第6話【国の門番】
僕は異世界人。
ある時、ゆで卵の白身に異世界召喚され面倒なので逃げ出した僕は魔法で殺されそうになりながらも何日もぶっ続けで走り、辿り着いたのが高台、そこにあった大木は本人曰く木の精霊で助けるついでに僕の異世界温泉巡りの旅が始まった。魔物にあったけど逃げて、ホットス・プリングスという偽名を作り真名を教えることから逃げた。貴族からの申し出も瞬間移動で逃げた。
ちなみに最初の白身に召喚されてから三週間程である。
やったね!ホットスプリングス=温泉!
「という訳なんだけどなにか質問は?」
今から国に入ると説明した。
「いや、特にやりたいことがないというかですね、入れるのか……?警備は頑丈じゃけど。」
「まぁ、お前のもの買うつもりは無いしダンジョン攻略しつつソロで頑張ろうか。」
ダンジョン攻略はお金が稼げるのだ。
大体お金が稼げると相場が決まっている。
「いや、その話の前にまず入れるかって話で……、待ってソロか?ソロはきつくないか?」
「大木はきついだろうけど、僕はきつくないから平気。」
「そういう問題じゃなくてだな……あっ、もしかして我の分も稼いで来てくれるのか!?」
「それは無いな。自分の金は自分で稼いでくれ。」
自分のことは自分で。当たり前の方針である。協力するからと言って衣食住も手伝うだなんて誰も言っていない。どうせなら別の部屋同士にしようかと思っていたところだ。
「プリングス……お前ほんと嫌な奴じゃな。」
「大木への協力は僕の温泉巡りついでだから君を優先する気は全くないよ。」
「慈悲も無いの。」
『慈悲』という言葉に首を傾げる。
そもそも僕は協力を優先ではなく温泉巡り優先なのだから当たり前だろう。
そんなことに慈悲などは関係ない。
「んー、慈悲と言えば女神は悪魔だけど神はなんなの?」
「!!神はとても尊い存在だ!この国や世界を守ってくれているのだよ!我も何度か助けてもらっていてな!この国は信仰の深き信者が多く集まる国なんだ!」
テンションが上がっているのがわかる。
僕が温泉好きなのと同じように大木も神様を信仰していたんだろうなぁ。
「へー、お前生前ここに住んでたんだなー。」
「その通りで…す……?あれ」
巧妙な言葉遣いに騙されたのかその通りと肯定してしまう。
ぽぽぽぽと顔が赤くなっているのがわかる。
林檎病だな、などと考えながら言葉を綴る。
「やっぱりなぁ、精霊になってから短いとは思ってたけどなるほど。」
「なっ、勝手に我の情報ステータスで見ただろう!も、もしや体重なども見てないよな?大丈夫よな?」
「ステータスには体重載ってないよ。」
「よかっ」
「ただ、身体能力の欄見たら丸わかりだったけどね。」
「た……っああー!?見ないで!見ないで!」
さっきよりも実にわかりやすく顔を真っ赤にする。
耳だけだったのが顔全体が赤くなった感じだ。
○
「そういえば今の今まで突っ込んでいなかったこといってもいいかの?」
今の今まで遠慮なく僕に話しかけてきたやつが今更遠慮する理由を逆に教えて欲しいわ。
「ん?いいけど?」
「あのな………………転移魔法を無詠唱ってチート過ぎませんか?」
「なんで?」
転移したらここから抜けられるなぁって思ったら転移できたんだから別に良くない?
魔法なんて結局想像力があれば勝ちでしょ?
「え!?だってちょっと聞くが良いぞ。我の力はこうやって失われていなければとても強いのじゃ……いや、こんなことは今はどうでもいいかの。人間で例えるとしたら世界一の魔術師が一生をかけて取得すると言ったらわかりやすいか?」
「うん。ちょーわかりやすい。」
説明が分かりやすすぎて僕が規格外なのがすぐに分かったよ。
「んだー!!なんでそんなに冷静なのか!分からぬ、分からぬぞぉお!!」
「うん。そうだね。」
「そうだねじゃない!もしそんなものを使えると知られれば研究施設に送られて解剖されるぞ!」
「解剖しても出て来るのは内臓だけだよ。」
そもそも解剖するよりも冒険者として雇った方が優秀な人材はいいんじゃないかと思うけどね。
「分かっている!そんなことは我にも分かっているのじゃ!だが世の中何があるか分からないのじゃ。」
「文句言うなら大木だけお家に帰ったら?」
「ここまで来て帰るという選択肢は無いじゃろう!」
はぁ、と溜息をつきそう言うと反論してくる。
だから何度も言ってるけど温泉第一人間は君が死んだとしても葬式よりも温泉優先する人だからね?
「いや、あるでしょ。」
「ないの!!」
「あっ、はい。」
無駄な迫力とはまさにこのことだ。
こんなことで争っても何にもならないのだが。
○
「じゃあ、大木。」
「え。」
「また国でな☆」
「ちょっとー!?えっ!?」
僕にはアポがあるのでとドヤ顔してから門番と話す。大木が意味がわからないという顔をしているが気にしない。
冗談なので話をつけたら一緒に入るつもりだ。
……久しぶりだなぁ。
「ホットス様!お久しぶりでございます!」
「お元気にしていましたでしょうか?」
二人の元気な声が聞こえる。
どちらも若い男で銀色の鎧を着ている。
片方は水色、片方は赤髪という騎士の中でもかなり奇抜な仲良し二人組だ。
喧嘩をせずいつも仲良くしているのを知っている。
水髪のほうをMaybelline、赤髪をNazismと言う。
「あー!MaybellineにNazism!僕は元気だよ。うん。君たちも元気そうで何よりだ。」
「私は元気でございます。お疲れ様です。」
「Maybellineも無理しないように。奥さん子育て大変なんでしょ?たまには休まなきゃ。」
「私の妻の容態が分かるとはさすがホットス様でございます。」
Maybellineは好奇心旺盛で色々なことを試す癖がある。
色々なものを開発したりして騎士だけではなく理科系の方も得意としている。
子供が五人おり、もうすぐ六人目が生まれる予定である。
子供たちはみんな父親に似たのか好奇心旺盛ないい子ばかりだ。
「今回は転生じゃなくて転移なのでしょうか?いつもよりもお帰りが早いですから。」
「うむ、そのとおりだNazism。実はクラスメイトが私がここから七日ほどぶっ続けで走ったところにある魔法使いのお屋敷に住む魔王討伐隊の一人だったらしく巻き込まれてしまった。本当はこんなに早く着く予定は無かったんだがな。」
Nazismはとにかく冷静な判断と身のこなしで大人数を引っ張っていくリーダータイプである。
独り身だが特に欲しいとも思っていない。
剣、魔法などあらゆるものを使いこなし、そして人に教えるという高度なことまで出来る。
「お疲れ様です。ところであそこにいらっしゃる狐耳を持つ精霊はどなたでしょうか?お知り合いですか?」
「あぁ、木の精霊だそうだ。力を貯めるために温泉巡りを一緒にしているんだ。」
「ホットス様は本当に温泉が好きですね。」
「あぁ、大好きだ。」
僕が温泉が好きなことはみんなが知っている。
ここの国を温泉と冒険者で有名にしたのは紛れもない僕であった。
門を開けてもらい、大木と共に入っていく。
大木は良かった……というように、ほっ、と胸をなで下ろしていた。まな板だが。
○
「にしても本当に凄いですよねぇ。ホットス様は。」
「えぇ、人の変わったことにはすぐに気付くし良い人ですし。」
「崩れていたこの国を一瞬にして復興させてしまった人ですもんね。」
「本当に素晴らしいです。」
「あのような人になりたい者だ。」
「きっと一生無理でしょうけどね。」
軽くする話は終わったのか息をつく二人。
そしてこれからが本題だというように小声でMaybellineが話を始める。
「……話は変わりますが、今ここでは協会が仕切ることになってしまい、王国の権限が奪われつつあるということをホットス様に報告していないのですが下手したら殺されますかね?」
「ホットス様なら大丈夫なような気もしますが……心配ですね。神が。」
「そうですね。協会の拝む神は本当に存在していましたから協会と共に共犯として神も殺される可能性が高いですね。」
「ホットス様は神が嫌いですから。」
「きっとホットス様であれば『私が神だ』と言って協会を壊して回りますね。」
「間違いない。」
二人は意見が合致したのか高らかに笑った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます