第43話 「インプット」と「アウトプット」(物書きの練習方法)

 それでは、今回は「インプット」と「アウトプット」についてを掘り下げていきたいと思います。

 前回の項目にて「プロットの作り方」を掘り下げられたので、その事を踏まえての応用編になるかもしれません。


 まず最初に、今回の項目についての説明をば。

 当エッセイにおいて「インプット」とは、世に出ている作品の構造を解きほぐし、その再現性を理解する、という意味合いだと考えてください。

 いわゆる「構造解析」ですね。


 今回は「構造解析の方法」に特化していく項目になるでしょう。

(思えば、自己分析についての項目は割とあるのに、構造解析についてを掘り下げる項目が全然ない気が……)


 これは当エッセイ内の最初辺りの項目でも書き連ねさせていただいたのですが、物書きという人種において、その実力というのは「頭の中」にしかありません。

(漫画家やイラストレーターとは違い、手の動かし方や、身体を使う技術は実力に関係ない)


 物書きとして上達したかったら、頭の中身をひたすらに磨くしかないと考えています。

(いくら字が上手くても、キーボードで文字を打つのが早くても、創作する物語が面白くなるわけではないので)


 そこで次に、頭の中身とは何か、という段階に踏み込むのですが――

 それは「物語を作る時にどれだけ構造を理解しているか」という形へと繋がっていきます。

(もちろん知識量なども関わってくるのですが、一番大切なのは「物語の設計図を組み立てる力」だろうという結論です)


「世の中にある物語」を因数分解して、その構造が理解できれば、後々に自分の手でその「面白さ」を再現する事が可能になる、という考え方ですね。


 それが、花咲の考える「インプット」という物書きにおける練習方法になります。

 構造解析を深めて、物語の作り方をどんどん上達させていきましょう。


 そして「アウトプット」とは、インプット(構造解析)したものを言語化する、という意味合いだと思って欲しいです。


 物書きとは、頭の中にある空想上の物語を文章にして、実在する作品として完成させる人種です。

 だからこそ、頭の中にあるモヤモヤとした空想、妄想を実際に文字にしていく事で、物語を作る事に慣れていく。それが花咲の考えるアウトプットという練習方法になります。

(『5:「魅力の言語化」と「レビュー」』という項目にて記した内容に近いかもですね)


 閑話休題


 という訳で、まずはインプットという練習をしていきましょう。

 その方法を、これから書き連ねさせていただきます。


 今回の例題には、とある漫画を題材に選ばせていただきました。

(勝手に名前を挙げてしまっているので、問題があったら即時内容を調整するか項目自体を消します)


 ここ最近の花咲が、個人的に大好きな、とってもハマっている作品です。

 それは――


 福田晋一 先生著の

『 その着せ替え人形は恋をする』という漫画になります。

(現在は4巻まで発売中、オススメです)


 この漫画はもう、めっちゃくちゃ面白いです。

 花咲は去年初めてこの漫画を知ったのですが、そこから1ヶ月に一度くらいは読み返しています。


 もう10回以上は読み返しているのではなかろうか……。

 ラブコメとして最高にやり取りが可愛く、そしてキャラとストーリーに「ヘイトが溜まらない」、物語の作り方においてとても参考になる、とても考えられた漫画という評価になります。


 仮にも物書きハウツーエッセイなのだから、小説を例題にした方が勉強になるとは思うのですが、小説は文字の塊なので、真似しようと思えば出来てしまうという所が引っかかってしまうんですよね……。

 そこで映画や漫画だと、頭の中以外の技術やノウハウが必要になるので、今回は漫画から題材を選ばせていただきました。


 まずはこの『 その着せ替え人形は恋をする』という漫画の、簡単なあらすじなど。


 小説としての切れ目がないので、花咲が小説にするとしたらここで区切るだろう、という内容までを説明させていただきます。

(2巻の途中まで)


■あらすじ


 家業である雛人形職人を目指す男子高校生の「五条新菜」は、祖父に憧れ、幼少の頃から雛人形の作り方を学んでいました。

 女の子の為の雛人形に強く関心を持っていた事で、男なのに変だ、と幼い頃に否定された経験もあり、高校生になっても周囲とのコミュニケーションが上手く取れず、友達が1人も居ない日々を過ごしています。


 ある日、学校の被服実習室で雛人形用の衣装を作っていたところを、自分とは正反対の女の子、容姿端麗で友達も多く、自分の好きな趣味を周囲に否定されず主張できる、スクールカースト上位に位置する「喜多川海夢」に見られてしまいます。


 見た目もしゃべり方もギャル系である海夢は、実はオタク趣味があり、好きなキャラクターのコスプレがしたいと考えているらしく、衣装が作れると知った新菜に「コスプレ制作」を依頼します。

 友達も居らず、上手くコミュニケーションの取れない新菜ですが、自分で衣装を作りたいという想いがあっても不器用で上手くいかず、会話の中で「好きなものに性別なんて関係ない」「自分の気持ちは自分の為に言わないとダメだ」と言ってくれた海夢の為に、コスプレ衣装制作を請け負います。


 雛人形以外の衣装は作った事がなく、オタク趣味の知識もない新菜が一生懸命に、自分の為に頑張ってくれる姿を見て、海夢は新菜に恋心を抱いていくのでした。


■ここまで


 ……はい、こんな感じの物語となっております。

 この前情報をもって、今回の項目にある「インプット」と「アウトプット」を掘り下げていきましょう。


 前回の項目にて記した、プロット(設計図)にする事で、作品内容と作者の意図を因数分解する、という形になります。


 この作品における重要な要素は、「正反対」というものだと思っています。

 ギャル系女子と地味系男子、オタク趣味と一般人の感覚、そして自分の趣味を主張する強さと、それが出来なかった弱さ、でしょうか。


 歩んできた道のりが違う2人のやり取りを描く事で、そこのズレや、すり寄っていく温かさや成長を、実に見事にラブコメとして表現しています。

 これは前回の項目に当てはめると、「読み手に作品をどう楽しんでもらうか、という想定」に当てはまるでしょう。


 そして大事な要素「作者が盛り込みたいテーマ・主張」です。

 こちらは「趣味を否定しない温かさ」というものを、物語を通して描写しているのかなと、勝手に解釈しております。


 幼いころに雛人形趣味を否定され、周囲に自分の趣味を明かす事にトラウマを持ってしまった主人公が、世間から批判されやすいオタク趣味を持つ女の子と知り合い、そのやり取りを通して「好きなものに性別なんて関係ない」「好きなものを馬鹿にされる謂れなんてない」という感覚に触れ、そのトラウマを解消していく。

 誰かの役に立って喜んでもらうという事が、目指していた雛人形職人にとって、とても大切な事で、雛人形の作り方を学ぶ事以外の物事が、実は技術の上達にも強く関連していた、という形でしょうか。


 という訳で、漫画を読み、花咲が「こうだと思った(インプットした)」内容をプロットの形にまとめ、例題としてアウトプットしていきましょう。


★★★★★★★★★★★★★★★


① 作品を通して伝えたいテーマ・主張(&タイトル)

・登場キャラのやり取りや、ストーリーを通して「趣味を否定しない温かさ」を表現する

・タイトル「その着せ替え人形は恋をする」

(この“恋をする”という部分が、物語の中で上手く表現されていて素晴らしいのです)


② 読み手に作品をどう楽しんでもらうか、という想定

大本は「正反対」の2人が出会い、その関係性を面白さとして描写する、という楽しませ方だと思われる

・「ギャル系女子と地味系男子」

(本来なら仲良くなる機会のなかった2人が出会い、惹かれ合っていく)

・「オタク趣味と一般人」

(オタクが持つ変な感覚を、戸惑いながらも受け止めていく主人公)

・「自分の趣味を主張する強さと、それが出来なかった弱さ」

(明るい太陽のようなヒロインに憧れるも、その人にも出来ない事があり苦悩している、という事を主人公視点で描写し、地味な自分でも役に立てるんだという喜びや、幼い頃からあったトラウマの解消、そして人間としての成長を描く)


③ 簡易的な世界観と舞台設定

・地球、日本

・とある高校と、とある街


④ キャラクターの人数・簡易的な設定内容

・主人公

 五条新菜、男、16歳

 雛人形職人を目指しているが、その事が原因でトラウマ持ち

 性格は「優しく誠実」「コミュ症(トラウマ関連にて)」「内気」


・ヒロイン

 喜多川海夢、女、16歳

 スクールカースト上位、容姿端麗、ギャル系だがオタク趣味、コスプレ願望あるが不器用

 性格は「明るい」「他者を否定しない(他者の趣味を否定する人物には攻撃的)」「素直で感情表現豊か」


⑤ 簡易的なあらすじ内容・何章構成か(&各章内に盛り込む大事な要素)


あらすじ

・雛人形職人を目指す地味系男子高校生(主人公)が、とあるきっかけでスクールカースト上位のギャル系女子(ヒロイン)と知り合う

・オタク趣味を持つヒロインから、コスプレ衣装制作を依頼され、会話の中で「趣味を肯定された事を嬉しく思った」主人公がヒロインの為になれるならばと受諾する

・衣装制作には様々な困難が発生するが、「ヒロインの役に立ちたい」と主人公は衣装を完成させる

・初のコスプレイベント参加、そしてヒロインは、自分の為に頑張ってくれた、そしてコスプレをしている自分の事(やりたい事で目一杯に楽しんでいる自分)を「綺麗だ」と言ってくれた主人公に恋心を抱く



全部で4章構成(とりあえず)


1章――

・主人公は雛人形職人を目指しているが、その事が原因でトラウマがあり、友達が居ない

・学校内で雛人形の衣装を制作していたところを、スクールカースト上位のヒロインに見られる

・オタク趣味を持ち、コスプレしたいが、不器用で自分では作れないと悲しむヒロインから衣装制作を依頼される

・会話の中で「好きなものに性別なんて関係ない」と、雛人形趣味を肯定され救われた気持ちになった主人公が、ヒロインの為になるならばと衣装制作を請け負う

・しかし、その依頼されたコスプレ衣装は、エロゲーのキャラクターのものであり、主人公が激しく困惑する

(困惑するが否定せず受け入れる)


2章――

・雛人形以外の知識を持っていなかった主人公が、ヒロインの助けを借りて勉強していく

・衣装制作に必要なため、ヒロインの身体のサイズをはかり、そのやり取りの中でドギマギ

・ヒロインと知り合ったことで、学校内でも話しかけられるようになるが、周囲から「ヒロインがどう思われるか」を気にしてしまい距離を取ろうとする

・避けられたヒロインは、主人公の気持ちを理解するも、もう友達だから気にしなくていいと受け入れる


3章――

・衣装制作に必要な道具を購入する為に一緒に街でお買い物、コスプレ知識の解説などを交えながら、試着の際でのやり取りでドギマギする主人公

・作成する衣装を着て、参加したいコスプレイベントの期日が近いと判明、焦る主人公

(ヒロイン視点では、後にイベントの期日を伝えただけで、衣装は出来るまで待つつもりだったと判明する)

・期末テスト、祖父の入院などが重なり、本来の夢である雛人形制作の勉強をおろそかにしたまま、コスプレ衣装に時間を割いていいのかと悩むも、ヒロインの為になりたいという思いで、寝ずに制作に打ち込んでいく

・コスプレ衣装完成、ヒロインは主人公に無理をさせてしまったと悲しむも、「喜ぶ顔が見たかった」という言葉に励まされ、主人公への好意を深めていく


4章――

・コスプレ衣装を着て、イベントへ参加。不器用で化粧も上手く出来ない為、コスプレしない主人公も一緒に会場へ

・夢だったコスプレ衣装を着て嬉しそうにはしゃぐヒロインを見て、初めて友達と一緒に何かをしたこと、街に買い物へ出たこと、楽しく会話した事を思い出し、衣装が完成した事でもうこの関係性が終わりかと悲しむ

・帰り道にて、ヒロインはこれからもどんどん衣装制作を依頼するつもりだと話す。関係性が途切れないと知り安堵する主人公は、徹夜で作業を進めていた事と気の緩みもあって、電車の中で眠ってしまう

・そして、寝言のように「ヒロインの事を綺麗だと思った」と口にした事で、ヒロインは主人公への恋心をはっきりと自覚するのだった

(タイトル回収、コスプレ好きの女の子が恋に落ちる過程を丁寧に描いている)


★★★★★★★★★★★★★★★


 はい、という訳で、花咲が「その着せ替え人形は恋をする」という大好きな漫画を読んで、その内容を因数分解(インプット)して、小説に置き換え、本一冊分のプロットを組み立てたらどうなるか、という例題でした。

(他にも登場人物はいるのですが、主要な人物のみ挙げさせていただきました)


 この例題があっても、この作品最大の魅力でもある「画の綺麗さ」は表現できないので、あくまでこれは「物語の構造」を理解するとしたら、という形になります。


 好きな物語の作り方を頭の中に染み込ませる事で、いつか自分の作る物語に応用する、という「構造解析」の方法を、少しでも伝えられていたら嬉しいです。


 好きな作品を構造解析してみて、その面白さがどうやって作られているのか理解して、自分の手で再現できるよう頭の中身を磨いていく、そんな助けになれたらと祈っております。


 それでは、今回の項目はここまでになります。

 次回は……うーん、どうしましょうか。これをエッセイとしてまとめたい、という内容が決まってないんですよね。


 なので、考え付くまで時間が空いてしまうかもしれません。

 もし「この項目における花咲の考えを知りたい」という内容があれば、感想とかを経由し伝えてもらえたら、それを掘り下げていくかもしれません。

(感想を送って欲しいと催促している訳ではないので、何もなければ放置しておいて大丈夫です。なにか思いつけば、またエッセイとしてまとめていきます)


 最後に――今回の例題に挙げてしまった福田晋一先生へ。

(当エッセイを見る機会なんてないと思いますが)


 勝手に作品名を挙げてしまって申し訳ありません。

(しかも、その作品内容を構造解析してやるぜ、とか失礼オブ失礼なのでは……)


 素晴らしい作品をこの世に生んでくださり誠にありがとうございます。

 いつも楽しませていただいております。次巻の発売を、心よりお待ちしております。


『その着せ替え人形は恋をする』

 現在4巻まで発売中――


 もし当エッセイを読み、その内容に興味が出た方がいれば、ぜひぜひ購入してみてください。

 とってもキャラクターのやり取りが可愛く、かつ読んだ後にほっこりする、素晴らしいラブコメになっております!

(作品内で解説しているコスプレ知識も勉強になって面白いです)

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