第9話 カメハメ波
次の日、嵐は止んだ。
男は早速カメハメ波を出してみることにした。
「カ~メ~ハ~メ~波ーッ!!」
し~ん
出ない。
当たり前だ。
あんなエネルギー波はマンガやゲームだけの話だ。波動拳だって出るはずがない。
しかし、あの『勇者』の剣は光っていたな…
男はまた試みた。
「カ~メ~ハ~メ~波ーッ!!」
ドビュルビュルビュルッ!
違う。
さりげなく腐角食から触手を伸ばしてエネルギー波に見立ててみたが、なんだかただ腐角食が丸く飛んでいくだけだ。
ビュルビュルビュル…と腐角食を頭に戻す。
「そこまでだッ!!」
岩場の影から人が現れた。
勇者だ。
「くくく…今度こそ貴様もおしまいよ…この神剣『アルフォート』でなッ!」
なんだか神々しく輝くお菓子みたいな名前の半月刀を片手に上げ、いつもの勇者が現れた。
「もー、その人に構うの止めようよ~」
近くで妖精が説得しているが無駄だと分かっているのであろう、その声に力はない。
「うるせェ!黙って見てろッ!腐食パンマン!今日こそテメェの命日だッ!『ゴールデン・レトリバー』!」
勇者がそう叫ぶと半月刀は白く光輝いた。ゴールデンなのに白い。
…あれは…
カメハメ波に近いものなのか?
「おい…」
「わ!しゃべった!」
妖精は驚きを隠せなかった。
今まで何度となく対峙してきたが男は一言も声を発することが無かったからだ。
「テメェ…しゃべれんじゃねェか…」
勇者は半月刀に渾身の力を込めているようだ。白い光は一際輝きを増している。
「それ…どうやるんだ?」
「はぁッ?何がだよッ!」
「その…光る技だ…」
「あぁんッ!?知らねェよ!修行したら出るようになったんだよッ!」
知らねェと言っておきながら知っている様子。
ヤンチャな中学生が使いそうな言葉遣いだ。しかし見た目は20代半ば。勇者として魔王を倒す使命にもうつつを抜かし、関係の無い男を追い回すこの勇者はバカなのか、あるいは勘が鋭いのか…
「…教えろ」
「はぁ?」
「俺に光の出し方を教えろ」
「ちょっとラズール!話ができるんならちょっと話してみたら?」
妖精が勇者を促す。
「むぅ…」
勇者は渋々剣を鞘に納めた。
「オメェよ!なんで人を襲うんだヨ!」
“ヨ!”の言い方が特攻の拓風だ。
男は悟った。
この勇者に理屈は通用しない。だが…
「…向こうが襲って来るんだ」
一応真実を述べてみる。
「なん…だと…?」
信じた。
それから勇者は腐食パンマンと話し合った。
腐食パンマンの朴訥とした話し方には何か哀愁があり、なんだか勇者はそんな腐食パンマンが好きになり始めていた。
「…じゃあオメェは襲ってくるヤツラを蹴散らしていたら『腐食パンマン』呼ばわりされた訳か」
「そうだ」
「ふぅ~ん、なら仕方ねェな!オメェすげぇ賞金掛けられているからよ!すげぇ悪者かと思ってたわ!分かった!光の技な!教えてやるよ!」
そう言うと単純バカな勇者は男に光の技を伝授した。
「こうやってヨ!力をグ~ッて入れたらビーってなってパカーンだ」
分からない。
長嶋茂雄並みの説明だ。
「おまえの師匠のところに連れていけ」
「あぁん!?なんでよ?」
「意味が分からない」
「だからヨ!力をグ~ッて入れたらビーってなってパカーンだって!」
ビュルビュルッ!
「ぬあー!」
「きゃあー!」
次の瞬間、腐食パン勇者と腐食パン妖精が誕生した。
「どのアクマを合体させるかね?」
▶腐食パンジジイ餓鬼ネコバイク
▶腐食パン勇者
▶腐食パン妖精
三身合体
ギュインギュインギュインギュイン
モワモワモワモワピカー!
「ワタシノナマエハ腐食パンバイクグレート…コンゴトモヨロシク…」
『腐食パンマン』
めんどくさい説明は嫌い。
『腐食パンマン』
カメハメ波もどうでもいい。
『腐食パンマン』
勇者とかもどうでもいい。
『腐食パンマン』
ドラクエは6までやった。
『腐食パンマン』
ひとしこのみで無双。
『腐食パンマン』
ファミコンのドラクエⅢでランシールバグ
『腐食パンマン』
やりすぎてバグった。
つづく。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます