第25話 「ストーリー」について⑥(あらすじ分解)

 それでは、今回も「ストーリー」の組み立て方についてを、掘り下げていきたいと思います。


 今回の項目は、物語を書き上げる前に「もし、あらすじを作成できていたら」という状態を活用する形になっていきます。


【ストーリー構築について】という項目にて、映画一本分が、本一冊分のプロット分量と同じだという話をさせていただきました。

 この項目は、こちらにも関連していくことになると思われます。


 そして、まずは恒例っぽい関係なさそうで関係あるような話を一つ。


 実は拙作をネット投稿したきっかけには、二人の友人が関わってきています。

 一人は当エッセイの初期に登場していただいたイラストレーターの友人O君。

 そしてもう一人は、プログラマーの友人K君です。


 友人K君は自分のゲームを作ろうと考えた際に、自分のゲームに使うキャラのイラストを、自分で書こうと思い立ちました。

 そのきっかけで、プロのイラストレーターである友人O君に色々とアドバイスをもらっていたのですね。

(その席に、花咲も混ざっていたというわけです。しかし、すごい練習環境だ……)


 その世間話の一環で「そうだ、花咲も何か新しい事を始めればいい」という流れになりました。

 瞬く間に開始する期限を決められ、ネット投稿を始めなかったら「ススキノでナンパしてくる(しかも一人で)」という罰ゲームが定まってしまった事で、面倒くさがりを自負していた花咲でも、状況に追われて年始からネット投稿を始めたのでした。

(ナンパとかした事ない……。知らない人に話しかけるのが怖くてガクブルです)


 そして、イラストが上手くなる際のアドバイスの一つに、こんな台詞がありました。


「必ず書き始めたら最後まで書く」


 途中で書くのを止めてしまったら、それがいつしか癖になってしまうと。だから「書き切る」癖を逆に意識して付けていこうと。


 友人O君はそう言って、イラストの練習をしている友人K君に助言していたのです。

(そして出来ればそれを誰かに見せて、評価される場に持っていく。それも大事だと言っていましたね。やはり読み手の存在は絵の世界でも無視できないのか……)


 その言葉を聞いて、その助言は物書きにも当てはまるかもなぁと、花咲はぼんやり考えていました。


 一度書き始めたら――『物語を完結させること』が何よりも大切な事なのかもしれないと。


 確かに仕事の場で、クリエイターの一番重要なことは『完成させる』ことです。


 作品の質が低く、酷評されてしまう事よりも、商品として売り出すことが出来ない方が、よほど痛手だからですね。

 そこには、納期を守る、という意味も込められているのでしょう。


 ネットでの長編物語の投稿は、「書くのを途中で止めてしまう」癖を自分に植え付けてしまう危険性が大きいと、個人的に考えています。


 読み手の反応が直接見えてしまう事で、見え過ぎてしまう事で、書く気力を保ち続けられない。

 そんな現象が頻繁に起こってしまうのでしょう……。


 理由は、きっと色々ありますよね。


 思う通りに評価がもらえない。

 投稿しても読んでもらえない(PV数が伸びない)

 読んでもらえないから感想も貰えず、次第に作品のどこが悪いのか自分で判断できなくなり、作者自身ですら自分の作品を面白く思えなくなってしまう。

(他の作品と比較して、頭の出来や文章能力が違うんだからと諦めそうになる等)


 クリエイターを続けていると、自己満足のみで突き進む事が難しくなる時期が、きっとどこかで訪れるのでしょう。


 自分の作品の事ではなく、読み手の事ばかりを気にして、手が止まってしまう事が。


 小説大賞への応募では、作品を完成させない状態で参加することはないでしょう。

 しかしネット投稿は、その全てを自己責任で決められてしまうので、作品を完結できなくても直接の声や言葉で文句を言われる事は少ないと思います。


 自分の物語を楽しみにしていた読者の存在は、その続きを求める声や言葉は、作者本人には届いていかない事の方が多いのでしょう。


 だからこそ「物語を書き始めたら完結させる癖」を付けるよう、本人が強く意識していくべきなのかもしれませんね。


 花咲も結構、雑でいい加減な生き方をしていたので、趣味で書いていた際には、物語を完結できていない状況が多々ありました。

(それで小説大賞に応募できなくなっていたり)


 もし、貴方が「途中で書くのを止めてしまう」癖を持っていたとしたら。


 今回の項目は、それを「最後まで書けるよう」持っていけるお手伝いになるかもしれません。

 そうなれたら良いなと思いながら、その考え方を書き連ねさせていただきます。


 閑話休題


 今回は、物語を書く前に「もし、あらすじを作成できていたら」という状況を利用する項目になります。


 いえ、そう持っていけたら、きっと最後まで書き上げる事が出来る、そういう項目になるでしょう。


【ストーリーについて②(始まりと終わり)】という項目にて、プロットを構築する際は「特に終わりを意識しよう」と記しました。


 それの応用編が、今回の項目になると思われます。


 物語の『あらすじ(大筋)を作る』というのは、必然的に物語の「終わり方」まで考える事になるからです。

(ここで示すあらすじとは、読み手を惹きつける為の前説明文章、という意味ではないので注意。詳しくは【ストーリー構築について】という項目にて説明しております)


 あらすじを考えて、まとめる事が出来たら、後はそれを分解して、少しずつ肉付けしていけば、その物語は完成します。


 それを本一冊分の分量まで持っていく事が叶えば最高なのですが、最初の内はそこを気にせず、まずは「事前に考えた終わり方」まで物語を持っていく事のみに、心を集中させていきましょう。

(読み手の反応がなく、どんなに心が挫けそうでも)


 一度完成させる事が叶えば、後で分量を増して、物語の魅力を補強していけばいいんです。


 見直して、誤字脱字を消していき、その際に説明を足したい場所を見つけていく。

 実際に花咲はプロの現場でも、そうやって補強しています。

(おそらく、みんなそう)


 各話を書き上げたら投稿する。

 そういったスタイルだと、それも難しいのかもしれませんが……ネット投稿なら、それでも大丈夫でしょう。


 お金のやり取りの発生していない物語は、後でいくらでも調整可能です。


 読み手の反応を見て、各部分を直せるのがネット投稿の長所だと思っています。

(そもそもPV数が少ない場合は、タイトルや前説明としてのあらすじ部分を直す形でしょうか。ジャンル選びの時点でも、考える余地が出てくるのでしょうね)


 という事で、再び今回の項目としての例題となる、拙作のあらすじを……。


 とはいえ、ちょっと長くなるので(目も滑るので)、割愛させていただきますね。

(あらすじの全体図は【ストーリーについて①】を参照お願い致します)


 あの「あらすじ」は、物語の大筋しかまとめていません。

 細かな部分は省き、ストーリーの流れしか表現していないのです。


 だからこそ、これを分解し、各章に振り分け、その前後を肉付けする事で、物語として完成させていきます。


 それではここから「あらすじを分解した、各章への振り分け」の例文になります。

(拙作は四章構成になっています)



■一章


●一話

 主人公イオリ・ユークライアは、誰もが「精霊術」という自然を操る力を使用できる世界の中で、何故か一人だけ精霊術が使えません。

 生まれ故郷である火精霊の国は、兵隊になり戦うことが国益として成り立つ国であり、イオリも自然と戦闘での強さを求めていき、世界最強の戦士なることを夢みていました。

 精霊術を使えない状態でも、剣術を磨くことで目標に近づこうとしたのですが、自分で強さの限界を感じてしまい、精霊術に対抗する手段を探すことを決めます。


●二話

 故郷を飛び出して向かったのは、樹精霊がいる国であり、そこに行けば「誰でも精霊から願いを叶えてもらえる」という噂がある群島でした。

 船が確保できなかった為に島へは泳いでいきますが、途中で何者かに襲われ、溺れてしまいます。目を覚ますと、容姿端麗な女の子が自分を助けてくれたことを知りました。


●三話~四話

 女の子は樹精霊に求婚されていて、「精霊術を使う度に人間を止めていく」という契約しているそうです。そして完全に人間ではなくなったら、樹精霊と結婚する約束を交わすことで、過去にとある願いを叶えてもらった、との事でした。


●五話~七話

 しかし樹精霊は女の子であり、女の子同士での結婚は出来ないと悩んでいます。樹精霊は強引な手段で結婚を迫っていたので、イオリは命を助けてもらった恩を返す為に、女の子を自分の力で助けたいと考えます。



■二章


●九話~十四話

 島では樹精霊が与える「願いは等価交換」というシステムにより、色んな人が困っていました。そして誰かが困った姿を見ると、女の子は結婚する日が近付くことを知りながらも、精霊術を使って助けてしまいます。

 イオリは島の人達と協力し、女の子が精霊術を使わないように環境を整えようと頑張ります。



■三章


●十七話~二十三話

 ですが、その行為によって樹精霊を怒らせてしまい、女の子を連れ去られてしまいました。

 イオリは再び村の人達と協力し、女の子を取り返す為の行動を起こします。ついには樹精霊を追い詰めることに成功するのですが、



■四章


●二十五話

 実はそれこそが樹精霊の狙いだった事が判明します。

 樹精霊は「女の子の幸せ」を第一に考えて、死ぬ覚悟を持って身を引こうとしていたのでした。女の子と樹精霊の関係性を誤解していたイオリは、助けられた自分の身体を樹精霊に差し出すことで、状況を解決しようとします。これも女の子の幸せを、第一に考えた上での行動でした。


●二十六話

 ですが、女の子が求める「幸せ」はそのどちらとも違い、知り合った人達と全員仲良くなりたいという、ささやかなものでした。女の子の幸せを知ったイオリと樹精霊は、自分の感情を抑えて、死ぬことでの解決より生きて仲良くする解決を選びます。

 こうしてイオリは、自分が追い求めていた強さは「肉体的な強さ」や「精霊術の有無」ではなく、相手を幸せに出来る「精神的なもの」なのかもしれないと、女の子の言動から学んでいくのでした。命を懸けて一生懸命に生きるという意味を学び、改めて世界最強の戦士になる夢を追いかけようと決意します。



 ……はい。各章、各話に振り分けると、このような形になりますね。

 明らかに、二章と三章の内容説明が、他と比べて少ないでしょう。


 こうして見ると、花咲がまとめた「あらすじ」は、物語の「始まりと終わり」を重視している事が伝わってきますね。

 花咲がどこに注目して、プロットを組み立てているかよく分かります(笑)


 どうでしょうか。

 この流れに沿って書いていくと、「物語を完成させられるかもしれない」という気になりませんか?

(ならなかったら、ごめんなさい)


 あらすじの時点で、「始まり」と「終わり」の分量は、もう十分考えています。

 後はこの流れに沿えるよう、少しずつ文章を肉付けしていけば大丈夫。


 しかし、このままでは、物語の中身となる中盤(二章と三章)の要約内容が足りていませんね。


 大丈夫です。


 足りない「あらすじ」は――その時点で書き足して、増やせばいいんです。

(ばばーん)


■二章


●九話

 イオリは島の住人に監禁されてしまいます。

 詳しい事情を聞くと、樹精霊が与える「願いは等価交換」というシステムにより、色んな人が困っている事が分かりました。

 住人代表であるロッコと、その少女に付き従うカボチャ男ジャックもまた、願いによる被害者だという話でした。


●十話

 ロッコは過去に、父親を亡くしていました。

 父親の蘇生を樹精霊に願うも、その魂が別人だという等価交換に悩んでいることが分かります。

 その等価交換というシステムが原因で、ヒロインの女の子と島の住人が仲違いしていることを知り、イオリはその関係を修復する為に頑張ろうと決めました。



 ……はい。こんな感じですね。

 これが「あらすじの時点で物語の流れを決める」という作業になります。


 ちょっと拙作の場合は、結論ありきで書き起こしているので少しズルいのですが、やり方、考え方は同じです。


 各章、各話で「書く内容」を最初に決めてしまう。


 それが叶うと、あとは「流れに沿って書き上げる」という作業だけになります。


 これは物書きを目指し始めてから、いえプロの現場に入ってから気付いた、と言ってもいい事なのですが……。


 ――『物語の大筋を考えながら書いていく』という作業は、本人が自覚している以上に負担が大きいんです。


 どうすれば面白くなるのかを考える事と、面白く読み手に伝わるよう書き上げる事を同時に行うと、作業量が多すぎて、少しずつ余裕がなくなっていくんです。


 そして、余裕がない状態で書き続ける状態は、だんだん辛い作業になっていきます。


『考える』事と、『書いていく』事を、出来る限り分離させた状態で書き上げる――


 それが叶えば、きっと貴方は物語を最後まで書き上げ、自分の作品を完成させる事が出来るでしょう。


「あらすじ」を最初に作るというのは、実際に「物語を書く」時の負担を減らす事に、大きく繋がっています。


「考える」という脳内の余地を、「文章力の向上」という部分に特化させる事が出来るからです。


 人間、色んな事を同時に進められる才能を持っている人は少ないです。

(花咲も持っていません。だから、いつも一つの事に一生懸命です)


 だから、まずは


①『物語を組み上げる』事に「考える」を使う。


 その作業が完了してから、次に――


②『物語を書く』事に「考える」を使っていきましょう。


 そうやって、一つずつ物語を完成させていきましょう。

 その方が、物語の質自体も上がっていくはずです。余裕がない状態で書くよりも、余裕がある状態で書く方が、精神的にも辛くないし、色んなネタやアイデアも浮かびます。


 辛い状態で書くよりも、余裕を持って書ける状態を、自分の意思で故意に作り出しましょう。


 その方がきっと――「物語を書く」事を楽しめるはずです。


 作業を楽しんでいる精神状態は、面白い物語を生み出す事に繋がっています。

 あらすじを最初に作る事は、物語を作る上で良い事尽くめなのですね。


 たとえ読み手の反応で心が折れてしまったとしても、なんとか最後まで書く事は出来た。

 よし、次はもっと面白い物語を作り出せるよう頑張ろう!


 そんな自信や「考え方」の芽生えにも、繋がっていくと考えております。



 という訳で今回は、物語を書く前に「もし、あらすじが作成できていたら」という項目でした。


 次回はストーリー構築の項目を終え、ようやく「文章力」という言葉の内訳や因数分解の項目に入っていくと思われます。

 当エッセイを読んでくださり、ありがとうございました!

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