ザリガニの死
ザリガニという男の話をしよう。彼は法学部の二回生だったが、講義にもろくに出ず、何やら難しそうな顔で難しそうなことを一日中考えている奴だった。その奇妙な渾名は、大学の食堂で鯖を食べ、青い顔して倒れたことに由来している。
そんな彼であるが、三回生になる前になんとなく死んでしまった。彼の死の三日前、私は彼から相談を受けていた。いや、相談と言えるかも分からない。彼は頻りにもうダメかも知れない、死ぬしかない、という様なことを繰り返し呟くばかりで、こちらの意見などまるで聞いていなかったのだから。
しかし、それはいつものことで、彼を知る者なら誰でも一度は聞いた事があるのだ。同じ法学部の仲間からは文学か薬のやり過ぎで頭が変になっているのだと噂になっていた。
そんな彼が今度こそ本当に死んだ。入水自殺であった。体内からは大量のアルコールが検出されたらしい。それすら学内ではザリガニが川に帰ったと笑い草になっていた。
私はというと、とてもじゃないがそんな気分にはならなかった。彼の死体を発見したのは私だ。あの男に貼り付いた狂喜の表情が忘れられない。
卒業した今でも、私は鯖だけは食べる事ができない。
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