第15話 物々交換
そして、時刻は正午を迎える。
窓の外、上空には2機の貨物ヘリコプターが現れ、丁度 時針が12を指した所で食料が投下される。
無事に食料を手に入れられた者はいるのか、当初と変わらない人数分の配給が行われるなら、1人辺りの需給は増えるだろうから、欲張らなくとも多くを確保できる。
だからと言って、分け与えて貰えるかは別の話だが。
「ょ、良し行くか、」
「ぁぁ……」
2人が顔を合わせれば、鈴子は立ち上がる。
「食料、取りに行くんですかっ?」
「当たり前だろッ? 俺達、昨日から何も食ってねんだから!」
「由利、お前も来い!」
「ゎ、私、も?」
「まさか お前、協力とか言いながら、俺達に取りに行かせよぉとか思ってたのか!?」
「そ、そうゆうわけじゃ、、」
今は、誰が敵か味方かも分からない。
そんな中で、危険な作業を2人に押し付ける訳にはいかないだろう。
然し、鈴子は躊躇う。
『暫く誰の目にも留まらなきゃ、あのストーカーに死んだって思わせられるかも知れねぇ』
昨日の今日だ、倉木に見つかろうものならどうなるか知れない。
斉藤と有野もタダでは済まないだろうから、鈴子は俯く。
「ゎ、私……倉木君に見つかったら、、」
「倉木? ……あぁ、金属バットか」
「倉木が何?」
「ぉ、追われてる、と言うか……私と一緒にいるのがバレたら、2人に迷惑が……」
「「……」」
2人が回想するのは、金属バットを振り回して破壊と暴行を繰り返す倉木の姿。
あんな男に睨まれたら溜まったものでは無い。気まずそうに表情を濁し、溜息を落とす。
「ハァ……どっち道か」
「由利といようが、いなかろうが、アレに見つかったらブッ殺される」
「アイツ、どうしちまったんだろな、すげぇイイヤツだったのに……」
「でもまぁ、こっちゃぁ3人だし、見っかっても逃げるくらいは出来んじゃね?」
「俺もそう思う」
2人は頷き、鈴子を手招く。
「食料ゲット出来ても すぐ戻って来れるか分からんし、
由利みたいなドンクサ、置いてくのも心配だし」
「大丈夫だよ。由利、一緒に行こうぜ」
2人の言葉に、鈴子は頬を赤らめる。
「さ、斉藤君、有野君、ありがとう、私、頑張ります!」
味方に選んで間違いは無かった様だ。
鈴子は開かずの戸棚を振り返ると、力強く頷く。
(鳴神君、私、絶対に食料 取って来るから、ここで待ってて!)
借りていたパーカーを脱ぎ、丁寧に畳んで置いておく事で戻る意思を残す。
そして、鈴子は2人の背に隠れる様に廊下に出る。
(倉木君が無敵なわけじゃない。
私達と同じ。警戒して動いているに決まってる。
コチラが3人だと分かれば、そう簡単に攻撃してきたりしない筈だ。
大丈夫、大丈夫……)
気持ちを落ち着かせ、3人は忍者の様に身を隠しながら屋上を目指す。
校内は不思議と静まり返っている。
(皆、バリケードを作って立て籠っているそうだけど……
食料はどうしているんだろう? もう、手に入れられたんだろうか?)
「!!」
鈴子は両手で口を押さえ、壁に凭れる。
それもその筈、学年の教室が並ぶ廊下に出れば、忽ち見える世界が変わるのだ。
足元には無造作に転がる、冷たい死体と血痕。
「由利、早く来いって、」
「む、無理……こんな、無理、、」
「ここ通らねぇで、どうやって屋上に行くんだよッ? 我慢しろッ、」
「ッ、ッ、、」
有野に手を引かれ、鈴子は怖ず怖ずと足を運ばせる。
目を細めた視界にも、否応無しに無残な現状が映し出される。
横たわる死体は、一晩中クーラーに冷やされ、肌が真っ白だ。
どれも損傷が激しく、生前の面影を持たない為に誰が誰だか分からない。
(こんな事になっている何て、大人や偉い人達は知らずにいるんだろう……
知っていたら直ぐに制度を中止して、助けに来てくれる筈だもの、
こんなの、誰も望んでない筈だもの)
外に ここでの惨状を知らせたい。
そう願うも、校内の様子は確りモニタリングされているのが実情だ。
眺めている側からすれば、神の眼下とも言えるだろう。
制度を続けるも、停止させるも、全ては国家権力が決めるのだ。
今の鈴子には知る由も無い事だが。
屋上へ向かう階段に差しかかった所で、先頭を歩く斉藤が足を止める。
鈴子と有野が訝しんで前方を覗き込めば、運悪くも男子3名のグループと鉢合わせ。
双方がビクリ!! と肩を震わし、足の底を引きずる様にジリジリと間合いを広げる。
「……アレぇ? 斉藤と有野じゃんか。お前らも いたんだぁ?」
どうやら顔見知り。ならば話になるかも知れない。
相手は夫々2~3人分の食料を抱え込んでいるから、屋上で手に入れて来た帰りだろう。
斉藤はパイプを下ろさぬ儘に窺う。
「遠野、、俺ら的にはさ、穏便に済ませたいんだ……」
「―― ふーん。あっそ。別に良いぜ。お前らと争う意味も無いしな」
「じゃぁ、クラスメイトの好みで教えて欲しんだけど、屋上……食料残ってたか?」
「食料? ハハハ! そんなモンねぇよ。俺らで最後だ。残念だったな。
つか、あの量からすっと、生き残った人数分しか配給されてねぇよ」
「えぇ? そんなの、どうやって分かんだよっ?」
「どっかから見てんだろ?
外に出りゃ狙撃されんだから、校内でも誰かが見てるって常考だっつの。
隠しカメラでも付いてんだろ?」
「そ、そんな、、」
校内の出来事は外部には筒抜け。これが事実なら、激震してならない。
(誰にも……助けて貰えない……)
校内で殺し合いが起こっているのは周知の事実。
その上で、この制度は執行され続けているのだ。
鈴子はヨロヨロと後ずさり、壁に凭れかかる。
「ま。残り物が有るとか無いとか、その辺 信じるかどーかは お前ら次第だわ。
クラスメイトの好みでブッ殺さないでおいてやるから、とっとと散れよ」
シッシッと手払われる。
すると、斉藤と有野は素早く目配せをして、遠野達を呼び止める。
「ま、待てよ! クラスメイトの好みでさ、食い物、少し分けてくれよ!」
この状況で随分な頼み事をされるから、遠野も眉を顰めて振り返る。
「ハァ? 調子ん乗ってんじゃねぇぞぉ?
こっちゃ、見てぇテレビも見れねぇでイラついてんだっつの、分かってねぇだろ、クソが!」
「勿論、タダとは言わねぇよ!」
斉藤が身を乗り出す言下、有野は鈴子を背後から羽交い絞めにする。
(え!? 何!?)
鈴子が困惑に目を見開くと同時、有野は言う。
「この女と交換だ!」
「!?」
物々交換。
持ち出された商談に遠野は1度 驚きを見せるが、次には鈴子を嘗め回すように見る。
(し、品定めされてる!?)
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