのである。学校でも居眠りするというのに。
いつものことなので気にせずにそのまま進む。慣れというのは怖いものなのだ。はじめのころは一回一回起こしていたことも今は遠い昔のことのようだ。
なるべく段差をこえないように気をつけながら学校へ向かう。
「ん、いつもありがと。」
学校まであと少しというところでみどりを起こして下ろす。前に一度二人乗りが生徒指導の先生にばれてしまい、説教を食らったことがあったのでそれからはこうして学校からは見えない曲がり角の手前で降りるようにしている。
いつもならここからはお互い別々に向かうのだが、今日はなにか話したいことがあったらしく、自転車を押して歩いていくことになった。
「なんか今日、転校生が来るらしい。」
「あぁ、なんか噂になってたな、昨日は俺それどころじゃなかったから全然聞いてなかったけど、今日来るのか?」
「そうらしい」
昨日まだ空きの席になっていた俺の後ろであるが、どうやら新しく来る転校生の席であり、本当は昨日来るはずだったのが何の連絡もないままで先生たちが焦っているのを新聞部が目にしてうわさが広がったらしい。
「で、それがどうかしたのか?」
「私昨日、ちょっと見た、かわいい子だった。」
普段あまり人のことをどうこう言わないみどりが褒めるほどなら相当かわいい子だったようだ。
「好太、手出しちゃダメ。」
「いや出さねえよ!何を心配されてるの、そんなことしたことないだろ。」
なぜ俺が手を出す前提で話を進めたのかはわからないが、そんなに簡単に手が出せるのであれば俺にだって今頃彼女の一人や二人・・・いないな。
みどりは真剣なのかふざけているのかわからない。あくびを一つするが、話し方がまだ目が覚めていないときのしゃべり方なのでさらにわからない。一生理解できないかもしれない。学校でもこんな感じで振舞っているらしい。なぜかそれがミステリアスなロリクールといわれ男子から人気だけれど実際はしゃべるのも面倒だからなんて言う理由なのである。そこまでして動きたくないのだろうか。俺なんかは動いてなければ死んでしまう。でもなんだかんだで同じような動きっぱなしのタイプといるよりも気が楽なんだけれど
ちなみに俺が2―B、みどりが2-Ⅾのためクラスは違うからあまりみどりの振る舞いに関してはあまり詳しくない。
とりあえずそんなくらいの話で校門をくぐる。どうやら転校生が来るという話だけしたかったようなのだ。まあたまには会話しながら登校するのもたまには悪くないな、いつもは寝てるから話せないし。
どんな日の登校も結局は嫌いじゃない。
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