第31話 「一人称」と「三人称」②(文章表現と呼び名)
今回は文章を構成する際の『一人称』と『三人称』についてを掘り下げていきたいと思います。
人称の違いによる文章の向き不向き、その「パート2」ですね。
今回の項目は、人称の選択による『文章表現』と『呼び名』についてになります。
それでは、まず「文章表現」を掘り下げていきましょう。
■『一人称』の物語での「表現の強み」
前回の項目にて、一人称の物語は「キャラの心情を表す」事に向いている、と書き連ねました。
花咲が考えるその最大の強みは、こちらになります。
『声に出さないセリフ』が可能になる、という点です。
会話のテンポを損なわずに、セリフ表現でのやり取りを強化できるのです。
ボケ、ツッコミ等々。
勢いだけの叫びや、じっくりと他者に関する感想を考えたり、ひとり物思いにふけっていたりなども、全て「地の文」の中で表現できます。
『一人称視点の物語』は――「主人公のセリフが倍以上になる」と考えています。
一人称視点では、地の文は「主人公のセリフ表現」に置き換えられるからですね。
(心中でボケる、ツッコム、という形です)
①例文――「一人称」視点
げほげほと咳き込んで、呼吸困難に陥ってしまう。
「げほ! げふ、はぁ、ぁ、えほっ、な、何がどうなって……」
「だ、大丈夫……?」
ああ、見知らぬ女の子が背中をさすってくれていた。
ありがたい。正直言うと体を触られるとすげぇ痛いから止めて欲しいけど、それでも優しくしてくれてとても嬉しい。好きだ。
……はい。こんな感じですね。
(拙作が一人称の物語なので、そこから例文になりそうなものを持ってきました)
地の文は「主人公の心の声」なので、『5W1H』の「だれが(Who)」を書かなくても、誰の表現なのか読み手に示せます。
その上で、地の文を「主人公のセリフのように」書くことで、主人公の心情を多く表現することが可能になるのです。
三人称視点の物語では、これが上手く機能していきません。
②例文――「三人称」視点
主人公はげほげほと咳き込んで、呼吸困難に陥ってしまっていた。
「げほ! げふ、はぁ、ぁ、えほっ、な、何がどうなって……」
「だ、大丈夫……?」
銀髪の女の子が、心配そうに眉を八の字にして主人公の背中をゆっくりとさする。
主人公は咳き込みながら、こう考えた。
ありがたい。正直言うと体を触られるとすげぇ痛いから止めて欲しいけど、それでも優しくしてくれてとても嬉しい。正直に言って好きだ――と。
……はい。上記の例文を「三人称視点」に直すと、こんな感じでしょうか。
少し、説明がくどくなってしまったと思いませんか?
説明も行も、ちょっと増えてしまっていますね。
人称の違いによって、面白さの伝え方が違ってくるとは、こういう形になります。
地の文でキャラの心情を示す場合、どうしても説明が増え、描写がくどくなってしまうのですね。
三人称の物語でキャラの心情を示すのは、可能な限りセリフで表現する方がスッキリする、と花咲は考えています。
そして、一人称視点での地の文は、個人的に「読み飛ばされにくい」という利点もあるのかな、と思っています。
本を読み慣れている方でも、地の文が長く続いていると「読み飛ばしてしまう」現象が起こります。
セリフだけを読み、物語の流れを見ていくという形ですね。
一人称視点の物語では、地の文も「セリフのように」作っていくため、読み手もセリフのように読んでくれるだろうと、そう考えています。
■『三人称』の物語での「文章表現の強み」
こちらは背景描写や、物事を描写する際に強みが出ます。
もっと細かく意味合いを因数分解すると――
三人称視点の地の文だと、その描写に
「詩的な表現が可能になる(違和感を持たせにくくなる)」という事です。
なぜ一人称視点の物語だと、詩的表現は違和感が出てしまうのか。
それは、物語を作る際には「キャラの知識レベル」に沿って文章表現を作る必要が出てくるからです。
登場人物は、それぞれ「頭の中身」が違います。
だからこそ、そのセリフや地の文での心情表現も、キャラごとに分けないといけないんですね。
ですが三人称視点での地の文は、「第三者」視点で統一できるのです。
三人称視点物語は――『作者の知識レベル』に沿って、表現が可能になります。
そこが、三人称の強みなのです。
とはいえ、ちょっとここまでの説明では、その意味合いが分かりにくいですよね。
という訳で例文を一つ。
①例文――「一人称」視点
あたしは泣く。わんわんと大声で泣く。
そうすれば誰かが話しかけてくれると思ったからだ。
そうだ、出来る限り痛々しく泣いてやろう。
「うえぇーん!! おかあさん、どこーっ」
「あらあら、どうしたの?」
優しい大人の女性が話しかけてきてくれた。しめしめだ。
わざとらしく涙を服の裾で拭いながら、たどたどしく答える。
「おか、おかあさん、いなくなっちゃったの……」
ああ、口に出したことで、その事実を改めて認識してしまった。
悲しい。これはもう泣くしかない。我慢などしてやるものか。
「うえぇぇーん!!」
宝石のような大粒の涙が、あたしの瞳から零れ落ちた。
②例文――「三人称」視点
公園の中で小さな女の子は泣いていた。
それは通行人が思わず振り返ってしまうほど、悲痛で大きな声だ。
「うえぇーん!! おかあさん、どこーっ」
「あらあら、どうしたの?」
通りがかった女性が、女の子に優しく話しかけた。
女の子は涙を服の裾で拭いながら、たどたどしく答える。
「おか、おかあさん、いなくなっちゃったの……」
口に出したことで、その事実を改めて認識してしまったのか、女の子の瞳にじわじわと涙が溜まっていく。
我慢が出来ず、再び女の子は涙を流して声を張り上げる。
「うえぇぇーん!!」
まるで宝石のような大粒の涙が、女の子の顔から零れ落ちた。
……はい。どうでしょうか?
地の文での表現で、どちらが違和感があるのか、伝えられたでしょうか。
圧倒的に「例文①」ですね。
こんな幼女、嫌ですよね……?
はっきりと差を見せる為に、例文ではこういった形になりましたが、原理はコレと同じです。
上記の例のように、「幼女」を主人公に見据えた物語なら――キャラの年齢に合わせて「文章表現」も、その知識レベルに沿ったものにしなければいけないのです。
ずいぶんと、表現可能な範囲が狭まったと思いませんか?
ですがこれは、人称の違いにより、メリットとデメリットがあるだけです。
例えば幼女が本当にこういった思考をしているならば、問題ありません。
それを成立させるならば、幼女に転生してしまった、という設定でしょうか。
例文①も、表現に違和感はありますが「この幼女、こんな性格なのか……」という事は、読み手に伝えられています。
人称の違いによるメリットと、デメリットです。
三人称は、地の文での表現を「一歩引いた目線で物事を見る作者の知識レベル」に合わせられるため、詩的表現も可能になり、文章に統一感も出せます。
どういう物語を描きたいかによって、「一人称」と「三人称」のどちらかを選択していきましょう。
それでは、次は人称による「呼び名」についてを掘り下げていきます。
■キャラの視点から見た『呼び名』について
ここでの呼び名は、キャラによって統一する事で――「誰がどのセリフを話している」のか、読み手に分かりやすく伝える事が出来る、という意味合いです。
①『一人称』――キャラが「自分をどう呼ぶ」か。
俺、僕、私、あだ名など、様々な呼び方がありますね。
(漢字、カタカナ、ひらがなでも分けられます)
②『二人称』――キャラが「他者をどう呼ぶ」か。
名前、あだ名、あんた、お前、君、貴方(男性相手)、貴女(女性相手)、貴様など。
(こちらも漢字、カタカナ、ひらがなで分けられます)
こちらも様々な呼び方があります。
③『三人称』――セリフや地の文で「相手をどう表現する」か。
彼、彼女、こいつ、そいつ、あいつなど。
(こちらも漢字、カタカナ、ひらがなで分けると、それだけでキャラ付けになります)
ざっくり言うと、大雑把な呼び方ですね。
これをキャラごとに設定し、統一していくと、それだけで「地の文を前後に挟まずとも」誰が、誰に向かって話しかけているのか、読み手に伝えられるようになります。
とは言っても、この説明では伝わりにくいかなとも思います。
なのでここでも、例文をカキカキさせていただきましょう。
人称を決め、地の文なしの状態で誰が話しているのか、読み手に伝わるものですね。
■地の文を挟まない例文――
「なあ、ちょっと相談に乗ってくれないか。俺ってひょっとして、モテないのかな?」
「そうね、私も貴方は顔が気持ち悪いと思っているわ」
「おいお前!? 質問と答えが合ってないんだけど!?」
「あははっ、僕は格好いいと思うけどなぁ。モテないのはさ、誰かともう付き合ってると周りに思われてるからじゃない?」
「え、誰それ? そんな素敵な存在、俺の周りにいたっけ?」
「えーっと、ごめん。僕の口からはちょっと言いにくいかなぁ」
「……そうね。言ったら貴方は明日の朝、目覚める事が出来ないかもしれないわね」
「こわっ、君の発想こわっ。あはは、やっぱり僕の口からは言えないや」
「なんだよ~。俺は結局、誰と付き合ってると思われてるんだよ」
「どんかんバカ……。私の気持ち、ちょっとは気付いてくれてもいいじゃない……」
■例文ここまで
……はい。どうでしょうか。
(ちょっとセリフをくっつけ過ぎて、読みにくいかもしれません。申し訳ない)
おそらく上記の例文を読んでもらえたら、登場人物が「三人いる」と読み取ってもらえたんじゃないかと思っています。
・主人公――「一人称・俺」「二人称・お前」
・ヒロイン――「一人称・私」「二人称・貴方」
・親友――「一人称・僕」「二人称・君」
この形ですね。
(可能な限り、キャラごとに違うものを設定すると良いでしょう。モブキャラ等で、私や俺は多用しても良いと思いますが)
そして、誰がどのセリフを話しているのも、地の文の補足なしで伝えられたんじゃないでしょうか。
さらに、セリフの中で三人の関係性までもです。
ヒロインは主人公の事を想っているが、主人公はそれに気付いていない鈍感野郎。
そして親友は、その関係性を温かく見守っている、という形ですね。
ここで注目して欲しいのは、セリフの中に「人称」は入れていますが、誰も相手を「名前」で読んでいないという事です。
人称を決め、それを物語の中で統一し、セリフの中に混ぜ込むことで
――「誰がどのセリフを話しているか」読み手に伝えられる、という形になります。
(それに加えて前後に地の文での補足を挟めば、読み手に誤解させる余地がほとんどなくなりますね)
ちなみに上記にあるキャラの人称設定を、自己紹介のような形で載せるのはオススメしません。
あくまで、物語の中で「自然と読み手に伝えていく」形を意識してみましょう。
自然に、というと難しく見えるかもしれませんが、大丈夫です。
何も難しい事柄ではありません。
ただ最初に人称を決めておく、考えておくだけで、それを物語の中で「統一」させていれば、自然と読み手に伝わります。
「呼び名」の決め方は、性格や口調によって定めていくといいでしょう。
これが、人称による「呼び名」というキャラ作りになります。
このような形にて、「誰がどのセリフを話しているか」を読み手に示す方法を強化していきましょう。
それでは、今回はここまでとさせてください。
次回は、今回の項目でも少し触れた「表現」と「描写」という文章力を掘り下げていきたいと考えております。
こちらは「人物描写のコツ」や、「物事を表す描写」についてになります。
文章でキャラや物事を表現する際に、なにを気を付けるべきか、というものですね。
当エッセイを読んでくださり、ありがとうございました!
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