第34話 「い抜き」と「ひらく(漢字か否か)」(キャラ表現の応用編)

 今回は、文章を構成する際の『い抜き』と『ひらく』についてを掘り下げていきたいと思います。


 それに関連する、キャラクター表現の統一や、文章表現の応用についてになるでしょう。


【文章力について】という項目で記したリストにて、今回の内容は「上級者編」になるだろうと書き連ねました。


 その理由は、今回の項目内容は――『プロになってから初めて学んだこと』しか記さないからです。


 プロの現場に潜り込み、諸先輩方に注意され、諭され、失敗しながら少しずつ学んでいった『文章構成のコツ』の応用編になります。


 かなり脅かしてしまう前置きですが、大丈夫です。


 何も難しいことはありません。


 ただ、そういう「気を付け方」があるんだと思っていただければ嬉しいです。


 それでは、早速いってみましょう!



 書き手の皆様は、『い抜き』という言葉に聞き覚えはあるでしょうか?


 ちなみに、花咲はありませんでした。

 自分がそれを「している」「していない」という、文章を構成する際に『表現がブレている』ことにすら、気付いていなかったのです。


 花咲のお仕事はゲームシナリオライターなので、完成したシナリオをまとめ、台本にして(この作業を行う方から教えて頂きました)、声優さんに収録してもらう、という手順が発生します。


 その声優さんから「指摘が入った」という形で、花咲はその概念を知ったのです。


■「い抜き」部分に括弧()を入れた例文――


 花咲樹木は例文を書き連ねて(い)きます。

『い抜き』という概念を、読み手にどういったものか、示すためのものです。

「……それを意識して(い)るか、して(い)ないかで、キャラの統一表現に差が出てくる?」

 そんな事、考えもして(い)なかったな。

 そんな注意点があるとすら、気付いて(い)なかったのだから、始末に負えない。

「今後、注意させていただきます。申し訳ありませんでした。それを徹底して(い)く事で、キャラに統一感が出てくるんですね……」

 声優さんから「どちらなのか迷う」という指摘があったのだから、今後はそれを念頭に置く必要があるだろう。

「これからは『い抜き』表現のキャラリストを作る必要があるでしょうか?」

 その問いかけに、先輩はゆっくりと頷いた。

 こちらも頷いてから、自分のPCに向かい、キーボードを指でリズムよく叩いて(い)く。

「了解しました。エクセルでデータにまとめて、キャラごとに表現して(い)るのかどうか、一目で分かるようにして(い)きます」


■例文ここまで


 ……はい。どうでしょうか。


『い抜き』をするかどうか判断する、その部分の文字を伝えられましたか?


 それは――『文中にある「い」を抜いても成立する文章を、意図的にそうするかどうか』という気を付け方になります。


「い」を抜いたら、文章として成立しない。その部分からは、抜いてはいけません。

(そうすると、脱字という形で破綻するからですね)


 つまり、文中から「い」を抜いても成立する文章、そこに注目し、どちらかに統一することで、キャラクターの言語表現に特徴が出るのです。


 この指摘が入るまで、花咲はその概念すら知らなかったので、各キャラが「い抜き」するかどうか、バラバラでした。

 その時の雰囲気でセリフを書いていたのでしょう。

 その意識の甘さを、台本を読んで「セリフとして声に出す」声優さんは、気になってしまったのです。


 このキャラは――『「い抜き」するキャラですか? それとも、しないキャラですか?』


 こんな、問いかけですね。

 その時は書き手(花咲)が意識していなかったので、答えられなかったそうです。台本に書いてある通りにやっていただけるでしょうかと、その場は切り抜けたと後で聞かされましたね。


 とても、申し訳ない気持ちになりました……。


 意識していない。

 それは真剣にキャラ作りしている声優さんの覚悟に対して、シナリオを提供するに見合う技量が、書き手側になかったという事に他ならないからです。


【読点と句点】という項目にて、書き手は「声に出して違和感のない」文章を作る必要がある、と記しました。

 その考え方は、この部分にもかかってきています。


 キャラ表現というものは、統一する事で「特徴」が顕著になるのです。


 その中の一つが、「い抜き」をするかどうか、という気を付け方だと、こちらを読んでくださった方に伝えられていれば、当エッセイは役割を果たしています。


 それでは、失敗しながら学んだ「い抜き」しても問題ないキャラ付けの現実的思考(基準)を、書き連ねましょう。


 これは花咲が個人的にやっていることなので、参考にはしても、絶対だとは思わないでください。


■「い抜き」しないキャラ


・丁寧口調などの、改まった話し方をする設定

・騎士、貴族、王族、という立場がしっかりしている

(男女関係なく)

・真面目、几帳面など、しっかりしている性格


・上記を踏まえた上で、「い抜き」しないキャラ付けは、男性に多く設定している

(=女性との対比)


■「い抜き」するキャラ


・若者口調、年齢の若い人物など、くだけた話し方をする設定

・町人や一般人など、身分の低い、堅苦しくない間柄

・明るい、フレンドリー、軽い、不真面目、しっかりして(い)ない性格


・上記を踏まえた上で、「い抜き」は女性のキャラ付けに多く設定させて(い)る事が多い

(=男性との対比で)



 ……はい。こんな感じですね。


 花咲は現在に置いて、上記のようにキャラ付けの時点で「い抜き」するかどうかを大雑把に決めていきます。

 難しく考える必要は一切なく、「固いキャラ設定→い抜きしない」「軽いキャラ設定→い抜きする」といった感じで、振り分けている形です。


 この表現を統一していくと、将来、声優さんにアフレコしてもらう時の前準備にもなり、現在プロではない状態でも、「細部まで文章を徹底している」という武器が貴方の中に生まれるでしょう。


・一人称視点の物語では、地の文は「主人公の視点」になるため、「い抜き」表現も主人公に合わせる必要があります


・三人称視点の物語では、地の文は「第三者の視点」になるため、「い抜き」表現は地の文と、キャラクターを一致させる必要はありません。ですが地の文内は統一する必要が出てきます


 物語を作る上では、これよりもっと、決めていく必要のある大事な要点がたくさんあります。


 初めから、こんな細部に気を配っていたら、だんだん面倒になり、きっと疲れちゃいます。


 だからこそ、この意識は「物語を作り慣れた方」が――それでいてストイックな方が――もっと自分の物語の質を高める為の考え方になっていくのでしょう。


 これを気にしすぎて、物語を作る事を楽しめなくなるのだったら、まったく気にしないで作る方が、よほど良いです。


 あくまで上級者編、物語の最初から最後まで、文章の一つひとつに至るまでを『自分の実力』として読み手に公開してみせる、と意気込む方のみ、意識して気を付ける考え方としてください。


 まだ物語を書いたことがない、これから書く予定という方は、いつかこの「気を付け方」が自然と徹底できるくらいに「物語を作ることに慣れた時に」行っていくと、もっと貴方の物語は「読み手のことを考えた」ものになっていくはずです。



 それでは、次の『ひらく』という漢字表現も、同じような上級者編という応用になっていきます。

 いってみましょう!


 この「ひらく」という考え方も、花咲がプロの現場に入ってから教わったものになります。


 そもそも「ひらく」とは何か?

 それは――『漢字』だった文字を「ひらがな」や「カタカナ」に直す作業の事を言います。


■何か? → なにか?


 こんな感じですね。


 なぜ、こんな作業が文章構成の際に入ってくるかというとですね。


 キャラクターは、それぞれ「知識レベル」が違うから、という理由になります。


 文章で説明するよりも、物語を交えて解説した方が感覚が掴みやすいかな、と思うので、さっそく例文を書かせていただきます。


「キャラの知識レベル」を表す例文になります。

 下記の設定を頭に入れながら、例文を読み進めてください。


●世界観・舞台――現代、日本、主人公は園児(一人称)


■「知識レベル」を考慮していない例文――


「我は園児、御年五歳になる。名前は……秘密にさせて頂こう」

 突然の自己紹介になってしまったが、どうか許して欲しい。

 何故なら我はこの幼稚園を仕切る猛者であり、我を慕う舎弟共に組織の頂点としての振る舞いを見せる必要があるからである。

「文句がある者はかかってくるが良い。拳にて語り合い、どちらが真の園児なのか見せてくれるわぁっ!!」


■例文ここまで


 ……はい。どうでしょうか。


 こんな園児、いませんよね?

(というか、これはもう園児じゃない)


 ですが漢字を「ひらく」(文章を調整する)だけで、少しだけキャラの設定に寄せられます。


■「知識レベル」を考慮した例文――


「われは、エンジ! おんとし、5さいになる。なまえは……ヒミツにさせていただこー!」

 とつぜんの、じこしょうかいになってしまったが、どうか、ゆるしてほしー。

 なぜなら、われはこのヨーチエンをしきるモサであり、われをしたうシャテーどもに、そしきの「ちょうてん」としての、ふるまいをみせる、ヒツヨーがあるから、である!

「もんくがあるものは、かかってくるがよい! こぶしにて、かたり合い、どちらがしんのエンジなのか、みせてくれるわーっ」


■例文ここまで


 ……はい。どうでしょうか。


 うーわ、すっごい読みにくくなりましたね……。

(幼稚園児を例題に選んだの、失敗だったなー……。エンジって名前みたいだし)


 ですが「キャラの知識レベルには合っている」と思いませんか?


 この調整で、漢字を「ひらいた」ことで――「幼稚園児が難しい言葉遣いで大人ぶっている」感が出てきたと思っています。

(細部もそのように調整しています)


 漢字表現というのは、年齢や知識レベルによって、どれだけ収めているのかが変わってきます。


 だからこそ細部に気を遣うならば、キャラクターごとに「漢字表現を統一する」と、その部分をこだわりとして読み手に伝えられます。


 これは、物語に統一感を出したい場合、気を遣う必要はないのかもしれません。

 ですが意識して気を付けると、そこが物語としての武器の一つになっていくのです。


 どうでしょうか。


 ちょっと駆け足でしたが、こちらが「い抜き」と「ひらく(漢字か否か)」という『キャラ表現の統一編』になります。


 物語を書くことに慣れてきた場合、この2つを意識してみると、作品の質が向上するかもしれません。



 それでは、今回はここまでとさせてください。



 えー……実は、ですね。

 決して重大ではないのですが、そこそこ無視できない発表をさせていただきます。


 当エッセイは今回の項目を持って、連続的な更新が止まる事になると思われます。

(感想欄などで、応援メッセを頂いているので心苦しいのですが)


 何故か、というとですね――

 もうあんまり、エッセイで大々的に書く解説内容がなくなっちゃっているんです(笑)


 花咲個人が強く意識していること、考えていることは、今回の項目までの内容で、ほとんど書き切ったという形になるでしょう。


 もし何かあれば、感想欄などで「どういう内容を知りたいか」を聞いて、それについて掘り下げるほどの知識が花咲にある場合に、エッセイの項目にて書き連ねる形が良いかな、と思うのですが……まあ、それでも更新は一週間、二週間、一か月に一回ほど、という速度に落ち着くでしょう。

(これからは新しい小説を書くことに集中していく予定です。しばし書き溜め期間を頂きたく……!)


 なお当エッセイは、完結扱いにはしない形で続けさせていただきます。

 今回で締めた『文章力向上のお手伝い』の次からは、実に個人的な、花咲が日々考えていることや、花咲が大好きな作家やタレント、身近な人達、それらを絡めた『物語作りへの応用』を書き連ねていく予定です。

(それに加えて、感想欄などにて要望があれば、という形です)


 当エッセイを読んでくださり、誠にありがとうございました!


 ぺこり。<(_ _)>


 これから続く内容は、おそらく「真っ当な物語のコツ」にはならない可能性が高いです。


 どちらかと言えば、花咲樹木という人間を解説するような、雑記や日記のような形になってしまうでしょう。

 精神的な在り方や、哲学じみた考え方、物語を作る上でのスタンス等になってしまうかと。


 これまで真剣な想いで「物書きとして修練する為に」読んでくださった方には、あまりお役に立てない可能性が高くなっていくでしょう。


 花咲樹木個人を掘り下げていくと――『不真面目』『面倒くさがり』『諦める(まぁいっか)』という結論が多くなっていくからです(笑)


 それでも、そんな立派ではない人間でも、なんとか「物書き」という職業は続けられるのだと伝えられるよう、内容を書き連ねていきたいです。


 それでは、ここまで読んでくださった全ての読み手の皆様に、最大限の感謝を!

 長らくお付き合いくださり、ありがとうございました!!

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