カナラズ ボクラ マタ ドコカデ

こんぶ煮たらこ

カナラズ ボクラ マタ ドコカデ

 きっとボクは疲れていたんだ


疲れるという事がどういう状態なのかボクらにはよく分からないけれど、ヒトは疲れると判断力が鈍ってしまうんだって


「ハジメマシテ ボクハ ラッキービーストダヨ キミノナマエヲ オシエテ」


 だからこうやってついうっかりフレンズをヒトと間違えて挨拶してしまう事だってあるんだ


「わ、私の名前はリカオンです!よろしくお願いします、ボス!」


 どうしよう…。アワワワ…。




「本当ですって!信じて下さいよヒグマさんキンシコウさん」

 どうやら他の仲間達に僕が喋った事を教えているみたいだね。でもパークが放置されて随分経つけど未だにボクらが喋った事は一度もないんだ。結局二人には信じてもらえなかったみたいだね。

「はぁ…。やっぱり聞き間違いだったのかなぁ」

 ボクがうっかり喋ってしまったせいで何の罪もないフレンズが疑われるのはあまり良い気分じゃないよ。でもここでまた喋ってしまうとややこしくなるから我慢しないとね。

「これじゃあ私オオカミ少女じゃないですか…」

「リカオンハ イヌカダケド リカオンゾクダカラ オオカミトハ チガウヨ」

「えっ!?」

 あっ…。

「い、いいい今また喋りましたよね!?科がどうとかって…」

 …どうやらパークガイドロボットとしてのボクの悪い癖が出てしまったみたいだね。でも間違った知識をそのまま覚えてしまうのはよくないからちゃんと訂正しておかないとね。これは決して言い訳なんかじゃないよ。

「でもヒグマさん達の前では喋ってくれなかったし…。って事はこのボスもしかして私にだけ喋ってくれてるんじゃ…」

 

 そしてすっかり気に入られてしまったボクはその子と一緒に行動するようになったんだ。というより僕は足が遅いから逃げようとしてもすぐ捕まっちゃうし殆ど強制的だったんだけどね。




「ふぅ…今日も疲れたなぁ。ヒグマさんのオーダーは毎回キツすぎるんですよぉ…。ねぇボス」

 どうやらこの子はセルリアンハンターの見習いみたいだね。セルリアンはフレンズにとってとても嫌な存在なんだ。そしてそれはフレンズと関わるボクらにとっても同じだよ。でもボクらはどうする事も出来ないんだ。生態系の維持が原則だからね。だからせめてボクはボクに出来る事をするよ。

「え?このジャパリまんくれるんですか?」

 本当はこの子の担当は違うボクなんだけど訳を話したら譲ってくれたんだ。それに今日は訓練が大変だったみたいだから特別に一個多くあげるよ。

「あ、ありがとうございます!ボスはやっぱり私の永遠の家族ですよぉ~!」

 アワワワ。抱きつかれちゃった。ジャパリまんをあげるのはボクらにとって当然の仕事だよ。でもそれを感謝されるのは何だか変な気分だね。 

 どうしてこの子はこんなにボクの事を慕ってくれるのかな。

「こうやってボスとジャパリまんを食べてると何だか初めてボスと会った時の事を思い出しますね」




「私、この身体になってからずっと寂しかったんです。フレンズ化する前は家族が沢山いて、仲間が沢山いて、皆で仲良く狩りをしながら生活していました。そりゃあ今と比べたら狩りは失敗だってするし毎日が命がけで大変だったけど…でも楽しかった。サンドスターが当たるまでは。

 フレンズ化した時、私の周りには誰もいなかった。孤独、不安、そして絶望…。初めて独りで過ごすサバンナの夜はとても怖かった。天敵がいなくなったのは何となく察していたけれど、それでも私は願わずにはいられなかった。寝て起きたらまた元の身体に戻って隣には家族がいて、仲間がいて…きっとこれは夢だ、そうに違いないってずっと。でもそうはならなかった。そんな時現れたんです、ボスが」



 

 ボクは彼女の告白をただ黙って聞いていたよ。彼女の話すボクはきっと別のボクでボクにはそれを聞く資格なんて本当は無いのにね。

「ふふ…大丈夫ですよ。あなたはあの時のボスじゃないって事くらい分かってます。でもいいんです。私にとってのボスは皆命の恩人、そして家族も同然なんですから」


 嬉しかったよ。ボクに感情というものがあるのかは分からないけれど、きっとヒトはこの感情をそう言うんじゃないかな。そうやって彼女はボクの事をまるで本当の家族のように大事にしてくれたんだ。他のフレンズからその事で何か言われても必死でボクの事を庇ってくれたよ。

 そんなある日。




「う、うわあぁぁ!セ、セルリアンがこんなに…」

 ボク達はさばんなちほーで見回りをしている時に運悪くセルリアンの大群に遭遇してしまったんだ。

「どうしましょうヒグマさぁん…って今はボスと私だけ…」

 セルリアンの大きさと数からしても一人で戦うにはちょっと厳しいね。せめて彼女だけでも逃してもらえないかな。

「せめてボスだけでも…。でもこの数相手じゃ…」

 こういう時ボクはたまらなく自分の無力さを実感するよ。これまで何度も見てきた光景なのにやっぱりこの瞬間だけは慣れないね。

 残念だけどもうここまでなのかな。元はと言えばボクが喋らなければこんな事にはならなかったのにね。君も消えずに済んだかもしれないよ。でもボクはどうする事も出来ないんだ。




“ヒトの緊急事態対応時のみフレンズへの干渉が許可される”




それがパークの掟

そしてボクが彼女と交わした約束


「ラッキー、留守をよろしくね」

「マカセテ」

「ごめんね…すぐ戻るから。それまでフレンズの皆と仲良く助け合って頑張るのよ」

「タスケ…アイ」




 そうだ


「リカオン ニゲテ ボクガ オトリニナル」


 きっとボクは疲れていたんだ


「ボス!?急に何言って…」


 だからこうやってついうっかりフレンズを助けてしまう事だってあるんだ


「リカオン フタリデノタビ タノシカッタヨ」

 

これでいいんだ ポンコツなボクの為に君が傷付く必要はないんだ    


サヨウナラ リカオン




「最強クマクマスタンプ!」

「如意棒大乱舞!」

 パッカァーン!

「大丈夫かリカオン!?」

「ヒ、ヒグマさん…?それにキンシコウさんも!」

「リカオン!ボスに格好良い所見せるチャンスですよ」

「は、はい!」

 流石はハンターだね。あっという間にボクの周りにいたセルリアンを倒しちゃったよ。

「ボスは私の後ろに隠れてて下さい!行きますよ…伝家の宝刀!」

 そしてリカオン。君は本当に成長したね。ボクは知ってるよ。弱虫で臆病な君がハンターとして人知れず努力して、泣いて、それでも皆を守りたい一心でここまで頑張ってきた事を。それを一番身近で見てきたボクが言うんだから間違いないよ。

 君はもう大丈夫。あとはよろしくね。

「ワン!ツー!」




「…ふぅ。これで全部か」

「た、助かった…。ボスが庇ってくれなかったら今頃…」

「そう言えばそのボスが見当たりませんね」

「え?」




 ピョコンピョコンピョコン。

 この辺りはちょうどさばんなちほーとじゃんぐるちほーの境目だからここまで来ればもう大丈夫かな。ごめんねリカオン。最後にちゃんとお別れできなくて。ボクがいたら君はきっといつまでも頼っちゃうだろうからこれ以上迷惑かける前にボクはここで暫くお休みするね。何だか本当に疲れた気がするんだ。





―ねぇミライ


ボクは君の望むパークガイドロボットになれたのかな


君の愛したフレンズを、このパークを守る事が出来たのかな


あっ…でも約束は破っちゃったね ごめんね


その代わりに今度はしっかりガイドできるように頑張るよ


次に目を覚ました時今度こそ本当にヒトと出会える事を信じて


いまは オヤスミ

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

カナラズ ボクラ マタ ドコカデ こんぶ煮たらこ @konbu_ni_tarako

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ