第21話 「ストーリー」について②(始まりと終わり)

 それでは、今回も「ストーリー」の組み立て方についてを、掘り下げていきたいと思います。


 まずは、今回の項目にも関わって来る――

「プロット内容が、始まりから終わりまで決まっている状態で、それでも面白さを追求する」という状態を解説してから、その構築方法を記します。


 実は花咲、少し悩んでいました。


 当エッセイをもっと面白く読んでもらえる為には、どうしたらいいんだろうと考え、頂いたレビューの内容を読み返していったのです。

 こういう読み取り方をしてくれていたんだなぁと、にこにこ嬉しく感じていたのですが、あれ、そういえば……とも考えました。


 そうして思いついたのが、これでした。


「あれ? そういえばまだ、具体的な説明をしていないような……」


 まだ、プロット時点での面白さが決まっている状態で、それでも最大限に面白く物語を構築するという例題を、出していないんじゃないかと、考えてしまったのです。


 という訳で、例文を用意させていただきます。

(ちょうど今回の項目内容と一致させられるため、少しばかりお付き合いくださいませ)


 これは小説作家というよりも、シナリオライターとしての例になるかもしれません。


 シナリオライターになり、物語でお金を稼ぐ段階になると、企業や出版社から提出された「プロット」を物語に起こす、という作業が発生します。


 自分で考えたストーリーではないプロット内容を見ながら、物語として完成させる作業が多くなっていくのです。


 勝手に物語の内容を変えてはいけない、という状態です。

(それをすると、他部署との連携が取れなくなりますので)


 それではここから、既に内容が決定しているプロット内容の例になります――


①主人公Aには、とても仲の良い親友のBがいる

②ある日、親友Bが風邪をひいてしまったと知る

③病院嫌いなBの病状は、何日経っても良くならないようだ

④主人公Aは決心し、親友Bに風邪薬を飲ませて解決する


 ……はい。どうでしょう?


 この物語、山場もオチも、薄いと思いませんか。

(風邪ひいた友人に、風邪薬を飲ませるだけですからね)


 これが貴方に提出された、「決定したプロット」だと仮定してください。

 この流れからズレて書いてはいけないという縛りの中で、貴方は物語を完成させなくてはいけない状況が訪れます。


 これが作者にとって「プロット時点ではあまり面白くない内容」の例になります。


 ゲームシナリオというものは、こういう小さなプロット内容をいくつも積み重ねていき、文字分量の長い「一つの物語」として成立させていく場合が多いです。


 いやいやいや、おいおいおい……と。

 これをどうやって面白くすればいいんじゃい、と思う方が多いんじゃないでしょうか。


 でも貴方は、頑張らないといけないんです……。

(それが物書きとしての、お仕事だからです)


 この例により――

『プロット段階で面白くないものは、実際に物語を書いても面白くありません』


 この文章への理解が、深まったのではないかと思っています。

(こんな結末だと、どうやっても万人受けする面白さは表現できないんじゃ、と考えてしまいますよね)


 プロット内容を作成した時点で、ある程度の面白さが決まる。

 しかしこれを、お金を出す立場の方が「面白い! 大絶賛! いいプロットが作れたな!」と意気込んでいる場合、どう思うでしょう。

(自分にとっての面白さと、他人が感じる面白さの違いは、こういう場面にはっきりと出てきます)


 でも、貴方はこの物語を書かなければいけません。


 それでは、この状況で作者の『オリジナリティ』を出すには、どうしたらいいのか。


①主人公Aには、とても仲の良い親友のBがいる。

②ある日、親友Bが風邪をひいてしまったと知る

③病院嫌いなBの病状は、何日経っても良くならないようだ

④主人公Aは決心し、親友Bに風邪薬を飲ませて解決する


 この④「風邪薬を飲ませる」という「解決方法(アイデア)」を、少し工夫すればいいのです――



「おいおい、そんなに風邪が酷いなら早く病院いけよな」

「……やだ。病院きらい。ぜーったい行きたくない」

「それじゃあ風邪薬を飲んで、休むしかないな。ほら、俺が用意してやるよ」

「それもやだ……。薬にがいから、飲みたくない」

 まったく、わがままな親友だ。

 でも俺はお前が早く元気になってくれないと、毎日つまらなくて仕方ないんだよ。

「そんなに薬が苦くて嫌いなら――『口移し』で飲ませてやらぁ!」

「え……? ちょ、ちょっと何いきなり!? ひゃわあぁ――むぐっ」

 口の中に風邪薬を含んだ状態で、親友Bに覆いかぶさる。

 嫌がって暴れる親友を押さえつけて、無理やりに唇を重ね合わせた。

 舌もちょっと入れた。

「……っ、ん、む、むぅぅ……!」

 こうして俺は、親友Bに無事風邪薬を飲ませることに成功したのだ。



 ……はい。こんな感じでしょうか。


 これが、物書きを仕事にする場合の『個性』の出し方になっていきます。


 プロット内容を変えないままで、可能な範囲で「オリジナリティ」を混ぜる形です。


 例えばこの登場人物の性別が、もし「同性」だったら……どう思います?

 一気に「あぁこういうシナリオを好きな奴も、いるかもなぁ~」と、どこかで思ってもらえるんじゃないでしょうか。

(ちょっとエッチな仕様になってしまったのは、花咲の仕事柄から納得していただければ幸いです笑)


 まあ、この例文も、


④「主人公Aは決心し、親友Bに風邪薬を手渡すことで解決する」


 というプロット内容が指定されていた場合、使えない工夫になります。


 プロット内容を吟味し、どこに工夫を盛り込めるのかを考える。

 それが、物書きとしての「個性」になっていきます。


 もちろん、プロットを作成した側が「期待する展開」という側面もありますので、勝手に改変しすぎてはいけません。

 プロット作成者に「どう面白さを魅せたいのか」を確認してから、執筆するのが一番無難に物語を書き上げられるでしょう。


 閑話休題


 今回の項目にて書き連ねるのは、物語の「始まり」と「終わり」を決める、という形になります。


 特に「終わり方」だけは絶対に意識しておくのがいいでしょう。

(その時点では、考えきれなくても)


 始まり方が決まっていて、終わり方が決まっていれば、そこを変更せずに物語を書くことで、作者の狙い通りに「物語を成立させられる」可能性が高いからです。


 この構成方法は、少し『小論文』の作り方に似ていると思われます。

(この方法を実践し始めたのも、小論文の書き方を知った時からでした)


 ちなみに花咲は大学に通ったことがないので、小論文を書いたこと、実はないんですけれど(笑)


 この小論文の書き方とは――

 最初に物語の結論を出し、本文にてその内容を説明して、最後にもう一度「作者の考え」を混ぜた結論を表現する手法というものになります。


 先ほどの例文で言えば


「始まり」――主人公Aの、親友Bが困っている

「終わり」――親友Bが困っている事情を解決する


 という形です。

 その解決方法にアイデアや工夫を混ぜて、物語の「面白さ」を表現する内容を考えていく、という形ですね。


 前回の項目にて、ストーリーの組み立て方の例として「問題」と「解決」を考えよう、というものを記しました。


 この「始まりと終わり」の手法は、その方法とも関連性を強く出来ます。

 実際に、花咲はこの組み立て方との合わせ技で、ストーリーを組み立てることが多いです。


 拙作の例で言うと


「問題」――主人公イオリは、世界最強を夢みている

「解決」――世界最強とは、精神的なものかもしれないと感じ取る


 この問題と解決が、そのまま「始まりと終わり」になっているのです。


 特に「終わり方」を決めていれば、後はアイデアを考えて挟み込むだけで、物語のネタが成立します。


「始まり」――主人公イオリは、世界最強を夢みている

★「アイデア」――ヒロインの女の子がわがままを言うことで、願いや夢とも関係なく幸せをつかみ取った

「終わり」――世界最強とは、精神的なものかもしれないと感じ取る


 という形ですね。

 後はこのアイデアの具体的内容を、考えていく形になります。

(この始まりと終わりを、問題と解決に置き換えて、考えていきました)


 どうすれば、読み手の現実的思考をアイデアによって崩せるのか。

 どうすれば、読み手の期待通りに物語を進められるのか。


 ジャンルについての説明内容(推理もの)にて、読み手には『騙される快感』というものがある、と書き連ねました。


 しかし、その一方で、読み手には『期待通りに決着がついた』という快感も存在しています。


 小論文の作り方と似ているというのは、ここにかかってきています。


 物語の始まりにて提示した「物語の方向性」と「想像させた決着」を、そのままの形で終わりにて提示する。


 その上で――物語の「終わり」に行くまでの道のりで、作者の「アイデア」を混ぜ込み、「予想していた展開を覆す」という状態になります。


 拙作を読んでもらった方は、主人公イオリは「ヒロインの女の子を助ける」のが、この物語の主軸なんだなと、無意識にでも感じ取ってもらえたのではないでしょうか。


 実際に、主人公はヒロインの問題を、何らかの形で解決することで、物語に幕を閉じています。

(本一冊分の分量を、その解決に合わせていっています)


 ですが、その決着方法が――『主人公がヒロインの為に死のうとする(死ぬことで、樹精霊に身体を差し出す)』というアイデアを予想できた方は、あまりいなかったんじゃないかと思っています。

(布石や伏線は散りばめていましたが、それを予測できるようには誘導していなかったので)


 これが「物語の始まりで、読み手に物語の終わり方を想像させ、そこにきちんとストーリーを向かわせた上で、読み手の予想をアイデアによって崩す」という、物語の考え方になります。


 ……どうでしょうか?


 これが物語の「始まり」と「終わり」を考えた上で、面白い物語を作る為の『考え方』になります。


 推理ものや、布石や伏線がきちんと機能していて、読み手に『騙される快感』を与えられる物語ならば、この考え方も含めなくても、きちんと面白い物語を作れると思います。


 ですが、王道展開やテンプレートに沿って進む場合は、この考え方でストーリーを組み立てていくと、ぐっと「小説っぽく」なっていくと、そう思っています。


 項目の初期にて、終わり方が「風邪薬を飲ませる」という物語の例題でも、この手法を加えています。


 プロット内容では、もう終わり方が決まっている。

 それじゃあ――「どうやって風邪薬を飲ませる」のか?


 それが、その物語の中で一番面白さを読み手に伝えることができる、アイデアを差し込む余地になっていくのです。


 ここまでをまとめると――


 まずは、物語の始まり方を考え、物語の終わり方を決める。


 そして、その終わり方に沿ってストーリーを進めながら、その間にある「終わらせ方」を、アイデアによって工夫する。


 これが、この手法の考え方の基本筋になっております。


 後は前回の項目でも記した、物語の文字分量を決め、章構成によってそれを振り分け、どこでその「アイデア」を表現するかを決めていく。


 そうやって、一つずつ各部分を決めていけば、少しずつそのプロットは、分量に合った物語として内容が充実していくと思われます。


 短編の方が、この手法は感覚が掴みやすいかもしれませんね。

「風邪薬」の例題は、まさしく短編の分量の物語だからです。

(ゲームシナリオとは、短編の積み重ねと言ってもいいでしょう)


 この例題にて、少しでも「始まり」と「終わり」を決めるストーリーの組み立て方、その面白さを表現する考え方を、伝えられたでしょうか。


 この手法は、アイデアによる「どんでん返し」の面白さにも関わってきているものだと思います。


 貴方がこれから書く物語が、読み手の「期待通りにストーリーが進みながら」――それでも「読み手の予想をアイデアによって崩す」ことが出来るよう、願っております。



 それでは、今回の項目はここまでとさせてください。

 次回もストーリーの組み立て方の方法を書き連ねていく予定です。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る