第9話

「やはり、こうなりますか……」


 学校内に仕掛けられた数々の隠しカメラが捕らえる映像は電波で飛ばされ、格式ばった会議室のモニターに映し出される。


「何処の高校も同じような有り様ですなぁ」

「イジメ関係者・登校拒否・家庭内暴力・強すぎる自己顕示欲と、

 大小 問題児のみを選抜したんだ。このような結果も否めないだろう」

「然し、【法律】の存在が普段の凶暴性の抑止力になっている事は間違いない」

「やはり、法律の強化が必要なのでは?」

「それでは、一般民間人に無暗な締め付けを与え、不信感を煽るだろう。

 健やかな精神を育成する妨げにもなる」

「各高校それぞれ200名にも満たない人数ではあるが、誰か1人でも気づかんものかね?」

「ただ ひと度、堪える事……」

「そして、奪い合わねばならん事なぞ、何1つとして無いと言う事を」



*



 1時間前。



「折角 おもしれぇコトになってんだからよぉ、こうゆうのはどうだ?」



 下駄箱前のフロアに集う男子生徒の輪の中、人差し指を立てて提案するのは茶髪の生徒。

着崩した制服からして、校内では名の通ったヤンキーに違いない。



「誰が多くメスブタを捕まえられるか、競争するってのは。

 題して、メスブタ ハンターゲーム!」



 女子生徒の1人2人を思い通りにするだけでは飽き足らない。

ハンティング要素を加えれば、新たな楽しみが生まれると言うもの。


「要するに、女子を捕まえるゲームだよな?」

「ああ。捕まえたメスは家畜だ。好きにしてイイ」

「それじゃ、ありきたりじゃねぇ? ゲームっぽくねぇよ」

「だから、ゲームっぽくするんだろーが」

「じゃぁ、メスを捕まえるハンター役と、メスが逃げねぇように見張る監守役 作ってさ、

 チーム戦にしようぜ!」

「よし。そんなら、チームは2~3人制だ」

「ってかさぁ、捕まえたメスは何処に置いときゃイイんだよ?」

「体育館を監獄にして、チームの陣地を作るってのは?」

「おぉ! ゲームっぽくなってきたな!」

「タイムリミットは?」

「最終下校時間の18時にしよう」

「それって、優勝賞金とかあるわけ?」


 何の見返りも無いでは燃えない。

この質問に夫々が目を合わせると、茶髪の生徒は言及するのだ。



「1位とったら ここのキングっつーのは どーよ?」



 キング。

景品にしてはピンと来ない言葉に夫々が首を傾げれば、茶髪の生徒は呆れ返った口調を聞かせる。


「お前らアホかぁ? このバカ制度が いつ終わるか分かんねぇんだぞ?

 校内にいる連中を誰かが纏めなきゃなんねぇだろーがぁ」

「まぁ、確かになぁ」

「要は、ここで誰が1番偉いかって事?」

「そうだよ。1位になったヤツの命令は絶対だ。だって、ここのキングだかんな」

「キングかぁ……」

「やってみりゃ面白いかもな、それ」


 成績が悪くても、運動神経が悪くても、女子生徒を多く捕まえれば王者になれる。

思い通りの時間を過ごす事が出来るとなれば、それが一体どんな空間になるのか、興味も沸く。

男子生徒達は一斉にチームを作り始める。そして、準備が整った順に駆け出すのだ。


「く、倉木、倉木、、」

「園田っ?」


 事の成り行きにスッカリ呆けていた倉木を呼び止めるのは、隣のクラスの園田。

園田とは幼稚園の頃からの長い付き合いだ。

倉木は親しみのある顔に肩を撫で下ろし、下駄箱の影に隠れる園田に駆け寄る。


「園田、お前も学校に呼ばれてたのか、」

「倉木、まさか お前まで あんなバカげたゲームに参加しないよな!?」

「当たり前だろっ、」

「だよな、、良かったぁ……だったら倉木、一緒に逃げようぜっ、

 こんなトコいたら、ワケの分からない連中に殺されちまうよ、、」

「逃げるって、どうやってだよっ? 外に出たら撃ち殺される……」

「そうだけど……そうだけどさぁ、、」


 逃げたくても逃げられない。

かと言って、他の男子生徒達と同じ様にゲームに参加する気にもなれない。

四方山、正常である事が異端視される この環境では生きた心地がしないのだ。

そう再確認するなり、倉木は息を飲む。


「マズイ、、クラスに由利を待たせてるんだっ、」

「由利? 由利って、あのイジメられてる?」

「もうそんな目には遭わせないよ。だから、早く迎えに行ってやらなきゃ。

 園田、お前も一緒に来てくれ」

「ぇ、えぇ!?」

「由利が他の奴に捕まったら大変だ。それに、女子を多く捕まえれば良いんだろ?

 由利に協力して貰って、女子に集まって貰うんだ。

 俺達が勝てば、皆を落ち着かせる事が出来るかも知れない!」


 何も、力づくで女子を捕まえる必要は無い。

事の次第を説明し、自主的に集まって貰えれば手っ取り早いのだ。

女子である鈴子を仲介に話を進めれば、信頼も得やすいだろう。

この馬鹿馬鹿しい無秩序を粛清する事が出来る。


「そっか! その手があったか!」


 正常な思考を持った者がキングになれば良い事に、園田は光明を見る。

ならば時間が惜しい。

鈴子には教室を施錠する様に言っておいたが、力づくでドアを破る者もいるかも知れない。

危険性を想像すれば、今直ぐにでも鈴子と合流する必要がある。

2人は3年F組に向かって走る。


 階段を駆け上がり、3階の教室を目指す最中、あちらこちらで女子生徒の悲鳴が響く。強行を楽しむ男子生徒達は、泣いて嫌がる女子生徒を引き摺り、手足を縛って拘束しては支配欲を満たしている。

平凡な高校生だった一同の何処に これ程の凶暴性が隠されていたのか、考えた所で答えを出せそうに無い。


 否、既に何処かで その芽は育っていたのかも知れない。


 小さな我儘・僅かな惰性・不服・倦怠感。そう言った物の影に潜む猟奇性。

【自由】と言う開放感がパンドラの箱を開けてしまう切欠であったなら、この制度には怒りを覚えてならない倉木だ。


「倉木、園田ぁ!」

「あぁ! 増山じゃないか! お前も、」


 2人が足を止め、踵を返した所で、笑顔で駆け寄る増山は、背中に隠し持っていた包丁を振り上げる。


「「え!?」」


 ブン!! と空気を切り裂く刃。

2人が寸での所で刃先を交わせば、増山はチッ! と舌打ちをする。

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