第18話 「ジャンル」について③(特殊技能系)

 それでは、今回も続けてそれぞれの「ジャンル」についてを掘り下げていきたいと思います。


 今回の項目にて記していくジャンルは、文章力とは別のところにある才能や適性というものが関わってくる分野だと、花咲は個人的に考えています。

(そして、その適性がおそらく花咲にはないだろう、と結論付けたジャンルです)


①推理

②童話


 上記の二つのジャンルです。

 この項目にて記す才能や適性というものは、物書きとしてではなく、生まれ持った性格や思考原理という分野での向き不向きがあるのかもしれない、そういう考察になっています。


 という訳でして……。

 初めに少しだけ、注意点というものを書かせてください。


 これは、当エッセイを読んだことで「このジャンルは自分に向いてないなぁ」と考えて欲しいわけではなく、上記の物語を作る際には、ここを強く意識した方がいいだろうという考え方です。


 才能や適性というものは、実際に何度か書いてみないと分からない部分でもあるので、面白いネタやアイデアが思いついた場合は、ぜひ挑戦してみて欲しいです。

(そして、そのジャンルで物語を書く事を目いっぱい楽しんで欲しい)


 この二つのジャンルは、今まで書き連ねたジャンルよりも格別に「読み手を意識する」ことが求められるだろうと、花咲は考えています。

 だからこそ難しく、だからこそ物語を書き上げた時は楽しいだろうと、そう思うのです。



 ①「推理」


 このジャンルにて必要な才能は「嘘つき」です。


 ここで注意して欲しいのは、ただ「嘘をつく」だけではないということ。

 読み手に「嘘だとバレないままに情報を伝える」能力が求められるのです。

(偽の情報だと読み手が分かると、そのまま作中のトリックまで見破られる可能性が高いです。それか、トリック自体が簡単にバレるお粗末な出来になるか。どちらにせよ、その時点で終盤やオチの面白さが機能しなくなります)


 要は――対人関係において『嘘が上手い』人ですね。

(心理学者や詐欺師の才能と言ってもいいでしょう)


 このジャンルの物語では「読み手を騙す」、「読み手を欺く」必要が出てきます。

(言い換えると、文章によって嘘の情報を信じ込ませる能力でしょうか)


 物語にて文章を書き連ねていき、「この文章を読んだ人は、きっとここまで考察できているだろう」という情報や、「この展開を差し込むと、きっと読み手はこう思いこむだろう」という――『読み手の頭の中』を完璧に近い形で掴む能力が求められるのです。


『人間』という、そもそも性格や感情がバラバラで矛盾している生き物を、どこまでも深く把握していかなければいけないのです。

(なので、心理学を学んでいると、この分野の勉強としては最適なのかもしれませんね)


 これは、作者が考える面白さを追求するジャンルでは、ありません。


 どこまでも読み手を意識し、誰が読んでも、どの年齢層が読んでも「きっとこう考えるだろう」という嘘の文章を重ねていき、最後にアイデアでひっくり返すという技能が必要です。


 ただ設定やトリック、ネタやアイデアを思いつくだけでは、足りません。


 それを悟らせないよう文章を組み立て「読み手に偽の情報を信じ込ませ、物語の結末とは違うトリックや考察に誘導する」という、人間の心理を操る技術が必要になります。


 物語とは、考えたことを言語化したもの。

 そして作者の嘘や妄想を形にしたものです。


 だからこそ、物語は作者の頭の中がそのまま具現化したものと言っても過言ではありません。


 その上で、推理ものというジャンルでは、その頭の中だけで「他人を騙す」能力が求められるのです……。


 これまで書き連ねたジャンルでは、作者の考えや「テーマ」で共感を得られれば、きっと読み手から評価が貰えるだろう、という結論でした。

 ですが推理ものは違います。テーマすらも隠し、考え自体で読み手を誘導していきます。


 共感してもらおう、という考え自体もトリックにする必要も出てきます。

(読み手の現実的思考を把握し、それを逆手に取る)


 これが出来れば、推理・ミステリーというジャンルのプロットを面白く組み立てられます。

 いえ、このジャンルだけではありませんね。どんな物語を書いたとしても、きっと「驚き」と「新鮮さ」を演出できます。


 物語の終盤にて――『どんでん返し』という手法が上手く描写できます。


 その為に必要な展開や文章を組み立てるには、「読み手の頭の中」を想像や予想ではなく、「把握する」必要があるのです。


 このジャンルを選ぶ場合、他者への興味が薄い人は、そもそもストーリーの組み立て自体が難しいです。

 人間観察という行為をとことん追求し、自己分析という第三者視点、そして現実的思考という読み手の「思考レベル」すらも把握する。


 それを積み重ねていけば、推理・ミステリーという物語の組み立て方が上達していきます。


 そして、これには自分の性格がどういったものかも関係してきます。

「根が単純(直情的)」、「感情がすぐ顔に出る」、「自分の発言が周囲にどういった印象を持たれるか分からない」、「空気が読めない」――こういう人は、そもそも推理ものに向いていません。


 物語を読んでくれる人の楽しさよりも、自分の楽しさを追求することに向いているからです。

(そして、それを共感してもらおうという手法に向いている)


 ……はい、この流れでなんとなーく、わかってもらえたでしょうか。


 ズバリ、それは花咲樹木のことなのです。ばばーん。


 20歳前後にて初めて物事の意味や構造を考え始め、それまで毎日ぼんやり生きてきた花咲は、性格どころか人生の経験値自体が、推理ものに向いていなかったのです。


 物語の面白さの種類には、「騙される快感」というものが存在しています。

 物書きを目指す以前の花咲は見事に、それにハマってしまっていました。物語を読んでトリックや犯人を考え、そしてまんまと作者のアイデアに騙される。


「うわぁ~、全然気づかなかった。これが伏線だったのか!」


 そうやって、推理ものを楽しんでいた一読者でした。

 読者時代ですらトリックや犯人を見破る能力を持っていなかった花咲は、推理ものの物語を作る能力や適性が、足りていなかったのです。

(今では作者目線でプロット構成を見るので、ある程度は予想がつくようになってきましたが)


 ――だからこそ、これが『才能』や『適性』があるかどうかの判断基準として使えます。


 物語の「トリックや犯人を見破る」ことが出来ている読者の方は、きっとそこに才能や適性が眠っています。


 だって、推理ものを書く作者と同じ考えが出来ている、ということですからね。

 後は勉強あるのみです。人を騙す手法や、文章の連ね方、そしてトリックの描写や隠し方を、プロの作品から学んでいきましょう。


 それが叶えば、きっと貴方は自分の物語で「どんでん返し」という手法を演出できます。


 というわけで、推理ものを選んだ際に必要な才能や適性というお話でした。


 ……いけませんね。

 好きなジャンルの話だからか、少し熱くなってしまいました(笑)



 ②「童話」


 このジャンルは、読み手のターゲット層が最初から、ある程度決まっています。

 幼児期の子供や、小学生等といった、まだまだ本を読み慣れていない若い年齢層です。


 いわゆる児童書というジャンルに、童話は含まれています。


 童話は大人の読者でもちゃんと楽しめるよ、という方はもちろんいます。

(花咲も童話を読むの、かなり好きな方です)

 ですが狙うべく大きなターゲット層は、若い年齢層です。


 もしくは、大人が子供に読み聞かせるという場合が多いジャンルです。


 だからこそ、子供が喜ぶようにプロットを作る必要があります。

 そして、その物語には大事な要点が一つあります。


 ――『教訓』という、人生においての知恵を盛り込まないといけないのです。


 つまり、子供にとっての勉強。生きる上での道徳や、世の中の良い悪いを物語を通して伝えていくのですね。


「アリとキリギリス」等は、わかりやすいお手本なんじゃないでしょうか。


 真面目な行動は、後々の為の備えが出来て。

 不真面目な行動は、後々に困ってしまう可能性が高い。


 要約すると、こうでしょうか。


 こういった教訓を、物語を通して読み手に伝える必要が出てきます。

 つまり、作者が考える『テーマ』が一番重要な要点なのです。


 教訓というテーマが入っていない場合は、そもそも童話として成立していきません。


 書き上げることは可能ですが、確実にお金にはならないのです。

 子供が読んで勉強にならない児童書を、出版社が採用するとは思えません。


 そしてこのジャンルも、「自分が感じる面白さ」ではなく、「読み手がどう感じるか」を追求していく分野です。


「読んでもらう」という、相手ありきの物語なのですね。


 なんとなく、今回の項目で選んだジャンルを「特殊技能」とまとめた意味が感じてもらえたでしょうか。

 この二つは、自分のことだけを優先していると、そもそもジャンルとして成立しない分野なのです。


 童話というジャンルに必要な才能や適性は――『分かりやすく意図を伝える』ことです。


 誰が読んでも、小さい子供が読んでも、きちんと物語の意味が通じるように描写する。

 これを意識しながら文章を書ける人じゃないと、童話を選んでも上手くいく可能性は低いでしょう。


 難しい言い回しや、漢字の表記や独特な読み方を好み、こだわってしまう人は、向いていないのだと考えています。

(分かりやすい例だと、中二病的なセリフや格好いい横文字など)


 相手の目線になって、相手の思考レベルや理解度を考えながら、物語を構築する。

 それは語彙の選び方や、読みやすい文体も含まれています。


 いつかの項目で記した「プロ意識」が高い人ではないと、物語を細部まで徹底するのは難しいでしょう。


 自分の気持ちではなく、相手の気持ちを優先する。

(教師や保育士、看護師や介護士、常に誰かと接するサービス業などを、きちんと務められている方に、性格や適性があるのでしょう)


 それが出来れば、きっと童話というジャンルだけではなく他の分野にも、良い影響が出てくるのかもしれませんね。

 読み手のことを考えて作られる物語は、高い可能性で、自分の考えやテーマを相手にきちんと伝えることが出来るからです。



 ……はい、それでは今回はここまでとさせてください。

 次回はおそらく、ジャンルという項目を終え、「ストーリーの組み立て方」に入っていくだろうと考えています。


 よ、ようやくですね……。

 ここまで辿り着くのに、どれだけ項目を積み重ねてきたのか。

(18回という狂気)


 当エッセイを読んでくださっていて、まさしくストーリーの項目を望んでいたという方は、お待たせしてしまい申し訳ありませんでした。

 多分一回では終わらないので、これも続きものになっていくと思われます。

 少しでもお役に立てるよう、頑張って整理していきます。お付き合いいただけると嬉しいです。


 具体的な物書きのコツというものを、あまり書けない「ジャンル」という連続回でしたが、ここまで根気よく読んでくださり、ありがとうございます!

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