第4話
「つか、流石に人殺すのはマズイって……」
「外に出たヤツ、容赦なく撃たれてんのに、今更 人殺しとかカンケーあんのかよ、、」
「ま、待ってよ! 外の事!? 加瀬サンの事!? 何が悪いのか、もぉ分かんない!!」
「良く考えよう、皆! 倉木君はイジメを止めようとしただけで、外のとは違うって思う!」
「そうだよな……銃使うのは反則だよ、一方的すぎる」
「加瀬が先に手ぇ出したんだ! アレはぁ……正当防衛、だよな!?」
「倉木クンは正しいよ! 私だって、あの人達のイジメ見てて毎日 辛かったもん!」
「だからって殺して良いワケじゃ……」
「当たり前じゃん! 人殺しは どんな理由があっても最低な事だよ!」
「そうゆう言い方すんなよ! まるで倉木が わざと殺ったみたいじゃねーか!」
「犯罪者を庇うのも共犯なんじゃないの!?」
「そいじゃ、由利がイジメられ続けて、倉木が死ねば良かったってのかよ!?」
「誰がそんなコト言ったのよ!?」
「良し! 多数決で決めよう! 倉木が悪いのか、加瀬が悪いのか!」
「バカじゃないの!? そうゆうのは法律が決める事で、」
「だから、ここには法律が無いんだよ!!」
俄かに信じ難いが、現状は法律や大人の目と言う監視から外れた環境にある。
ならば、自分達だけで考えて行動しなくてはならない。
「法律が、無い……」
「じゃぁ……人を殺しちゃったとしても、警察に捕まったり裁判されたりしないって事?」
「だよね……」
「そ、そんなバカな事が許されるわけ無いよ!」
「ってゆぅか……それで良くない、かな……?」
「うん……」
「倉木君は頭もイイし、学級委員も風紀委員だってやってるし……」
「そうゆうの、理由になんのか?」
「法律が無い以上、俺らが決めたってイイんじゃねぇの?」
「今の所はぁ……そうゆうコトにしとけば、さ。ねぇ、皆?」
倉木が友人や学級に献身的な生徒である事は誰もが知っている。
劣等生1人の為に罪を科すには惜しい人物だと一同は判断した様だ。
夫々、顔を見合わせて頷き合う。
そんな光景と端的な結論に、鈴子は戦慄する。
(なに、この空気……どうしてこんな状況を肯定しようとするの……?
警察に電話して、ここから助けて貰って、ちゃんと説明して、そうすれば、
これだけの目撃者がいるんだから、加瀬サンの事は事故だって解かって貰える筈なのに)
大事を小事に変換する事で、日常に戻ろうとする逃避力を発揮しているのだろう。
難解な問題にぶち当たったからこそ、抑圧された思考回路の中でも強引に結論を出そうとしてしまう。最も、その機能が必ずしも道徳の範囲によるとは限らない。
興奮状態では暫し、不適切な審判を下す事もある。
集団心理も加われば、手が付けられないのは言う迄も無い。
「ンじゃ、そぉゆぅコトでぇ……倉木は無罪! 反対のヤツいるか!?」
「いないって、そんなの」
「ま、待ってくれよ、俺、ちゃんと自首するからっ、」
「なに言ってんのよ、倉木君。学校からは出られないんだよ? 何処に自首するの?」
「それは……」
「外に出たら銃殺されんだから、兎に角さ、今は気にすんなって。な?」
「そうだよ、倉木!
皆で団結して、このワケの解からねぇ制度ってのを乗り越えようぜ!」
「お前、学級委員なんだから、いつも通り頼むぜ」
「オレらのクラス、基本的には男も女も仲イイし、余裕だろ」
「で、でも、」
「その前に加瀬サンを何処かに移動させて欲しいんだけど?」
「そうだよね。腐ったりしたら余計キモイし……」
「ねぇ、男子さぁ、加瀬サンどっかにやってくれない? 私達じゃ怖くて触れないよぉ」
「ゲッ、マジか……」
「ハァ……しょうがねぇよ、死体って結構重いんだろ? 女子にはやらせらんねぇだろ」
「何処に捨てるんだよ、コレぇ」
「どうせ校庭も あんなんだし、ベランダから外に捨てちゃえばいいんじゃない?」
「よっしゃ。そんなら、ジャンケンな!」
力仕事は男の役目。テンポ良く男女の分担が成されていく。
互いの特性を理解する事で、環境に順応した気になれるのだろう。
男子は集い、手を振ってジャンケン合戦。
鈴子と倉木はクラスメイトの奇妙な冷静さに共感できず、勝負の行方を見つめる。
他に判断力を残した生徒はいないのか、胸中で問う中、ジャンケンの勝負が決する。
敗者として死体処理に抜擢された2名は『あぁ』と青息吐息を聞かせ、加瀬に近づく。
ゴクリ……
やはり遠巻きで見るのとは違って、死体は異様な空気を纏っている。
2人は表情を強張らせるも、嫌悪感を取り払うべくヘラヘラと笑って日常会話。
「ハ、ハハハ…パンツ見えてるよ、加瀬のヤツ、、」
「ホ、ホントだ、、ハハハ! ダッセぇ、、」
「バ、バカ、お前ら、何、、…ハハハ! アホだろ、ハハハ!」
中々 手が伸ばせずにいる2人の狼狽には、見ている側も現実の辛辣さを再確認させられる。
雖も、コレは仕方の無い事であって、自分達は極めて一般的な行動を取っていると信じたいから、女子生徒等も誤魔化す様に会話に参加する。
「パンツって、ねぇ……」
「ヤダ、男子ってエロぉイ、最悪ぅ、」
「ゎ、分かってるって、、流石に加瀬はねぇよ、なぁ?」
「ぁ、ああ! だって、ホラ、女だけど、ホラ、死んでるし!」
「幾ら何でも、死体は無いよなぁ!」
「ナイナイ! ど、どうせなら、生きてる女の方がイイに決まって……」
教室の中の加瀬の死体。
外に出れば反逆罪として射殺される緊迫感。
男子生徒等は無意識にもクラスメイトの女子等に目を側む。
ギラついた その目つきは普段には見られない男子らの動向に、女子等は本能的に後ずさる。
「……何か男子、ヤバくない?」
「ゥ、ウソ……だってココ、学校だよ……?」
「でも、校則も法律もナイよ……?」
「な、何やってんのよ!? 捨てるンでしょ、ソレ! 早く持ってってよ!」
「そうだよ! 早くしろ!」
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