第10話
「ま、増山!? 何のマネだよ!?」
「女子が見つかんねんだよ!!」
「は、はぁ!?」
「隠れて出てこないんだよ!」
「だから何だよ!? 俺達を襲う理由になるのかよ!?」
「お前ら、さっき2人でコソコソ喋ってただろ!?
女子にチクって隠れさせたんじゃねぇのかぁ!?」
「そ、、そんな時間が何処にあると思うんだよ!?」
「うるせぇよ! こぉなったらライバル減らすしかねぇじゃねーか!!」
ハンターである男子生徒が減れば、そもそもの倍率は下がる。
校内に響く絶叫に、男の声も混ざっている事に気づけば、こうした安易な判断を下す生徒は増山だけでは無い事が解かる。
腰を抜かし、廊下を這い蹲って逃げる園田の背に、増山は容赦なく切りかかる。
「園田、あばよ!」
「ひぃいぃ!!」
「ゃ、やめろ!!」
倉木は増山の背に飛びつき、包丁を握る腕を掴む。
「倉木、、」
「園田、逃げろ!」
倉木と増山の間で包丁を押して引いての鬩ぎ合い。
「増山、こんな事はやめろ! 協力して ここを出るんだ!」
「そんな都合イイコト言って騙そうったって そうはいかねぇぞ、倉木!」
「騙す!? 何だよ、それ!? 俺達、友達じゃないか!」
「優等生でイイ顔しぃの お前なんか友達じゃねぇよ!! 誰が信じるか!」
「!?」
同じ学年で笑い合った仲にも関わらず、それこそが嘘とでも言いたいのか、
増山の言葉に倉木は口調を荒げる。
「と、、友達じゃ無かったら、一体なんだったんだよ!?」
倉木がショックに胸を痛めた次の瞬間、増山の体が遠のく。
「ぇ……?」
一瞬、フワリ……と宙に浮く様な感覚で、増山が仰け反る。
「ぅあ……あぁあ、、」
足元は階段。
増山は包丁を握った儘、足を踏み外して階段の最上段から転がり落ちる。
ゴロゴロゴロゴロ…
……ガツン!!
最後には勢い良く壁に激突。
「増、山……?」
倉木が見下す先に見える増山の口の端はピクリピクリと引き攣り、手に握っていた筈の包丁は いつの間にか胸に突き刺さって血が滲む。
「ぅ、ぁぁ、、何で……そ、そんな、俺、そんなつもりじゃ……」
加瀬に続いての惨事に倉木は狼狽える。
這い蹲って階段の下を覗き込む園田は、絶命する間際の増山を目に声を震わせる。
「嘘、だろ……く、倉木、お前、増山、殺した……」
「ち、違うっ、、俺は、、違うよ、園田、信じてくれ、、」
不慮の事故だと言いたい。
然し、蹲る園田は倉木を見上げてブンブン! と大きく首を振る。
「ゃ、やめ、……俺、見てない、から……」
「園田、」
「ぃ、言わないよ、俺! 誰にも言わない! だから、見逃して……ぅ、うわぁぁぁ!!」
堪えきれなくなった園田は慌てて立ち上がり、倉木から逃げ出す。
まるで化け物から逃げ果せようと言う権幕だ。
倉木の目には、バタバタと けたたましい足音を立てて廊下を走る園田の背。
「何で、信じてくれないんだ……俺はただ……」
倉木は増山を説得し、園田を助けたかっただけなのだ。
だが、信じあえる友達と思っていた その感情は一方通行だったのだと気づかされれば、手を伸ばす気力も失せる。
呆然と佇み、小さくなって行く園田を見送るばかりだ。
すると次の瞬間、閉まっていた教室のドアは全開し、それと同時、
園田 目がけて机や椅子が投げ付けられる。
ガシャンガシャンガシャンガシャン!!
ガタン!!
園田の体は机や椅子と共に壁に叩きつけられ、潰れる様に廊下に倒れる。
「そっ、園田……、」
園田を助けるべく倉木は1歩を踏み出す。
然し、教室から現れる複数人の女子生徒等の姿に二の足。
その手には箒や椅子が握られ、次には容赦なく園田を殴りつけるから、倉木は慌てて壁に隠れる。聞こえて来るのは、女子生徒等の怒声。
「この! クソ男子! 女子がヤられるばっかだと思うなよ!」
「何がゲームだ! 誰がメスブタだって!? フザケた事ほざいてんじゃねぇよ!」
「男ばっか強いと思ったら大間違いなんだからね!」
「アタシらをバカにすっとタダじゃおかないから! 思い知れ!」
ガツン!! ガツン!! ガツン!!
ガツン!! ガツン!! ガツン!!
「ぅ、、ぁぁ、、ゃ、やめ……俺は、何も、、」
「黙れ! クズ! 言いワケなんか聞くモンか! くたばれ!」
「死んぢゃえ! 死んぢゃえばイイんだ!」
こっそり廊下の先を覗き込めば、『助けてくれ』と視線で嘆願する園田が見える。
倉木はギュッと目を閉じ、顔を背ける。
「園田……お前、俺の事、信じてくれなかったじゃないか……、、」
園田が微動もしなくなれば、女子生徒達も静まる。
「ふん。ダッセぇ男~」
「結構 簡単に死んじゃうモンだねぇ? ってか、これってヤバイの?」
「ヤバイの男子の方でしょ。ウチら正当防衛しただけじゃない?」
「だよねー、こんなのほっといて次の準備しよ」
「ん! アタシら最強~」
ピシャリ! と、教室のドアが閉まる。
倉木は瞬きを繰り返し、自分の両手に目を落とす。
「何か、バカみたいだ、俺……」
*
1時間前の事を思い出しながら、倉木は泣き腫らした顔の鈴子を見下ろす。
「やっぱり由利だけだ、俺を解かってくれるのは」
岡田の死体を跨ぐと、倉木は鈴子の手首を掴む。
「こうして無事に由利とも会えたし、金属バットも手に入ったし、一安心だ。さ、行こう」
「ど、何処、へ……?」
「こんな所にいても敵に狙われるだけだよ」
「敵……?」
「うん。でも、心配しないで。由利は俺が守る。約束する。
それに、だいぶ数も減らして来たから。初めの頃より安全になってる筈だから」
既に【学友】では無く、【敵】と言う認識。
『数を減らして来た』と言う事は、『多くを殺して来た』と言う事だろうか、
鈴子は腕を引き戻す。
「ぃ、ゃ……」
「由利?」
「人を殺す何て、そんな酷い事……」
「―― 何でそんな事 言うんだよ? 俺は由利の為に、」
「私はそんな事、頼んでないよ……」
「……」
倉木は息を飲む。
頭の中では、鈴子に辿り着く迄の経緯が鮮明に思い出されている事だろう。
それは、凄惨で、言外なる恐怖の連続。
そんな中でも倉木は鈴子を心から想い、その一念だけで生き抜いたのだ。
まさか、それ程の想いを鈴子本人に否定されるとは思いもしない。
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