第6話≪姫を利用して村から根こそぎ奪います≫

旅の仲間に最初に加わったのは勇者とは何の関係もないエルフの姫、ソニアベルトリッチだった。

 レオンはソニアが姫だという事を思い出し、ソニアがさらわれてきたという村へ行けば金一封が貰えるかもしれないと画策し、とりあえずの目標をエルフの村へと再設定していた。


「あー……野宿とはいえ良い枕があると寝起きが違うわ」


「うふふ、枕だけじゃないんじゃないですかぁ?」


 嬉しそうに下腹部を擦りながらレオンの横を歩くソニア。

 二人が一緒に旅に行くことが決定した時には既に日が落ちていた。

 森の中を夜通し歩くのは疲れるのでその場で一夜を過ごすことにした二人は当然のように求めあう。

2,3回くらいレオンとソニアの夜の営みは続いたのであまり長い睡眠時間は取れていないが、最後にはソニアの胸枕で眠りについたため、レオンは気持ちよく起きることができたのだ。

 陰嚢を軽くしたこともその一因かもしれない。


「沢山抱いたってこともあるかもなぁ。だが余計に汗かいて不快だ。村に付いたらまずは風呂だ」


「はい、良かったですぅ。私が姫で…。レオン様に最高のおもてなしをさせることができますからねぇ、うふふ」


 レオンと夜遅くまで何度もまぐわう事が出来てソニアはいつになくご機嫌だった。


「あ、でも忘れていましたぁ…。私の村ってブレーメン商に襲われていたんでしたぁっ。ちゃんと施設は壊されずに残っているでしょうかぁ…?」


「そういや、そんな話しもあったな。待てよ?エルフの財宝とか武器とかも取られてんじゃねーだろーな?」


 レオンがソニアの村へ行くことを決めたのはソニアが姫だからエルフのため込んだ財宝や武器などを簡単に入手できると思ったからだ。

 それが手に入らないかもしれないとなってレオンは多少機嫌が悪くなる。


「ご、ごめんなさい……でも、エルフの村はその程度の襲撃では陥落はしないはずですしぃ。それにエルフの国の方には代々伝わる勇者様が使用すると言われている秘宝もきちんとありますからぁ。エルフの国の物は私では動かすことができないんですけどね……」


「は?国に村?」


「ええと、私はエルフの国の王家の血を引いていますが、私は末端の姫なので、あまり重要視されていなかったんですぅ。なので静養目的で静かな村にたまたま来ていたんです。そういう自由も許されるのが末端なのですけどぉ。それで、そこを奴隷商に襲われて、大した戦力も無い村では簡単にさらわれてしまったんですぅ」


「末端だと?それに風魔法はどうした?」


「ま、末端でも!他の者は容姿が私より劣っていますよぉ?風魔法は……封印魔法をかけられてしまっていて今は使えなくてぇ……」

 末端という言葉に引っかかるレオンに、ソニアは敏感に反応した。

 自分の価値が下がれば捨てられてしまうのではないか、急いで自分にしかない特別なポイントを容姿に設定してアピールを図っている。


「ふむ。それならお前以外に価値はねーか……。その封印を解くにはどうすりゃいいんだ?俺の役に立たねーだろうが。肉壁にでもなるか?」

 効果は絶大だ。


 (危ない…あやうく捨てられてしまうところでしたぁ…。レオン様は役に立つ女がお好き……ならば私も気合を入れて強くならないといけませんねぇ……)


「もちろん、お守りするためなら壁にも盾にもなりますぅ。封印魔法を解く方法は私は知らないのですけど、エルフの首都まで行けば何か見つかるかと思いますぅ」


「首都?それめっちゃ遠いんじゃねーの?」


「まだエルフ領にも入っていないので遠いですが……」


「その村が残ってた場合、どのくらいの価値ある物があんだ?」


「ええっと……そこそこの金銭くらいですぅ……」


 レオンは露骨に嫌そうな顔をする。今は何かしらの武器や防具が欲しいのだ。

 冒険を楽にするためにも、楽に金を稼ぐためにも。なにより命の安全を図るためにだ。

 宿屋でいきなり魔法をぶっ放された時、正直命があったのは、しかも無事だったのは勇者だったからだろう。

 無防備なただの人間だったら死んでいた可能性が高いと踏んでいた。

 たかがマンコ如きにやられるのは前世だけで十分だと。今は一刻も早く強さが欲しい。


「そうか……いやまて、封印の解除方法を知ってるやつは居ねーのか?」


「村長はとても長生きでしたからぁ、多分知っているかもしれません…けど、もし知らなくてもぉ……怒らないでくださいますかぁ?」


「嫌なら死にもの狂いで探して来い」


「う…はい……」


 親指の爪をカリ、と齧りながら思案するソニア。もし村長が知らなかったら何か他の事を考えておかなければいけない、とレオンのものになってから初めて表情が曇った。


 そうして歩くこと数時間、レオンが村を視認する。

「あん?エルフって森の中に村作ってんだな。しかもほとんど天然素材……石とか鉄じゃねーのか」


 ソニアが思案している間にいつの間にか村まで到着していた二人。

 いち早くレオンが村に気づいて観察している。


「あっ、そうですぅ。ここが私の来ていた村で……まだ無事みたいですねぇ?」


 気性の荒いレオンのため、様々な思考を巡らしていたソニアは自らの村に近づいている事も一歩遅れて気付く有様。


 そうしてある程度近づくとレオンは近くの木の陰に隠れ、村の様子を伺う。


「おい、お前が言って安全を確認して来い。安全だったら俺に見える様に手を振れ。生半可な調査で終わらせんじゃねーぞ?罠にはまったりしたら殺すからな」


「は、い……。じゃあ少しだけ待っていてくださいねぇ……」


 早速生贄として使われているソニア。だがその扱い自体には不満は無かった。

(もし、罠で死んだら…レオン様にもう会えなくなりますぅ。それにレオン様に殺されるならまだましですけれど、それでも一緒に旅ができなくなるのは……まだ始まって間もないのですから。幸せは私が守らないといけませんねぇ…)


 しかし一番優先されるのはレオンの身の安全だ、と意を決して颯爽と歩き出す。

 レオンを待たせるといけないと思い直し、急いで駆けだし始めるソニア。


「みなさーーん!無事でしょうか?ソニアが帰ってまいりましたよぉー!」

 その声に呼応して村のあちこちから返事が上がる。


「ソニア様!?」

「ご無事だったんですね!?」


「連れ去られて助けに行かないとと思って…!」

「王国に連絡するところでした!戻ってきてくださってよかったです…!」


「お召し物もこんなにボロボロで……」


 村人は全員中央の広間に集まっていた。

 昨日の夜まで奴隷商たちと激しい戦いが続けられていたのだ。ただの村人と言えどエルフの民は魔法に秀でているため多少は抵抗ができる。

 だがソニアを守り切る実力は無かったため誘拐を許してしまったのだが…。


「すみません姫様。護衛隊の者はみな連れ去られてしまいまして…」


 そんな喜びと悔しさと悲しみが入り混じった村人たちにソニアは満面の笑みで告げる。


「突然なのですが、私はぁ、勇者様と旅に出ることになったのです。なのでできるだけの金銭と武具と秘宝を用意してくださいますかぁ?」


 その言葉に一同騒然とする。

 鎖につながれている姫様の姿も相当インパクトがあるのだが。

 だが一番は同じ同胞のエルフ、それも姫の護衛の兵が連れ去られたという事になんのリアクションも無かったという事だ。だが悲しまないの?と突っ込むこともできない。

 こんな状況で笑みを作って宝を要求する姫、狼狽えずには居られない。


「姫様?少しお話のされ方が変わられたような……」

「勇者様?とうとう降臨なされたのか?」

「そんな、急な…」

「姫様いっちゃうのー?」

「姫様、手錠がついてる…」

「奴隷商のクソ共め…!!!」



「話している時間は在りません。一刻も早く世界を救わねばならない勇者様なのです。すぐにでも出立したいので急いで運べる分だけの物をここに集めておいてくださいますかぁ?それと封印の魔法の解除方法を知っている人はそれも教えてくださいなぁ」


 ソニアもソニアで必死なのだ。レオンを待たせるわけには行かないと矢継ぎ早に指示を飛ばす。

 訝しみ困惑しながらも動き出す村人たち。

 昨晩、ソニアが幸せの絶頂を味わっていた時間、必死に戦い村を守っていたエルフたちを急かすお姫様。

 そんなソニアの前に準備のために動き出す村人を掻き分けて村長が歩み出てくる。


「ソニア姫様。すみませんが金銭は奴隷商の奴らに奪われてしまいましてな……こうして家屋を守るので手いっぱいだったですからのう。本当に申し訳ない…。武具も知っての通りこの村には木弓や鉄剣程度のものしかありませぬ。急ぐ気持ちはわかりますが一度王国に戻り勇者殿と一緒に十分な準備を成されてはいかがでしょうか…?お召しになっているドレスもかなり痛んでいるご様子……」


 柔和な笑みを浮かべてソニアの事を気遣う村長。だが以前なら心安らいだその対応も、今は煩わしいものでしかない。

 ソニアにレオンが与えた影響は途轍もなく大きいのだ。


「村長。ありがとうございますぅ。その時間は無いのでまた今度で…それで封印の方はどうなんですかぁ?」


 はよ教えろやジジイ、と内心レオンの言葉の粗さがうつってしまいそうになるソニア。

 必死に笑顔を作りながら、以前のお姫様然とした対応を何とか保っている。


「それは高位の魔法使いであったり、封印解除の魔法を使える職業の方ならば可能なのですが、珍しいためこの付近では聞いたことがありませぬ……なので、一番手っ取り早い方法としては、森を抜け草原を越えた先にある人間の街でお金を払って解除してもらう事ですな。お役に立てず申し訳ない……」


 (ど、どど、どうしましょう……。この答えでレオン様は満足なさるのでしょうかぁ…。金銭はほぼない、武具はしょぼい、封印は丸投げ、あんまりですぅ……)


 癖になってきているのか、指の爪を噛みお姫様の顔を崩して顔を歪ませ思案に暮れる。


「わかりましたぁ。とりあえずこの手錠を外す道具はありますかぁ?できるだけ急いでくださいねぇ」


「おいたわしいお姿……今すぐに解放いたします、少々お待ちを…!」


  村長がソニアの手錠に怒りと悲しみの表情を浮かべて村の若い衆を呼び、同時に斧を取ってくる。

 顔を背けて両手を差し出し、木の部分に斧を振り下ろす。

 バキィ、と音がして木の輪っかが外れ、残るは首の鉄の輪とそこから垂れる鎖だけになった。


(これでよし、とりあえず……レオン様を呼んでこなければ……)


「ありがとうございますね。勇者様を呼んできますのでぇ、それでは後程」


 それだけ言うと以前は別れる際必ずしていた礼を初めてせずにその場を去った。

 その冷たい対応と以前との変わりように多少面食らっている村長だったが、以前のお姫様としての認識が長いためにまだ、信頼が勝っていた。


 ソニアはレオンの待つ木の陰に回り込むやいなやその筋肉質な身体へなだれ込むように抱き着く。


「レオン様……っ」


「帰ったか。どうだったんだ?」


 勿論、手を振る合図を忘れていなかったためレオンも警戒を解いてソニアを腕の中へ迎え入れる。

 これから抱く女を触る喜びもあるが、今のソニアは一度抱いた女。自分が知っている女を触るのもまた違った楽しみがある、にやつく顔でソニアの尻や背中を無遠慮に撫でまわしながら話を聞いていく。


「あん…。レオン様、その……あまりいい報告ができないみたいなんですぅ……。村自体は此処からも見える様に家屋の損壊は殆どなくて、村人たちもあまりケガなどはしていないみたいでしたぁ。金銭などを守るのを諦めて自分たちの体と家屋を守るだけの防衛線に徹した結果だと思いますぅ」


「あー?まぁいい。どうせ村ひとつに良い物なんかねーだろうしな。お前を追ってこられても困るから寄ったってのもあるしな…」


 その返答に内心ほっと胸をなでおろす。役立たず、といきなり殴りつけられ失望されるかもしれないと覚悟していたから。


「レオン様お優しい…。あるのは多少のしょぼい武器と、小銭程度だそうですぅ。それと解除の方法ですが、人間の街に行って解除のできる人にしてもらうのが一番早いそうで……」


「ほーん。またギルドのねーちゃんに世話になりに行くかぁ」


 ふりふり、と尻に置かれているレオンの手に自身の腰を振って尻を擦りつけるソニア。

 村長やエルフ国の者が見たら卒倒してそのまま死んでしまうのではないだろうか。


「んじゃ、行くか。なんか聞かれるとめんどくせーから離れて歩け。設定は勇者と従者な。あとこの村こぎたねーから風呂はいいわ」

 汚い村で入浴しても汚いままだと、レオンの中でソニアからの報告も相まってこの村の評価が駄々下がる。


「はい、了解しましたぁ」




 再び、今度はレオンを連れて戻るソニア。

 戻ってみると既に用意を終えたのか、大きな袋が一つ用意されていた。

 二人の姿を見止めると広場に戻っていた村の一同が片膝を付いて平伏し、その中から村長が代表として前に出てくる。


「おお、勇者様ですかな?お初にお目にかかり光栄です……。先代の勇者様の偉業は今も語り継がれておりまする。今代の貴方様もさぞかし素晴らしい事を成されるはず。果ては魔王の討伐、世界の平定を儂らも願い応援していきたいと思っています」


「おう。まぁ出方次第だがいずれそうなるかもしんねーな。それより物はこれで全部か」


 村長が話してる最中からガサゴソとレオンは大袋の入り口を開けて中を物色している。

 その姿に入れ歯があったら抜け出ていたかもしれない程に口を開けて呆ける村長だったが、ぶるぶると頭を振って気を取り直す。勇者にもいろいろな事情があるのだろうと。


「はい。今のこの村ではそれしか用意することができませんで……。ですがいつでも力になることをお約束いたしましょう」


 (しけてやがるが……所詮村、か。町レベルじゃねーとダメなんだろうな。しゃーねー。次行くか)


「おいソニア。それ持て。街に行くぞ」


 その言葉に流石に村人一同がどよめき立つ。


「ゆ、勇者様?それ結構な重さが……」

「お姫様に持たせるのか!?」

「粗暴な勇者様……」

「お、おい失礼だろそれは…」

「しかし無理がある!!」

「勇者様…」


 そんな喧噪の中、当然とばかりにソニアが荷物へ歩み寄り、ぐっと力を込めて何とか持ち上げている。

 見た目とても綺麗なソニアのその様子はとても健気に映る。


「姫様!?そんな重い物を持たれるのはとても……勇者様に――」


「いいのですぅ!!私がやることなのですから、口出しは無用。いろいろありがとうございましたぁ」


 有無を言わせず、話を切り上げる。そんな姫様の姿にかなりの違和感を覚える村人たち。

 以前のソニアとの違いがより強烈な違和感となっている。

 さらに非力なお姫様に重い荷物を命令して持たせる勇者。これには流石に勇者様にも事情が、で見逃せる話ではない。なにかがおかしいと村人たちの疑念も強まる。


 (はぁ、まったく。レオン様に持たせるって言いだすなんてとんでもない……とばっちりが来て私まで嫌われてしまったらどうする気なんですかぁ……)


 一方ソニアは文句を言いたい気持ちを必死に抑え込み、その不満を力に変えて大きな袋を持ち上げる。

 中身は鉄の剣や木の弓などでとても重い。一人が一本使う道具をまとめて何本もただのお姫様であるソニアが運んでいるのだ。しかもソニアの職業は身体能力が強化されない魔法使いだ。正直苦行だと言ってもいい。というか明らかに苦行。


 そんなソニアの背中に痛ましいものを見るような視線を浴びせ、勇者レオンにはなんだこいつは?という疑惑と多少の憎悪の視線を向ける村人たちを後にして、二人はまた来た道を引き換えす。



 それから暫くモンスターに襲われることもなく無事に歩けていた。


「やっと森を抜けるなぁ。帰りは早いとかいうがあんまり実感ねぇってか遠いわ」

 ぼやくレオンは手ぶら。その隣を一生懸命同じ速度で、遅れない様に迷惑をかけないようにと必死に大袋を背負って歩いているソニア。


「そ、そうです…ねぇ…はぁ、は、あ……」


 息を切らして、膝を震わせながらもレオンへ向ける笑顔は絶やさない。


 (この膝の痛みも、足の裏の痛みも、背中の痛みも、疲労も全て、レオン様のための物……役に立っている実感が嬉しいでうすぅ……)


 別にドМなわけではないが、尽しているという幸せが勝っていて苦痛ですら喜びを感じていた。そうでなければ女の身体で、やったこともないこれだけの重労働には耐えられないかもしれない。


「むっ」


「レオン様?どう、されました……かぁ?」


 唐突にレオンが一点を見つめて立ち止まる。ソニアも隣で止まって視線の先を見つめる。

 荷物は一度降ろすと持ち上げるのがきついのでおばあさんの様に腰を折って背中に乗せている。


「あれは……ゴブリンですねぇ?」


「ああ。あそこにいるやつ全部殺して来い」


「わ、わかりましたぁ…?」


 レオンの意図はよく解らないが言われたのならばやらなければならない。

 強い雄に従うのは雌の喜びなのだ。ソニアは尽くしたい一心でこれまで、まだ短い間だがレオンに忠実に尽くしてきた。これからもそうするのだろう。

 仕込まれたのは種だけでなく、雄としてのレオンの圧倒的な大きさと、雌としての雄に対しての在り方、喜びを知らされたのがとても大きい。

 ドサッと地面へ背負っていた袋を置いてその中から鉄の剣を取り出し、一本を両手で持って、重さと疲労からよたよたと足元覚束ないままにゴブリンの集団へ突っ込んでいく。


「華々しくちりなさぁい!レオン様のためにぃ!」


 もはや戦闘狂の笑みを浮かべながらゴブリンを斬殺していくお姫様。愛は女を狂わせるのかだろうか。

 そんな満身創痍の女であっても狩れる程度にゴブリンは弱く、ソニアでも簡単に討伐することができた。

 (やったやったぁ……初めて他の生き物を殺しましたけどぉ、うまくできましたよね?)


 きちんと全て殺したのを確認する。最出会った時のレオンに倣って相手を殺し切るまでは安心をしない。そう教わったわけではないが、とりあえずレオンと同じ様にしておけば間違いは無いだろうという考えからだ。

 そして喜色満面で振り返り、レオンの元へと駆け寄っていく。


「レオン様、完了しましたぁ…んっ、ちゅっ…」


「疲れてる割には早かったじゃねーか。よくやったぞ、くふふ」


 駆け寄る勢いのままにレオンへ抱き着き、褒美とでもいう様にレオンが強引に唇を奪う。

 キスというより、ねっとりと唇をしゃぶられる口づけに、子宮がうずき始めてしまうが今は我慢の時だろうと、ソニアは必死に下腹部を撫でつけて落ち着ける。


「はっ、えろいキス顔しやがって……お姫様がよぉ?くはははっ」


 効率よくゴブリンを殺し終えたことに気を良くしたレオンはある事を忘れていたが気づかないままに再び歩きだしてしまう。

 その隣を急いで鉄の剣をしまい込み大袋を背負い直し、痛む膝を必死に擦って耐えながら小走りに隣まで追いつき、歩き行くソニア。


「今はただの……レオン様の雌ですよぉ、うふふ…」


「そうかそうか。ならそのうち、いろいろ教えてやる。ああ……お姫様ってのは一応お前のステータスだなぁ。ロイヤルまんこソニアって名乗れるぞ?くくっ…」


 その言葉に初めてソニアは王家の生まれであったことに感謝した。魔法の訓練や食事の作法など厳しいことばかりを教えられ、果ては末端だからと不要物扱いされていたソニアはあまり自分の生まれを好ましく思っていなかったが、この瞬間報われたとさえ感じていた。


「うふふ、うふぅ…レオン様。一生ついていきますぅ……」


「ガバガバにならなかったらなぁ!」


 ソニアの決意は、とても固い。

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