第32話 「表現」と「描写」(比喩とミスリード)

 新たにレビューを頂きました! とても嬉しいです。

 しかし、その事で少し実力不足に悩む事柄も生まれてしまいましたね……(笑)


 うむむ、人称の違いによる文章表現の向き不向きについては、少しずつ掘り下げる事が可能だとは思うのですが、「ルビ」については、どうしましょうか……。

 どう掘り下げるべきなのか、思い浮かんでいないという恐怖。一応、こういう場合にルビを入れると良いでしょう、という例文は思い浮かんだのですが(それに付随する漢字表現の臨機応変についても)、それは希望された事柄に合っているのかどうか分からず……。

 もし良ければ、感想欄等にて「ルビ付けの何に悩んでいるのか」を伝えてもらえれば、その事についての「考え方のきっかけ」を示せるかもしれません。

 お手数かけてしまいますが、よろしくお願い致します。ぺこり。



 それでは、今回は「表現」と「描写」についてを掘り下げていきたいと思います。


 そして、それに関わる「比喩」と「ミスリード」についてになります。



 こちらは文章で「何を説明しているか」という項目を、深く考えていく形になるでしょう。


 その文章で「何を説明しているか」――


 その上で「必要な説明が足りているのか」という考え方です。



 例えばですが「キャラクターの容姿」についてを、文章で表現するとしましょう。


 主人公が男性ならば、相手役となるヒロインについてですね。

 そこで、さっそくですが例文です。


 注目するべきは、「キャラクターの容姿」です。

 それに注目して読んでください。



■例文――


「くっそ、転校初日から遅刻なんて、ありえないぜ……!」

 俺は新しい高校で、今度こそ素晴らしい青春の日々を送るのだ。

 走りながら曲がり角に差し掛かった途端、不思議な衝撃と柔らかさが同時に襲ってきた――

「いったた……ちょっと、どこ見て歩いてるの!」

 どうやら女の子とぶつかってしまったようだ。

 慌てて、周囲の確認を怠っていたのは俺の方だ。ここは素直に謝ろう。

「ご、ごめん。ちょっと急いでて…………ぁ」

 そこには、すごく可愛い女の子がいた。

 制服から、今日から通う学校の子だと分かる。

 思わずぼーっと、見惚れてしまう。言葉の途中で、息を呑んでしまうほどに。

「? じっと見てきて、どうしたの?」

「……い、いや何でもない! あははっ、ホント、何でも!」

 転校初日、待ち望んでいた青春の日々が、始まった気がした。


■例文ここまで



 ……はい。どうでしょうか?

 この例文は、文章の組み立てに置いて『表現が足りていない』例になります。


 何が足りないのか、伝わったでしょうか?


 ――その答えは、こちらになります。


 主人公が女の子を見て――『どう可愛いと思ったのか』の説明が足りていないのです。


 文章表現、キャラクターの描写とは、ただ「可愛い」という単語だけじゃ伝わらない。

 なぜ「可愛いか」を文章にて説明するのが、文章力の向上にかかってくるのですね。


①容姿

②行動

③性格


 上記のそれぞれが、キャラの「可愛さ」を伝えられる表現と描写です。


『この文章は、物語の何を説明しているのか』


 キャラの性格や思考、容姿。

 背景描写を書く事でのキャラの心情、場面の雰囲気。

 ストーリーの流れ、そして伏線などですね。


 常に文章の意図を考えて書くことが、「分かりやすさ」と「読みやすさ」に繋がっていきます。

 ここを意識しないで書いていた場合「表現や意図に曖昧な部分が多くなる」という現象が起こります。


 書き手は「伝わっている」と考えていても、読み手には「伝わっていない」


 そんな、もどかしい現象が、起こってしまうのです……。


 容姿の場合は、特にそうです。

 何故ならば、小説というものは「絵がない」からですね。


 漫画やアニメ、映画だと、説明表現を必ず入れなくてはいけない、という訳ではありません。


 目で見る、それだけで「キャラの可愛さ」を伝えられるからです。

(見開きなどで、ばばーんという演出は、小説などでは難しい手法ですね)


 ですが、小説は違います。


 ちゃんと、表現や描写で「意味を説明する」必要が出てくるのです。


 という訳で、上記にある①「容姿」②「行動」③「性格」の、それぞれの説明を混ぜ込んだ例文を用意させていただきましょう。



■①「容姿」の可愛さを説明した例文


(中略)

「いったた……ちょっと、どこ見て歩いてるの!」

 どうやら女の子とぶつかってしまったようだ。

 慌てて、周囲の確認を怠っていたのは俺の方だ。ここは素直に謝ろう。

「ご、ごめん。ちょっと急いでて…………ぁ」

 そこには、すごく可愛い女の子がいた。

 漆塗りのように光沢がかった綺麗な黒髪、まるで絵画から出てきたような整った顔立ち、一目見ただけで忘れることの出来ないほど、印象的なオーラを全身から放っている。

 思わずぼーっと、見惚れてしまう。言葉の途中で、息を呑んでしまうほどに。

「? じっと見てきて、どうしたの?」

(中略)



■②「行動」の可愛さを説明した例文


(中略)

「いったた……ちょっと、どこ見て歩いてるの!」

 どうやら女の子とぶつかってしまったようだ。

 慌てて、周囲の確認を怠っていたのは俺の方だ。ここは素直に謝ろう。

「ご、ごめん。ちょっと急いでて…………ぁ」

 視線が思わず下にいった。そこには全ての男子を魅了する布切れが……。

「? じっと見てきて、どうしたの?」

 そう言いながら、女の子はようやく気が付いたようだ。

 パッと慌てて手で隠し、じとーっとこちらを睨み付けてくる。

「……み、見た?」

「い、いえ、子供が好みそうなクマさんパンツなんか見ていません」

「バッチリ見えてるじゃん! もぉ~……朝から恥ずかし過ぎるよー……」

 女の子の頬は赤い。きっと俺の顔も、タコのように真っ赤になっているだろう。

(中略)



■③「性格」の可愛さを説明した例文


(中略)

「いったた……うぅ、お尻ぶっちゃったよ~」

 どうやら女の子とぶつかってしまったようだ。

 慌てて、周囲の確認を怠っていたのは俺の方だ。ここは素直に謝ろう。

「ご、ごめん。ちょっと急いでて……」

「ぁ、ううん! 私も遅刻気味で急いでたから……ここはお互い様って事にしない? えへへ」

「あ、ああ。ありがとう。本当にごめんな。俺さ、今日が転校初日なんだ。だから遅刻したくなくて……」

「そうなんだ、今日から同じ学校だね! ここでぶつかったのも、何かの縁だし、よろしく!」

(中略)




 ……はい。どうでしょうか?

 それぞれ文章の中にある「女の子の可愛さ」を、例文を通して無事に伝えられたでしょうか。


 この例文は、その全てが「一人称視点の文章」です。


 ①は、主人公から見た「女の子の容姿」の可愛さを、「主人公が考えた比喩表現」を交えて説明している形になります。


 ②は、女の子が「下着が見えている事に気付き、慌ててスカートを押さえる」という行動の可愛さを、「主人公から見た動作の描写」により、説明している形になります。


 ③は、曲がり角でぶつかった事を「相手のせい」にしない。自分にも非はあるのだ、という性格の良さを、「主人公との会話の中で」可愛さとして説明した形になっています。


 どうでしょうか。


 ただの「可愛さ」という意味でも、様々なパターンによって「伝え方」が変わっていきます。


 そこで最初の例文を見てみてもらえると、あの文章には表現が「足りない」と伝わるでしょうか。


 ニュアンスでは、主人公は女の子の「容姿」を見て、可愛いと思っているようにも思えますが、その具体例が足りないため、「どう可愛いと思ったのか」かが、読み手に伝わっていないのですね。


 キャラの容姿や、物事を描写する時に「比喩表現」を用いるのは、こういう意味合いを持っています。


「表現を置き換える」ことによって、読み手に「意味を伝えやすくする」のです。

(出来れば比喩は、生活の身近にあるものを使うと、そのイメージが伝わりやすくなるのかもしれません。上記の例文は、花咲的には比喩を意識しすぎてあまり機能していない形になります。タコのように顔が真っ赤、くらいだと、誰が相手でもイメージが伝わるかと)



 なんとなーく、こちらの例文によって、文章で「何を説明しているか」、そして「その説明は足りているか」という意味を伝えられたでしょうか。

(その中に含まれる、比喩表現という方法も)


 こちらは意識して文章を組み立てれば、いくらでも描写の追加が可能になる考え方です。


 自分が書いた物語を持つ方は、一度読み返してみると、もしかすると直したい部分が出てくるのかもしれませんね。


 その文章で「何を説明しているか」、そして「その説明は足りているか」――


 物書きという人種に置いて、常に意識するべき事柄になっていくのでしょう。



 それでは、次は文章表現を使用した『ミスリード』についてを、掘り下げていきましょう。


 この単語一つだと、表現するのが難しく見えるかもしれません。


 ですが考え方は、とても単純なものになっています。


 こちらは、主人公や、物語の中に登場するキャラクターが、「そう思い込めば」それだけで「成立する」手法なのです。


 という訳で、例文を書き連ねていきましょう。

 まずは物語のプロットとして、設定を書きます。



●「世界観・舞台」――地球、日本、主人公は刑事

●「ミスリード」――犯人は捜査から逃れるため、現場にとある仕掛けをした



 これを踏まえて、下記の例文を見てください。



■「ミスリード」を盛り込んだ例文


「警部、こちらがガイシャです」

「ああ……しかしこれは、マル被の特定が簡単だな。事件にもなりゃしねぇ」

 床には、流れ出る血を使って『犯人の名前』が書かれていた。

 被害者の指先は赤く染まっている。死に際にメッセージを残した事は明白だ。

「すぐに捜査を開始する。この人物が誰か、特定しろ」

「はい! すぐに調べます!」


■例文ここまで



 ……はい。どうでしょうか。

 よくある手ですが、ダイイング・メッセージというものですね。


 これがあれば、その中にある「名前」を容疑者として追うのは、現実的思考として当然だと思いませんか?


 これが「ミスリード」という手法です。


 表現、描写を見て「主人公や登場キャラクターがそう思い込んだら」、それがミスリードとして成立するのです。


 ですが、もし警部の頭が「疑う」ことに慣れていたら、ミスリードをネタの一つとして、捜査を進めていくことになります。



■例文


「警部、こちらがガイシャです」

「ああ……しかしこれは、マル被の特定が簡単だな。事件にもなりゃしねぇ」

 床には、被害者から流れ出る血を使って『犯人の名前』が書かれていた。

 被害者の指先は赤く染まっている。死に際にメッセージを残した事は明白だ。

「すぐに捜査を開始する。この人物が誰か、特定しろ」

「はい! すぐに調べます!」

 警部は倒れ伏す被害者を見ながら、さらに思考を進める。

「……だが、マル被がコレを見逃すはずがねぇ。普通は対象が死んだ事を確認してから、証拠になりそうなものを現場から消すはずだ。これはフェイクかもしれねぇな」

「つ、つまり、コレは捜査を撹乱する為のものだと?」

「ああ、ガイシャの身体に付いた指紋を調べろ。対象を殺した時もそうだが、コレを“どうやって書いたのか”――犯人が手袋を付けていなかったら、ガイシャの身体にはマル被の指紋がべったり付いているはずだぜ」


■例文ここまで



 ……はい、こんな感じでしょうか。


 上記のように、「現場を見た刑事にどう思わせるのか」を描写するのが、ミスリードという手法の一つになり、主人公はそれを見て「さらに思考を進めた」という物語の展開になるのだと、伝えられたでしょうか。


 ここでの例文は単純なものになっていますが、原理はコレと同じです。


『ミスリード』とは――表現や描写に接触した時に「主人公や登場キャラクターがそう思い込んだ」事を、物語の流れで「読み手に伝える」ものになります。


 この「思い込む」とは、「現実的思考に沿った方が無難」です。

(普通はこう考えるよね、という思考パターンです)


 特殊な思考で思い込ませる事は、読み手の共感を得られなくなり、登場キャラがそう思っていても、読み手は「そう思えない」という現象が起こってしまう危険性があるからですね。


 ちなみに例文では「三人称視点」の文章として描写しましたが、主人公に思い込ませるのは「一人称視点」の方が向いているのかな、と個人的に考えています。


「一人称視点」では、地の文を「主人公の思考」として表現するからですね。

(主人公がどういう思考を辿るのか、読み手に見せやすい)


 キャラの思考に沿って「読み手にもそう思い込ませる」事が、ミスリードの基本筋になるのでしょう。

(あまり、人称の違いによる文章表現を説明できませんでしたね……。申し訳ない)



 それでは、今回はここまでとさせてください。


 今回の項目は「表現」や「描写」によって、文章で「何を説明しているか」、そして「その説明は足りているか」という事について。


 そして文章によって、「登場キャラの思考」を表現・描写して、「読み手にもそう思い込ませる」というものになります。


 ネタやアイデアを用いて、それを崩すように持っていけば「思い込むを覆す」ことができ――「読み手の現実的思考を崩す」という面白さのコツに繋がっていくのです。


 当エッセイ内で解説させていただいた

 ――『現実的思考とアイデアの間にある落差』という面白さの伝え方ですね。



 次回は……うーん、どうしましょう。

 おそらく「語尾」と「口調」について、になるでしょうか。


「セリフ」と「地の文」という項目をリストに書きましたが、ここまでの項目で割と伝えたかった考え方が説明できているんですよね……。


『文章力』向上というお手伝いの中での、残る項目は「語尾」と「口調」

 そして「い抜き」と「漢字表現の統一」という内容、どちらも「キャラクター」の描写についてを、深く掘り下げる形になるでしょう。


 当エッセイを読んでくださり、ありがとうございました!

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