第5話【貴族の恋心】
「んぁあ……大木。温泉気持ちよすぎたな。」
僕は本格的に温泉巡りをしていた。
スタンプラリーをしている気分だ。色々なところに行きスタンプを押していく。全部スタンプが押されると景品がゲットできるあれである。この旅では全部回ったとしても商品は貰えないが。
「びっくりしたのじゃ。だってプリングスなんてさっき入ったばっかりなのにもう1度入ろうとか言い出すし……それも一度や二度の比ではない。合計で3桁は余裕で超えてると思うのじゃ。お陰であの温泉から離れるのに十日も経ってしまった。」
まぁ、そもそもスタート地点に経ったばっかりなのだが。もしスタンプラリーに期限があったらとっくに切れてそうだ。
「ごめんごめん。だってさ、あの温泉ほんと良かったんだもん。大木とは違って僕は睡眠が必要無いからさ、やっぱりずっと入っていたいじゃん。」
「だからと言って我が冒険のやる気が無くなってきた時に出発というのは些かずるくないかのぉ?」
僕には睡眠がいらない。
大木と生活していくにつれて分かってきた事実である。
大木は暇な時にちょくちょく入るぐらいだが、僕はずっと入っていると表現してもいいほどずっと入っている。
身体が温まってエネルギーが溜まっていくように感じるのが楽しい。ほんと好き温泉好き大好き。
「嫌なら先行っていいんだぜ。」
「プリングス……我がそれをしないのを承知の上で言っとるじゃろ……。」
「ばれた?」
「バレバレじゃ。」
大木が照れているが知らない。
大分魔力が溜まってきたのか僕とこうやってお喋りしながら森を歩きながら魔物を倒しているので、笑顔なのに血が付いているのがなかなか様になっている。
大木の倒した魔物をカッ捌いて収納ボックスに肉を詰め込んだり皮を詰め込んだり内臓詰め込んだりする。大木はその様子をうっ、と言いながら見ている。いや、別に見ろと強制してはいない。ただ勝手に見てくるだけだ。
そんなに気持ち悪いことか?
別にこうやって魔物を捌いたり、人間を捌いたりすることにあまり躊躇はない。別に自分がそういう奴だったというだけだ。そこには差別も偏見も何も無い。
自分の仕事上、これをするのは普通だと思っていたし材料さえあればアンドロイドを作り出すことも出来る。
「おい大木、血が付いてる。取ってやるからこっち向け。」
「キャッ、ちょっとプリングス……やめて恥ずかしい。」
「キャッ恥ずかしいもクソもあるかよ。こっちの魔物も人間も血が赤なんだよ。もしこの様子を見られたら僕が殺人犯したみたいじゃないか。大木の事はどうでもいいけど。」
「……滅相もないです。」
一見すると恋人のようだがこの仲柄は契約という口約束で出来ているに過ぎない。どちらが上の存在であろうとこの仲には関係がない。
だから僕は互いに干渉しないつもりでいるし、何かがあっても互いに助けないと思っている。
どんなやつでも結局自分を大事にできないやつが人を大事にする価値はない。自分の価値を見出してこそ、人を大事にする資格を得られるのだ。
ガサガサ……
魔物か?
「っ!?」
汚嬢様と目が合った。誤字はしていない。可愛らしいピンクのフリフリドレスを着ているのだが全体的に汚らしい。
髪はクルクルしている。あの髪がどういう名前なのかは知らないがとにかくクルクルしている。左右に一つずつクルクルが合計二つある。訳分からん。
お嬢さんは驚いているようだ。まるで神秘なものを見たような息を呑むような表情……。もしかして、
「なぁ、あのお嬢さん知ってる?」
「へっ?あの嬢か?うーむ、覚えがないな」
どうやら違うらしい。
ある可能性としては大木の美しさに思わず惚れてしまってぼーっとして見ていたらいつの間にか一歩前に進んでいてバレてしまったみたいな感じかと思っていた。
なんだ違うのか。
「プリングスは我を美しいと思っておるのか!」
「まぁ、他の人から見たら?」
「なんで疑問形!」
「僕的には美しいより醜い方が好きだし、細工した可愛い子より不細工の方が好きだから。」
「プリングスよく変わってるって言われない!?」
「うん、言われるけど。別に好きなのって僕の自由じゃないの?」
「そうだけどさ……。」
「あっ、でも可愛い子とか美しい子が僕の手で醜くなるのはすっごく好きだよ。」
「ひっ」
何故か好きなタイプ的な話になったので邪悪な笑顔(当社比)で答えると引きつった笑顔を返してくれた。
別に引いたなら引いたっていいなよ。
僕の場合、可愛い子と美しい子と温泉だったらどれを選ぶって言われたら問答無用で温泉選ぶ人だから。浮気は絶対しないよ。浮気ダメ絶対。
そういえば……と思い汚嬢様を見る。
明らかにこっちを見ている。僕の方を。
「きっもちわる。」
僕の出てきた感想はこれだけであった。
○
「貴族の中でも最上級の私を惚れさせておいて気持ち悪いと罵るだなんて失礼してしまいますわ!責任を取って婚約してもらいますのよ!」
力強い言葉遣いとは裏腹に顔が真っ赤になっている。
ほんと不細工。
お嬢さんならちゃんと凛とした態度の人が好きなんだよなぁ。どんなことされても動じないレベルじゃない好きになれないんだよなぁ。
それに比べて何も知らない幼女はいいぞ。だって自分に対する感情が少ない分特別扱いされないからな。
「誰かと間違えてますね。」
「っそんなはずないわっ!」
「んー?もしかして言葉が分からないんでちゅかね?パパとママは近くにいるんでちゅかー?」
「私に対してそんな態度を取るな!■□□■□ー!」
うむ、ちょっと挑発してみたところすぐに魔法を出してきた。素手で潰せるほどの威力しかない。あの僕を異世界に無理矢理連れてきた白身の魔法よりも強めだが、魔法と並んで走っても僕の方が断然早い。
手を開き腕を真っ直ぐ伸ばし魔法と向き合う。
お嬢さんは勝ったとでもいうような顔をしているので、魔法で自分の命の灯火が消えたことにしようと思い、魔法にあたる前に大木ごと違うところに瞬間移動する。
「ちょっ、スプリング!良かったのか!けっこう重要そうなやつだったと思うぞ!」
「ごめん、僕あいつのこと好きになれないわ。」
「えっ、それってどういう……あー……。彼女も好きになった相手が間違っていたんじゃな。」
そして我も。と呟くのを聞き逃した訳では無いがスルーをする。別にここに来て恋愛フラグなど必要が無い。
僕が愛するのは温泉のみである。
浮気は許されない。
「そもそも、あんなやつのどこがいいんだか。どうせ、他の男と結婚すんだから関係ねぇだろ……。」
「政略結婚じゃな!」
「政略結婚ねぇ、やっぱりそうでなくちゃ!じゃないと汚嬢様が僕のこと諦められないし!」
「残酷なやつじゃな、プリングスは。」
「ん?そうかい?好きなふりをして遊んで捨てるような野蛮な男よかは幾分かマシだと思ってるよ。」
そもそも僕には恋や愛という概念がない。
だからそんなことは知らん。
人間は朽ちるものである。
第5話-2【最上級貴族の日記】
○●■●○
今日、生きていて初めて恋に落ちた。
その時の感動は忘れてはいない。
勉強が嫌で外を飛び出し、いつも通り森の中に入っていった。
城から遠く離れてはいない場所に二人組がいた。
何かを捌いているのか血が付いている。
自分が恋した理由も分からなかった。
でも何故か好きと思ってしまった。
貴族の私が。将来を誓うものを親に決められてしまう私が。
叶わぬ恋は叶わぬままで、朽ちていく。
分かっていながらもダメだった。
初恋の言った言葉がイラッときた。
変な言葉で返してきた。
私では駄目らしい。
気持ち悪いと言われ傷付いた。
黙ってほしいと思った。
魔法を詠唱した。
自分のできる最上級の呪文を。
この森をすべて無くしてやるという勢いで。
「■□□■□」
跡形も無く消えた。
森は一部が消えた。
一緒にいたものまで跡形も無く。
初恋はいなくなった。
後悔はしなかった。そのはずなのに、
私の頬には涙が通った。
どんなに叱られても、
どんなに怒鳴られても、
どんなに辛くても、
出てこなかった涙が
初恋を無くし嘆いている。
泣いている。
恋はこんなにも辛いものだった。
過去のことなどどうでも良くなった。
恋は過去を忘れさせてくれた。
誰にでも与えられるものでもなかった。
誰にでも植え付けられるものでもなかった。
自分のものだった。
心も誰かのものでは無かった。
無理やりやられるものではなかった。
恋というのは儚かった。
それでいて素敵だった。
初めてわかったこの体験。
私は一生忘れないだろう。
Ps.
過去の私へ
恋も捨てたものではありません。
未来の私へ
どうか素敵な恋をして下さい。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます