第3話【異世界初温泉】

「逃げきれた……かな。」


さっきまでした魔物の気配がプツンと糸をハサミで切るように呆気なく切れた。

いつの間にか森の中に入っていたのか、木々で埋め尽くされているのが見える。その気の中には赤い宝石が埋め込まれているのも見える。


「その石は守り石じゃ。赤い宝石のようじゃが、赤い宝石よりもずっと役に立つ。なんと魔物に襲われなくなる力を持つのじゃ。」


ちなみに我も持っておるぞ。と見せびらかしながら褒めてというように狐の獣耳がぴょこぴょこしている。

持ってるなら僕だけ逃げれば良かったなという考えが頭を横切ったが、ぴょこぴょこと動く狐獣耳に脳が持ってかれた。めっちゃ可愛い。


ーーーー

守り石

価値はそこまで高くはないが、あらゆる魔物から襲われなくなる能力を得られるため重宝されている。

値段が上がらないのは国が調節しているからで需要はかなり高いらしい。

こうやって木にくっつけることで安全地帯を作り出すことが出来る

また進化基質細胞を持つ者は石を守り石に変えることが出来るが、生命力と魔力が失われしばらくは意識不明となる。

ーーーー


意識不明とかめっちゃこぇえ……。

そんなに簡単に創り出せるものでは無いらしい。


「なぁ、大木〜こんなところに温泉があるよ〜」

「えっ、何も無いぞ。だって我も逃げている間にここを見ていたのだが木以外には何も……。」


そんなことを言いながらキョロキョロとあたりを見回している大木。


「ほれほれ、お前の後ろ」

「わっ、本当じゃ……」

「っっさぁ!!早速入ろう!」

「へ?わぇ!?」


自分の後ろを見て有り得んという驚愕な表情をする大木だが僕がはよはよと急かして、自分が先に温泉に浸かった。

その温泉は白濁色と言った方がわかりやすい色をしていた。上からでは水に使っている部分は見えないほどだ。何方かと言えばミルクの湯に浸かっている気分になる。


「どうしたんだ大木。早く入ってこいよ。」

「えっ、あの、だって、我も女ですしやはり殿方と一緒に入るのはちょっと……。」

「は?大木は大木でしょ?男だとか女だとか関係ないの。しかも入らないと効果貰えないんじゃないの?」


うぅ、と恥ずかしがっていた大木だったが男女なんて関係ないと言い切ったら諦めたようで良かった。

脱ぐのかなぁと思ったらそのまま入っていた。

大木曰く、精霊は服そのものが自分の一部なのじゃということだったので、だったらいっつも裸なのかという疑問をぶつけると顔を真っ赤にして怒られた。


「うむ、この湯はステータス全アップの湯じゃな。幸先がいいのぉ。」


湯にも効果というものが存在するらしい。どのくらい入ったらどのくらい上がるのだろうか。王道で行くんだったらレベルによりけりとかそんな感じになるのかな。


「全ステータスアップ?そんな効果が付くのか。というかだとしたらこの湯は大分チートだぞ。」

「ただの温泉巡りをしても強くは慣れないからの。しかもこんなにゆっくりとなんて浸かってられぬからそんなにチートという訳でもない。」


ゆっくり浸かってられないということはある程度力を持っていないと途中の魔物にやられるという事か。まぁ、こっちは逃げただけですけどね。


「ほーん。」

「興味なさげじゃな……。」

「まぁ、実際温泉目当てで来てるから効力なんてどうでもいいと言うかなんと言うか。」


温泉はいいぞ……、心はあったまるしこんなにも良い気分になる。

だが元の世界だと一番近い温泉でも車で一時間はかかるのでそんな頻度では行けない。


「まぁ、温泉に浸かっていたら変な能力を得たとかならないようするのじゃよ。温泉の中には女神の泉となっているものもある。その温泉はとても危険じゃから近付いたり入ったりするなよ。」

「女神の泉!?すっごい温泉屋さんっぽいじゃん!ぜひ行こう!!」

「だから行かんと言っているだろう!」

「なんでだよ〜。」


女神の泉というthe願いを叶えるスポットのような場所に行くこと自体を断られ、不満の声を出す。


「女神と言ってもみんなの願いを聞いてくれるような優しい存在ではないぞ。女神は神とは違う、どちらかと言うと悪魔のような存在だ。」


……


「温泉に浸かったが最後、足を引っ張られ抵抗すればもぎ取られ最後には死に至る。」

「自重します。」

「うむ、そうしたほうがいい」


女神こわい

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