第13話 「キャラ」について③(悪役の作り方)
それでは、今回は『悪役の作り方』を書き連ねていきたいと思います。
この項目には、かなり明確な「物語のコツ」というものがあります。自分はプロの現場にて、先輩(というより上司)ライターからそれを教わりました。
それを、当エッセイを読んでくださった皆様にお伝えしたいと思います。
(これを知って、読んでいない作者さんと差をつけましょう!笑)
そのコツとは、「好かれるキャラ」と「嫌われるキャラ」という分け方にかかってきます。
悪役の作り方は、それ以外の全てのキャラの描写にかかってくる部分でもあるのです。
まずは『嫌われてしまうキャラ』の特徴をあげていきましょう。
・悪口
・嘲笑
・説教
・上から目線
・暴力
・他者との比較で自分を上げる発言
・他者の目的を邪魔する
これらは全て『人から嫌われる表現』です。
現実(リアル)の世界でも、物語を読んでくださった方にとっても、です。
可能な限り、そういった発言を避けましょう。
キャラの描写から、上記の表現は避けていきましょう。
言えば言うほど、表現していればいるほど、そのキャラは嫌われている可能性があります。
【第三者視点とは何か】という項目にて、少し書き連ねましたね。
・自分の言動が、他人の言動が、周囲にどういった印象を与えているか。
・または、今までの行動でどういう印象を与えていたか、思い返してみる。
悪感情を抱かせるような上記な言動を取ると、そのまま何の捻りもなく『相手に嫌われます』
(当たり前のことですよね。ムカつくという根源的な感情が沸いてくるのは、誰だって制御できないのですから)
そして、一度嫌われたキャラはほとんどの場合――“取り返し”がききません。
(その時点で、物語の続きを読むことすら止めてしまう方が出てきます)
いつかの項目にて、好きと嫌いは加減式ではない、と書き連ねて来ました。
人物への評価は、好きな部分があり、嫌いな部分もある。当たり前のことだと思います。
(それは足し算や引き算ではなく、胸の奥底に少しずつ、別々の感情として蓄積していくものです)
一度キャラが嫌われてしまうと、その後に描写した『好感度の高い』部分にすら、その悪印象は及びます。
読み手の中に作られた『嫌い』というフィルターを通して、物語のキャラの言動が見られてしまうのです。
……というより、これは物語だけにかかったことではありませんね。
【お題】――貴方に嫌いな人物はいるでしょうか?
・これから先の文章を読みながら、その人を思い浮かべてみてください。
その嫌いな人が、自分の好きな人たちと話しています。
自分の手が届かないところで、楽し気に。
それを貴方は、じっと見ています。
貴方は何も出来ません。
話しかけて邪魔することも、行動を起こして邪魔することも。
ただじっと、嫌いな人が、自分の好きだった世界の中で好き勝手に振舞っているのを見るだけしか出来ません。
……どう思いますか?
嫌いな人物が近くに寄って来ただけでも、視界に入るだけでも、ただ言葉を発しただけでも、少し「嫌な気分」になりませんか?
これと同じ現象が、物語の中と、読み手の間に起こっています。
物書きを目指している方は、どうかそれを強く頭の中に刻み付けてください。
――嫌いなキャラが物語の中に登場し、ただ何でもないセリフを発しただけでも、嫌な気持ちになってしまう人がいるのです。
そして一度嫌われてしまったら、そのキャラが“ただ発言しただけでも”、そこに良い印象を浮かべるのが難しくなります。
だからこそ、まずはキャラを好かれようと描写するよりも、嫌われないように描写してください。
それが「好かれるキャラ」の作り方にも、大きく影響してくるのです。
花咲樹木もプロの現場にて、かなり初期の段階でこの部分を矯正されました。
『このセリフは読んだ人が不快になっていないか?』
『この地の文は読んだ人に悪感情を抱かせていないか?』
これを常に、全てのキャラのセリフや地の文で、意識する必要が出てきます。
それが、キャラを好きになってもらう第一歩目なのです。
まず大切なのは、嫌われないこと。
とはいえ、どう気を付ければいいのか、ここまでの書き方では、ちょっと分かりづらいですよね。
なのでここから、例題の文章を出させていただきます。
●具体例――
パターン①「嫌われてしまう可能性が高い場合」
あまりの忙しさに、イライラしながら声を荒げた。
「おい、これをやっておけ」
部下に指示を出し、作業をやらせた。
パターン②「嫌われないよう注意した場合」
あまりの忙しさに、自分だけで仕事を片付けるのは無理だと思った。
「ちょっといいか? これをやっておいてくれないか」
部下に声をかけて、作業を一緒にやってもらった。
……はい。どうでしょうか?
実際のキャラの行動は同じなのに、①と②では、かなり印象が違うと思います。
これが「嫌われないようセリフや地の文に注意する」という調整です。
これが出来るようになれば、貴方のキャラは好かれる可能性がぐんと高くなります。
ですが、これには「キャラの立場に沿った発言なのか」という問題が出てきます。
例題の上司が、そういった居丈高な性格設定ならば仕方がありません。
ですが、この時点で一部の読み手には嫌われている可能性があることを忘れてはいけません。
もし部下が主人公だった場合、さらに嫌われる可能性は上がります。
誰だって、上から目線や乱暴な口調で命令されたくないからです。
たとえ、そのセリフを言った相手が、どんなに逆らいにくい立場でもです。
それはなぜか?
読み手には「主人公と自分を重ねて読む」方が一定数以上いるからです。
だからこそ、主人公をバカにしてきた奴は、物語上でやり返さないといけません。
(さっきの上司も、なんらかの形で痛い目にあわせる必要が出てきます。たとえ上司が主人公の場合でも、それは同じ)
現実の世界では犯罪になってしまうので「表だってやり返せない」からこそ――「物語上の中ではやり返す」必要があります。
それが『読み手の期待に応える』ということです。
(面白い物語を作るには、読者の存在を無視できない、という意味がここにかかってきています)
そして、これが『悪役の作り方』の、ほとんど全ての要素です。
物語にいる悪役の描写に、そして悪役以外の描写に、細心の神経を注ぎましょう。
そうすれば「読み手に嫌われるキャラ」を、作者が物語上でコントロールできます。
嫌われるキャラを――“悪役にのみ”コントロールしていくのです。
ですが実際、これはかなり窮屈なルールです。
だって会話の表現がかなり狭まります。つまらない会話になる可能性も高くなっていきます。
綺麗な表現を意識しすぎて、現実の世界に即していない状態が多くなるからです。
(花咲も現場で教わった時、かなり身に付けるのに苦労しました)
なので、絶対に表現してはいけないという訳ではなく、可能な限り避ける、と意識してください。
花咲は、会話のそういった部分を「ギャグ」に寄せることで回避しようとしています。
展開上で仕方なく悪感情を抱かせやすいセリフを言わせる場合、そこに必ず『明るい面白さ』の表現を混ぜていっています。
これが実は――花咲が考える『読みやすい文章』という表現にかかってきています。
読みやすさとは、文章の整理だけではないのです。
その文章を読んだ人の「ストレス値」まで計算すると、ぐっと文章が読みやすくなります。
どうでしょうか。
なんとなーくですが、悪感情のコントロール方法が伝えられていれば、とても嬉しいです。
(こういった表現も、全てストレス値での読みやすさ表現を気にしたものです。全ての文章に、この手法が加えられているのです)
閑話休題
・嫌われるキャラを、主人公や展開で「負かす」「痛い目にあわせる」ことが、悪役の人物描写の基本
そして嫌われるキャラをコントロールして、物語上で限定させていく。
(俗にいうヘイトを集める、という行為)
『悪役』は――最後に「痛い目に遭う」ことが分かっているため、セリフや行動で悪感情を抱かれても問題ありません。
最後に倒されるからこそ、悪役は悪役として成立します。
(読み手もそれを期待しています)
むしろそうなるように、プロットを組んでいく必要があるのです。
(もし倒されないままに放置された場合、そのキャラはただ読み手に嫌われただけで終わっています。自分の物語の中に、そういうキャラはいませんか? 読み返してみると、直したい部分が出てくるかもしれませんね)
●一つ例をあげるとすれば――
・正義の味方であるヒーローが活躍する勧善懲悪の物語が書きたい
・でも、ヒーローばかりに注目していては、プロットが魅力的にならない
・悪役をちゃんと「読者が倒したくなる敵」として描かなければ、せっかくヒーローが活躍しても効果が薄い
(逆に反感を買うかも。だけどそれは、お前の正義じゃん……と)
・悪役に救いようのある理由を作らない(誰が読んでもムカつくキャラにする)
・物語の最後で悪役を倒すことにより、そこにカタルシスが生まれる
これが、正義と悪が完璧に分かれている物語の作り方です。
・ヒーローの感情に共感させるプロットを作る必要がある
・導線は大事。しかしそこに理解できない、共感されない感情を盛り込んでは魅力が破綻する
悪役を倒したくなる理由を物語上で表現できれば、読み手が主人公とリンクします。
(主人公の活躍を、読み手がワクワクしながら読んでくれます)
そして最後に、悪役の作り方で大事な要点がもう一つ。
――悪役には、その行動原理に『信念』を盛り込んでください。
その信念が共感を呼べば呼ぶほど、いずれ倒されたとしても、悪役としての人気を保っていられます。
逆に、主人公の人気を食うくらい好きになってもらえるかもしれません(笑)
拙作での悪役「精霊ドライアド」は、身が焦がれるほど恋をしたヒロインの為に身を引く覚悟を持っています。
その為に、主人公や周囲のキャラに悪口を言い、嫌がらせをしています。
それが、拙作に置ける悪役の『信念』になっております。
はい。それではここまでが「悪役の作り方」と、キャラのセリフや地の文による「悪感情のコントロール」という項目になります。
次回は『テーマ』について、そして『タイトル』についてになります。
どうか貴方がこれから書く物語に、魅力的な悪役が登場できるよう、そしてそれが気持ちよく倒されてくれるよう、花咲樹木は切に願っております。
ここまで当エッセイを読んでくださり、誠にありがとうございました。
(地の文での表現方法も、なんとなーく伝えられたでしょうか?)
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