『プロット構築』のお手伝い

第9話 「世界観」と「舞台」(現実的思考に沿う・崩す)

 さて、今回はまず『現実的思考に沿うことの大切さ』を掘り下げていきたいと思います。


 ようやく、ようやくここから「物語の作り方」に触れられます。

 曖昧なアドバイス過ぎて分からんわーと、きっとお考えである方々、お待たせして申し訳ありませんでした。


 ここからしばらくの項目が全て、物語の作り方――及び『プロットの作り方』に関連してきます。


 そもそも「プロット」とは何か?

 おそらくここまでの項目をお読みになった方は、プロローグからエピローグまでの「ストーリー」の事を指している、そう考えているだろう、と思っています。

 花咲が、そういう誤解を招く表現をしてきてしまっているからです。


 しかし、プロットとはストーリーの組み立ての事だけではありません。


 ジャンル選び、世界観や舞台、登場させるキャラの設定や人数、そしてストーリー、その全ての事を指します。

 つまり物語を構成する全てが「プロットの組み立て方」に関連しているのです。


 前回までの項目で、ようやく「物語を書く上での前提」が説明し終わりました。

 ここから、実際に当作品『貴方の願いを叶えましょう。ただし貴方の夢は叶いません。』の第一話の解析までが、ずっとプロットの組み立て方の解説になります。


 どうか、お付き合いいただければ幸いです。


 まずは、前回の引きにて少し書き連ねてきた内容についてです。

 プロットを組み立てる上で、様々な項目にて必要になる大事な要素『現実的思考』がどんなものであるか? ということを一つ。


 これは『面白さのコツ』にかかっている部分でもあるのです。


 花咲樹木が初めてプロの現場に入った頃、先輩(というより上司)ライターさんから、教えていただいたことです。

(※これが面白さの正解という訳ではありません。いただいた教えの中で一番、花咲樹木の糧になったという部分です)


 文章による面白さとは――『現実的思考とアイデアの間にある落差』のことを指す。


 こう、教わりました。


 ……なんのこっちゃ、と思った方、安心してください。

 おそらくこれだけで種が分かった方は、地頭の良さという分野において天才の域にいます。


 一つ例を出しましょう。


 世界観・舞台「現代の地球」

 主人公の設定「高校生」


 これを念頭に置いてください。

 ここから本文に入ります。


 ぼくは朝起きて、朝食を食べ、家を出て学校へ向かった。

 通学路ではなんの事件も起きず、平穏な毎日だ。

 学校に着き、隣の席の友人に挨拶する。

「おはよう」

 こうして今日も、ぼくのつまらない一日が始まった。


 ……はい。どうでしょうか?

 これでは、ただ当たり前の、つまらない日常を文章に直しただけですね。


 次です。

 次の本文は――『現実的思考とアイデアの間にある落差』を盛り込んだ状態で書きます。


 ぼくは朝起きて、朝食を食べ、家を出て学校へ向かった。←布石①

 通学路ではなんの事件も起きず……いや? 何か変だな。

 じろじろ見られている気がする。まあいい、学校へ急ごう。←布石②

 学校に着き、隣の席の友人に挨拶する。

「おはよう」

 友人はぼくを見て、にこやかに挨拶を返す。

「おう、おはよえええええええええええ!?」

 なぜか大声を出しながら、びっくりされた。なんだろう?

「おま、お前――なんで『裸』なんだ!?」

 指摘を受け、初めてぼくは自分をかえりみる。

 そうか、何か変だと思った。

 ぼくはいつも眠るとき、服を着ないで眠るんだった。

「いや、お前さぁ……パジャマで登校しちゃった、てへ。は偶にあるんだろうけど、裸はさすがに気付こうぜ」

「ごめん、ぼんやりしていた。これからは気を付けるよ」

 こうして今日も、ぼくのつまらない一日が始まった。

「いや、着替えに戻ろうぜ!? 授業受けてる場合じゃないし!!」


 ……はい、どうでしょうか?

『現実的思考とアイデアの間にある落差』の種が、伝わりましたか?


 現実的思考とは――普通の高校生は制服を来て登校する(つまり服を着ている)

 アイデアとは――裸である


 この間にある落差が、文章にて読み手に伝えられる面白さ、という形です。

 平凡な日常に、裸であるという「非現実的なアイデア」を盛り込むことで、ネタとしての面白しさを表現しようとしたのですね。


 なぜ文章での表現、と限定したのかは、多分すぐ気づかれるでしょう。


 これが漫画やアニメ、映画という「視覚情報」がある分野においては、あまり使えないアイデアだからです。


 だって、裸の主人公が見えただけで、すぐネタバレしますもの。

 出オチですもの。伏線や布石が意味をなさないんですもの……。


 この手法は、実は推理小説というジャンルにも使われるものでして、いわゆる『叙述トリック』という仕掛けにあたります。

(例題は、あまりにもお粗末なものですが、原理は同じです)


 普通は服を着ているという『現実的思考』を、アイデアによって“崩す”ことで、その落差を面白さとして表現しようと工夫したんですね。


 どうでしょうか。

 一度でも拙作である『貴方の願いを叶えましょう。ただし貴方の夢は叶いません。』を読んだことのある人は、気付かれましたね。


 まったく同じネタを、拙作にて使用しているからです。


 この手法は物語において、様々な場面で使用できます。

 読み手は絶対に、その作品の「世界観や舞台」の常識を把握するまでは、自分の中にある現実的思考に沿って、文章を読み進めるからです。


 無意識下にある現実を優先して――『物語の常識』を考えるのです。


 花咲樹木は、この手法を軸にしてプロットを組み立てていっています。

(他にもたくさん、面白さのコツはあるのだと思います。あくまで花咲は、この手法を基本にしているというだけです)


 どうすれば読み手の現実的思考を崩すことが出来るか、どう崩せば、そこに『面白さ』を表現することが出来るのか。


 それは世界観や舞台、キャラの設定や人数、ストーリーの始まりからオチまで含め、多岐に渡って「考え」が及びます。


 閑話休題。


 という訳で、ようやく今回のタイトルにある『世界観や舞台』について、掘り下げていきたいと思います。


 自分が書く物語の世界は、「現実(地球)」なのか「異世界」なのか。

 その舞台はどこなのか。という決め方ですね。


 決め方に正解はありません。

 しかし、どれを選ぶかによって『面白さを書く難しさ』は違ってきます。


 世界観の種類は、大まかに分けて四つあります。


①現代(地球)で一般人(異能力なし)

②現代で能力者(超能力や魔法など)

③異世界(ファンタジー)で一般人

④異世界で能力者


「世界の舞台」と、登場する「キャラの設定」ですね。


①の場合は、いわゆる普通の日常の中にあるキャラの物語にあたります。

(推理小説や時代小説などは、ほとんどここ。ラノベの場合は、スポコンやラブコメ等。「ロウきゅーぶ」や「とらドラ」)


②の場合は、現代を舞台にしながら、特殊な能力を持つキャラの物語にあたります。

(現代舞台のラノベが多くここに入る。「とある魔術の~」などが有名な例)


③の場合は、異世界にありながら魔法などが使えないキャラの物語にあたります。

(有名なのは「狼と香辛料」でしょうか。剣や魔法のないファンタジー)


④の場合は、異世界に生きて、魔法などを駆使するキャラの物語にあたります。

(いわゆるファンタジー小説が大体ここに入る)


 なんとなーく、分類が分かってきたでしょうか?

 そしてここからが重要なこと。先に記述した『面白さを書く難しさ』の内訳なのですが、


・上から下に行くほど『展開による面白さ』が一番ではなくなり。

・下から上に行くほど『アイデア勝負』が通じなくなります。


①「現代で生きる一般人」の例にて、推理小説や時代小説などをあげましたね。

 現代の世界観において、ネタやアイデアというのは、ほとんどの場合『人物の描写』や『プロット・展開』にて面白さを表現しなければいけません。


「能力によるチート表現」や「異世界ファンタジー独特の世界観表現」が使えないのです。

 現代・地球においてチート表現とは「喧嘩の強さ」や「頭の良さ」にあたり、現実的思考の域を超えていくことが難しくなっていくからです。


 つまり、純然たる「文章力」や「展開」のみで、面白さを表現しなくてはいけません。


 付け加えるなら、「人間関係」でしょうか。

 ラブコメ等の面白さはここに入ります。恋を主題として、駆け引きやもどかしさ、そういった現実的思考の中で、展開を作る必要が出てくるのです。


 先ほど説明した、現実的思考を崩す、という手法が通用しない場面が多くなっていきます。


 だって、裸で登校なんかしたら、普通に捕まります。

 現実的に考えれば、学校に辿り着けないからです。物語のネタとして成立していないのです。


 物語を作るという範囲において、この①は作者の実力がもろに出てきます。

 この分野を選び、面白くないと読者から評価されてしまったら、言い訳がきかないのです。

 単純に物書きとしての実力不足であり、その作りこみの甘さが露見してしまいます。


 恐ろしいと、思いませんか……?

 花咲樹木が、推理小説を書かなくなった理由がここにあります。

 まだ「文章力や展開のみ」で、読者にとっても面白い物語を作る自信がないからです。


 プロとして歩み始めた今でも、やっぱりこの世界観で書くのは恐いです。


②「現代で能力者」

③「異世界で一般人」

④「異世界で能力者」


 これらは、もちろん文章力や展開、人間関係にて面白さを表現する難しさはあるのですが、どちらかといえば「ネタ」や「アイデア」が、どれだけ面白いかにかかってきます。


 つまり、思いついたもの勝ちです。


「現実的思考とアイデアの間にある落差」という表現を、項目の最初にて解説していきました。

 この世界観や舞台選びにも、それは当てはまってきます。


 そもそも「ファンタジー」とは、現実(地球)とは違う世界にあるからこそ、その時点で面白さに繋がる可能性が高いのです。


 ――『特殊』な世界、作者が考えたアイデアに溢れた世界です。


 地球という現実に生きる読み手にとって、考えた『設定』のみで、現実的思考を崩すことが出来るようになる、という理屈ですね。


 ②の場合は、世界は現実に即しているが、キャラや能力が『特殊』です。


 ③の場合は、世界そのものが『特殊』であるため、キャラがそこで日常を生きていても、その時点で現実的思考を崩すことが可能です。


 ④の場合は、世界もキャラの能力も『特殊』であるため、始まりから終わりまでが全て「現実的思考を崩している」状態です。


 どうでしょうか。

 花咲が軸としている考え方によると、世界観選びの時点で『特殊』という非現実的な『設定』の武器が手に入ります。


 『特殊』な設定は、それだけで面白い武器に成り得るのです。


 ①は、この『特殊』という現実的思考の崩し方を、キャラの会話、行動、考え方という「人物描写」により、そして展開や出来事といった「現実的思考から離れすぎない形」で、読み手の想像や予想を崩していく必要が出てくるのです。

 作者の実力がもろに出る。アイデア勝負が通用しなくなってくる。という意味合いを伝えられたでしょうか。


 ①の世界観を選ぶ場合は、『設定』という飛び道具が、そもそも現実から離れすぎてはいけない、という縛りが加わってくるのですね。


「ネタ」や「アイデア」を思いつくだけではなく、どう文章によって表現するかという、俗にいう『設定語り』を多用しない形での面白さを、追求していく必要が出てきます。


 至難の業であり、これがかなり難しいのです……。


 それでは、②や③、④の「思いついたもの勝ち」の内訳について、戻ります。


 自分の物語の世界観に、『特殊』という非現実的な設定を混ぜる場合――


 その代わり、考えていく設定が山のようにあります。

 それは上から下にいけばいくほど、増えていきます。


 考えておくこと、把握しておかなければならない「物事の仕組み」を、新しく設定していかないと、その世界においての『現実的思考』が決まりません。


 例えば――

 政治、金融、軍隊、身分、貨幣制度の形態、金の価値と種類、宗教、世界地図、国の名前、国の位置、国の形態、人口、文化、暮らしぶり、仕事の種類、料理の成熟さ、普段の生活で食べるもの


 もっと細かくいくと、いくらでも出てきます。

 こんな細かな事まで、考えて、設定していく必要が出てくる可能性があります。


 現代(地球)だと、これが全部、既に決まっています。

 考える必要などありません。ですが知らないといけません。

 勉強しないといけません。


 ――物語は、知らないことは書けないからです。


 でっち上げて、間違えると……作者の知識不足が露見します。

 恐いですね……。


 もちろん上記の中にでも、プロットの中に“考えなくても成立する”項目が多々あります。


 買い物をしなければお金は使わない → 貨幣制度を考える必要なし


 こんな感じですね。

 拙作では、物語の中でお金を使いません。だから考えませんでした。


 いわゆる「なろう系」と言われる分類に、ファンタジーが多いのは、これが理由の一つじゃないかな、と思います。

 世界観の設定は必要です。ですが後から「でっち上げる」ことが可能だからです。


 物語の中で描写するときに“その都度考えていけば”、世界観として成立するからですね。

 知識不足が露見することもありません。


 具体例を出すと、拙作は④の「異世界で能力者」にあたります。


 物語を書く前に考えていた項目としては「世界地図」「国の名前」「国の位置」くらいです。

 第一話を書く時点では、このくらいしか考えていませんでした。


 それはなぜか。

 花咲樹木という人間は、世界観や舞台の「設定」に、あまり興味がないからなんです……。


 ゲームの攻略本などで、世界観のこと、各アイテムの効果や名称などがありますね。

 これがまったくと言っていいほど、興味の出ない分野になります。


 物語を書き始めて、プロットを作り始めて


 花咲樹木は――『設定作り』の才能がないと、自分で気づいてしまったのです。


 好きという根源的な感情が、沸いてこないのでした。

 しかし、待たれい! それでも、物語は作れます。


 世界観は、構築できます。


 最低限でいいんです。物語の中に、プロットの中に必要な要素だけ、決めていきましょう。

 それで十分です。最初から全部を決める必要などありません。

(決めていたら、しっかりとした世界観になるのは間違いありません)


 しかし設定をきっちり作っても、実際に物語を書き始めると、変更を余儀なくされる場合があります。

 物語は、プロット通りにいかない場合が多いです。


 さて、上記をふまえて、自分が書きたい物語の「世界観や舞台」が決まってきたでしょうか?


 花咲樹木がこの段階で考えたのは、先ほど書き連ねたくらいの少ない項目でした。

 世界観は④、そして舞台は「絶海の孤島」です。


 それでは次回は――『キャラの性格や人数決め・その配置について』をカキカキしていこうかなと考えております。

 プロット作りは、もう既に始まっています。今回は世界観と舞台設定を。

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