敵輸送部隊殲滅戦 ~はじまりは日常から~

私の初めての出撃から1週間が経って本格的な長距離索敵任務の訓練が始まった。

「チカ、カレン近距離魔力波定位術式発動して!」

「了解、二方向からの詳細定位するから合わせて発動するぞ」

「わっ…分かった!カレンちゃん。せーのっ!」

掛け声とともに二人の体から光が弾けた。今は演習中で長距離砲撃術式による一掃を目的とする、詳細位置観測の練習なのだ。私とカレンともう一人のユナの405部隊の下位偵察兵3人で隊長であるシャーリさんをさがしているのだ。

「見つけた!」

付近に微弱ながら魔力反応を検知した。

「詳細観測を開始する」

ユナちゃんが座標定位のために魔力源に近づいていった。魔力源に動きはない。観測阻害のために魔力放出を抑えてるとはいえ観測されているのにシャーリさんがこんなに動かないことがあるだろうか。

「ユナちゃん反応はどう?」

「まだわからない…もうちょっと待って…」

「一応周囲索敵しておくね」

「ありがとうチカ」

「別にそんな心配することないと思うけどな~」

横でカレンちゃんがつぶやいているが私は聴覚拡張術式を展開した。だんだんと聴覚が鋭敏になっていくなか後ろの方から何やら動く音が…

「うしr!」

「遅いよ~チーちゃん」

背後からかかった気の抜ける声と共に背中を強い衝撃が襲った。空から地面に落とされ、そろそろ地面に当たると思った瞬間…

「演習終了そこまで」

の声と一緒に受けとめられた。

「ありがとう…ございますサナさん」

サナさんは私達の部隊の副隊長でシャーリさんと同じ上位偵察兵だ(あとかなりの力が強い)

「大丈夫、チーちゃん怪我はしてない?」

「はい、大丈夫です!」

「分かったわ、じゃあ3人ところに戻りましょう」

私達は3人のいる上空に戻った。

「お前らなぁ~反応が動かなかったら魔力デコイを疑わないと~」

「「「はい……」」」

「チーちゃんはもっと素早く術式展開できるようにならないと、索敵系の魔法を使ったら敵から狙われるんだからな」

「うっ……」

「カレンは周りに警戒しなさすぎだよ~、味方を守るのがお前の役目だろう」

「あい…」

「ユナは詳細観測の順序が違う!座標定位の前に敵の詳細情報だ」

「なるほど…」

「君たちは連携をもっととるべきだな」

「まあシャーリそれくらいにして、温泉にいきましょう。皆も疲れたでしょう」

「そうだね~、では405部隊温泉に出撃!」

私たちは大声で叫ぶシャーリさんの後を追った

私達の生活する偵察基地は設備が充実している、理由は色々あるが一番の理由はここが安全であるということだ。なぜかというとまず八もの防衛基地に囲まれており敵が攻めづらい、さらにここの基地の目的は"索敵"であるため広範囲索敵の中央だ。どんな敵もここを攻める前に見つけられてしまうのだ。

それらの理由から安全においては王都の次に安全な場所とも言われているため一般人も観測基地の周りに集まってくるためちょっとした町を形作っている。

他にも、六個の防衛基地への補給の中心地ともなっているため他の基地に比べ所属人員が多い。さらに防衛基地での重症者が運ばれる軍医の重要拠点でもあり、休みの短い防衛基地職員の休息場所ともなっている。

なので、この基地には大きな露天風呂が完備されており、この露天風呂は1日中お湯を張っているためいつでも入れるのだ。

「よーし、入るぞ~!」

「シャーリ、子供じゃないんだからそんなに騒がないで」

脱衣場から意気揚々としっぽを振って入っていくシャーリさんを見ながら

「はあ……」

「どうした、チカそんな大きなため息をついて?」

「ユナちゃん…今日の訓練で失敗しちゃったな~って……」

「まだ訓練し始めたばっかなんだからしょうがない、失敗から学べるかどうかだよ」

「そうだね!ユナちゃん頑張る」

「そうだぞチカ!くよくよしてないで早く入ろうぜ」

と言いながらカレンちゃんが抱きついてきた

「ちょ…ちょっとカレンちゃん…や…やめ」

さらに胸まで揉んできた

「あれ~チカまたでかくなった?本人はくよくよしてる癖におっぱいは堂々としてるね~」

「カレンやめなさい」

「あ~チカのしっぽはもふもふして気持ちいいね」

「ちょ!だっ…だめ…しっぽは……」

「カレンやめなさ」

「なんだよユナ、おっぱい小さいからって嫉妬するなって」

ゴス!鈍い音が後方でしてカレンちゃんが離れた

「ほら、早く入ろうチカ」

「あ…ありがとうユナちゃん、でもカレンちゃんが…」

「いいよあのバカは気がついたら来るよ」

「うん…わかった」

私達は伸びたカレンちゃんをおいて温泉に入っていった。

「はあ~落ち着く~」

大きいためのびやかに入れる湯船に私達3人は固まって浸かっていた。

「いたたたた…ユナは手加減しないんだもんな~」

「あれは全部カレンが悪い」

「あはは………」

と3人でしゃべっていると遠くで『うおー湯船で泳ぐぞ~』騒いでいたシャーリさんとそれを首を絞めてやめさせて引っ張ってきたサナさんが近づいてきた。

「三人とも今日はご苦労様」

「ごほ…死ぬ…」

「大丈夫ですかシャーリさん?」

「ああ…それよりも3人ともさっきはああ言ったが最初よりは全然良くなってきたよ」

「ありがとうございます」

「それでね、明日から実地演習を行うから」

「ええっ!急ですね」

「カレンうるさい…、皆が連携がある程度とれるようになったていうのもあるんだが、さっき知り合いに聞いたんだが敵に大規模輸送作戦の準備ととれる動きが観測されたんだ。多分私達も任務に駆り出されるだろうから初任務の前に感覚だけでも掴んで貰おうと思ってね。訓練していると言っても実際に長期的なキャンプや魔力隠蔽は負担になるからね、とりあえず1週間の演習を予定してるから」

「うわ~実戦か…緊張するな~」

「わかりました」

「う~…」

「チーちゃん緊張しないで!明日からのはただのキャンプだと考えてくれていいよ」

「一応、国土外だから武器は持っていくからね皆整備は行っていくように、私が兵站部に必要最低限の物は準備するけど他のものは自分たちで請求するようにね」

「「「了解です」」」

それから私達は、初めての遠征のため午後中を準備に費やした。

「装備はよし…っと、あとは生活用具の確認をしないと…」

今回の演習は1週間だが通常の任務の場合、2~3週間もの間野外生活を送らなくてはいけない、そのためキャンプ用具は必須である

「よし!持ち物も確認が終わったし早く寝よう!」

「…………うーん、寝れないちょっと外の空気吸ってこよう…」

私は部屋から出て宿舎の中を進んだ。宿舎は騒音が聞こえないよう他の施設から離れて作られている、そのため宿舎内は静寂に包まれていた。部屋を出て右に真っ直ぐいったところにラウンジがある、ここは昼間は食事を食べる人がごった返しているが、深夜にもなると明かりも消え人の気配もしなかった。私はラウンジの奥の窓を開けベランダに出た。

ベランダに出ると軍中央の施設から夜勤の職員達の声や倉庫と整備場からの小さい騒音が聞こえてきた。空を見ると満天の星空が見えた。

「明日からはもっときれいに見えるのかな」

不安を紛らわそうとしたがどうしても怖くなってしまう、敵と遭遇したらどうしよう、襲われたらどうしよう、皆とはぐれたら……

「チーちゃん大丈夫だって」

「えっ?」

後ろを振り返るとそこにはシャーリさんがいた。

「別に不安なことなんてないよ、そもそも明日はまだ領土の外に出るわけじゃないし、敵がいても避けていくから大丈夫さ」

私は耳がとても良いのに後ろから来たシャーリさんに気がつかなかった、それに加えて心の声が漏れていたようだ。私は少し恥ずかしいと思いつつも

「怖いんです敵に襲いかかられるんじゃないかって、索敵してても自分が感知してない所から攻撃されるんじゃないかって」

自分の見ている、聞いているものが信用できないのだ……

「いきなり後ろから襲われたらって思うと本当に……」

「大丈夫さ、いきなり敵に襲われようと私がチーちゃんを守ってあげるよ…だから大丈夫」

と言ってシャーリさんが抱きついてきた。

「は…はい」

答えるのを聞かずにすぐに離れ

「こ…怖くなったら言ってよねまたぎゅーってしてあげるから、明日は早いからすぐ寝るようにね、ばいばいチーちゃん」

と言って走りながら出ていった。途中、机にぶつかったような音がした。

私は呆然としていたが気を取り戻すと同時にさっきまでの不安がなくなっていることに気づいた。私は心の中でシャーリさんに感謝しながら、ベランダを出て部屋に戻った。




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